Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

ヴァルヴィーゾ盤『セビリャの理髪師』~ギャウロフを聴く/その3~

ギャウロフを聴くシリーズの第3弾(っていうかいろいろシリーズ作ってるけど、むしろそろそろそれぞれの目次がいるんじゃないかと言う気もしてきたぞ汗)

今回はヴァルヴィーゾ盤の『セビリャの理髪師』。
で、いろいろと聴き比べもしてみたんだけど、聴き過ぎて全部書き出すとエラい騒ぎになるのでやめます(^^;
一応ちまちま比較では出しますが。

G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』(1965)
アルマヴィーヴァ伯爵/ウーゴ・ベネッリ
フィガロ/マヌエル・アウセンシ
ロジーナ/テレサ・ベルガンサ
ドン・バルトロ/フェルナンド・コレナ
ドン・バジリオ/ニコライ・ギャウロフ
ベルタ/ステファニア・マラグー

シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮
ナポリ・ロッシーニ合唱団&管弦楽団

ギャウロフが出ているものは私が把握している範囲で音源が3種と映像が1種ですが、私が今回聴いたのはいずれも音源で、大体同じぐらいの時期であるサンティーニ指揮のライヴ盤(1964)と最晩年のヴィオッティ指揮のこれもライヴ盤(2003)。
最晩年のものは流石に声の衰えが感じられるし(って言ってもトンデモナイ存在感だけど笑)、サンティーニ盤はライヴの良さもあるものの、ちょっと時代がかっているので今回はヴァルヴィーゾ盤を中心に。

いずれの録音でも共通して言える部分であり、かつ私の好みに合っていると感じるのは、ギャウロフのバジリオの役作り。いやぁこれぐらいオーバーにやってくれる方がバジリオはやっぱり面白いよねww
超有名なアリアがあったりするのでつい誤解してしまうのだけれども、バジリオの登場場面って実は意外と多くないんですよね(^^;ただ、そこで彼の影が薄くなってしまうとこのオペラ自体の面白みも少なからず減退してしまう。というかこの話自体、主要な5人が拮抗していないといけない演目だと思うのですよ。劇としての基本的な構造として、必死の自分の問題に立ち向かう伯爵&ロジーナvsバルトロの対立があり、そこから一歩退いた言わば第三者として自分が儲けることを考えて策を弄するフィガロとバジリオという格好だと思うので、バジリオが力量不足で印象に残らないと、相対的にフィガロの印象も弱まってしまうと思うのです。
となると、その少ない登場場面でもフィガロと対立しうるぐらいのインパクトが欲しい。
一つの解決法がギャウロフのような、超大袈裟なバジリオではないかと。

ご存じのとおりそもそもギャウロフはアジリタや早口を駆使するロッシーニの諸役で名を成した人ではないし、バジリオの楽譜自体もそういう楽譜ではない(バルトロとは違う)。だから、彼がバジリオ役でものすごくオーバーにしているのは強弱です。特にfの指定があるところには、あんたいったいどれだけfつければ気が済むのよというような大声量でぶちかまして呉れます。これがまぁ、痛快なんだわ(笑)嵌まると他のバジリオはなんだかちょっとお上品に聴こえたり、パンチ不足に聴こえたりする。それぐらいの豪快さです。
だから、或る意味その役作りのエッセンスはバジリオ最大の見せ場であるアリア“陰口はそよ風のように”に凝縮されてると言って良いかもしれません。ここでのアリアは本当に素晴らしい!
加えて言葉の扱いの巧さ。これはドン・ジョヴァンニでも同じようなことを感じましたが、レチタティーヴォ一つとってみてもバジリオの表情がにじみ出てくるかのようです。こういうところを聴くと、意外とこの人、もっと喜劇をやってもよかったんじゃないかと言う気もしてきます(笑)
今回取り上げる録音は、流石に声が非常に若々しい!
第1回で述べたあのドン・ジョヴァンニよりも更に1年前の録音だからさもありなん、というところではありますが(笑)オーバーな演技に腹を抱え、一方で滴るような美声には感服してしまいます。総合的に見ると、彼のバジリオ録音の中でも最も出来がいいものではないかと思います。
サンティーニのライヴ盤。声は若々しいしライヴのノリもあるんだけど、如何せんちょっと音楽が古めかしい。見せ場のアリアの調も変えてあるし、最低音は避けてるし。けれど、2幕の5重唱は本当に凄まじいので、セビリャ好きとギャウロフ・ファンには一聴の価値ありです。こんなとんでもない「ぶぉおおおおおおなせええええら!」は、今回取り上げた録音もそうですし、他でも聴いたことがありません。これを聴くためにあると言ってもいい(笑)
ヴィオッティのライヴ盤はやはり最晩年の記録(彼は2004年になくなっていますが、これは2003年の録音)としての貴重さが一番に来るのかな。声自体は流石にだいぶ衰えていて、上記2つの録音と較べると声の魅力・瑞々しさは望めませんが、その老獪ともいえる存在感は、逆に上記いずれの録音とも異なる魅力と言えるでしょう。特筆すべきは声量。マイクの位置もあるのかもしれませんが、出演者で一番デカい声で、バジリオの動きがとてもよくわかりますwww考えてみればバジリオは、彼のデビューの役でもあるので、彼が一番長い間歌った役とも言えそうですね。

