Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

“王の御前か”

聴き比べ企画その2。
同じく『ドン・カルロ』より大審問官とフィリッポの2重唱。

前回に較べるとほんのちょっとしかありません(^^;
そして今回は情報少なめ…書くのが大変なだけじゃなくて、ほんとに情報がない人もいるんで(汗)

こちらは音源が残ってるのか謎なギャウロフ×クリストフなんて聴いてみたいww
っていうかクリストフの大審問官はないものか。。。

妻屋×シヴェクを追加!51音源に!
(2014.12.7現在)

大審問官×フィリッポ(言語/聴いた録音の数)

1.アスカル・アブドラザコフ×クリストフォロス・スタンボリス(伊/1)
一発目からなんかいまひとつ緊迫感に乏しい…(苦笑)最初の組は評が辛くなるにしてもどうなんでしょうか。なんとなくふたりとも声が似てる気がして、この2役のコントラストがいまいち。兄ドラザコフの方が格が明らかに歌手としてのかなり上っぽいのは、いいやら悪いやら。そりゃ最後に圧倒するのは大審問官ですが、一応フィリッポさん、国王なんすよ(苦笑)

2.アナトーリ・コチェルガ×フェルッチョ・フルラネット(伊/1)
1つめが不安で先行きが若干心配になりましたが、これは佳演だと思う。
コチェルガの世評は高くないけど、言うほど悪いものには思えない。確かにちょっと軽めの声質なので、所謂大審問官のイメージとはちょっと違うが、声量もあるし、腹黒そうな雰囲気で補ってる。もっとガッカリな大審問官は、名盤と言われるやつにもたくさんいる。そしてフルラネットの力演も目を見張るものがあり、全体として緊張感溢れるものになっている。

3.アレクサンデル・アニシモフ×サミュエル・レイミー(伊/1)
名盤の謂れ高いが、割とガッカリだと思ってるのがこれ。
まずは個人的ガッカリ大審問官の代表アニシモフ…ヴィブラートのきつい意地悪声で凄むんだが、どうにも全然凄みがない。この役は、もっと圧倒的な力を見せないと。どう考えてもレイミーのがうんと強そう。
レイミーのヴェルディは個人的には苦手。悪魔役やロッシーニは古今無双だと思うけれど、どうも声が無機質で、血沸き肉躍る感じのヴェルディではない。アッティラと大審問官ぐらいでしか納得いってないな(っていうかなんだこの組合せ)。

4.イーヴォ・ヴィンコ×ボリス・クリストフ(伊/1)
ヴィンコって結構重要な脇役を手堅くかっちりとやってるイメージなんだけれども、それだけヴェルディをよくわかっていて、或る種中庸の美だと思う。
彼の硬質な声と、やり過ぎない歌唱がここではかなり生きていて、大審問官の冷酷さが際立つ名演。よく考えてみるとこれと言った激しい表現をしている訳ではないのだけれども、しっかり味がある。フィリッポが何を言おうと、梃子でも動かない雰囲気が出ている。これに対して、いつもどおりクリストフが逆に濃い目に味つける歌唱だから、いろんな意味で絶妙なコントラストがついているように思う。

5.イェヴゲニー・ネステレンコ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
これだけしっかりしたバッソ・プロフォンド同士だと聴き栄えがとてもよい。若いころのネステレンコなので、声の輝きもあるし、高い音もすっきり出る。一番良いのが、低音域での凄味で、貫禄で勝るギャウロフに対して、歌唱面でも演技面でもまったく力負けしておらず、ともすれば出番が少なく存在感が薄くなりがちなこの役を聴く側にしっかり印象付けてくれる。ギャウロフもこれにドラマティックに応戦しているので、張りつめたような緊張感が生まれている。個人的にはかなり気に入っている部類の演奏。

6.ヴィタリ・コヴァリョフ×オルリン・アナスタソフ(伊/1)
2人ともかなり若いころの演奏だと思うのだけれども、迫力ある声を持っている東欧コンビがよく頑張っていて、緊張感のある力演になっている。ただ、欲を言うとふたりとも役が求めてる声よりちょっと若々し過ぎるきらいがある。コヴァリョフに贅沢な注文を敢えて付けるとするならば、艶のあるその美声が、必ずしもこの役にあってるとは言えないのではないか、というか設定上九十翁の大審問官にしては元気かつ健康的すぎる、というところだろうか。アナスタソフはヴェルディの音楽をよくつかんでいる感じでよい。

7.エリック・ハーフヴァーソン×ヨセ・ファン=ダム(仏/1)
ハーフヴァーソンは、声自体にも表現にもこれといった凄味はないものの、幽霊のようなそら恐ろしさを感じさせる大審問官で、これはこれでありか。大審問官は棺桶に片足突っ込んでいるような役だし、こういうかたちでこの世ならぬ印象を与えるということで、ひとつの興味深い事例だろう。問題はファン=ダムで、大熱演は買えるし、このCDに収められた公演をよい方に引っ張り上げてくれてる感じがするんですが、いくら仏語版でもヴェルディでそこまで語りにしてしまって良いかは一考の余地あり。いやなひとは結構居そう。

8.サミュエル・レイミー×ジェームズ・モリス(伊/1)
レイミーの玲瓏な声は、やはりこちらの方が似合う。恐ろしく冷酷で、厳しい大審問官。自分の主張が絶対的に正しいという、或る意味悟ったような強烈な歌い口が役に合っているのかな。欲を言えばそのハリのある声は、ちと設定より若く聴こえるか。モリスはヴァーグナー歌手のイメージが強くて縁がなかったが、最近意外とヴェルディをはじめとするイタオペにも適性があったのではないかと思う。ちょっと彼がフィリッポの全曲が聴いてみたい。

9.サミュエル・レイミー×フェルッチョ・フルラネット(伊/1)
名前だけ聴くとなんかすごい現代の名演を期待してしまうのだけど、なんか全体に不完全燃焼名観が否めない。レイミーはこの前のモリスとの共演の方が乗っていた感じ。こちらの方がなんとなく淡々とやっているような印象で、まあこの役だからそういう解釈もありっちゃありなんだけど…。加えてこのころのフルラネットのヴェルディは、どうももう一声欲しい感が否めず、喰い足りない印象。

10.ジェロム・ハインズ×クレイグ・ハート(伊/1)
なんと言っても御歳八十歳のハインズが凄まじい!多分一番実年齢に近い大審問官だろうwwwちなみに、これが引退コンサートだったらしい。流石にリズム感は悪くなってしまっているようで、ところどころ乗り切れていないが、そんなことはどうでもいいと感じさせてしまう圧倒的迫力たるや!とてもではないが、八十翁のなせる業ではないといった感じ。何度聴いても恐れ入る。並の歌手では足許にも及ばない。つまりハートの印象は皆無wwwこのハートって人は名前聞かないけどハインズの弟子だったんだろうか。

11.ジェロム・ハインズ×ポール・プリシュカ(伊/1)
メトのスター・バス同士の競演。ハインズは録音史上指折りの大審問官だと言って良いだろう。フィリッポを歌うときは、大迫力ながらも若干大芝居になりすぎな感があり、好き嫌いの分かれそうな印象だったが、大審問官ではむしろ行きすぎない演唱をしていて好ましい。そしてハインズと対決するならやはりプリシュカぐらいの人が出てきた方がうんと愉しい。演技に力が入ると、ちょっとがなりに傾くのが残念ではあるが、この場面はそもそもドラマティックだし、非難されるものではないだろう。

12.サイモン・ヤン×アラスタイアー・マイルズ(仏/1)
演出のこともあるのだろうが、ヤンはよく考えて歌っている印象(ヴィーンで、ペーター・コンヴィチュニーが演出したあれ)。ただ、その反面覇気というか熱気がもう少し欲しい感がなくもない。後半で気持ちの悪い笑いが入るんだけど、これは蛇足(演出家の指示かもしれないが)。この場面は、そういう意味での余分なことはしない方が説得力がある。マイルズは、普段のレパートリーと違うところだというのを意識し過ぎたのか(それとも演出家の指示か)ちょっとがなりすぎ。私は彼のスタイリッシュなベル・カントものが好きなのでちょっと残念。もっと普通にグラントペラ的なアプローチの方がこの人の良さが出たのでは。

13.ジャック・マルス×グザヴィエ・ドゥプラ(仏/1)
グラントペラとしてこの演目をやりました、という感じで、仏流の洗練を感じる一方、ヴェルディをやってますって言う迫力には乏しい。二人とももう一つ声に重みがあると良いのだが。マルスは大審問官の嫌らしさは立っているがもう少し迫力が欲しい。むしろフィリッポでやってたぐらいヴェルディしても良かったか。ドゥプラももう少し踏み込んでいい気がする。王族としての気品みたいなものは感じられるんだけど、如何せんちと弱そうww

14.ジュリオ・ネーリ×チェーザレ・シエピ(伊/1)
いよいよ真打登場。やはりネーリは大審問官役の金字塔。もうその圧倒的な声の威力には言葉もない。深みとか重みとか暗さとかそういうのとはまた全然違う、凄い声。シエピも彼の普段のスタイリッシュな歌唱からかなり逸脱して、ドラマティックに応酬する(このひとが楽譜から逸脱するときは、もう物凄いのだけれども)が、それすら圧殺する存在感。もうこういう大審問官は聴けないんだろうか。演奏と直接関係ないが最後のブラヴォは早すぎ。シエピまだ延ばしてるし。音楽楽しめ。

15.ジュリオ・ネーリ×ニコラ・ロッシ=レメーニ(伊/1)
ネーリと名バス三番勝負の二番目。知的な歌で知られたロッシ=レメーニも、その名声のとおりよく練られた歌い回しでフィリッポを好演しているが、やはりここでも強烈なのはネーリ。そんなに器用な歌を歌う方ではないんだけれども、逆にそこから鷹揚な印象を作り出していて、カルロばかりかフィリッポの企てすら児戯に等しいと言わんばかり。この役に不可欠な抗いがたい不気味な迫力を、ここまで引き出している歌手は、私の知る限り他にはいないと思う。

