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Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

かはくの展示から~第12回/ラブカ~

このblogは国立科学博物館の公式見解ではなくファンの個人ページですので、その点についてはご留意ください。

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ラブカ
Chlamydoselachus anguineus
(地球館1階)
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何とも珍妙な形をした魚。実はサメの仲間です。
と、言っても全くサメらしい姿はしてませんね(笑)
世界中の海の水深数百m程度から見つかっており、所謂深海魚の代表選手として扱われることも多いですが、時折浅海でも発見されています。但し、飼育はやはり難しいようで、沼津港深海水族館などで何度か試みられていますが、いずれも数日で死んでしまっているようです。

かはくで展示されている標本は剥製です。
魚は皮の厚さや脂の量の問題からなかなか剥製にするのは難しいのだそうで、こうして常設で近くで見られるのは、実は非常に貴重な機会です。かはくにはこれ以外にも、質の高い魚の剥製が多く、実は隠れた見どころになっています。ちなみに、魚の剥製では北九州のいのちのたび自然史博物館に展示されているものも大変見事。

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かつては古代ザメと言われていましたが、今では異論もあるようです。
所謂サメの仲間と言うと尖った鼻づらに口は下方についている、というようなイメージですが、比較的丸みを帯びた鼻先で口は顔の前の方についています。どちらかというと化石種として知られるクラドセラケCladoslacheに似ているなどと言われ、長いこと原始的なサメの生き残りではないかと言われてきました。しかし、サメの仲間の顎や頭の関節を比較した研究から、ラブカはそこまで現代的なサメと違いがないことがわかってきているという話もあり、今後の立ち位置が気になるところでもあります。
鰓や歯の形も独特です。このあたりは、是非実物をご覧いただければと思います。

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サメの仲間の注目ポイントの一つが、腹鰭の間にある交尾器です。
非常にざっくり言ってしまえば、これが立派な方がオス、目立たない方がメスで、この個体はオスです。
雌雄の見分け方というのは、動物を観る時の重要な点の一つなので、押さえておくと良いでしょう。

<参考>
深海生物ファイル あなたの知らない暗黒世界の住人たち/北村雄一著/ネコ・パブリッシング/2005
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かはく | コメント:0 | トラックバック:0 |

Helicoprion

なんだかんだ去年はそんなに創作意欲がわかなくて、特段折り紙しなかったんだけど、お友達づきあいさせてもらっているTシャツ屋さんのパイライト・スマイルさんの新作を見たら、自分も作りたくなってしまいまして(笑)
そういえば実はこのブログで初の折り紙記事だ!

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ヘリコプリオン
Helicoprion sp.

ペルム紀に生きていたサメの仲間ですが、わかっていることはほとんどありません^^;
というのも発見されるのはぐるぐると丸まって生える特徴的な歯ばかりで、全体像がどんな姿だったのかさっぱりわかっていないからです。もともとサメは軟骨魚類なので体の化石ってこいつに限らず残んないんですよね、出てくるのは大抵歯ばかり…まあ、歯はたくさん出る訳ですが(笑)

という訳でいろいろな復元が試みられていますがそのあたりは、古生物造形作家のふらぎさんがこちらで書いてくださっているので、ご覧いただければ。

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復元は百花繚乱状態なんで、あまり深く考えすぎず、折り紙として作りやすい形にしてしまいましたf^-^;要はこの巻きまきがそれっぽく見え、且つ全体の中に調和して見えることが大事なんだろうと思います。という訳で何となく座りが良さそうな(笑)、下顎外巻きにしてみました。
顔はもう少し短くしようかなと思ってやってみたんですが、サメっぽさがなくなっちゃうとイメージ的にそれっぽくなくなっちゃうんでやめましたww