ギャウロフ以外のバジリオもいろいろ聴きましたが、印象に残っているのはまずはレイミー(ロペス=コボス盤)。やっぱりロッシーニ・ルネサンスで大活躍した彼だけあって、歌はバチッと決まるし、彼のちょっと冷たい感じが、なんともいえずバジリオの存在感に繋がっていていい。役作りで言えば定評あるモンタルソロ(アバド旧盤)がやはり秀逸で、如何にもせせこましくてけち臭い感じのバジリオは、或る意味定番っちゃ定番なんだけど、これだけ大見得切って定番ができるのは才能でしょうね^^役作りのコミカルさで行くと米国の名バス、ジョルジョ・トッツィ(ラインスドルフ盤)、F.フルラネット(アバド東京LIVE盤)も楽しくて素敵です。ギャウロフと同じくオーバー路線が成功してるシグムントソン(マルティネス盤)、ブルチュラーゼ(パタネ盤)も良かった。特にブルチュラーゼは予想外の超高音が出てきて思わず笑ってしまいます。
(以下2013.1.10追記)ロッシ=レメーニ(セラフィン盤及びデ=サバタ盤)も同様のオーバー路線、というかひたすら悪乗りのような気もしてきますが、キャラが立っていて個人的にはありだと思います(笑)盛大に暴れているものの、音楽自体をぶっ壊してはいないしね^^

総合してこの盤を押したくなるのは、共演の良さにもあります。

特にバルトロのコレナ!これはまさに秀逸の一言です!
ギャウロフの出ているほかの録音ではいずれもバルトロが弱くて、サンティーニでのバディオーリは歌えてないレベルだし、ヴィオッティでのデ=シモーネは全くバルトロらしくない若々しくて軽い声でげんなりします。私は前述のようにこの作品を見ているので、バルトロが弱いのはバジリオやフィガロが弱い以上に大問題です。
そこに行くとスペシャリストともいうべきコレナがやっているという時点で大花丸がついてしまうところですが、そのコレナのいくつかある録音の中でも、このヴァルヴィーゾ盤はベストと言うべきでしょう。音だけ聴いていても面白いことこの上なし。アリアでの抱腹絶倒の早口もそうですし、ギャウロフのオーバー・バジリオとのレチタティーヴォでのからみもひたすら面白いです(笑)
バルトロはいまいちその重要性を認識していない公演が多いようで、聴いてガッカリするのも多いですが、コレナ以外だとイタリアの陽気なおっさんそのものと言うべきダーラ(アバド旧盤)と、けち臭くてヒステリックながら声の魅力もあるカペッキ(レヴァイン盤)が素晴らしい。この3人はが個人的にはバルトロ御三家です(笑)あとはくそまじめにやるのが逆におもしろいコルベッリ(ロペス=コボス盤)、濁声でコミカルにガ鳴るプラティコ(ジェルメッティ盤)などブッファのスペシャリストがやはり記憶に残りますが、意外にいいのがアバド新盤のガッロでしょうか。アバド新盤はバトルとドミンゴが決定的にだめなのだけどうにかしてほしかった。。。

そしてベルガンサのロジーナ。これもおそらくロジーナ役のベストでしょう。
艶やかなメゾ声ながら重くなり過ぎないし、技巧もこの時代とは思えないぐらいしっかりしています。何より明るくて奔放なキャラクターが感じられ、とても健康的な感じなのが素晴らしい!コケティシュな魅力にも事欠きません。気は強そうだけれど、ドロドロしていない、勝ち気でカラッとした女性の魅力が満載であります。
サンティーニでのコッソットは怖すぎwwヴィオッティのポルヴェレッリはちょっと力負けしてる感じ。
ベルガンサと同じような路線でいくとラーモア(ロペス=コボス盤)も素敵女子だし、更に知恵が立ってそうなバルトリ(パタネ盤)も魅力的。期待のガランチャ(マルティネス盤)はちょっとお淑やか過ぎちゃうし、バルツァ(マリナー盤)はちょっと立派過ぎる。ソプラノ・アプローチは悪くないものもあるけど、基本的にはメゾに歌って欲しいな。