16.ジュリオ・ネーリ×ボリス・クリストフ(伊/1)
クリストフは魅力的ではあるけれどかなり強力なフィリッポなので、彼に拮抗し、彼が膝を屈する大審問官を選ぶのはかなり大変だったろうと思う。この厄介な問いに対して、前述のヴィンコや後で出てくるアリエは冷徹さで対峙するという解を出した訳だが、恐らく力でクリストフを組伏せたのはネーリだけだろう。当時、彼がいなくなったら大審問官をできるバスが居なくなるとまで言われたそうだけれども、このクリストフとの対決を聴いてると、そう思った当時の人たちの言に納得してしまう。そんな訳で名バス3人を以てしても怪バス、ジュリオ・ネーリに軍配。

17.ジョヴァンニ・フォイアーニ×ルッジェーロ・ライモンディ(伊/1)
フォイアーニはヴィンコとかと同じぐらいに脇役で活躍したバスなんだけれども、どういう訳か英語でも日本でも殆ど情報が見当たらないものの、結構重要な役を手堅くきっちりやって呉れるんで安心して聴ける。ここでもドラマティックの迫力や卓越した美声という訳ではないけれども、なかなか腹の黒そうな大審問官をやっていて、結構満足いく出来。若き日のライモンディはアリアはいま一つだったけれども、こちらではなかなかの好演。

18.ディミタル・ペトコフ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
ペトコフ、この役をやるのにはやや声の響きが明るいような気もしなくはないが、デカ声でこれだけギャウロフと張り合って呉れるとやはり聴き応えがある。大審問官は意外と低音だけではなく、かなり高い音も出てくるので、全音域でこれだけ鳴るというのは、それだけで価値があるし、この人の場合、ただ声がデカいだけ、という印象でなく、ちゃんとニュアンスも伝わってくる。この役に限らず、もっと録音の欲しかったバスだ。これに対しギャウロフも、この演奏では割と演劇的。こうなってくると聴いてるだけで手に汗を握るような心持になる。

19.ニコラ・モスコーナ×ジェロム・ハインズ(伊/1)
モスコーナって確かトスカニーニに気に入られてた歌手のはずで、かの名指揮者の録音をはじめいろいろ出てるんだけど、あんまいいと思わない。というか印象に残ったためしがない(^^;どうもいまひとつ脇役感が強いんだよな。。。しかもここでは役に比して声軽いから、いまいちインパクトが。荒ぶるハインズと逆のがよかったような気もするし、彼の気の抜けたフィリッポなんぞ聴きたくないというような気もする。

20.ニコライ・ギャウロフ×ルッジェーロ・ライモンディ(仏/1)
フィリッポでの録音が多いギャウロフの数少ない大審問官というだけで、思わず期待してしまう。実際の演奏もその獅子のような歌声はまさに猊下、という感じでもっと歌って欲しくすらなる。けどもっと歌うなら役としてはフィリッポになっちゃうのか(苦笑)仏語の大審問官では恐らく最強でしょう。圧倒されます。ライモンディの知的な歌い回しもここでは活きていて、ともすれば知的に走り過ぎて小さくなる彼の歌をよりダイナミックに引き出しているように思う。最大の問題は何故仏語かということ。これが伊語だったらたいそうな名盤になったのにと思うと、ちょっと悔やんでも悔やみきれない。ギャウロフの大審問官も、より強烈なものになったに相違ない。

21.パータ・ブルチュラーゼ×ロベルト・スカンディウッツィ(伊/1)
ブルチュラーゼはまずデカい声だが、それ以上に抹香臭い音色の声なので、旧教の権化大審問官では非常にしっくり来る。デカ声が持ち味だからそれだけの人に見られがちだが、スパラフチレなんかでも聴かせていたけれども、意外とppで囁くような表現のも得意だし、現役では一番理想的な大審問官か。何故か日本では評価する人があまりいないスカンディウッツィはフルラネットと並ぶ当代きってのヴェルディ歌いで、ここでもその面目躍如たるところ。どうしてシエピが好きな人がたくさんいるのに、このひとは評価されないんだか理解に苦しむ。ともあれ、現代の名演でしょう。

22.ハンス・ホッター×ジェロム・ハインズ(伊/1)
意外にもこういうぶちギレ大審問官てあまりいない気がする。序盤はふたりともおとなしい感じだから、割とソフトな感じで進むのかと思いきや、大審問官が進言するあたりから、だんだんと怒りのボルテージがあがって、終いにはぶちキレるさまは、いとをかし。ホッターもヴァーグナーのイメージが強くてあまり聴かないんだけれども、こういうテンションの高い歌唱を聴くと、いろいろ集めたくなる。当然ながらハインズもぶちキレる(笑)ので、エラい騒ぎになってるwwまあ爆演というべきものでしょうか。

23.フォードル・ヤーノシュ×セーケイ・ミーハイ(洪/1)
まず洪語っていうのが(笑)ま、この時代はその国の言語に訳しているのが普通だから、意外と洪語のイタオペ録音とかってあるんだがwそして歌手が、ではなく全体に音程が謎…なんだこの音は( ̄▽ ̄;)録音のせいかフォードルはだいぶ軽く聴こえるが、本来の声はもっと太そう。もっとまともな録音だったら、うんと評価が上がっていそうな気もするのでちょっと残念。何故か唐突にぶっ飛ぶ高音出してるwwこの時期のヴェルディの作品でそれはないでしょうwwwなんとなく通して聴いて、セーケイの声の方が全体に貫禄がある印象。セーケイも、もっと録音を残して欲しかったバスだなぁ…。

24.ヘルマン・ウーデ×ジョルジョ・トッツィ(伊/1)
ウーデは声はともかく音程は悪いし最低音は出してないし、そのくせヴェルディの旋律を盛大に恣意的に崩してるし最悪。ここまでで最悪だったアニシモフにすらかなり水をあけられている勢いで、もはや歌えてないレヴェル。ヴァーグナーで評価高いっていう話を聞くんだけど、ほんまかいなと耳を疑ってしまう。トッツィは演劇面で優れたフィリッポを作り出していて、良いだけに非常に残念。

25.マッティ・サルミネン×ヤアッコ・リュハネン(伊/1)
サルミネンはやはりフィリッポよりもうんと大審問官向き。この役はアクの強いデカ声で歌って、フィリッポを圧倒して欲しいのでぴったりである。ただ、コンサートということもあってか、割とおとなしい感じがしていて、もう少し踏み込むことができればもっと良かったか。尤も、リュハネンもかなりぶっとくてデカくてアクのある声なので、フィリッポというよりは大審問官がふたりいるみたいwww或る意味でかなりの贅沢www

26.マルコ・ステファノ―ニ×チェーザレ・シエピ(伊/1)
一応ちゃんと歌ってはいるが…ステファノーニ、それじゃシエピには勝てない(苦笑)なんとなくおじいさんぽい声はわざと出してるの?それはそれである意味でリアリティだけど…この役に必要な絶対的な迫力に欠ける。となると、この場面で絶対に必要な圧倒的な緊張感は生まれんのです。。。なんでまたシエピの相手に彼が起用されたよ。折角だからそれこそクリストフとか起用したら、希代の名演になったかもしれないのに!(まあ、クリストフが了承するまいか(^^;)

27.マルッティ・タルヴェラ×ニコライ・ギャウロフ(伊/3)
なんとこれに限っては3組持ってます!と言うか、このコンビでの録音多いんですよ(笑)タルヴェラは、ホッターほどではないにしても、意外とぶちギレ系。いずれの録音でも底の見えない太い声でキレまくるので、迫力には事欠かない。見た目も熊みたいだから、実際の舞台だったらさぞかし悍ましい大審問官だったんだろうという感じ。ホッターと違って、解釈としては、最初から苛立ちを隠せない様子を見せている。これに対してギャウロフは、当然ながらかなりドラマティックに応戦する。このひと、歌自体、表現自体は結構端正だと思うんだけど、声そのものの響きが豪快な感じがするんだよね。そんな2人の対決の、その緊張感たるや。もうね、なんか熊vs獅子のようなというか怪獣映画みたいな感じすらするwww←褒めてます

28.ヨーゼフ・ヘルマン×ヨーゼフ・グラインドル(独/1)
ヘルマンの声はどう聴いてもバリトンで、普通に考えるとその時点でアウト、大審問官が合う筈がない、と斬ってしてまうが、これがなかなか聴かせる。歌が良いのか解釈が良いのかはたまた独語だから良いのかなかなか意地の悪い大審問官を作ってて見事。尤も、フリックとかに歌って欲しかった気もするんだけど(^^;グラインドルも不足なし。あんまりたくさん聞いている訳ではないが、この人の重厚な低音も、私は好きだ。前半のやり取りpでやってるんだけど、独語の語感と相俟って、全く違う音楽のように聴こえる。

29.ラッファエーレ・アリエ×ボリス・クリストフ(伊/1)
端正なアリエの大審問官とアクの強いクリストフのフィリッポ。キャラ的には逆のが良いような気もするが、そうは行かないのがオペラの面白いところで、これはなかなかの名演。アリエの端正な声と歌振りが、大審問官の正当性を強調しているような感じがする。心情の問題を切り捨てて、理窟で勝負すると絶対に勝てないであろうという、ある面優等生的冷酷さが感じられる。それに対して、クリストフがアクの強い声で盛大に唸ると、それがまたアリエの大審問官と好対照をなして、非常に人間くさく聴こえるのがまたとても良い。もちろんパートが逆でも聴いてみたい気はするが、これはこれで聴く価値のある録音だと思う。

30.リチャード・ヴァン=アラン×ジョゼフ・ルロー(仏/1)
ヴァン=アランはかなり声をあらげていて、ちょっと意外なぐらい。けれどもそれがマイナスには決して働いていない。声も必ずしも全盛という訳でもないように思うんだが、それが却って大審問官の老醜ぶりをよく示していて見事。ヴルムみたいな重要な脇役に回ることの多いヴァン=アランらしい、手堅い仕事だと思う。ルローは悪役声で、役を選びそうなところがありそうだが、ここでのフィリッポでは自分の思いどおりいかない感じが出ていて良い。

31.ルイージ・ローニ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
安定の名脇役ローニの登場。ここでは迫力という点では物足りないところもあるけど、深い美声だし、歌も芝居も手堅くて安心して聴ける。大スターではないにしても、こういうひとがきちっと脇を締めることで、出来上がってきてる名盤はたくさんあると思う(ローニで言うならムーティ盤『アイーダ』のエジプト王はとても素敵だ)。ここでのギャウロフは、他の録音に較べるとやや表現はおとなしめか。それでも十分すぎるぐらいなんだけど笑。