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更にちょっと困ったのが体型で、はじめあんまり現代のサメっぽい感じになっちゃうとヤだなと思ったので、オルタカンタスとかクラドセラケとかみたいに細長くならないかとやってみたら、これがまあサメっぽくならないんだまた(笑)折角ならやっぱり観た瞬間ヘリコプリオンだと思って欲しいし、そう考えると少なくとも折り紙に於いては、顎が渦巻きになっているサメ、と思わせた方が勝ちだなと思い、結局割とサメっぽい形に纏めました。

1個作ると他の復元も作れるかも…と思ってしまうと悪魔の回路ww
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オペラなひと♪千夜一夜 ~第三十七夜/カーテンの向こうの巨人~

昨今、露国の歌手の世界での活躍はまったく目覚ましいものがあります。
かつては考えられなかったことですが、米国にあるMetでも多くの歌手が舞台に立ち、人気を集めています。ぱっと思いつく範疇でも、ネトレプコ、フヴォロストフスキー、ボロディナ、アブドラザコフ、ドマシェンコ、ミロノフ…などなど。現代露国は、世に名の轟く有名歌手産出国になっています。

しかし、東西冷戦時代のソヴィエト政権下の露国にいた歌手が、現代の人たちに劣っていたかと言えば、それは大きな間違いです。鉄のカーテンに阻まれて、西側諸国での活動こそ制限されてしまったものの、声の力、歌のスケールと言う点では、今以上に優れた人、本来であればよりメジャーな存在になっていておかしくない人が、数多くいます。

今回は、そんな人たちの中でも歌の格式で言えば随一のこのひとを。

IvanPetrov.jpg
Ruslan

イヴァン・ペトロフ
(Ivan Petrov, Иван Иванович Петров)
1920~2003
Bass
Russia

お世辞にも一般的な知名度が高いとは言えませんが、素晴らしいバス歌手をたくさん輩出している露国でも、彼ほどの実力者はそうはいません。
露歌劇と言えばМ.П.ムソルグスキー『ボリス・ゴドゥノフ』がまずは出てくるところであり、良くも悪くも露国の歌手はどちらかといえば崩しが入ってドラマティックに詠唱するところに重きを置いていたり、スラヴ的な独特のヴィブラートの入った声を売りにしている人が多い中で、ペトロフは全く端正で格調高い歌と深々としたストレートな美声で勝負をしています。或る意味でまったく正統派の人と言うべきで、お国ものの作品のみならず、西欧の諸作品(尤も、当然当時はほぼ露語訳版だったりする訳ですが笑)を歌わせても、その歌の造形の見事さには嘆息を禁じ得ません。

長生きしている割にはそこまでキャリアは長くありません。というのも、非常に残念ですが、1970年に糖尿病で倒れ、声にも影響が出てきてしまったため、その後は後進の育成にあたったからだそうです。確かに後年の録音では、声の変質を感じさせるものもあります。
ちなみに、この方誕生日はG.ロッシーニと一緒。
つまり、4年に1回しか年を取らなかったということですね^^

<演唱の魅力>
私が惚れ込んだ他の多くの歌手と同様、大変な美声です。
と言っても、露国や東欧の歌手に良くあるような、独特のごわごわしたヴィブラートのある声ではありません。もっとストレートに、素直に響く声。そういう意味では、以前登場したアリエと同じような傾向にあると言ってもいいかもしれません。いずれにしても正統派の美声で、その点一つとってもどんな作品でも十分以上に聴かせてしまうようなところがあります。実際、残された録音を見てみると、鉄のカーテンの向こうにいた歌手の制限を考えても様々なジャンルを歌っています。
とは言っても、やはり彼の美質が最も活かされるのはお国もの、露国の作品ではないかと思います。巧い下手がわかるほど露語をまじめに勉強したわけではありませんが、この人が露語で歌うのを聴くと、「ああ、この言語は完全にこの人に染みついてるんだな」というのがしみじみと伝わってくるのです。聴いていて安心感があるというか、確信を持って歌っている、という印象を受けるのです。

