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Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

かはくの展示から・恐竜展特別編~第18回/まとめ

このblogは国立科学博物館の公式見解ではなくファンの個人ページですので、その点についてはご留意ください。

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今回は本当に一鑑賞者の個人的な感想です。ですから、全く科学的でもなく公平でもないですが、まあそういうときがあってもいいでしょう笑。

11月の頭から始まって4か月もの間国立科学博物館で開催されていた「大恐竜展 ゴビ砂漠の脅威」ですが、遂に昨日2/23(日)大盛況のうちに幕を降ろしました。直前の特別展がNHKがダイオウイカの特番を組んで話題となった「深海」だったこと、いろいろな事情で宣伝が直前になったことや、晩秋からの開催であったことなど、極上の内容に反して必ずしもいい条件ではないところから始まった特別展で、特に会期の前半はガラガラだったこともありましたが、終わってみればかなり多くの方にご覧いただけたのではないかと思います。古株のボランティアの方に伺っても、会期を2日残して図録が完売し、郵送販売になってしまったという今回の事態は前代未聞とのこと。大きいものがたくさんあった分「深海」のように混雑しなかったものの、最終的な来館者数で言えばかなりの数になっていたようです。

僕がいまかはくでボランティアをやっている理由を考えていくとたどり着くのは、そもそも僕自身が恐竜が好きだということ、そして身近で恐竜が観れる科博に小さいころからお世話になっていたということです。大好きなテーマ、行きなれた場所で行われた特別展の中でも、今回は特別な経験であり、未だかつてない思い入れのあるものだったと思っています。

afragiさんから大阪ですごい恐竜展をやっているという話を聞き、時間やお金をなんとかやりくりして大阪市立博物館の「発掘!モンゴル恐竜化石展」を観に行ったのが昨年の5月。話には聞いていたものの、林原自然史博物館の持つ圧倒的なゴビ砂漠恐竜化石のコレクションの物量の多さ、保存状態・クリーニングの良さといった総合的な質の高さに度肝を抜かれ、こんな恐竜展は二度と観ることはできないだろうと思ったのを今でも覚えています。それがどうやらかはくにやってくるらしいと聞いたときの嬉しさと言ったら!小躍りしたい気持ちというのは、まさにああいう気持ちを云うのでしょう。

待ちに待った開催初日。僕は活動に入っていましたし夕方用事があったこともあり、活動開始時間の前にざらっと目だけ通すことにしました。だいたい大阪で観ていたということもありましたから、まあ何処に何があるかと、東京での目玉だというオピストコエリカウディアだけ押さえておけばと思っていたんですね。そうしたら大阪の時には展示していなかったとんでもないもの、デイノケイルスやガリミムス、ホマロケファレのホロタイプ、テリジノサウルスの実骨などが整然と並んでたんですね。これにはもう圧倒されて言葉も出ませんでした。よく覚えていますが、最初ふっと観たらデイノケイルスとテリジノサウルスが展示されていたんです。デイノケイルスは大阪のときもレプリカがあったものですから、「うわあテリジノの実骨だあ!」と喜んで近づいて行ったんですね。状態の素晴らしいのに感動しつつもふと横を見てみたら、デイノケイルスも実骨、即ち30年以上に亘り世界で唯一のデイノケイルスの標本として知られていた、あの腕だったんです!あの感動は、忘れられません。そのときは夕方の用事を遅らせて、1時間しっかり見る時間を取ったのでした。
今回の恐竜展に来ていたデイノケイルスやオピストコエリカウディア、テリジノサウルスは、僕の子供のころから恐竜図鑑に載っていた恐竜です。しかし、デイノケイルスについては腕が一揃い見つかっているだけ、オピストコエリカウディアも1体の首なし標本しかない、テリジノサウルスも殆ど化石がないですよ、という記述も一緒に載っていました。子どもの僕が読んだってそんなものが自分の目に入る機会なんておそらくは来ないだろうとわかりました。どんなに観たくても本の世界にしかいない生き物だと思っていたんです。それらがまさか一堂に会すなんて!もちろんそれ以外の標本にしたって大阪の時に来たものも追加になったものもとんでもなく質が高かった。これは、多くの人に観てもらわねば!そう誓ったのでした。