32.ルッジェーロ・ライモンディ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
ライモンディの大審問官は、昔は求められている声よりも音色がうんと高くて軽くていただけないと思っていたが、いま聴くと声の分の弱点を練り込んだ歌唱で補っていて、これはこれで見事。この人はやっぱり頭のいい歌い手だし、この頃の声の張りは捨てがたい。ギャウロフは、ここでは既に年齢的にはピークは過ぎてるようにも思うんだけど、役をしっかり薬籠中に収めてる感じがある。貫録十分な国王。ギャウロフが出てる他の音源に較べると、或る意味一番芝居くさくない、シンフォニックな感じの演奏(まあフォン=カラヤンだし)。

33.妻屋秀和×ヴィタリ・コヴァリョフ(伊/1)
妻屋がデカ声でしかもねちねちとした味付けで熱演していて、結構おっかないwwこの役に必要な圧倒的な迫力は持っている上に、かなり陰湿な大審問官の個性を打ち出しているあたり、日本人にもこういう歌手居るんだなあと唸らされる。けど、フィリッポはあんまり似合わないんだろうなぁ(笑)コヴァリョフは大審問官やった時と同様、ちと若々しい気がしないでもないけど、これはこれで悪くない。もうちょっとキャリアを積んで、どういう味を出していくのかが、とても楽しみ。

34.ロバート・ロイド×ロベルト・スカンディウッツィ(伊/1)
ロイドは重心の低い、深い声でどっしりとした風格のある大審問官像を構築しているように思う。荒っぽい歌い崩しや派手な芝居をしないでその路線に照準を合わせており、しっかりとヴェルディの旋律を打ち出しているように思う。この人出来不出来は結構あるんだけれども、この演奏は良い。スカンディウッツィはここでも伝統あるイタリアン・バッソという感じで、品格は崩さないながらも情熱の籠った歌唱である。全体に非常に上品に仕上がってはいるんだけど、決して単にそれだけではない、味のある録音だ。

35.ジェロム・ハインズ×チェーザレ・シエピ(伊/1)
声が若々しい…と思ったら2人とも30代手前?!という衝撃。ハインズ29歳、シエピ27歳だってwwwなんでその歳でこの成熟…信じられないwwハインズは後年と類似した解釈が垣間見え、どっしりとした重厚な声もこのときからしっかり形作られている。ついでにテンポをミスってるのも晩年の演奏と一緒w意外とテンポ感がこの人のアキレス腱だったんだろうか…。シエピのダンディズムもこの時点で完成されている。ただ、やっぱり若いのは若いので、どっちかっていうとドン=ジョヴァンニのにおいがする。

36.フェルッチョ・フルラネット×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
フルラネットは若い時だから、正直あんまり期待してなかったんだけど、思ったよりずっと良かった♪響きとしてはギャウロフよりも高めな気はするんだけど、致命的ではないし、丁寧に歌ってる。低音でもう少し凄めると大審問官としては迫力が出るんだけど、このひとは結局フィリッポ歌いになったからね。ここまで聴いてギャウロフは、もちろん年齢やそれによる解釈の違いも出てきてるんだろうけど、相手にかなり合わせてそれによって表現を大きく変えているような印象を受ける。共演回数もあるのかもしれないが、タルヴェラと一緒の時が一番演劇的で、荒々しい。

37.マイケル・ラングドン×ボリス・クリストフ(伊/1)
ラングドンは表現自体は結構端正で、丁寧に歌っているんだけど、声自体にちょっとアクがあるので、一種独特の存在感がある。このため、クリストフがここでは他の録音と比べても演劇的な表現が多く、結構声を荒げたりしてるのだけれども、意外とラングドンが喰われすぎてない。むしろ結構2人のバランスがよく取れていて、これはこれでなかなかの佳演だと思う。ただ、圧倒的なド迫力対決、とまでは行っていないので、そういう意味ではちょっと物足りないと思う人もいるかもしれない。

38.ジョルジェ・クラスナル×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
これは申し訳ないけどクラスナルは分が悪いなぁ…持ってる楽器のレヴェルが全然違う。クラスナルの声は単に高めなだけじゃなくて、かなり響きが薄いから音域的に声は出るんだけれども、ギャウロフには全く勝てない(^^;相手がまだギャウロフじゃなければどうにかなったような気もするんだが、さりとて誰になら勝てるかというと(苦笑)

39.パーヴェル・マノロフ×ニコライ・ギャウロフ(勃・伊/1)
珍盤さん来ちゃったよ…ギャウロフは伊語だけどマノロフはたぶん勃語wwwかつての欧州では自国語上演当たり前だからね…可能性としてはなくもないし、そういう全曲盤ナブッコも見たことありますが(^^;しかしマノロフ、歌自体は至ってまとも。ちゃんと声も持ってるし、表現だって悪くない。ギャウロフも、相手が違う言語で来てもきっちりやってて素敵。尤も、フル回転ではなさそうですが(^^;

40.ヤアッコ・リュハネン×ロバート・ロイド(伊/1)
リュハネンは往年のタルヴェラを思い出すものすごく深くてぶっとい声なんだけれども、こうして聴くと意外と声自体は若々しい気もする。そして味付けは割と普通で、先輩タルヴェラのように盛大にぶちギレたりはしていない。ロイド、ここでの表現も手堅いは手堅いが、可もなく不可もなくといったところか。アリアがよかったのでちょっと期待し過ぎたかも。総じて悪くはないものの、近年ありがちな、演奏としては素晴らしいもののなんとなく冷たいものの流れているヴェルディといったところ。この作品の場合は、それもありだとは思うんだけどね。

41.ゲルハルト・フレイ×テーオ・アダム(独/1)
この宗教裁判長、ダークホースでした(笑)フランツ・クラスを悪役っぽくしたような深くてぶっとい声で、タルヴェラみたいな感じのブチギレ系の演唱を展開していくんですが、まあこれが凄い迫力。ちょっとあくどすぎる気もしなくもないですが、ゾクゾクするような出来。対するアダムは性格的な役であたりを取ったのが良くわかる、人間的な表現のフィリッポ。その前のアリアのリート的な雰囲気すら漂う端正さとは対照的に、宗教裁判長への怒りを荒々しく表現していて、大変魅力的。ちょっと期待以上の満足感を得られる演唱でした。

42.ヴァレリー・ヤロスラフツェフ×イヴァン・ペトロフ(露/1)
2人ともいかにも露国らし力強いバスで、音域の広い役をこなしています。ヤロスラフツェフは、この役には少し声が輝かしすぎるぐらいですが、ペトロフを譲歩させるにはこれぐらいのパワーがないとままならない気もします。ペトロフはアリアもそうでしたが鍛え抜かれた逞しい声で、頑固で傲慢そうな国王。これもまた手に汗握る演奏です。惜しむらくは、声質が結構似ていてコントラストがあまりついていないところでしょうか。ヴェデルニコフやエイゼンの宗教裁判長でも面白かったかも。

43.クルト・モル×イェヴゲニー・ネステレンコ(伊/1)
こりゃあ凄い対決!モルはいつもの独国の黒い森を思わせるダークな低音を地響きのように鳴らして圧倒的!この人はそもそもの声質が重厚だから最低音の力強さたるや凄まじいものがある。彼なら絶対に超強力な宗教裁判長をやって呉れると思っていたので聴けて本当に嬉しいし、しかも予想を超える大迫力で感激雨霰ですよ(笑)対するネステレンコも互角に応酬、ピークにあると思われる充実した声が千両役者と言って差支えない演技力が乗っかって、強烈なことと言ったら!歌唱的にも文句なし!最後の低いDの長い長い伸ばしは圧巻!

44.ニコラ・ザッカリア×ヴァルター・クレッペル(伊/1)
ザッカリアは手堅い印象だけどもうちょっと頑張って呉れるかなとも思ってたりはした。それでも自らの言い分を頑に主張する感じはこの役らしくていい。クレッペルはこれの前のアリアが良かったからちょっと期待したけどまあまあかな~とは言ってもアリアも全体おしなべると平均的な印象だった気もするし、こんなもんかも。あ、でも決して悪い演奏じゃありませんよ!(←フォローになってない)

45.ジョヴァンニ・フォイアーニ×イーヴォ・ヴィンコ(伊/1)
なんだこの謎の脇役バス対決はw世の中探してみるとこういう不思議なカードの録音が残ってたりするから音源漁りはやめられない!で、まあ中堅バス同士の対決だからまあこんなもんかなと思って聴き始めたらとんでもない大空中戦をやってのけててビツクリ!www何が凄いってのっけからふたりとも喧嘩腰という新しい展開wwwあんたたち最初から口論になるの見越してあってたでしょ?っていう勢いで、結局あまり和解した感じもないwお話し的にはどうなのかなとも思わなくはないけど、これはこれで面白かったです。

46.ジェームズ・モリス×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
第一印象同様ヴォータン対フィリッポ(笑)や、いい演奏だと思います。モリスも何処か抹香臭さのある声だからこの役は似合いますなwwそういえば『ラオールの王』での坊さんなんかも良かったのを思い出したり^^最低音出ないのは残念ですが、彼の音域だとしょうがないかな。ギャウロフの声は音色に衰えは感じるものの相変わらず威力は絶大。何より名手ふたりのやり取りが如何にも丁々発止で緊張感があります。

47.パータ・ブルチュラーゼ×ドミトリ・ベロセルスキ(伊/1)
大型歌手同士の対決で期待したんだけど、まあまあかな。意外と序盤穏やかで驚いたが、先に進むに従ってアクセルがかかっていく。ブルチュラーゼの声には強い芯を感じ、較べるとベロセルスキはちょっとぼけちゃってるかな。ベロセルスキについては最近の方がいいかもしれない。ブルチュラーゼは最近あまり聞かないけどまだ活躍してるんだよね?ちょっと聴いてみたいんだが。

48、マルッティ・タルヴェラ×ヨーゼフ・グラインドル(独/1)
タルヴェラの声がかなり若々しく笑えますwっていうか独語のせいかもしれませんが普段そんなこと思わないんですけどがちょっと軽めに聴こえる。但し声そのものは圧倒的なもの。対するグラインドルは流石に全盛期は過ぎている感じですが藝で聴かせる出来。この曲を独語でもこれだけ自然に聴かせられる人はあまりいないのでは(事実タルヴェラには若干違和感がw)。全面対決の部分は思った以上に盛り上がって結構楽しめる音源だと思います。