その確信はことばの問題だけではなく、音楽にも感じとれるように思います。兎に角この人は歌のフォルムが美しい。前述のとおり、演技を優先して歌を崩すことなく、あくまでもしっかりと“歌って”いるのです。無理して何かをしているとか、作為的に不自然なことをしているといったようなことは全くなくですし、ただ単純に楽譜通りに歌っているということでもありません。その場の音楽に合わせて、自在に、そして的確に歌っているように思えるのです。これができるのはよほど基本がしっかりしているからなのでしょう。彼の音源を仕入れて、「失敗した!」と思わせられることがないのは、こういうところに起因するのかな、と思います。

そして何より主役としての佇まい、というかオーラ、或いはカリスマと言うべきものが出ているのが、ペトロフの最もペトロフたるところと言ってもいいのかもしれません。
私はバスが好きなのでいろいろなバスの歌を音源で聴いていますが、殊にヒロイックさという観点から行くのであれば、およそ彼以上のバス歌手はいないと思います。高い音から低い音まで全音域に亘って力強く鳴り響く彼の声からは、造作の大きい、偉大な英雄の姿が自然と想起されるのです。前回のサザランドに引き続き、ひと節歌っただけで「ああこの人が主役なんだな」と思わせる、そんな力を持った歌手です。

そうなるとやはり、彼が主役の椅子に座るような作品での活躍が楽しみたいとなるところ。ベストと言うべきは、まずМ.И.グリンカ『ルスランとリュドミラ』のルスランでしょう。広い声域で、若々しくパワフルに歌う、彼の美質を最も強く感じることができるのではないかと思います。同じような系列で行けばА.П.ボロディン『イーゴリ公』の題名役でも捕虜となってなお力強いイーゴリ公を感じ取ることができます。あと、忘れてはいけないのは、М.П.ムソルグスキー『ボリス・ゴドゥノフ』でしょう。シャリャピン以来の豪放磊落とした、鬼気迫る演技に重点を置いた“観る”ボリスとは全く別のベクトルの、格調の高いボリスを“聴くこと”ができます。

<アキレス腱>
いままでどんなに大好きな歌手を出しても微妙ポイントがない訳じゃなかったんだが、殊に彼に関しては本当に見つかりません。どの録音も素晴らしい!ハズレがない!
強いて言うなら何を歌っても露ものっぽく聴こえるところがなくはない、というところでしょうか。そもそも時代の制約もあって露語で歌っているものも多いですし。

<音源紹介>
・ルスラン(М.И.グリンカ『ルスランとリュドミラ』)
コンドラシン指揮/フィルソヴァ、ポクロフスカヤ、ヴェルビツカヤ、クリフチェーニャ、ネレップ、レメシェフ、ガヴリショフ、コルニェヴァ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1950年録音
>不滅の名盤。ネトレプコ出演のゲルギエフの凄演があったとしても、ネステレンコ主演のシモノフの快演があったとしても、この曲の決定盤がどれかと訊かれたら真っ先に挙げるのはこの音盤。何といってもヒロイックで力強いペトロフのルスランが最高の聴きもの!地響きのような低音からバリトンもびっくりの高音に至るまで充実した声で惚れ惚れします。特に有名な旋律の登場するアリアは素晴らしいです。コンドラシン及び共演の歌手陣、みな作品を自家薬籠中に収めているひとばかりで安心して聴くことができます。中でもクリフチェーニャの豪快なファルラーフとヴェルビツカヤの濃厚なメゾは特筆すべきもの。序曲だけ聴いて安心してる方は騙されたと思って聴いてみてください!