そして指揮の老練ヴァルヴィーゾの軽妙な音楽作り!
これだけ軽やかにドライヴしたロッシーニは、この時代に於いては他にはないんじゃなかろうか。もちろんロッシーニ・ルネサンス以降のふんわり軽やかっぷりからすればまだあれなんだけど、それでもこれだけ全編ロッシーニの愉悦に溢れたセビリャは、僕は他では聴いたことがない。聴いてゲラゲラ笑いたいと思ったら、まずこの録音を出してきてしまうのは、彼の手腕によるところが大きいと思う。
ヴィオッティは流石に最近の人だし軽快♪サンティーニはちょっと音楽が重たい…。
フンブルクも同様に愉悦に溢れていてgood!アバドはちょっと丁寧過ぎる気もするけどこういう楷書体も悪くないのかな。ロペス=コボスはなんかのたっとしていて好きでないなぁ…キャストはいいんだけど。

伯爵のベネッリは軽やかでいい声。まさにテノーレ・ディ=グラツィアの系譜に乗った感じのスタイリッシュな歌で好感が持てるし、当時としては異例ながら大アリアも歌ってる!それだけでも評価してあげたいところです。ただ、ロッシーニ・ルネサンス以降の力強い超絶技巧を歌うテノールを知っていると、もう一声と思ってしまうのも正直なところ。う~ん、大変ですね(苦笑)
サンティーニ盤のアルヴァも当時のスペシャリストですから流石の歌を聴かせますが、ギャウロフ出演の3つの録音の中でもダントツ、かつ録音史上最強の伯爵と言うべきなのはヴィオッティ盤のシラグーザでしょう!声の優雅さ、気品、力強さ、コメディセンスいずれをとっても伯爵そのもの!
シラグーザとは別の意味で最強の伯爵と言うべきはアライサ(マリナー盤)でしょう。もうそのとろけるような美声と切れ味鋭い技巧と言ったら!匂い立つような気品のあるR.ヒメネス(ロペス=コボス盤)、古風ながらこちらも凛々しい力強さのあるヴァレッティ(ラインスドルフ盤)、明るくて透明な美声で聴かせるバルガス(フンブルク盤)などなど、伯爵の現代的演奏では結構趣味でいろいろ聴くことができますね^^大アリアを歌っていないものでは、伯爵最重量級のゲッダ(レヴァイン盤)も彼のにやけたキャラと合っていて別の魅力があります(笑)

ヴァルヴィーゾ盤最大のアキレス腱、というか唯一にして最大の汚点と言うべきはアウセンシのフィガロ。
これはもう圧倒的に弱い…なんでこんな人起用したかね(^^;声はあるけど、歌が巧くない。この一言に尽きてしまう…声があるだけめり込まないけど…これが別の人だったら、と思わざるを得ない(泣)
サンティーニでのブルスカンティーニは歌のスタイルは古いけれども、キャラクターにあった歌唱でなかなか。ヴィオッティのシュレーダーも悪くはないけど、彼はセリア向きかな。
キャラの良さと歌と双方で聴かせるのはミルンズ(レヴァイン盤)とヌッチ(パタネ盤)。このふたりはキャラの明るさ、にやけ具合、歌とどれをとってもフィガロそのものと言って良いのではないでしょうか^^プライはキャラクターには良く合ってるんだけど、技術的にはもう一声か。意外とフィガロ役はこれ、という録音がないんですよね。
カペッキがまだ聴けてないから、何とも言えないが。カペッキ(バルトレッティ盤)聴きました!これはいいですね♪バルトロもねちねちしてて面白かったけど、エネルギーがあって明るくて良い^^と言う訳で個人的なお気に入りはヌッチ、ミルンズ、カペッキでしょうか。
(2013.1.10追記)あんまり期待しないで聴いたベッキ(セラフィン盤及びデ=サバタ盤)が予想以上に良くて、非常に気に入りました!粗削りな感じはあるんだけれども、それがキャラづくりにプラスに働いてるのが素敵です♪

全体には、フィガロにだけ目を瞑ればこのヴァルヴィーゾ盤が個人的にはベストではないかと。
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アバド盤『マクベス』~ギャウロフを聴く/その2~