49.マッティ・サルミネン×ルッジェーロ・ライモンディ(伊/1)
いやちょっとこのサルミネンはすごい。録音で聴いても圧倒的な声の巨大さと邪悪さで耳がぴりぴりする心地。当たり役にしただけあってことばの捌きもお見事。コンサートでの歌唱とは較べものにならない強烈な大審問官。これに対してライモンディがまた全盛期でうまみのあるたっぷりとした美声に加えて役者っぷりを聴かせています。彼のフィリッポのベストだと言っていい歌唱。重量級同士の丁々発止の対決で、おもわず聴き入ってしまいます。

50.リチャード・ヴァン=アラン×ジョン・トムリンソン(英/1)
英語版ですよwwヴァン=アラン、録音の関係かこんな声だったかな?というぐらい声が軽い気がする。低音までしっかり出してはいるんだけど、もう少し凄味があったような…トムリンソンはかなり声を荒げていて迫真。ただ、ここまでやるとどうかな、という話はある。そしてヴァン=アランの声やトムリンソンの表現で英語で歌ってしまうとなんだかとってもミュージカルっぽいw折角二人とも実力者だし、普通に伊語で聴きたかったような気も^^;

51.妻屋秀和×ラファウ・シヴェク(伊/1)
妻屋、やや声量が落ちた気もしなくもないが重厚な声と存在感は素晴らしい。力業ではなく不気味な雰囲気でフィリッポを黙らせる迫力が見事。シヴェクがノーブルな空気を持っているところともよくバランスが取れている。最後の低音のロングトーンはお見事!ふたりとも声量もありいい勝負!
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“独り寂しく眠ろう”

G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』よりスペイン国王フィリッポ2世のアリア“独り寂しく眠ろう(Ella giammai m'amo)”の聴き比べ(2012.3ごろから実施)

156種類に。聴き直しにかかるまえに160にかかりそうだな^^;
(2017.8.15現在/ヴェデルニコフ、ザネッラートを追加)

聴いてみたい歌手はまだたくさん!
間違いなく存在するはずなのに手に入っていないのは、往年の名脇役プリニオ・クラバッシがイタリア歌劇団で来日して特別演奏会で歌ったはずの音源!!これ、探してます!!wイタオペは永久に不滅です!」の管理人さまからクラバッシ、ワシントンと日本人勢をいただきました!ありがとうございます!!あとは、存在しなさそうですがジュリオ・ネーリ、意外とありそうなミロスラフ・チャンガロヴィッチ、グレゴル・ヨーゼフ、ルイージ・ローニ、日本勢代表で妻屋さんのも聴いてみたい!(妻屋を追加。)

<凡例>・歌手名(出身国/生没年/歌唱言語/聴いた録音の数)

・アーウィン・シュロット(宇/1972~/仏語/1)
デビュー・アルバムだからかもしれないが、声も表現もフィリッポには若過ぎ。悲劇の老王という雰囲気がしない。なんというか、少なくともこの時点では、ヴェルディの諸役にはあまりあっていないような印象を受ける。

・アスカル・アブドラザコフ(露/1969~/伊語/1)
録音が悪いのでちょっと判断しづらいところもあるのだけれど、全体にしっとりとした雰囲気を出していてなかなか悪くないと思う。凄んで欲しいところはきちっと凄んでいるし、彼がフィリッポを歌うというのであれば、聴きに行きたい。予想以上に満足。

・アドリアン・レグロ(仏/1903~/仏語/1)
仏もので活躍したこの人らしい丁寧な歌。ドラマ性はあまり感じさせないので食い足りなさはあるものの、不満足な内容かというと、楽譜に対してとても真摯で好印象。思ったよりもどっしりとした深みのある声もよくあっていると思う。

・アナトーリ・コチェルガ(烏/1947~/伊語/1)
若いころの声だということもあってか、ちょっとバリトンっぽい。この歌はやっぱりしっかりしたバスで歌って欲しい曲なので、むしろ今の歌を聴きたい。スカラ座で来日して歌った宗教裁判長などは、声全体の迫力がうんと増していた。

・アラスタイアー・マイルズ(英/不詳/仏語/1)
グラントペラとしての『ドン・カルロ』を考えるなら、こういうアプローチになるのかな、という感じ。全体にしっとりと柔らかく作っていて、がなり立てるのよりはずっと良いが、もう少し濃い味付けをしてもよいのでは?この人の適性はやっぱりロッシーニとか柔らかいものにある気がする。

・アルテューン・コチニアン(アルメニア/不詳/伊語/1)
東欧っぽい厚みのある声でありながら、癖やアクが少ない感じ。この深みは耳に心地よい。歌作りもとても端正かつ芝居をいい具合に挟んでいて、ふつふつと哀しみがこみ上げる感じがして◎方向性はすごくいい気がするので、もう少しこれでパンチが効けば…というのは望みすぎ?

・アレクサンドル・ヴィノグラドフ(露/1976~/伊語/2)
声の熟成をじっくり待っていた甲斐があってか、響きが大変心地よい^^歌には彼らしい知的なコントロールと計算が感じられ、端正でことばの扱いも見事なもの。後半に向けてしっかり盛り上がるペース配分もよい。敢えて言えばもう一声ドラマティックさが欲しいが、これからの歌いこみで開拓されそう。実力の割にこれまで大きな話題になっていないが、今後が益々楽しみ!
(追記2015.10.2)
もういっちょ仕入れました。先に聴いた演奏でも初役とは思えない充実度だったが、更に攻めた演奏と言っていいのではないだろうか。見えを切る場面での溜めや僅かな崩しなど全体に演劇的な方に表現のアクセルを入れているようだ。ものの数回でこれだけ彫り込むというのは、やはりこの人ただものではない。

・アレクサンドル・ヴェデルニコフ(露/1927~/露語/1)
露勢の中でもとりわけ癖のある御仁が露語で歌っているということもあり、まあ大方の予想通りほぼボリスです(笑)dormiro solo...は声こそ落としておますが力強さを感じ、落胆しているというよりは毅然とした印象。見栄の切り方とかは流石に堂の入った格好よさで、とりわけ最後の苦々しさは味わい深いものがあります。

・アレクサンドル・ピロゴフ(露/1899~1964/露語/1)
ボリスで鳴らした人だし露語歌唱と言うわけでボリス的な大芝居な歌かと思いきや、物凄く訥々と哀しみを歌い出していて実にいい!寂莫感がじわじわと沁み出ていて、愛されぬ権力者の孤独を感じる。流石は露バスきっての演技派、派手なことをしないでもこういう風にできるとは。ヴェルディっぽくはないが、歌として素晴らしいもの。

・アンドレア・シルヴェストレッリ(伊/不詳/仏語/1)
伊人なので伊語かと思ったら仏語ですた。しっかしこれはまたアクの強い声だなぁ(^_^;)アッティラとかならありだと思うけどフィリッポはちょっと…野性味ありすぎと言いますか。歌そのものは演技も含めて普通かな~。

・アントン・ディアコフ(勃/1934~/伊語/1)
ボリスのヴァルラームとかサムソンの老ヘブライ人とか、脇に回っていい味出してるイメージが強い人だったのですが、これがなかなかの出来。芝居と歌とのバランスが巧く取れていて、どちらを重視しても不満のない出来に仕上がっていると思う。これが行き過ぎると品がなくなっちゃうんだと思うんだけど、巧く寸止めしている。もっとこのひと重視されてもいいかもしれない。

・イーヴォ・ヴィンコ(伊/1927~/伊語/1)
このひとも名脇役で、フェランド(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』)を歌わせたら右に出るものはいない人。渋みのあるいい声で結構好きなんだが、このフィリッポはちょっとべったり歌いすぎな印象。もう少しメリハリつけられるひとの筈なんだが、大きい役でちょっと気張りすぎたかな。とはいえフィリッポの頑迷な感じは出ていて、そこはいいと思う。

・イヴァン・ペトロフ(露/1920~2003/伊語・露語/4)
この人らしい格調高い、端正な歌づくりで大変好ましいと思う。しっとりとした声色で欲しいところ、激しい嘆き節で欲しいところ、怒りを顕わにしたところなどそれぞれうまく表現している。ただ、露語歌唱だからかもしれないけど、ボリスみたいに聴こえてくるのは…笑
追記:伊語歌唱手に入れました♪この人らしいきちっとした歌づくりはやはりここでも生きているけれども、やはりこの歌は伊語で歌われるのがよいと実感笑。
更に追記:全曲盤(露語)を手に入れました。全体の流れの中で聴くと“権力者の悲哀”というよりは“悲劇的状況下でも傲岸な権力者”というような印象。非常に力強くてしめやかに嘆いてる感じではないんですね、むしろいまに見ておれよ、というような(笑)

・イェヴゲニー・ニキーチン(露/1973~/伊語/1)
ひさびさに若い人(笑)味のあるいい声で真摯に歌ってる感じは好感が持てる。特に“Dormiro solo”からはじっくり歌っていて悪くない。ただ所謂聴かせ処でない場所でちまちま盛大に外すのは…ちょっといただけない^^;もうちょい歌い込んだあとのを聴いてみたいところ。

・イェヴゲニー・ネステレンコ(露/1938~/伊語/2)
ペトロフ同様感情表現豊かに歌っていながら、あまり崩すことなくフィリッポの複雑な思いを表出していて大変見事。特にこの歌で最も有名な“Se il serto regal…”から一気に音楽的にも、演技としても盛り上げていっていて、聴く者をぐっと惹きつけるところはとても良い。
追記:新たな音源を入手!先に聴いていたもの以上かもしれない。彼が如何に優れた歌手かがわかる名唱で、王の悲哀と怒りと迷いが入り交じった複雑な感情が表現されている。演劇的になるところはより粗っぽくなってるんだけど、そこはまたそこでいい!聴衆が熱狂するのもよくわかる!