このブログでも特集を組み、twitterで見学ツアーを募り、TASでも1回分恐竜デーを作りました。個人的な話になりますが、4月の異動後は時間も作れたし、職場が近かったこともあって、時間の許す限り自分自身も楽しむことにしました。結局のところ20回以上足を運んだようです。我ながら、運も良かった。ここまで入れ込んだ恐竜展は、おそらくこれが初めてでしょうし、今後これだけ楽しめるものが開催されるかは、ちょっと自信がないぐらいです。

会期が終わったら“恐竜展ロス”になってしまうかなぁとちょっと思っていたのですが、いま心は満足感で横溢しています。しみじみと楽しかった、いい特別展だったと清々しい思いに浸っています。今回特別展の企画に関係されたすべての皆さんに、感謝の気持ちでいっぱいです。お蔭さまで本当に充実した、一生思い出に残る4か月を過ごすことが出来ました。次は名古屋市科学館での開催ということで、休まる間もないかもしれませんが、どうぞ頑張ってください。

本当にありがとうございました!

<参考>
かはくの展示から・恐竜展特別編目次
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かはくの展示から・恐竜展特別編~第17回/タルボサウルス

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タルボサウルス
Tarbosaurus bataar
特別展

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特別展のご紹介もいよいよ大詰めです。まだまだたくさん凄い展示はありますが(信じられないぐらい保存状態のいい植物食恐竜もあるし、ホロタイプも紹介しきれてない)、特別展の展示物の紹介は今回で一段落。

特別展のトリを務めるのは、アジア最大の肉食恐竜タルボサウルスです(鳥に近い方の恐竜だけに笑)。
前肢が小さいことで有名なティラノサウルスの仲間ですが、その中でもとりわけ小さいです。是非これを見た後で常設展のティラノサウルスと較べてみて下さい。

この全身骨格は福井県立恐竜博物館にレプリカが展示されているものの、原標本です。
かなりの部分がきちんと残っており頭も出ていますが、この子もこの全身骨格ではレプリカをつけています(頭の話はこちら参照)。で、この頭がどこにあるかと言うと、特別展の最後に控えています。

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この1番上のやつですね^^
今回は上の写真のとおりタルボサウルスの成長が、実骨で追える展示になっています。
プロトケラトプスでも同様の展示がなされているのは以前の記事でもご紹介していますが、タルボサウルスでこれが観られるというのは、本当に極めて珍しいことです!この3枚の写真では1番上が1番成長したもので、下に行くに従って若返ります(笑)プロポーションが大分変わりますね。
上から2番目の子はティラノサウルス類の顔立ち中ではかなりのイケメン!歪みも少なく、素晴らしい状態です。会場にはこの上から2番目の子と1番下の子の間にもう1頭中間段階の子がおり、その子も非常にいい状態。
1番下の子は今回の目玉の一つで図録の表紙を飾っているこどものタルボサウルスです!

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こどもの肉食恐竜の化石、それもティラノサウルス類の化石というのは非常に珍しいです。こどもの化石は小さくて脆いということもあるのでしょう、単純に数が少ないです。この標本について言えば、保存状態が大変いいことに加え、発見時には繋がった状態でした(1番上の写真は発見時のレプリカ。繋がった状態の価値についてはこちら)。
まさに稀有な化石なのです。