ギャウロフを改めて聴いてみようというシリーズの第2弾。
の、つもりだったんだけど普通に『マクベス』に嵌っていろいろ聴いてしまったww

アバド旧盤『マクベス』。
(なお、この記事を書くにあたって、フィッシャー=ディースカウ主演のガルデッリ旧盤(1971)とカプッチッリ主演のガルデッリ新盤(1986)、タッデイ主演のシッパーズ盤(1964)、ミルンズ主演のムーティ盤(1976)、ウォーレン主演ラインスドルフ盤(1959)、グェルフィ主演のガヴァッツェーニのライヴ盤(1968)、堀内主演のサッカーニのライヴ盤(2009)、ヌッチ主演のシャイー盤(1986)も併せて鑑賞しました。カラスの出ているヴォットー盤は、ちょっと鑑賞以前の音質だなと思ってスルーしました…私はカラス教徒ではないので。)

G.F.F.ヴェルディ『マクベス』(1976)
マクベス/ピエロ・カプッチッリ
マクベス夫人/シャーリー・ヴァ―レット
バンクォー/ニコライ・ギャウロフ
マクダフ/プラシド・ドミンゴ

クラウディオ・アバド指揮
ミラノ・スカラ座合唱団&管弦楽団

ギャウロフが出ている全曲盤は2種類。
今回のガルデッリ旧盤をメインにしようかアバド盤をメインにしようかっていうのは、結構悩むところではあって。ギャウロフについて言えばどちらもいいところがあるし、音源全体としてもそれぞれ趣味に合うところ合わないところがあるし…総合的に判断して、ギャウロフの出来がいい方を。

まずギャウロフについて言えば、ガルデッリ盤の方が若干早い時期だということもあってか、声にゆとりがあるように思います。ギャウロフはキャリア自体も結構長いし、いい録音がたくさんあるのですが、実質的な声のピーク自体はあまり長くないと思っていて、名盤と言われているものには、その圧倒的な表現力、歌の巧さで聴かせている部分が少なからずあると、個人的には捉えています。
録音年にして僅か5年の差ですが、声そのものを俎上に取るならガルデッリです。但し、バンクォーについてはドン・ジョヴァンニのように色気の欲しい役という訳ではないので、声の色艶が多少落ちていると言ってもアバド盤が、ものすごく聴き劣りするという印象はありません。渋さを買うならアバド盤でしょう。
あとは指揮者の趣味か。ガルデッリは結構サクサクとしたテンポ感のイタオペっぽい音楽作り、一方のアバドはゆっくりじっくりテンポを取り、不気味な雰囲気。個人的にはこのアバドの不気味な音楽作りが大変冴えていると思います。その不吉な空気を感じながら、不安に駆られて歌うと言う感じをギャウロフは非常に良く出している。ガルデッリも悪くないんだけど、ちょっと拙速な感じがしてしまうのよね。

いずれについても、この演目ではギャウロフは基本的に脇に徹しているという印象。もちろん結構重要な役どころではありますから、しっかりと存在感は示しているのですが、あまり前に出ることは、敢えてしていません。
アリアでは朗々と歌うというよりは、不吉な予感を訥々と語り出す感じ。ヴェルディ自身はこの部分をアリアとはせず、グラン・シェーナとしている筈なので、アプローチとしてはそういう方が良いのかもしれません。

聴き比べた中では、R.ライモンディ(ムーティ盤)が、特にアリアで不気味な雰囲気をよく出しており、好みでした。場合によってはギャウロフよりも好きかも知れません。レイミー(シャイー盤)はいまいちヴェルディに合わない気がしている歌手ではありますが、独特の品格があり、マクベスに危機感を抱かせるバンクォーという意味ではありなのかも。ハインズ(ラインスドルフ盤)、風格があっていいのですが、もう一つパンチが欲しい。フォイアーニ(シッパーズ盤)、ガエターニ(ガヴァッツェーニ盤)、コヴァーチ(ガルデッリ新盤)は、それぞれいいところはあるものの、もう一声というところ。タノヴィツキ(サッカーニ盤)は魅力薄。
総合するとギャウロフかR.ライモンディか。

当たり障りのなさそうなところから他の役の比較しよう(笑)マクダフのドミンゴ(アバド盤)はとてもいいのですが声がゴージャス過ぎてまるで主役なのが玉に瑕でしょうか(苦笑)や、この声でこの出来で文句を言う方がおかしいのはわかってますが^^;パヴァロッティは、声質的に必ずしもベストな役柄という訳ではなさそうですが、この録音のころの彼は何を歌っても一定以上の感動を与えてくれるぐらいの美声を誇った時期ですから不満はありません。とはいうものの三大テノールでは結局カレーラス(ムーティ盤)が一番適性に合った仕事と言えそうです。ベルゴンツィ(ラインスドルフ盤)はスタイリッシュな歌がたまりません。端正なイタリア・オペラを聴きたければやはりベルゴンツィでしょう。録音の少ない名テノール、プレヴェーディもいい仕事をしています。ヴェルディの旋律にはこういうイケメン声は栄えます。日本では人気のあまりないルケッティ(シャイー盤)やキシュ(サッカーニ盤)、無名と言って良いケレン(ガルデッリ新盤)もそれぞれにいい仕事していますが、カセッラート=ランベルティ(ガヴァッツェーニ盤)は声が軽すぎかなぁ…。
大きくない役だというのもあるでしょうが、マクダフは比較的趣味で選べる感じ。