・イーゴリ・スヴャトスラヴィチ公(А.П.ボロディン『イーゴリ公』)
エルムレル指揮/トゥガリノヴァ、アトラントフ、エイゼン、ヴェデルニコフ、オブラスツォヴァ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1969年録音
>不滅の名盤。これもまたゲルギエフのものが有名だし実演も良かったけれども、純粋に演奏を取りだしたらこれ以上のものは考えづらいです。ペトロフは英雄ぶりの良く似合うひとなので、こうした大河ものはピッタリ(^^)本来はバリトンのために書かれた役だけれども、高い音域も問題なくパワフルに鳴らして呉れて違和感は全然ありません。ヴェデルニコフ(指揮者のヴェデルニコフのお父ちゃんですな)&エイゼンの悪役バス・コンビの豪放な歌、力強いアトラントフ、いかにも露っぽいねっとりした美声のトゥガリノヴァに迫力あるオブラスツォヴァと長所は枚挙に暇はありませんが、何より凄いのはエルムレルの指揮!スタジオ録音なのになんという爆演(笑)!特に有名な“韃靼人の踊り”はこれを聴くと他の演奏が物足りなくなるぐらいの強烈な演奏!

・ボリス・ゴドゥノフ(М.П.ムソルグスキー『ボリス・ゴドゥノフ』)
メリク=パシャイェフ指揮/レシェチン、イヴァノフスキー、アルヒーポヴァ、シュルピン、Ал.イヴァノフ、キプカーロ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1962年録音
>いい点はいろいろあるけれども、まずはなんと言ってもペトロフのボリスを聴くための音盤。シャリャピン以来の崩しや哭きを入れる演技で惹きつける演奏ではなく、あくまで“歌う”ことに徹していると言って良いのではないかと思いますが、スタイリッシュで非常に格好良いです。メリク=パシャイェフの指揮は堂に入ったものだし、共演には流石と思える人も居るのですが、もう少し脇が固まれば……という恨みがあるのも事実。

・グレーミン公爵(П.И.チャイコフスキー『イェヴゲニー・オネーギン』)
ハイキン指揮/ベロフ、ヴィシニェフスカヤ、レメシェフ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1956年録音
>この作品も人気のあるのでたくさんの録音がありますが、まず決定盤と言って良い録音でしょう。ペトロフ演じるグレーミン公爵は4幕でちょろっと出てきてアリアを歌うだけの、決して大きくない役ではありますが、彼の豊かな声でじっくり歌われると、非常に強い印象を残します。いとをかし。ヴィシニェフスカヤの清冽なタチヤーナ、レメシェフの歌うはまり役中のはまり役レンスキーも素晴らしいし、ベロフのオネーギンも悪くありません。総じて、露国らしい露ものを知るためにはうってつけでしょう。

・ランフィス(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
メリク=パシャイェフ指揮/ヴィシニェフスカヤ、アンジャパリゼ、アルヒーポヴァ、リシツィアン共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1961年録音
>ちょっと色物、露語版ライヴです。しかしこの色物、とんでもない名演の記録。その重厚な声を駆使して非常に高邁なランフィスを演じています。登場場面は必ずしも多くないし、はっきり言っちゃえば主役ではない役な訳ですが、こういう役をちゃんとした人が演じると全体がピリッと締まります(そういえば彼がモンテローネ伯爵(!)を演じる豪華すぎるリゴレットもありますが、そこでも盛大に呪って呉れてゾクゾクします)。共演陣はいずれも優れていますが、アンジャパリゼがもうけもののテノール。ドラマティックで痺れます!アルヒーポヴァの強烈なアムネリスも必聴。

・バス独唱(G.F.F.ヴェルディ『レクイエム』)
メリク=パシャイェフ指揮/ヴィシニェフスカヤ、アルヒーポヴァ、イヴァノフスキー共演/サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団&グリンカ・アカデミー合唱団/1960年録音
>オペラじゃない色物をまたまた……と思われた方、とんでもないです。これはこの曲の裏・決定盤ではないかと思っています。確かに露国の人たちの発音は必ずしも正しくありませんが、そうした問題を忘れさせるほどの物凄いライヴ録音です。ペトロフはアリアをはじめとして堂々とした歌いぶりで、嬉しくなります。「死」とつぶやくところなども凄味のある声。メリク=パシャイェフの采配、アルヒーポヴァ、イヴァノフスキーの2人ももちろん素晴らしいですが、別けてもヴィシニェフスカヤの“Libera me”は鳥肌もの。