発見時は海老反りになっていますが、鳥に近い系統の恐竜はこういう状態で発見されることが多いです。今回観られるハルピミムスも本来はそうした状態で見つかったのでしょう。何故か組み立てちゃったんでテンション高いやつみたいになってますがww有名どころだと始祖鳥のベルリン標本などもこの陽気なポーズを取っています。何でこんなけったいな姿勢になるかと言いますと、背中の腱が発達しており死後硬直でこうした格好になるのだと考えられています。但し普通の陸上環境だとこうなる前に腐ってしまうのだそうで、恐らくは水の中に死体が沈むと腐敗速度が落ちるためこの姿勢になるのだろうとされています(ニワトリの死体を水につけるというなかなか豪快且つ明快な実験をもとにした研究の結果、同じ姿勢になったのだそうです)。

上から2番目の写真は彼の尾の骨に当たる部分の写真ですが、赤い矢印のところに隙間があります。ヒトのこどもでもそうですが、こどもの時から骨は完成している訳ではなくこうした隙間があり、成長していくと隙間が埋まります。つまりこれこそが、彼がこどもであることの証拠のひとつなのです。

前肢もこどもの時からいっちょまえに2本指です。成長した個体では2本の指の長さがほぼ同じですが、彼の指はご覧のとおり長さに違いがあるので、これは成長によって変化するところだったのでしょう。また、長い指の横に爪楊枝のはしきれのような小さな骨がありますが、これは3本目の指の名残。大人のティラノサウルス類の全身骨格にもあります。

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再び大人の骨格ですが今度は後肢。
オルニソミモサウルス類のところでもご紹介した速く走るために進化したと考えられる、足の甲の真ん中の骨がシュッと細くなる特徴をここでも観ることができます^^
上から2番目の写真、これ実骨ですよ実骨!紛い物じゃないんですよ!なんという保存状態!!!

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これはタルボサウルスと見られる恐竜の足跡化石です。
「化石」と言うと骨や貝殻など生物の固い部分が残ったもののイメージが強いですが、実際には化石の定義は「基本的には10,000年以上前から発見された生物の痕跡」です。即ちこのような足跡や、サウロロフスのところで出てきた齧った痕と言うのも化石と言うことができます。こうした生物が活動をした結果できた化石を、生痕化石と言います。生痕化石は骨格などと較べると地味ですが、骨などから知ることは難しい古生物の行動や生態を知るためには欠かせない、極めて重要な研究材料です。

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これは最後の方にしれっと置かれているので、見逃している方もいるかも。
タルボサウルスの脚の骨なんですが真ん中に方解石が成長しています。これはタルボサウルスの特徴ではなく、骨の真ん中の髄が通っていた部分が腐敗などで無くなって空間が開いたところに結晶が成長したもの。骨など化石もまた岩石であることが分かりますね^^

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特別展の最後に座っているこの子、実は昔かはくの入口で来館者を出迎えていたあの子の組み直し。鎖骨と腹肋骨は足してありますが、なんとなく懐かしい気分になります^^

<参考>
・「大恐竜展 ゴビ砂漠の脅威」図録/国立科学博物館/2013
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かはくの展示から・恐竜展特別編~第16回/コリストデラ類

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コリストデラ類
Choristodera
特別展

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今回の恐竜展は大阪での『発掘! モンゴル恐竜化石展』と較べると恐竜以外の生き物の化石はかなり減っています。代わりにデイノケイルスオピストコエリカウディアテリジノサウルスがあたりが来ているので全く以て文句は言えませんが、ちょっと残念ではあります(>_<)
そんな中で、むしろものが増えているのがコリストデラ類。彼らは恐竜絶滅後も生き残った爬虫類の仲間ですが、現代に至るまでに絶滅しています。今回展示されているコリストデラ類はいずれも実骨標本です。上の写真は組立骨格で、これはまた非常に珍しいもの。
先日行われた恐竜展のイベントで、神奈川県生命の星・地球博物館の松本涼子先生のお話を伺うことができたため、今日の記事はそこでのお話を中心に。