指揮も結構古今の名匠が振っている感じなので、選べるところではあるのではないかと。イタオペわかってんなぁと思うのはやっぱりムーティやシャイー。アバドは所謂イタオペっぽい演奏だとは思わないんだけど、丁寧な仕事ぶりでこの悲劇を不気味に仕上げていて良い。シッパーズとガヴァッツェーニは演奏自体はカッコいいんだけどカットが多いのが(泣)ラインスドルフは中庸の美、サッカーニは印象薄。ガルデッリは旧盤ではなかなか引き締まったいい仕事なんだけど、新盤はなんかたるんじゃった感じで今一つ。

問題はこっからで、まずは陰の主役たるマクベス夫人。
音楽的に大変厄介な役どころというだけでなく、ただ綺麗に歌ったんじゃ全然つまんなくて、そこに例えば迫力だったり狂気だったりそういう付加価値がつかないといけない。そしてこの役ががっかりだと、全体ががっかりになってしまうという(苦笑)ベストはカラスだという人も多くいるんですが…あの音質ではちょっと判断しかねます。
今回のアバド盤のネックがそこで、個人的にはまずヴァーレットの声が魅力的なものとは思えないし、この役でどうしても欲しい迫力、それも低音域での凄味に不足している気がします。アバド盤が決定盤と言えない理由がここ(^^;シャイー盤も同じくヴァーレットが夫人なのでパス。ニルソン(シッパーズ盤)、リザネク(ラインスドルフ盤)はなんか方向性が違うし、コッソット(ムーティ盤)は意外と迫力がない。大熱演のゲンジェル(ガヴァッツェーニ盤)はかなりいいんだけど後半息切れしているし、ルカーチ(サッカーニ盤)も凄い迫力には瞠目するもののこちらは前半の音程が不安定。シャシュ(ガルデッリ新盤)はそういう意味では総合的に見ていい出来だと思った訳ですが、それよりも頭一つ分前に出ているのが、ガルデッリ旧盤のスリオティス。彼女は一瞬で消えてしまった人ではあるけれど、ここでの夫人は蓋し希代の名演と言うべきもの。若干技術の甘さはあるけれども、これだけの声で、これだけの迫力で歌われれば文句はまずありません。

ガルデッリ旧盤で実は一番ネックになってくるのが、主役のマクベスを歌うフィッシャー=ディースカウ大先生(^^;やー、まーイタオペじゃないんだ、このひと。他のヴェルディ作品だったらちょっとご遠慮願いたいと思うところ。ただこのマクベスという役は、ヴェルディのバリトン役の中でもちょっと異質で、かなり心理劇的役どころということもあり、フィッシャー=ディースカウのちょっと練りすぎなんじゃないかというような歌唱でも納得できるところではあるのです。狂乱の場面や幻影の場面に関しては、或る意味で伊系のバリトンよりも真に迫ったものになっているように思います。ただ、声はまったく伊的でないので、そこの違和感は拭えない(苦笑)
やっぱりいいのはアバド盤及びガルデッリ新盤のカプッチッリです。決定的に伊系の声だし、いかにもヴェルディらしいこの役で彼が悪かろうはずがない、というところ。声自体はやはりアバド盤の方がうんといいですが、キャリアを積んでからのガルデッリ新盤ではより掘り下げた表現を楽しむことができます。特にガルデッリ新盤のアリアの後の凄まじい笑いは、一聴の価値ありです。独白などはどちらもそれぞれの味わいがあります。ただ、意外と狂乱や幻影の場面はちょっと間延びしてしまっている気がして、こちらはフィッシャー=ディースカウの方がむしろ好きだったり。伊系の人たちは何故か全体に狂乱の場面や幻影の場面がいまひとつだったりする。
そういう意味では日本を代表するバリトン堀内(サッカーニ盤)は、かなりいい線行ってると思います。声はフィッシャー=ディースカウよりうんと伊的だし、狂乱や幻影の場面は、伊系のバリトンよりも良い。こういう歌手が日本にいるというのは誇るべきことでしょう。
同じような路線で期待したヌッチ(シャイー盤)は、そういう意味では思ったよりおとなしくてちょっと期待外れ。十分水準以上だし、よく練られた役作りだし、例えば独白なんかは素晴らしいんですが…ライヴが聴いてみたい。ヌッチと近い気がするのはミルンズ(ムーティ盤)。どちらも「気弱なマクベス」として一本筋が通っていて、悪くないですが、個人的には「武将マクベス」という面も欲しいところ。そういう意味では剛毅極まるグェルフィ(ガヴァッツェーニ盤)や、男気あるタッデイ(シッパーズ盤)の方が好みです。特にグェルフィは、狂乱や幻影も良かったしアリアもカッコいいしで、なんで正規録音しなかったんだろうという感じ。ウォーレン(ラインスドルフ盤)はちょっとこの中だと役作りが単調なような気もしなくはないですが、マクベスの悲哀みたいなのは出ていて悪くはありません。特にマクベスの死(通常カットする曲で、あと歌ってるのはアバド盤のカプッチッリのみ)は絶品。なんでアリアの最後をオクターヴ挙げたのか謎ですがwww