・イタロ・ターヨ(伊/1915~1993/伊語/1)
演技巧者らしく声色を使い分けたり、役になりきろうとしている感じはすごくあるんだが、ちょっと芝居し過ぎか。声を揺らしたり荒げたりといった部分が、ここではやや狙い過ぎな感がある。巧いとは思うんだが、もっと素直にヴェルディの旋律を歌った方がいい箇所がちらほら。

・イルダール・アブドラザコフ(露/1976~/伊語/1)
アスカルの弟。若い声・若い表現だし、それ故もう一歩踏み込んでほしいと思うところもあるんだが、狙っているところは悪くないかと。この歌は非常に難儀なものではあるが、やはりバスは彼みたいな深みのある低音が出せるだけで、ちょと印象が違う。

・ヴァルター・クレッペル(独/1923~2003/伊語/1)
モーツァルトやヴァーグナーなど独ものの縁の下の力持ちイメージの強い人でしたが、丁寧な歌い口とこちらも味のある声で好感が持てます。全体的にはまあ普通の歌唱ですが、この曲のミソのひとつである、最後に繰り返す冒頭と同じフレーズの処理を強弱表現ばちっと決めて呉れていて高感度UP!

・ヴィタリ・コヴァリョフ(烏/1968~/伊語/1)
大変立派な声で、丁寧に、そしてよく歌っている。ただ、それだけでは十分に満たされないのがこの歌の、そしてこの役の厄介なところ。少なくとももっとダイナミクスがつくだけで印象が変わると思う。

・エツィオ・ピンツァ(伊/1892~1957/伊語/1)
往年の名バス。よく録音が残っていたと思う(笑)後の伊国のバスに引き継がれていく部分だと思うんだけど、旋律線を大事にして演技を挟み込み過ぎない非常にスタイリッシュな歌には好感が持てる。ただ、フィリッポには声質が必ずしも合っていないような気がする。

・エツィオ・フラジェッロ(伊/1931~2009/伊語/2)
なかなかいい声だし、崩し過ぎずにきちんと歌ってるようには思うんだけど、中盤のじっくり歌って欲しいところがちょっと拙速すぎな印象…これはでも指揮のせいもあるのかな…とも思ったんだけど、明らかにフラジェッロ走ってるもんな(^^;
追記:別録音を手に入れたら、あらあらこちらのが音質はいいし出来自体もこっちの方がうんといいじゃない(笑)彼も米国で活躍した人ではある訳だけれども、ここでは変にドラマティックには流れず、きっちりと歌っている感じで非常に好感が持てる。上記と違ってじっくり歌って欲しいとこもちゃんとじっくりやって呉れてるし笑。

・大橋国一(日/1931~1974/伊語/1)
国際的に活躍したものの、42歳で夭逝した昭和のバス歌手。初めて聴きましたが穏やかな声で丁寧に歌っていて好感。崩しも少ないし、非常に気に入りました^^ただ、一方でちょっとこれだとフィリッポがあまりにも穏やかなひとになってしまう気がしていて、こんなにできたやつじゃないよと(笑)ヴェルディで言うならどっちかっていうと『運命の力』の修道院長とかのが向いてるかも。録音探してみようかな。

・岡山廣幸(日/1948~/伊語/1)
なんとなく声がくぐもった感じなのが気になるな、歌そのものは結構丁寧に歌ってるんだけど。あともう一息起伏がつけばちょっと印象が変わる気もするんだが、なんとなく平板な印象になってしまっている気がする。

・オルリン・アナスタソフ(勃/1976~/伊語/1)
初来日の際にバスなのにすごく話題になっただけあって、非凡な才能を感じさせる。深々とした声も耳に心地よいし、狙いどころもきちっとしている。ただ、彼が狙っている路線で行くには、まだ彼は若さを感じるところがあって、今後の歌を聴いてみたいところ。

・カール・リッダーブッシュ(独/1932~1997/伊語/1)
立派な声でしっかり歌っているし、熱演だとも思うんだけど、なんかしっくりこないという非常に不思議な印象。彼のレパートリーから言えばものすごく歌いこんでる歌でもないと思うし、やっぱりどこか勘所にうまく嵌っていない感じを受ける。

・カルロ・コロンバーラ(伊/不詳/伊語・仏語/2)
思い入れたっぷりに歌っているし、ピンツァ以来脈々と繋がるイタリアン・バスらしい端正な歌いぶりだとは思うんだけど、思うんだけど…なんというか若々しすぎるんだよね(苦笑)なんかルーナ伯爵とかだったら全然問題ないんだけど(音域違うけどね。)
(追記)2014.9.7
実演仏語で聴きました。しっとりとした哀しみの空気を出していて悪くはなかったのだけれども、思ったよりぐっとは来なかったかなあ。たぶん伊語のが良かったのは確か。でも〆方は流石にうまくて、引き込まれた。

・カルロ・ザルド(伊/不詳/伊語/1)
伊声では全然ないのだけれど、ちょっとスラヴっぽい声の深みがあってなかなか美声。ただし、ヴィブラートきつ過ぎと言う意見もありそう^^;ちょっと芝居が多い気がしていて、もうすこしすっと歌った方がこの歌の魅力が出るような。声質もあってなんかボリスみたいなんだよね、伊人のくせにwww

・カルロ・レポーレ(伊/1964~/伊語/1)
ブッフォのイメージが強い人だけど、深みと味わいのある声で結構手堅く纏めている印象。もっと藝達者に演技を挟んでいくかとも思ったんだけど、かなり整った丁寧な歌。ただ、アリア集で歌ったよっていうところからは出てないかなあ。ライヴとかだったら一皮剥けるんじゃないかという地力は感じるんだが。

・カレル・ベルマン(捷/1919~1995/捷語/1)
このひとの声が捷語にピッタリと合っていて、思っていたほどの違和感がない。どころか、意外なぐらいその捷語歌唱がヴェルディの旋律にしっくりきていて、大変いい味を出していると思う。これはなかなかの掘り出し物ではなかろうか。

・キム・ボルイ(芬/1919~2000/伊語/1)
芬国のバスの草分け的存在のこの人も、歌づくりが実直でなかなか好き。結構芝居してるなと思うところもあるんだけど、それがいちいち的確で嫌味にならない。割とバリトンっぽい響きのある声ではあるんだけど、それでも老年の印象をちゃんと与える。

・グザヴィエ・ドゥプラ(仏/1926~1994/仏語/1)
仏流グラントペラとして歌ったらこの歌はこうなる、というお手本のような歌唱。深いけれども柔らか味のある音色の声が耳にとても心地よいし、歌い方も丁寧で好感が持てるけど…まったくヴェルディっぽく聴こえないというのはちょっとどうかとも思う笑。

・ 久保田真澄(日/不明/伊語/1)
以前実演を聴いたとき(ロッシーニのバルトロだったかな)にあまり良くなかったので期待値低かったのですが、これが期待以上の熱演。といっても、崩し過ぎて下品になることなく、いいバランスを保っている。声も若々しく枯れきっていないフィリッポと言う感じ。

・クリストフォロス・スタンボリス(希/不詳/伊語/1)
ここまで聴いてきた他の歌手に比べるとネーム・バリューがガクンと落ちてしまうのも頷ける感じで、出来が悪いとかどうとかっていう前に凡庸な印象。ただ、最後のしっとりと歌って欲しいところとかはごくごく丁寧に扱っていて、そこはとても良かった。

・クルト・モル(独/1938~/独語/1)
底知れない深さを持つ、独特の美声がまずはやはりこの曲の良さを引き出しているのは間違いない。しかしそれ以上に数々のオペラで主役から脇役までさまざまな役の第一人者として認められているひとだけあってその表現力たるや。完全に自分の世界の音楽に引き込んでいる。

・クルト・リドル(独/1947~/伊語/1)
独人が伊語で歌ったものの中ではダントツに良い出来だと思う。100を超えるレパートリーがあると言う芸達者な歌手だけあって、ヴェルディの諸作品の勘所もきっちり押さえてるんだろうな、という印象。ここまで聴いてきた中では結構気に入っている方。

・コヴァーチュ・コロシュ(洪/不詳/伊語/1)
洪国を代表するバスだけあっていい声だとは思うんだけど、なんか音楽全体がのっぺりとした印象。これは単にテンポが間延びしてるというだけじゃなく、歌自体が淡々としていることに由来しているように思う。アリア集からなので、本気歌唱を聴いてみたい。

・ゴットロープ・フリック(独/1906~1994/独語/1)
この人のドスの効いた声はフィリッポの威厳を表すのに適していると思う。数々の悪役や道化役をこなした芸達者な彼らしく、その表現は並々ならぬもの。よい意味で大変恰幅の良い歌唱。ただ、彼が敵わないような宗教裁判長があまり思いつかないのが、欠点と言えば欠点か(笑)

・斉木健詞(日/不明/伊語/1)
この人も期待以上の良い歌唱!いい意味で粗っぽい感じのある美声で情感豊かに歌う。基本的には崩しを入れたりはそんなにしていないのだが、フィリッポの怒りや葛藤がじんわりと伝わってきて味わい深い歌唱。下手な外人勢よりもいいと思う。

・サイモン・エステス(米/1938~/伊語/1)
なかなかいい声だし、ちゃんと歌っているとは思う。が、これは表現のせいかどうかよくわからないんだけど、なんか凄く悪役の歌っぽく聴こえるのは私だけだろうか(^^;フィリッポはすごく嫌な奴だとは思うんだけど、決して単純な悪役ではないので、これはちょっと疑問。

・サミュエル・レイミー(米/1942~/伊語/1)
米国を代表する歌手としてさまざまな役で高評価を得ていて、私も大好きな歌手なんだけど、ここでのこの歌はどうなんだろう?えらい無難すぎる気がする。ものすごく朗々と歌ってはいるんだけど、フィリッポの複雑な性格をここからはあまり感じさせないような気がする。もっと悲哀が欲しい。

・ジェームズ・モリス(米/1947~/伊語/1)
このひとの歌は良かった!もっと大味で、悪い意味でアメリカンな味付けの歌唱が来るのを予想していたが、弱音を巧みに用いて繊細な歌唱をしているので驚いた。実はこのひとってネーム・バリューの割にあんまりピンと来ていない歌手の一人だったんだけど、これでかなり見直した。苦手なヴァーグナーをレパートリーの中心に据えている人だけど、今後ちょっと集めてみようかと思う。

・ジェロム・ハインズ(米/1921~2003/伊語/2)
どちらの録音もライヴだということもあって大熱演。“Se dorme il prence…”のところでドラマティックに声を荒げる歌唱は多いものの、全体に怒りを前面に押し出している解釈はあるようで意外と少ないと思う。もちろん嘆き節がないわけではなく、盛大に嘆いてもいる訳だけれども笑。日本ではこの人どういう訳だか無名だけど、もっと人気が出ていい歌手だと思う。