一見するとワニのようですが、ワニではありません。グループとしては非常に小さく現在のところ11属(属についてはこちら)しか発見されていませんが、外見の大きく異なる3つの括りに分けることができます。ひとつが上の写真にあるようなワニに似たもの、ひとつがトカゲに似たもの、もうひとつがトカゲに似ているのですが頸が長いものです。

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上記の写真はチョイリアの頭。
グループ共通の特徴としては、大きく後方に張り出したハート形の頭蓋骨が挙げられます。ワニやトカゲはこのような頭はしていません。何故このようなけったいな頭をしているかがやはり興味深いところ。水中の魚を追う時には水平方向で頭を移動させることが大事になりますが、その際頭の高さを低くした方が抵抗が少なく有利です。しかし、頭の高さを低くするとその分噛むための筋肉をつける場所が一般的には小さくなってしまいます。このため、コリストデラの仲間は頭を後方に張り出して顎の筋肉をつける場所を確保したのではないかと考えられるのだそうです。
とは言え化石のみから生態を推定することは非常にリスキーなので、松本先生たちは、コリストデラたちの頸の化石を入念に観察するとともに、現生で比較的近いフォルムを取っているワニの仲間であるインドガヴィアルの子供のCTなどの研究を重ね、彼らが頸の骨の真ん中から後ろの部分を使って頸を横に振るのに適していただろうと結論付けています。

彼らの口蓋(上あごの裏側あたり)には普通の歯と別に、歯が並んでいます。これはそのものずばり口蓋歯といい、原始的な爬虫類に観られる特徴です。コリストデラ類の場合には飲み込む力がさほど強くなかったと思われるので、獲物を逃さないために使っていたのではないかということです。このあたりも非常に興味深いところ。

ちなみにチョイリアの名前は発掘地の最寄駅チョイリに因んだものなのだそうですが、チョイリ駅から発掘現場までは自動車で4時間かかるのだとか。。。おおごとwww

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フレンドゥフサウルスはそもそも発見が少ないらしいのですが、今回の標本はその中でも選りすぐりの保存状態のもの。
コリストデラ類は特にワニと競合関係にあったようですが、大体の時代・地域で種数も大きさもワニに軍配が上がるのだとか。但し東アジアは白亜紀前期に、寒冷化によりワニが分布しなかった時代があり、そのときコリストデラ類の多様性が最大だったと考えられています。上述の3つの括り、即ちワニ型の仲間もトカゲ型の仲間も首長の仲間も存在していた唯一の時期・地域でもあります。そういう意味で東アジアはコリストデラ類を研究するに当たっては重要なキーストーンだと言えます。

<参考>
・「大恐竜展 ゴビ砂漠の脅威」図録/国立科学博物館/2013
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かはくの展示から・恐竜展特別編~第15回/ピナコサウルス

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ピナコサウルス
Pinacosaurus grangeri
特別展

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組み立てられた骨格こそないものの、今回の特別展の中でもとりわけ良質な実物標本がたくさん来ている恐竜のひとつで、アジアを代表する曲竜です。
これを紹介せずにどれを紹介するんじゃ!と意気込んで記事を書こうとしたら、書こうとした内容は大体以前エウオプロケファルスの回で書いてしまっていたのでした^^;と言う訳で彼らの鎧の話については、是非参照してください!この記事で掲載されている研究は、まさに彼らを使ってなされたものなのですから。

蒙国が化石産出地として特異的な点として言えるのは、保存状態が極めて良いという点だけではなく繋がって発見されているということ、それも運が良ければ全身揃っているということです。上の写真についても、どちらもほぼ全身が繋がった個体が入っています。こういったかたちで化石が残ることは通常考えられない非常に幸運なことであり、研究資料として極めて価値の高いものです。何故なら、仮に全部の骨が見つかったとしても、それがバラバラでは生きていたときの骨のつながりがわからないからです。