・コンチャク汗(А.П.ボロディン『イーゴリ公』)
・パガーノ(G.F.F.ヴェルディ『第1回十字軍のロンバルディア人』)
・メフィストフェレス(C.F.グノー『ファウスト』)
(詳細不明です)
いずれもプライザーが出しているアリア集に収録されていますが、特にかっこいいのはこのあたりかと。このコンチャク汗のアリアは、スリリングな演奏と言う意味ではベストの出来ではないかと思います。テンポも全くあらまほしきものですし、サーヴィスでどかーんと出してる高音にも痺れます。続く隠者になってからのパガーノのアリアは、『ナブッコ』のザッカリアの3つ目のアリアと同様、劇的に盛り上がる難曲ですが、思わず唸らされる演奏。メフィストフェレスの2つのアリアはいずれも歌っていますが、“金の仔牛の唄”が絶妙な#加減で緊張感が高く、楽しめます。

・西国王フィリッポ2世(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)2013.12.18追記
ナイデノフ指揮/アンジャパリゼ、ミラシキーナ、アルヒーポヴァ、ヴァライチス、ヤロスラフツェフ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>これも珍盤ですねwwフィリッポとロドリーゴの重唱の最後とか他で全く聴いたことのない謎の音楽がついていたりしますし(笑)しかしそれでもペトロフのフィリッポを全曲聴けるというのは非常にありがたい!非常に堂々とした恰幅の良い歌唱であると同時に、権力者の哀切を見事に表現していると思います。予想通りと言うかなんというかボリスっぽい感じになっていますが、それはそれでこのひとらしくこの役を消化していると言えそうです。普段慣れ親しんだフィリッポとは違う角度から光を当てている、と言いましょうか。共演もみんなロシアンな感じでかなり不思議な感じですが、皆さん実力者なのでレベルの高い演奏には違いありません。

・イヴァン・スサーニン(М.И.グリンカ『イヴァン・スサーニン』)2014.6.13追記
ハイキン指揮/フィルソヴァ、クレパツカヤ、グレス共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>こんな超名盤を書き忘れてるなんて!と思うぐらいの素晴らしい記録。農奴にはちょっと立派すぎるのではないかとも感じるぐらい全編に亘ってペトロフが素晴らしいです。圧倒的な歌のうまさと存在感、そして何より格調の高さ。歌の品位の高さ、口跡の良さでは他のスサーニンの録音の追随を許さないと言ってもいいでしょう。フィルソヴァとグレスはこの歌い方で西欧の作品はなしだろうけど露ものならあり、というか露ものではこういう声こそ欲しいと言う印象で、多少キツめの高音が曲を引き立てます。クレパツカヤも変に色っぽすぎず、少年らしい感じで心地いいです。そして、ハイキンの堂々たる指揮ぶり!全曲素晴らしく、露ものの世界に思いっきり浸ることができます。

・ニコライ・ベストゥージェフ(Ю.А.シャポーリン『十二月党員たち』)2015.2.13追記
メリク=パシャイェフ指揮/Ал.イヴァノフ、ピロゴフ、ネレップ、セリヴァノフ、ヴォロヴォフ、イヴァノフスキー、ポクロフスカヤ、ヴェルビツカヤ、オグニフツェフ共演/ボリショイ劇場管弦楽団&合唱団/1953年録音
>珍しい作品の見事な演奏で、露もの好きであれば是非とも聴いていただきたいと思うもの。ソヴィエトの歌手を知っている人にとってはちょっと信じられないぐらいもの凄いキャストです(笑)並みいる先輩方の中で、彼が演じている役は必ずしも大きなものではありませんが、聴かせどころのクープレはじめ彼らしい端正な歌を聴かせています。他の歌唱陣が豪快で濃いだけに或意味で目立つかも(笑)改めて聴いてみたらこの時の印象よりもうんと大きな役でした^^;群像劇なのでずっと出てくるということはありませんが、主人公のドミトリーと行動を共にする戦友で、以前も言及した豪快なクープレの他にも民謡風の歌や嘆き節などバラエティに富んだ歌を、基本的には端正ながら多面的に活き活きと聴かせています。この役の武人としての側面も詩人としての側面も感じられるのではないでしょうか。