・シモーネ・アライモ(伊/1950/伊語/1)
彼もベルカント系のひとだけにバスながら高音までのびやかに出るなぁという印象。そこはいいんだが全体に声質がかなり軽めなので、この役に欲しいドスであるとか老いであるとか言った要素には不足しているような気がする。歌そのものはかなり巧いと思うのだけれど。たぶん全曲は歌っていないんだろうな。

・ジャコモ・プレスティア(伊/不詳/仏語/1)
ハインズがかなり動的な熱演であるのに対して、こちらプレスティアはぐっと静的な演奏。そのうえ仏語、というとグラントペラ的でヴェルディの影が見えない演奏のようだけれどもそうではなくて、さまざまな感情を抑えつつ、それでも嘆かずにはいられないフィリッポの姿を感じる。きっちりヴェルディしてるわけです笑。

・ジャック・マルス(仏/1926~2003/仏語/1)
仏人の仏語による演奏というとグラントペラ的なアプローチをしそうだし、このひとの宗教裁判長も割とそういう演奏だったので、そういうイメージで聴いたらこれが大違い。えらいしっかりしたヴェルディ(仏語だけど)をしていて、大変興味深かった。

・ジュール・バスタン(白/1933~1996/伊語/1)
予想外に伊語歌唱ですが、彼は伊語も巧いからね。やわらかで軽い声を活かしてウェットな表現をしていて、しみじみとした哀しみが伝わってくる歌唱。ただ、やや気が弱いと言うか本当はそんな悪いひとじゃないんだよね?って言う感じが前に出過ぎなのはどうかな。フィリッポはもっと押しの強い傲慢な人物ではないかと思うのです。

・ジョルジョ・トッツィ(米/1923~2003/伊語/2)
ライヴ盤だというのもあるんだと思うんだけれども、かなりドラマティックに歌っている感じ。非常に演劇的な歌なので、ちょっと好みはわかれるかも。ヴェリズモじゃなくてヴェルディなんだからもっと旋律を大事にしてほしいという気もする。けど迫真の大芝居だし、これにはこれでいいところがあるとも思う。

・ジョゼフ・ルロー(加/1929~/仏語/2)
このひともヴェルディの作品ではなく仏国の、グラントペラのひとつとしての『ドン・カルロ』って言うのを考えた時には、理想的な歌唱なんだろうとは思う。悪役っぽい声だけど、哀れな感じも十分に出しているし。ただ、もうひとつパンチが欲しいような気もする。
(追記)2014.7.20
アリア集を入手。同じく仏語歌唱。全体の印象は大きく変わらないが、こちらの方が芝居をしているような。改めて聴いてみると、仏語ながらに結構ヴェルディらしい歌を歌ってますね^^

・ジョン・トムリンソン(英/1946~/英語/1)
まさかの英語版www冒頭からいきなりShe has no love for me...!でずっこけるけど、歌自体は流石にしっかり歌っていて、何故伊語や仏語でやらなかったよと^^;しっとりした雰囲気はよく出していて、どっちかっていうと仏語版的グラントペラ風アプローチで歌っているような印象。ただ実演だとむちゃくちゃ声量あるらしいけど、録音だと乗りづらいのか声の輪郭がぼけちゃってるのが残念。

・ジョン・ハオ(中/不明/伊語/1)
良く考えて、良く練って歌っている印象。ただ、何というか声の響きに流されてしまっているような感じのところがあるような気がする。切った後に自分の声の響きに酔っているというか、もう少し切る部分の音の処理がうまく行けばよいのだが。

・ステファン・エレンコフ(勃/1937~1997/伊語/1)
バスにしては明るめの、しかりしっかりとした美声だとは思うのだけれども、どうも全体に表現がのぺっとし過ぎているように思う。全体にダイナミクスに乏しく、淡々と歌っているような印象を受けるのは、アリア集用に録音したからだろうか。

・スピロ・マラス(米/1933~/伊語/1)
割と脇を固める中堅のイメージの強い人だったんだけれども、なんのなんの立派な歌唱。勘所をよくとらえた、うまみのある演唱だと思う。正規の録音にあまり恵まれず、シュルピスやオローエあたりしかないのはちょっともったいない気がする。このフィリッポも音の悪いピアノ伴奏ではない録音が聴いてみたい。

・セーケイ・ミーハイ(洪/1901~1963/洪語/2)
これもレアな言語で歌ってはいるものの、アリアとしての聴かせ方をよく心得た立派なもの。哀感を感じさせる声質からしてフィリッポへの適性を感じるし、しっとりとした歌いぶりも見事。クリストフの代役に選ばれただけの実力が窺える(結局そのあとシエピになったわけだけれども)ただ、ベルマンとは逆にこの人の場合は伊語での歌を聴いてみたかったと思う。このひとも録音が少ないのが大変残念。

・セルゲイ・アレクサーシキン(露/不詳/伊語/1)
いかにもスラヴっぽいふっとい声がまずは大変良い。そして歌自体もドラマティックだし、盛り上がりにも事欠かず、嫌いではない。ただ、声にしても歌にしても露色が非常に強い。露語で歌ってるペトロフよりもボリスっぽく聴こえるところがあるww良くも悪くも露流儀と言ったところか。

・高橋啓三(日/1946~/伊語/1)
かなりヴィブラートのきつい声で私の好みからは外れる…結構盛大に演技を入れてるんだけど、そのヴィブラートと相俟ってなんとも。もっと美しい歌のラインを作って呉れたらまだ印象が違うのだけれども。

・タンクレディ・パゼロ(伊/1893~1983/伊語/1)
このひとも良く録音が残っていたなという古の大歌手。ピンツァよりも声質的にはフィリッポに合っているような気がするが、なんか意外とサクサク音楽が進むので、もうちょっとゆったり歌って欲しい(まあレコードで音が録れる時間の制限があったんだろうけどね)。最初平板な印象を持ったんだけど、もう1回聴いたらそうでもなかったww

・チェーザレ・シエピ(伊/1923~2010/伊語/3)
決して大芝居はせず、むしろ終始徹底してpでしっとりと、そしてじっくり歌ってる。それだけでフィリッポの底知れぬ孤独と哀しみを表現してしまう凄まじさは、まさに特筆すべきもの。普通の歌手がこれをやったら淡々と歌っているだけの演奏になってしまうけれども、そこにヴェルディらしい熱さと力強いドラマが込められている。昔は声質自体はフィリッポに必ずしも合ってないような気がしていたが、そんなこと全然ないねwww

・妻屋秀和(日/不明/伊語/2)
もっとでっかい声の力押しでくるのかと思ったが、意外と柔らかく歌っていてちょっとびっくりした笑。しっとりと美しく歌っているが、改めてフィリッポを聴いてみるとやや響きがぼわっとして焦点が合わない感じで、ヴェルディ向きじゃないような気も。だから逆に言うと宗教裁判長なんか似合うのかもww何はさておき立派に歌う日本人がいるのは嬉しい^^全曲公演とかやらないかな…演奏会形式でもいいからw
追記:若い時のを聴いてみたが立派なもの。ちょっともこもこするのがこの人の欠点なんだけど、ここではもたつくこともなく、じっくりと聴かせて呉れて◎

・ディミテル・ペトコフ(伊/1938~/伊語/1)
おそらく彼の伊或いはヴェローナデビューとなった公演の録音でかなり若いころのもの。そのせいもあってか、ちょっと緊張気味のようで、頑張っているのはわかるし、勘所を外しているようには思わないのだけれど、なんというかとても無難に聴こえる。彼ももうちょっと歳行ってからの録音を聴いてみたい。

・テーオ・アダム(独/1926~/独語/2)
独国を代表するバス・バリトンらしく、あたかもドイツ・リートのような端正さを以て歌われた録音。非常に真摯に、丁寧に歌われており、純粋に音楽として、歌として優れたものであるのは間違いないと思う。ただ、これをヴェルディかと言われると…ヴェルディではないwwヴェルディに欲しいある種の熱っぽさからはほど遠い。それでもこれだけいい音楽になるのか、という意味で面白い。
(2012.12.30追記:ライヴ録音を入手。流石にここではよりオペラティックな表現になっているけど、基本的には同じような路線かな。もっと悪役っぽくなるかと思ったら、意外と人間味を感じる歌でした。相変わらずヴェルディっぽくはないけど…笑)

・ドナルド・グラム(米/1927~1983/仏語/1)
仏語だが、良くも悪くも外国人が仏語で歌ったらこうなるよって言うような感じ。言い換えるならばエレガントな感じはやや落ちるがヴェルディ的な色合いは強いといったところか。全体には大感動はしないが悪くない。ある意味教科書的スタンダードさではあるのだが、うーん、もう一声かな。

・ドミトリ・ベロセルスキ(烏/生年不詳/伊語/2)
声からはスラヴの新星という雰囲気が出ている。声量もかなりありそうだし、非常に深い声で、歌い出しを聴いてワクワクするぐらい。ただ、現状歌い回しがそこまで巧くない、というか単調な部分も見られるので、これからに期待か。いや、かなり期待できると思う!
追記:もう1個仕入れたが、このひとはやっぱり大器だ!深くて幅のある美声はかつてのギャウロフやクリストフのようなスケールの大きさを感じさせるし、最初の音源よりもぐんと表現が深い!これは楽しみな人が出てきた♪

・トム・クラウゼ(芬/1934~/伊語/1)
バスではなくバス・バリトンなので、実はあんまり期待しないで聴いたんだけど、結構切々とした表現で悪くない。と言うか考えてみればファン=ダムもそうか。音色が暗めなのが幸いしているのかも。もうちょっとドラマティックに歌って呉れてもいい気はするけれども。

・戸山俊樹(日/不明/伊語/1)
結構深めの声で丁寧に歌ってるんだけど、それ以上にこれといった特徴がないような^^;端正なのは好感が持てるのだけれども。この人ももう少し起伏があった方がいいと思う。

・中村邦男(日/不明/伊語/1)
結構あくの強い声で好き嫌いは別れるかも。正統派の美声と言うよりはバルカンや露国の人のような声。歌自体も丁寧ではあるが、穏やかで音楽的な大橋と較べるとうんと演劇的で、同じ日本人でもだいぶ違うなと言う印象。フィリッポのキャラクターを考えると、実演だったら結構いいのではないかと。