よくガイド・ツアーでこんな質問をします。
「フライド・チキンや焼き魚を食べて、骨が残ります。これを、生きていたときと同じように組み立てられる人はいますか?」
想像に難くないことだと思いますが、大方の答えはNoです。但し、このblogをご覧になっている方の中にも出来る方は多分居て、それは解剖を勉強していて生きていたときの姿をご存じだからです。
さて恐竜は?誰も生きていたときの姿を知りません。これは恐竜に限らず古生物全般に言えることで、だからこそ繋がって見つかるということが、非常に重要なのです。

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この恐竜、曲竜のなかでは比較的小さいイメージの恐竜なんですが、この標本はめちゃくちゃ巨大ですwwwこの写真に写っている部分は仰向けになっている足腰のみです(手のように見えている部分が足の裏)が、全体あったらかなり大きかっただろうということが伺えます。これは是非実物をご覧になってください!

先ほどの写真もそうですが、大きな木箱に入っています。これは蒙国の化石は保存状態は極めていいのですが、強度的には非常に脆いため、周りの地層ごと引っ剥がして持ってくるからです。会場に映像がありますんで、こちらも是非ご覧になってください。大仕事です笑。
化石は地面に近い方から風化していくため、持ってきた箱はひっくり返して底の面から掘り出していきます。このため、上にあげた写真はすべて埋まっていた状態と天地逆さまの状態で展示されています。つまり、死んだときにはうずくまった状態だったということですね^^

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保存状態もそうですが掘り出す技術に神憑り的なものを感じる頭の骨ふたつ。殆ど狂気の沙汰ですww
どちらも子どもですが上の写真は上下ひっくり返して口の中から頭の骨を観られるようにしています。おっそろしく繊細な骨の繋がりがわかります。
下の写真は首から繋がった状態で保存が素晴らしく、大阪で展示していたときにはきしわだの博物館のみなさんが「接吻すると甦る 眠り姫」と言っていたのも肯けます(笑)

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これはピナコサウルスではないとのことですが、しっぽについていたハンマー。
これがまたべらぼうに巨大で、ハンマーの部分の横差渡し1mぐらいあるでしょうか。大人の方でも座れそうな、とんでもないサイズです。上述した以前の記事でも書いたように二次性徴的なものとして、成体になったあと徐々に大きくなっていったのだとするなら「さぞかし名のある山の神」だったに相違ないでしょう。
尾の部分は腱でガチガチに固定されていますが、横から見ると芯の部分と言える尾の骨を確認することもできます。

<参考>
・「大恐竜展 ゴビ砂漠の脅威」図録/国立科学博物館/2013
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かはくの展示から・恐竜展特別編~第14回/サウロロフス

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サウロロフス
Saurolophus angustirostris
特別展

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今回の特別展でも特に目立つ恐竜であり、メインのひとつと言ってもいい(や、メインが多過ぎるという話もありますが笑)、蒙国を代表する植物食恐竜です。展示してある化石もたくさんありますが、ほぼ実骨です。

この個体は割と有名で福井県立恐竜博物館などにレプリカもありますが、そのおおもととなったもの。ということで実骨です!これだけ巨大な恐竜の全身実骨組立骨格はなかなか観る機会がないので、その点のみを取っても貴重です。素晴らしい見ごたえ!

ただしこの子、頭はレプリカです。ご覧のとおり頭の骨は非常に大きくて重たいですが、一方で位置関係的には全身の中でも上の方にあります。実骨での全身骨格を観るときに本物かどうかを判定するポイントは鉄骨の有無だというお話は以前アパトサウルスの回でしましたが、その理窟で行くと頭にはかなり多くの鉄骨を入れねばなりません。当然ちょっとカッコ悪いし、位置的なリスクはどうしても出てくる。と言う訳で、「全身実骨の組立骨格」と言っても頭だけはレプリカと言うのはよくある話です。