以上のように全体を見渡した時に、一番平均点が高いのはガルデッリ旧盤なような気がしますが、ギャウロフに限って見るとアバド盤の方がいいかなと思う訳です(笑)
ギャウロフのファン的には彼の美声と脇に回った魅力が楽しめる録音で、お勧めできます。


(2013.1.14追記)
と、書いていた訳だけれども、ついに私自身としてはベストと思えるマクベスに巡り逢えました!ムーティ指揮ブルゾン、スコット、ロイド、シコフ、ティアーの1981年ロンドンLIVE盤で、総合点はダントツでこれだと思います。もちろん断片的には他盤の凄さを思うところ(ガルデッリ新盤のカプッチッリのアリアとか)もなくはありませんが、これは本当に素晴らしい!あくまで歌うところに徹しながらも緊張感ある表情を見せるブルゾン、鬼気迫るスコット、不吉な雰囲気を醸し出すロイドにちょっと哭き過ぎながらも哀感あるシコフ、勿体ないぐらいのティアーと気合の入ったムーティ。これは大ブラヴィ!!!

(2013.8.29更に追記)
カプッチッリ&ギャウロフが歌っていて、夫人がヴァーレットではないと言うなんとも俺得な音源を入手しました!夫人はディミトローヴァ、マクダフはリマ、マルコムは市原、医者にリドル(!)、シャイー指揮1984年のザルツブルクLIVEです。微妙な欠落があったりLIVEらしい疵もあるのですが、これは楽しめます!
まずギャウロフですが上記2盤より出来がいいと思います。アバド盤よりだいぶ後ですが声の衰えがあまり感じられませんし、表現はもちろん深い。バンクォーは悪役でも不気味キャラでもありませんが、悲劇の人らしい不吉な雰囲気が欲しいところで、そこも文句なし。LIVEらしい脂の乗った歌で素晴らしいです。
リマのマクダフも上記の諸テノールと比べても遜色ない、或いはベストと言ってもいい出来だと思います。力強いけれども重くないスピンとが心地いい。マルコムの市原もリマに負けておらず嬉しいところ。
ディミトローヴァの夫人は欲を言えばきりがないですが個人的には悪くないと思います。もちろんもっとニュアンスをつけて欲しいと思うところはありますが、やはり彼女の持ち味である力強い濁声と隈取りのキャラづくりはこういう異形の人物にはピタッと来ますね^^
カプッチッリのマクベスも彼の中ではベスト、というか僕の聴いたマクベスの中で最高の出来だと思います。これはすごい歌唱!独白での凄まじい迫力はそれぞれ面白かったスタジオの2つを超えるものだし、狂乱、幻影の場面に至ってはスタジオの比ではありません!夫人とのふたつの重唱ではディミトローヴァすら喰ってしまっている強烈な歌唱。対してアリアでの茫然とした雰囲気(ここはガルデッリ新盤とは違うアプローチと思います)、死での直截な表現など出てくるところ全てが聴きどころ。聴きたかったマクベスはこれだ!という感じです。

(2014.11.17またしても追記)
もうなんかギャウロフのことを語る本筋からずれまくっていますが、新たに手に入れた音源から、マクベスでゴッビの話をしないのはあまりにも片手落ちと思いますので(笑)
予想通りと言えば予想どおりなのですが、やはり伊国の演技派の代表とも言うべき人らしく、非常に性格的な役作り。こういうのをやらせると彼の右に出るものはいないと言う感じで、イメージどおりのマクベスを演じて呉れています。何故かアリアがカットされていますが、独白、狂乱、幻影など抜群の満足感。モリナーリ=プラデッリの穏健な指揮、ロビンソンのバンクォー、タープのマクダフ、そしていい感じに汚らしい合唱など平均点は高いです。惜しむらくは夫人のシャードがいまいちなこと。ここが決まればベストになりえるのですが。
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クレンペラー盤『ドン・ジョヴァンニ』~ギャウロフを聴く/その1~