・ナッザレーノ・デ=アンジェリス(伊/1881~1962/伊語/1)
彼もまた古の大バス。メフィストやモゼみたいな役を当たり役にしていた人だけあってものすごく役に入り込んだ演唱。見方を変えればものすごい大芝居(笑)かなりアッついヴェルディをやってるとは思うんだけれど、この大芝居をくさいと思ってしまうと鬱陶しいかもしれない。

・ニキータ・ストロジェフ(露/生年不詳/伊語/1)
重厚ないい声。普通割と静かに始める歌い出しを勢いよく歌っていて、これはこれで堰を切ったように想いを吐露しているように聴こえるという効果があるなと。全体にはまあ平均点なんだけれども、立派な歌唱ではあると思う。

・ニコラ・ギュゼレフ(勃/1936~/伊語/3)
勃国を代表するバスで、いい録音もたくさんあるんだけど、何故か私の持っているふたつのこの曲の録音はいま一つ。全体になんとなくのっぺりとしてしまっていて、一本調子に聴こえる。表現にしてもダイナミクスにしてももっとメリハリがつけられるはずの人なんだが。。。
追記:新たに御年69歳の時の録音を入手!あら、若い時のアリア集の時より全然いいじゃないwwもう少しダイナミックな方が好みではあるけれど、この歌が本来持ってる筈の起伏をしっかりとつけられている。

・ニコラ・ザッカリア(希/1923~2007/伊語/2)
「カラスの共演者」で片づけられてしまうことの多い人ではあるのだが、なかなかどうしてこの録音はとても良い。もともとちょっと独特な美声を持っていながら、結構スタンダードな表現をする人だと思うんだけれども、そのスタンダードな表現をする人の範疇で言えばかなり上位に来ると言ってよいのでは。もっと注目されてよい。

・ニコラ・ロッシ=レメーニ(伊/1920~1991/伊語/3)
この人も評価が必ずしも高くない人ではあるんだけれども、勘所もしっかり押さえているし、技術も高い。ちょっと技術を見せすぎで音楽が止まりそうな箇所もあるものの、息の長さとppの巧さは特筆すべき。対してfはかなりドラマティックでコントラストも効いてる。エンターテインメント的な歌唱だということもできるのかもしれない。あざといと思う人もいるだろうけど、個人的には結構好き。

・ニコライ・オホトニコフ(露/不明/伊語/1)
露国っぽいけれどもいい声で、きちんと歌ってはいる。ただ、キーロフの他の歌手たちとの合同アリア集だからなのかなんなのか、ちょっと歌い飛ばしているような感じがするのが残念。全曲ライヴとかだともっといいんじゃなかろうか。。。

・ニコライ・ギャウロフ(勃/1929~2004/伊語/11)
私が最も好きな歌手だということはもちろんあるんだろうけれども、やっぱりこのひとが一番しっくり来る。類い稀な美声、決して誇張し過ぎず旋律を描きながら、単なる譜面に堕さず、悲劇の老王の孤独を表現する技量…どこをとってもこのひとが一番フィリッポになりきっていたように思う。演技や力みの入るところも絶妙で、恣意的にならない。このひと以上のひとは今後出るんだろうか…
追記:更にいくつか音源を入手。改めて聴いてみると、このひとのこの歌は、時代を追ってかなり魅力が変わっているように思う。若い時は豊かな声で、年を経てからはその歌の巧さで聴かせる。どちらが好きかと言われれば…どっちも好きだなぁww

・ノーマン・トレイグル(米/1927~1975/伊語/1)
ギャウロフの後だと分が悪いとはいえ…ちょっとぐずり過ぎて芝居が臭すぎる。おまけにテンポもぐずぐずになっているところがあるので、これはちょっといただけない(^^;いい声ではあるんでメフィストとかは素敵なんだけれどもね、この人も。

・パータ・ブルチュラーゼ(グルジア/1955~/伊語/1)
とんでもなく深い美声。いい声なの間違いないですが、何しろ非常にでかい声wwwただその兎に角でかい声をもう少しうまいこと使ってダイナミクスの変化をつけたり、嘆いてくれたりしてもいいと思うんだけど、そこがちょっと単調。ま、デビュー・アルバムに近いから、もうちょっと年取ってからの録音があったら観てみたいところ。

・パウル・シェフラー(独/1897~1977/伊語/1)
アルマヴィーヴァ伯爵やドン・ピツァロみたいな役をやることの多いバリトンの歌手ではあるんだけど、思ったより違和感はない。改めて音域の広い、というかバスには音の高い曲なんだなと思う。この人の歌唱についてはまあ無難なところという感じ…やっぱりバリトンのひとがちょっと歌ってみました、って感じではある。

・パオロ・ペッキオーリ(伊/不詳/伊語/1)
『チェネレントラ』のアリドーロが良かったイメージだからもっと軽い声が来るものと思って聞いたら意外と深みとコクのあるしっかりした声。特に変わったことをしている訳でも芝居を多用している訳でもなく、さらに言えばフィリッポには明るい声なんだけど、しみじみうまいなあと思わせる歌心のある演奏。間の取り方とかにセンスがあるんだと思う。

・パオロ・ワシントン(伊/1933~2008/伊語/3)
このひとも中堅どころのイメージのあるひとだったんで、そんなに期待してなかったんですが、予想よりずっと良かったです!やっぱり中堅で長いこといろいろな役をこなしているひとというのは、歌の勘所というか狙いどころがよくわかってるんだな、と。もう少し録音を集めてみたくなりました♪
追記:新たな録音を聴いてみましたが、ここでも印象は変わらず。安定のバランス感覚で楽しめました!

・バルセク・トゥマニャン(アルメニア/1958~/伊語/1)
独特な声の響きで好き嫌いは分かれそう。アクの強い役では割と活きていると思うので、どうかとも思ったんだけど、これに関しては割と普通な歌づくり。どこ取り上げて悪いというわけではないんだが、もう少し踏み込んでもよかったのではないかと思う。

・ハンス・ホッター(独/1909~2003/独語/1)
声の印象としてはシェフラーと近いんだけど、もっとバス。ヴァーグナーのイメージが強い人だから正直どうかなと思ってたんだけど、これは全くの杞憂。考えてみればヴォータンだってフィリッポだってどちらも「王(それも身勝手で人間臭いw)」なんですよね。ただイイんだけど、アリア集用に歌ってる感じは拭えないので、このひともライヴを聴きたい…

・フェルッチョ・フルラネット(伊/1949~/伊語/2)
若いときのと最近のとふたつ聴いたけど、このひとぐらい断然歌がよくなったひともいないのでは?という印象。カラヤン指揮の録音では声はいいんだけど表現としてはいま一つの感が否めなかったが、最近の録音では美感の崩れる限界で孤独な国王の苦しみを表現している。いま、一番聴きたいフィリッポ!

・フョードル・シャリャピン(露/1873~1938/伊語/1)
ピンツァやパゼロと同様に録音が残っているのが奇蹟ともいえるような録音。ボリスでの大芝居で知られた人なんで、そういう感じかな、と思ったらやっぱり予想通りのボリス風大芝居フィリッポ。もちろんボリスとフィリッポでは全然音楽が違うので、そこはもちろん彼的には雰囲気を改めてますが…ま、彼の藝風だからねぇ(^^;

・フランチェスコ=エッレロ・ダルテーニャ(伊/不明/仏語/1)
このひとも長いとこどちらかと言えば中堅どころのような扱いを受けている気がする。ここでも手堅い歌唱とゆったりとした美声でなかなか聴かせるな、という印象。欲を言えばもうひと押し深い声の方が好みではあるけれども、ピンツァ以来のイタリアン・バッソの伝統に、このひとも乗ってるなと思う。仏語やけどww

・フランツ・クラス(独/1928~2012/伊語/1)
東独の人だし独語だろうしまあこんな感じだろうと思って聴いたら、意外や意外伊語で歌ってるし、しかもそれが様になってるwwwどちらかというとしっとりと嘆く歌唱で、“Dormiro solo”の出だしなんかはものすごくウェットな感じ。けど“Se il serto regal”のあたりからは感情を乗せてパワフルに歌っていて、巧く対照がついている。そういう部分での音楽的な感覚がいい感じ。これはこのひとの全曲とか聴いてみたい気がする。

・フランツ・ハヴラータ(独/1963~/伊語/1)
この人もバスというよりバス・バリトン。芝居も結構いいし歌も巧いんだけど、ちょっと明るめの声質なので、必ずしも適役ではないのかなと思う。あと、なんか狡猾そうに聴こえるのはなんでなんだろうwwシャクロヴィートゥイとかランゴーニとかそういう匂いがするw

・プリニオ・クラバッシ(伊/1920~1984/伊語/1)
数々の録音を下支えしている隠れ名歌手。脇に回っていることが多いけれども、大役を聴けて非常に嬉しい♪滋味溢れる声で訥々と哀しみを歌いだしていて非常に好感が持てる。若干テンポに乗り切れていないところが残念だけれども、いかにもオペラをよくわかっている人らしい味のある歌い回しは嬉しいところ。

・ポール・プリシュカ(米/1941~/伊語/2)
ここまで聴いて、全体の傾向としてメトの歌手は演技によりがちだと思っていて、この人も他の演唱を観る限り、そういうもんが来るんだろうと思っていたら、意外と歌に寄ったもので、これが良かった!この歌は感情をちゃんと乗せないといけないんだと思うんだけど、やり過ぎるとよくないので、これぐらいちゃんと歌わないと。もう一声感はあるんだけどね(^^;
追記:アリア集でもう1個見つけて聴いてみましたが、あんまり印象は変わらないかな^^;意外なくらい折り目正しくて好感が持てるのも既出のものと同じ印象。

・ボナルド・ジャイオッティ(伊/1932~/伊語/2)
このひとはいつ聴いても手堅い。間違いがない。大感動をさせるような歌を歌う訳ではないんだけれども、舞台にひとりは欲しい、脇を締める存在感を感じさせるひと。滋味溢れた、味わい深い歌唱。尤も、フィリッポだとそこからもう一歩踏み出したものを求めたくなってしまう気もするんですが笑。
追記:もう1個仕入れた^^前出のものと同じく手堅い印象は変わらないけど、こちらのほうがご本人乗っているのか、ぐっと引き込まれるような歌唱。1個目での不満がきっちり解消される歌唱で、こういうのを期待してますよ!という出来。