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上の写真は入ってすぐのところにありますが、これがまたたまげるほどデカいwww今回展示されているサウロロフスの中でも最大ではないかと思います。下の写真のも十分でかいですし、こちらは反対側に破損がありますが美観を保っています。

目立つ骨の鶏冠があるのが特徴です。有名なパラサウロロフスなどはこの鶏冠に鼻から管が通っており、トロンボーンのような音が出せたというような話がありますが、サウロロフスの場合はもっと単純な骨の突起だったようです。
また、サウロロフスに近いグループには頭に骨の突起のないものもいます。そうした骨の突起のないものについては、頭に装飾がないものとして長いこと復元されてきた訳ですが、ごく最近突起がないと考えられていたエドモントサウルスのミイラ化石の頭にニワトリのような鶏冠があることが判明しました。殆ど見つからない、骨以外の体の特徴がこうしてわかるのは非常に珍しいこと。このあたり、今後の復元像に注目が集まるところです。

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こちらは歯の化石。一塊りのように見えますが、よく見るとヒマワリの種のような形の小さな歯をたくさん並べていることが分かります。これは実はゾウの歯と較べると非常に面白いところで、この塊とゾウの歯は印象として非常によく似ています。

恐竜を含む爬虫類は基本的には同じ形の歯を並べることはあっても、前歯・糸切り歯・奥歯と言うような異なる形の歯が生えている例はごくごく僅かです(糸切り歯=犬歯=牙ですから、つい言ってしまいがちな「恐竜の牙」という表現は誤り)。一方で哺乳類の多くは様々な形の歯を持っています。
そうなったときに、爬虫類のサウロロフスと哺乳類のゾウが、そもそもは全く別の特徴のある歯から、植物を食べるという目的に向かって最終的に同じような形の歯(または歯の集合)を進化させたというのは、実に興味深いところです。植物を食べるという段になった時に、植物は栄養を含んだ細胞を堅い殻(「細胞壁」というのは高校理科でやった人もいるのでは?)に包んでいるので、ここから栄養を取りだすのはかなり大変。如何にして磨り潰すかを突きつめると、こういう形なるのかと。
本当は顎の動きの話も考えなきゃですが、長くなるのでまたの機会に笑。

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今回また面白いのが、彼らの皮膚印象化石が来ています。
化石として残るのは大凡が身体の堅い部分で、皮膚・内臓・筋肉と言ったやわらかい部分と言うのは滅多にありません。だから、恐竜が鱗で覆われていたのかvs羽毛で覆われていたのか論争があったり、恐竜の色はわからないよなんて話が出てくる訳です。今回の場合は、要は手形みたいなもの。砂なり泥なりに押しつけられた彼らの「皮膚」の「印象」が残ったもので、こういうものも「化石」と言います。What's 化石?という話は、今日はトピックが多いのでまた改めてにしましょう^^

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肉食恐竜タルボサウルスに齧られた痕のあるサウロロフスの前脚。齧られた痕は向かって左側の端っこと下側にあります。それぞれの歯形は違う形状を示しており、タルボサウルスがどのようにサウロロフスの肉を食べたのかが推測できるそうです。そういう意味でこの化石はサウロロフス視線から見れば通常の身体化石、タルボサウルス視線から見れば彼らがどのように餌を食べたのかと言う「行動」を示唆する生痕化石と観ることができます。また、齧られた痕は全身のうちこの部分のみからしか見つかっていないことから、初めにサウロロフスの死体が砂か泥に埋もれたものの、前脚のみそこから飛び出していて、それをタルボサウルスが齧ったのではないかと考えられています。そうした視線からすれば、この生き物がどのように化石になったのかということについても調べることができる標本だと言えます。

「齧られた跡」ひとつで、学術的にはこれだけ広がりがあるのです。

<参考>
・「大恐竜展 ゴビ砂漠の脅威」図録/国立科学博物館/2013
・ナショナル・ジオグラフィックニュース 「恐竜に軟組織の“トサカ”を発見」
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20131213002
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