また何の脈絡もなく突然新たなシリーズを始めてみるww
前々から何度も出てきてるんですけど、バスのニコライ・ギャウロフ好きなんですが、長いこと何となく聴いてなかったクレンペラー盤『ドン・ジョヴァンニ』を聴いてみたら、これがまあ良いの良くないのって、こんなに嵌ったのは久々でございました(笑)
で、ちょっとこれを切欠にギャウロフの歌劇の全曲を改めて聴き直そうかなと。
尤も、私はギャウロフのファンですから、バイアスを考慮して、話半分に読んでくださいね笑。

という訳で、初回はその、クレンペラー『ドン・ジョヴァンニ』。
(なお、この記事を書くにあたって、ギャウロフ主演のフォン=カラヤンのライヴ盤(1968)、及びシエピ主演のフルトヴェングラーのライヴ盤(1953)も併せて鑑賞しました。)

W.A.モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』 (1966)
ドン・ジョヴァンニ/ニコライ・ギャウロフ
レポレッロ/ヴァルター・ベリー
ドンナ・エルヴィーラ/クリスタ・ルートヴィッヒ
ドンナ・アンナ/クレア・ワトソン
ドン・オッターヴィオ/ニコライ・ゲッダ
ツェルリーナ/ミレルラ・フレーニ
マゼット/パオロ・モンタルソロ
騎士長/フランツ・クラス

オットー・クレンペラー指揮
ニュー・フィルハーモニア合唱団&管弦楽団

バスやらバリトンやらが好きだと言いながら、白状すると長らくあまり良さを実感できずにいたのがこの作品。
部分的にはシャンパン・アリアや地獄墜ち、カタログの歌などなど好きな曲はあったものの、どうも総体としてピンと来ていなくて、いくつかの録音――定番と言われるシエピをタイトルロールに据えたものや、大好きなブランが登場しているもの――も聴いてはみたものの、正直うーんという感じだったのです。そもそも最初に聴いた録音がフォン=カラヤン指揮のライヴで、しかも今回紹介するものと同様にギャウロフを主演に据えたものだったのに、なんとなくしっくり来なかったのも、大きかったりする。それもあって、名盤の誉れは高いものの、なんとなく手を出す気がしなかったのです。

で、一念発起した結果。
なんで今まで自分はこれを聴かないできたかと大反省(苦笑)
更に1回気に入った録音がそうしてできてしまうと不思議なもんで、これまでしっくり来なかった他の録音を聴いてもしっかり見通しが立つという…笑。

さて、クレンペラー盤ですが、これはもう、何といってもギャウロフの声が圧倒的に凄い。
これは、声の魅力という意味では、彼の数ある録音の中でも断トツのものでしょう。どちらもそこまで録音年が異なる訳ではありませんが、フォン=カラヤンのライヴ盤の貧弱な録音では掴み切れていなかった彼の声が、こちらでは存分に楽しめます。更に言えば、スタジオ録音にも拘わらずこちらの方がギャウロフ自信がノッている印象です。全編に亘って彼の歌っている部分では、彼の声に耳が行ってしまう。正に痺れてしまう、という表現が相応しいでしょう。
ただし、シャンパン・アリアは圧倒的な勢いのあるフォン=カラヤン盤とほぼ互角、趣味の問題でしょう。

彼の創るジョヴァンニ像は、一言で言うなら豪放磊落。
声の力を最大限に活用して、縦横無尽に暴れまわるジョヴァンニを、荒々しいながらも生命力に溢れた歌で作り上げています。恐らくシエピのジョヴァンニを最良と考えられている方からすれば、ギャウロフのそれはあまりにも粗野で野卑なものと捉えるだろうとは思うのですが、それでもギャウロフには抗いがたい魅力があるのも、また確か。例えて言うのならば、緻密に描かれ、計算されたレンブラントの作品のような印象のシエピと、荒々しいながらも逞しいドラクロワの作品を思わせるギャウロフと言ったところでしょうか。この2人を較べてどちらが勝っているなどということにはあまり意味がなくて、単純にどちらが好きか、というレベルの話なのだと思うのです。改めて聴き比べて、少なくとも今の私にはギャウロフの豪快な表現が好みに合っていました。
もし、私のようにシエピのドン・ジョヴァンニがなんとなくしっくりきていない人がいるのなら、ご一聴をお勧めします。

クレンペラーの指揮は、前評判で聞いてはいたものの、大変ゆったりとしたテンポのものですが、歌手たちの力演もあり、緊張感を失わないもの(尤も、ワトソンは遅いテンポに対応しきれていませんが)。近年では流行らないというデモーニッシュな迫力を重視したものですが、私は大変気に入りました。録音が良好なこともあり、フルトヴェングラーやフォン=カラヤンよりもさらに重厚な印象です。