・皇帝サルタン(Н.А.リムスキー=コルサコフ『皇帝サルタンとその息子栄えある逞しい息子グヴィドン・サルタノヴィッチ、美しい白鳥の王女の物語』)2019.5.11追記
ネボリシン指揮/イヴァノフスキー、スモレンスカヤ、オレイニチェンコ、ヴェルビツカヤ、Ал.イヴァノフ、シュムスカヤ、レシェチン共演/ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1955年録音
>以前も聴いていたのですが改めて聴き直してこんなに素晴らしい曲と演奏だったかと思いました。ペトロフ演じるサルタンは出番は実はそんなに多くはないのですが、讒言で王妃や王子グヴィドンを振り回すことになる人物で演目の要となります。立派で悲壮な歌が必要な部分とコミカルな表現が必要な部分と双方をうまく引き出す必要がありますが、彼の持ち味の堂々たる美声と懐の深い歌いぶりで大変楽しめます。正直なところ、彼にコミカルな雰囲気を引き出すイメージはなかったものですから頭が下がりました。綺羅星のようなボリショイのスターたちの中でもヴェルビツカヤの性格的な悪役とヒロイックなイヴァノフスキーが出色だと思います。”熊蜂の飛行”だけではないこの作品の魅力を是非、多くの方に知ってもらいたいものです。

・アレコ(С.В.ラフマニノフ『アレコ』)2021.7.6追記
ゴロヴァノフ指揮/ポクロフスカヤ、オグニフツェフ、オルフョノフ共演/ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1952年録音
>なかなか入手することができなかった演奏ですが、ゴロヴァノフの燃えるような音楽が見事で、スタジオ録音としては決定的なものではないかと思います。アレコはレイフェルクスやフヴォロストフスキーのようなバリトンもレパートリーにしている役だけあって、高音まで力強く響く彼の強みが非常によく発揮されると言っていいでしょう。端正ながらも彼にしてはやや荒っぽさのある歌い口が、決して枯れてはいない男のぎらついた嫉妬を感じさせます。オグニフツェフやオルフョノフも同様にスラヴらしい熱量を感じさせる歌ですが、特筆すべきはポクロフスカヤ演じるゼムフィーラ!ヴォトカの奔流を思わせるアリアは、火のつくような情熱に包まれています。

・ルネ王(П.И.チャイコフスキー『イオランタ』)2022.12.24追記
ハイキン指揮/オレイニチェンコ、アンジャパリゼ、リシツィアン、ヴァライチス、ヤロスラフツェフ共演/ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1963年録音
>映画版ということで全体で20分ほどカットが入っているのですが、音楽としても映像としても編集が優れていてよくまとまっているのであまり気になりません(演技と歌も別人ながら旧ソ連らしく美男美女且つ上手い人を揃えているのでむしろ見やすいかも)。この役はかなり高い音から低い音まで満遍なく鳴らさねばならないこともあって、音域の広い彼には持ってこいです。聴かせどころのアリアの悩みの深い歌ももちろんいいのですが、映画として次のシーンにサクッと進んでしまうこともあり、むしろ後半のヴォデモンやロベルトとの騎士道的なやり取りでの見栄のかっこよさが光ると思われる方もいるでしょう。見る人が見ればわかる当時のボリショイの錚々たるメンバーの歌が楽しめることもあり、まず作品を知るためにはおすすめできます。
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