・ボリス・クリストフ(勃/1914~1993/伊語/4)
クリストフはまずは声だと思う。やっぱり一声でこれだけ不吉な、悲劇の雰囲気を作れる歌手もそうはいない。元来悪魔っぽい声で、ここではアリア以外の部分については聴いていないものの、凄く威圧的に見せる場面もある。その一方でこの歌ではソット・ヴォーチェを駆使してフィリッポの哀れっぽさを表現し、二面性を描いていて大変見事。ちょっと宗教裁判長もやって欲しかった気もしなくはないのだが…笑。

・ボリス・マルティノヴィチ(勃/1956~/伊語/1)
いい声なんだけどなんというか…全体的にのんべんだらりとした感じなんだよね(^^;ずっと一本調子なんだよね、ダイナミクスにしても感情表現にしても。全曲盤の『イーゴリ公』での題名役とかではもっとずっとしっかり役に入り込んだ歌唱をしていたので、できなくはないんだと思うんだけど。。。

・ポルガール・ラースロー(洪/1947~2010/伊語/1)
この人の常として、音源で聴いても声量はそんなにないのかなという感じなんです。が、この人はそれを補って余りある知的な歌い回しを持っているのが魅力で、ここでもそれが当たって大変素敵。全曲聴いたらいろんな場面での歌い分けが楽しかっただろうなと思う。どっちかって言うと中ぐらいの役の録音が多いんですが、こういうのももっと残して欲しかったな。

・ポンペイウ・ハラステアヌ(羅/不明/伊語/1)
声も悪くないし、ちゃんと歌ってるように思うんだけど…なんというか凡庸というか、いまひとつ特徴がない感じ。ネームバリューにばかり振り回される必要はないと思うんだが、こういうところにやっぱり出ちゃうのかな、とも思わなくない。

・マッティ・サルミネン(芬/1945~/伊語/1)
宗教裁判長やハーゲンを得意とするだけあって流石の悪役声。っていうか表現までなんか悪役になりきっちゃいないかい?(^^;フィリッポはエボリ以外のどのキャラともいろんな意味で対立関係にあるけど、単純な悪役ではありえないし、この歌では悲哀だとか哀愁だとかを感じさせて欲しいところ。異端者火刑の場でこういう感じならいいんだろうけど。。。

・マルク・レイゼン(露/1895~1992/伊語/1)
ソヴィエトでの録音だしシャリャピンと世代的にも近い人だから、もっと露色大爆発というか、ボリス風大芝居フィリッポが来るんだろうと思っていたら、これが意外にもしっかりとヴェルディしてる。崩し過ぎずに旋律を大事にしているのがいいんだろうね。露語で歌ってたらボリスっぽくなっちゃってたんだろうけど笑

・マルッティ・タルヴェラ(芬/1935~1989/伊語/1)
このひとも割としっかり表情をつけようとしているのはわかるんだけれども、どういう訳だか孤独な境遇の老王の悲哀みたいなものをあまり感じない(^^;声にドスが効き過ぎなのかな…でもそれだけでもないような。ギャウロフに対する宗教裁判長で数多くの録音を残しているのを、却って納得してしまった。

・ミケーレ・ペルトゥージ(伊/1965~/伊語/2)
ここまでの数々のコメントでお分かりのとおり、私自身はフィリッポのイメージはやはり老王で、あまりにもフレッシュな感じの歌や表現だと醒めてしまうのだけれども、ここでのペルトゥージはいい意味でそれを覆してる。自分はまだ枯れ木のように年老いた男ではなく、色気を残した壮年であるということを主張するかのようなフィリッポ。こういういい意味での若々しさのある歌唱っていうのは、アリだと思う(単純に俺がペルトゥージが好きだって言う説もある)。
追記:別録音を聴いて、やっぱりこのひとは旋律のラインを大事にする歌い手だと再実感。極端なことは何もしていないのにじんわりと響く歌唱は、最近では少なくなっているような。

・ヤアッコ・リュハネン(芬/1953~/伊語/1)
おそらくは最重量級のフィリッポ。タルヴェラやサルミネンと較べて決して海外での知名度はないけれど、これについては彼らよりも悲壮感が感じられてよい。とはいえやはり宗教裁判長みたい笑。芬国は重量級のバスが多いということを図らずも認識してしまった(^^;或る意味一番軽いのはボルイ?なのかな?

・ヨーゼフ・グラインドル(独/1912~1993/独語/2)
歌としても演技としても十二分に納得のいくもの…なんだけど…なんなんだこの最初から独語で作られましたって感じてしまうほどのしっくり感は(笑)グラインドル自身が独語の歌としてこの曲をしっかり歌いこんでいる感じがする。この印象は、チェコ語でやってたベルマンとも共通する部分がある。ヴェルディではないけどww
追記:以前に聴いた録音では堂々たる風格の王様という印象だったのだけれども、今回の音源はより人間的な味わいがあるように思う。声そのものは前より衰えているのだけれども、より熟成された歌唱で結構好き。

・ヨセ・ファン=ダム(白/1940~/仏語・伊語/2)
意外とどっちも歌ってる人は少ない。だからどっちも納得させてくれる人なんてもっと少ない訳ですが、どっちでもいい歌を聴かせてくれるのが器用人ファン=ダムの凄いところ。特に軽い風合いになりがちな仏語でもしっかりヴェルディしてほかの共演者を引っ張っているパッパーノ盤での歌唱が個人的には好き。

・ラッファエーレ・アリエ(勃/1920~1988/伊語/2)
2つの録音のうちのひとつは、いかにもアリア集用でサクサク進んでしまっていて残念だったが、もうひとつはなかなかの名唱。彼ぐらい粘りのある美声でじっくりと歌われると元の美しい旋律が際立つ。決してきつい表現はしていないが、フィリッポの孤独がじんわりと伝わるという点ではシエピと共通する。一方で東欧らしい、錆びた深い音色で、彼の全曲も聴いてみたい。宗教裁判長はあるんだけど…。

・ラファウ・シヴェク(波/不詳/伊語/1 )
声の立派さから言ったら間違えなく大器。太く強靭で威力があり、最近の歌手だとベロセルスキーと並ぶぐらい。やや朗々と歌いすぎている感は否めないので、もう一息悲哀を描き出せれば文句ないのだが。将来性に期待、と言ったところでしょうか。

・リッカルド・ザネッラート(伊/不詳/伊語/1)
もっと軽い響きのイメージだったが深々と鳴っていて、まだ枯れていないフィリッポとしては悪くない出来だと思います。ただ流石にロールデビューのときのもののようなのでもう少し個性が欲しい気はします。何より録音がよろしくなくてかなり声が遠いのが残念で、ここがよければもう少し印象も変わりそうです。。

・リハルト・ノヴァーク(捷/1931~/伊語/1)
スライドらしい硬くゴツゴツした声と歌い口で最初は今一つかなと思ったものの、dormiro solo...をものすごくしっとりと情感豊かに歌い出してから先、後半の表情づけが実に素晴らしい!やわらかさと硬さをうまく使い分けている。

・ルイス・スガッロ(米/1920~1985/伊語/1)
ちょっとこれは崩し過ぎでしょうwwwアリア集用だとか表現がなんだとかそういう問題以前にヴェルディの書いた旋律線をもっと大事にして欲しい。伴奏とあまりにずれてるもんだから、最初録音がうまく行ってないのかと思ってしまったぐらい(^^;

・ルッジェーロ・ライモンディ(伊/1941~/伊語・仏語/3)
私の大好きなバスの一人だけど、この役については正規録音に恵まれていないと思う。ジュリーニ盤では余りにも若すぎるし、アバド盤は仏語じゃなく伊語だったら名唱だったかもしれない、と思わされてしまう。結局のところ、聴いてからではかなり歳をとってからのガラでの歌唱が一番気に入った。声そのものは衰えは隠せないんだけど、この役は若々しすぎる声でやられちゃうとがっかりなので、必ずしもマイナスにはならない。
(追記)2014.7.16
来ましたよ、待ってましたよ待望の録音が!(笑)フォン=カラヤンとのライヴで、彼が一番脂の乗っていた時期の伊語での全曲盤がリリースされました。声はフルパワーでありながらも、かつ枯れた雰囲気をしっかり出した歌で彼のこの役でのベスト。伊バスの系譜にしっかり乗りながら頭の回転の良さを伺わせる演唱で、現代的名演と言っていいのでは。

・ルネ・パーペ(独/1964~/伊語/1)
実演も2回聴いて、ここでも聴いてみてやっぱり思うのは、声があまりにも独国っぽい生硬な声だということ。表現もちょっと生真面目過ぎで、ヴェルディっぽくもグラントペラっぽくもないかなぁ…声も立派なら表現力もあるとは思う。強いてどこかがすごく悪いとは思わないんだけど、決してすごくよくもない。

・レオナルト・アンジェジ・ムローズ(波/不詳/伊語/1)
波国の出身らしく、北国の空を思わせる冷厳な声で孤独なフィリッポにはよく合うと思う。表現としては一般的な感じではあるんだが、聴いていて安心感も満足感もある。知る限り録音の多くない人なんだが(セムコフ盤の『ボリス』ぐらい。しかも持ってないw)、ちょっと集めてみようかな。

・ロジェ・ソワイエ(仏/1939~/伊語/1)
完全に仏語でグラントペラ風の歌唱が来るもんだと思って聴いてみたら伊語歌唱でびっくりw歌い方にしても表現にしても決して悪いもんではないとは思うんだけど、伊語でやってる割にどっちかって言うとグラントペラ流儀。もっとヴェルディして欲しい。あと、もう少し響きが厚いと良いのでは。

・ロバート・ロイド(英/1940~/伊語・仏語/2)
割と無難な歌に終始することもあるロイドなんですが、ここではなかなかの力演。しっかり踏み込んで、きっちりとヴェルディをやっていると思う。ちょっと神経病んじゃってるんじゃないかって言うか如何にも疲れ切っているような雰囲気もあって、これはこれで全曲を聴いてみたい、と感じさせる。
追記:仏語版も聴いてみたが、これもなかなかしっかりしたもので、割と平坦になりがちな仏語ながらしっかり踏み込んで表現している。ロイドってこの役に適性あるのかもしれない。

・ロベルト・スカンディウッツィ(伊/1958~/伊語/1)
ピンツァ、シエピ、ライモンディと引き継がれてきたイタリアン・バスのフィリッポ像を正統に継いでる感じ。実にしっとりと歌っているんだけれども、でもそこだけには留まらない。静かな中にもヴェルディの熱い血がしっかり流れている。彼の実演も聴いてみたい。
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