さて、そんな訳でギャウロフとクレンペラーは最高ですが、残念ながら他のキャストには凸凹がある印象。

いい方から言うならば、まずはオッターヴィオのゲッダ。万能型の彼の実力はここでも遺憾なく発揮されていて、その柔らかながらも力強い美声はとても耳に心地いいです。尤もこの役については、今回参考で聴き比べた他の2盤のテナーも素晴らしい。フォン=カラヤン盤のクラウスは、いつもながらノーブルな声と表現で貴族的なオッターヴィオを造形しています。しかし、そんな2人の名歌手を以てしても、これはちょっと敵わないなと思わせるのがフルトヴェングラー盤のデルモータ。まさにモーツァルト・テナーの面目躍如といった感じですが、この役には本当に合っているんだと思います。個人的にはヴンダーリヒやシュライヤーと比べてもデルモータに軍配が上がる印象です。まさに当たり役。とはいえ、この3人はみんな一般にはつまらないと言われるこの役を、聴かせて呉れるという点では間違いないです。

それからフレーニのツェルリーナも、流石娘役のスペシャリスト、というべき出来。これはフォン=カラヤン盤でも同様のキャストですし、どちらも上々。フルトヴェングラー盤のベルガーは、フレーニとは全く違う声質で、より可憐なツェルリーナ。敢えて言えばフレーニの方が強かなこのキャラクターに合ってるような気もしますが、これも趣味の問題と言ったところでしょうか。

ベリーのレポレッロは思ったよりシリアスで、ちょっと怖いぐらいの印象ではありますが、クレンペラーの音楽作りがそもそもあまりブッファではないですから、ありかなと。フルトヴェングラー盤のエーデルマンとフォン=カラヤン盤のエヴァンズはどちらも同じような役作りですが、柄の大きさではやはりエーデルマンか。この役に関してはコレナやフルラネットなど他にも優れた歌い手がいますから、もう少し聴きこまなくては、というところです。ちなみに、カタログの歌だけはギャウロフもアリア集で歌ってますが…声は兎も角、まぁキャラ違いww

マゼットのモンタルソロはもっと暴れるかと思いきや意外と普通でしたが、演奏自体はいいですね。フォン=カラヤン盤のパネライはこういう等身大の役には似合いますが、音域がちょっと合ってない感じ。フルトヴェングラー盤ではこちらに回っているベリーも音域がちょっと違うかな。

騎士長のクラスは手堅く仕事をこなしていますが、迫力という点でちょっと物足りないかも。恨みがこもっている感じはかなりしていて、そこはいいwwフォン=カラヤン盤のタルヴェラは声はいいけど、ちょっと凄み過ぎかな。フルトヴェングラー盤のアリエは、もっと評価されていいと思います。彼の弱点として最低音があまり響かないという点はあるのですが、その粘り強い声質で端正に歌われると、下手に極低音が出るとか凄むとかっていうようなひとよりもうんと迫力が出ます。この役の場合、騎士長はこの世の者ではありませんが、悪人ではないため、大審問官が似合う人が似合うとは限らないのですが、この人はどっちもいけますね。ここでは登場していませんがモルやフリックも素敵。存在するならネーリでも聴いてみたいですね^^

残念ながら今一つの印象なのがエルヴィーラのルートヴィッヒ。ちゃんと歌ってはいるのですが、メゾ・ソプラノの彼女にピッタリの役とは言えないな、という印象。この役は彼女以外でもメゾがやっているものがありますが、やはりソプラノの方が好ましいと思います。フォン=カラヤン盤のツィリス=ガラは悪くないと思いますが、ここはやはりフルトヴェングラー盤のシュヴァルツコップフでしょう。役者の違いを感じさせる歌唱で、1幕の短いアリアでも貫録を感じさせます。

アンナのワトソンは、前述もしましたがクレンペラーのテンポ設定についていけてない感じで、アリアは正直聴いててしんどい。フォン=カラヤン盤のヤノヴィッツ、フルトヴェングラー盤のグリュンマーともに悪くはないものの、今一つ決め手を欠く感じ。この役はダンコのきりっとした名演が印象的です。

そんな感じですから、全体としてみるとギャウロフが出てこないアンサンブルはちょっと退屈に感じられる――というか曲自体、ジョヴァンニの出てこない部分のアンサンブルが退屈?――に感じられる、という印象です。
しかし、最盛期のギャウロフの圧倒的な声とクレンペラーの迫力ある音楽作りを楽しめるという意味では、これは間違いなく名盤だと言っていってでしょう。

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