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Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第七十七夜/The dandy~

考えてみればバリトンも久しぶりなんですね、バキエ以来でしょうか。
理由は明白で途中で“三アラ・テノール”をやったからですね笑。

という訳で久々にバリトンのお話。

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Barnaba

ロバート・メリル
(Robert Merrill)
1917~2004
Baritone
America

どうでもいいことですがこの人を検索すると矢鱈に「ロバート・デ=ニーロとメリル・ストリープ」ばかり引っかかって、どっちにも特に興味がない私としては結構うんざりしてしまったりします汗。

そんなことはさて置き、米国を代表するドラマティック・バリトンです。同郷の後輩ミルンズやハンプソンがマルチな活躍をしていたのに対し、仏ものも歌っていますが基本的には伊ものを中心に据えた活躍をしていた、と言って差し支えないと思います。重厚で照りのある彼の声は確かに如何にも伊もの向きで、その活躍も肯けるもの。その声の魅力とエネルギッシュな歌が日本の聴衆にはウケがいいようで、ほぼ同世代のウォーレンやちょっと後輩のマックニール、それに先ほどのミルンズのような米国出身のバリトンの評判が未だに我が国では悪いのに対し、メリルは昔から比較的人気があると言えそうです。歌そのものは結構アメリカンな空気が漂わせてると思うんですけどね笑。

共演の多かったソプラノのロバータ・ピータースとは一時期夫婦でしたが、離婚。その後ピアニストと結婚し、亡くなるまで連れ添ったようです。

<演唱の魅力>
米人ではありますが、伊ものを歌うために生まれてきたと言ってもいい歌手でしょう。力強いながらも丁寧な歌唱スタイルと威風堂々たる男っぷりのよさ、そしてやはり声の輝かしさ!分厚く、伊もので求められるいい意味での脂身やドラマティックさに富んだ声の存在感と説得力は本家伊国を見渡してもそうそう見られるものではありません。バリトンですから主人公ではない役柄も多い訳ですが、テノールやソプラノよりも強い印象を残すこともしばしばです。

個人的には、彼の場合特に敵役でその美質を発揮していることが多いように感じています。とはいえ、多くの敵役を得意とする歌手のような演技功者ではないでしょう。性格的な人物作りや凝った演技という点で行けば彼の上を行く歌手は少なくないですし、斬新な解釈が顔を見せるということもありません。或意味非常に正統的。普通に歌っていると言えば普通に歌っているのですが、それが物凄くハマっている、キマっている。もちろん先述したような持ち声の良さや歌の趣味の良さあってのものですけれども、それに加えて彼の持つダンディさがかなり効いています。

彼の場合、声がとか歌がとか演技がというような限定的な話ではなく、彼の演唱、藝そのものがダンディな雰囲気を湛えています。うまく説明できないのですが単純に渋いというのともちょっと違うんですよね、非常に華もある。第一声からぐっと聴き手を引きこみ、自分の仕事を鮮やかにこなし、決めるところをしっかり決める。そういった彼の長所を総合すると、昔の米映画に出てくる俳優のような、洗練された空気を纏っているように僕には感じられるのです。そしてその米国っぽさが変にイヤミじゃなくて、彼にとってプラスの個性になっているんですね。そしてそれが最大限に活きるのが敵役だと思うのです。幸いなことに、伊ものの敵役はバリトンと大方相場が決まっていますから、我々は彼の本領が発揮された音源をたくさん聴くことができます。特にやはりルーナ伯爵(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』)は、数少ないバスティアニーニとも比肩し得る名唱と言っても差し支えないでしょうし、悪の魅力がギラギラと光るバルナバ(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)、苦み走ったエンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)あたりは絶品。本当はジェラール(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)の全曲があれば最高だと思うのですが、どうやらアリアしか残されていなさそうで痛く残念。

<アキレス腱>
基本はやっぱり伊ものの人だなあとは思いますね、メトではいろいろ歌っていますが。
強いて言えば仏ものの録音はそこそこあります。カプッチッリやバスティアニーニみたいに仏もの歌っちゃうと違和感で笑い転げると言うようなことはありませんが、ちょっと脂はきつめになっちゃいますね、どうしても^^;そうなると役によって好き嫌いは出てくるかも。仏ものの録音と言ってもショーピース的に歌ったものやアリア集が多いあたり、よくわかってらっしゃると言うところでしょうか。

<音源紹介>
・ルーナ伯爵(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』)
シッパーズ指揮/コレッリ、トゥッチ、シミオナート、マッツォーリ共演/ローマ国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>不滅の名盤。メリルの良さを楽しむ上で、最も手に入りやすく、またインパクトのある音源ではないかと思います。ルーナはレオノーラから一瞥もされませんけれども、つけられている音楽を鑑みれば、やっぱりカッコいい色仇であって欲しいところだと思うのです。そういう意味ではここでのメリルの、男臭さとパワーに溢れるダンディな歌はベストと言ってもいいのではないかと。もちろんあの有名なアリアも整った素晴らしい歌唱ですが、個人的にはそれ以上に1幕フィナーレを推したい。シッパーズの強烈な煽りもあってぐんぐん前に進む音楽に乗って、コレッリとトゥッチとともに口角泡飛ばさんばかりの大立ち回り!(いや、本当にスピーカーの向こうから唾が飛んできそうなのです!笑)また、シミオナートやマッツォーリと絡む3幕の重唱も聴き逃せません。最近ではあまり聴くことのできない、最高に温度の高いヴェルディを楽しむことができます。ルーナをバスティアニーニだけで満足されている方には、是非お聴きいただきたいです!

・バルナバ(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)
ガルデッリ指揮/テバルディ、ベルゴンツィ、ホーン、ギュゼレフ、ドミンゲス指揮/ローマ聖チェチーリア管弦楽団&合唱団/1967年録音
>これはいま全然手に入らないのですが、この演目最高の名盤と言っていいと思います。ここでの彼は特に前半戦での活躍が素晴らしい!筋上は悪役なのですが、殆ど主役と言って差し支えないような堂々たる演唱で、大輪の悪の華を咲かせています。ややマイナーではありますが後にG.F.F.ヴェルディの『オテロ』の台本を書くことになるA.ボーイトが書いたこの悪の権化が、やがてはイァーゴに繋がって行くんだなあと実感させる音源です。或意味でこれぐらいカッコ良く決める方が、この役も栄えるし曲自体も締まるんだなあと感心したり。絶好調で歌いまくるベルゴンツィ(この人のスタジオものでは最高かもしれない)との掛け合いはうまみもテンションも最高です!その他の共演陣も最高の歌唱、ガルデッリの引き締まった音楽も見事で、これを聴かずして『ジョコンダ』を語る勿れ!

・アシュトン卿エンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
プリッチャード指揮/サザランド、チオーニ、シエピ、マクドナルド共演/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団/1969年録音
>サザランドの新盤があるためかメンバーの割に埋もれがちなのですが、これもまた非常に楽しめる音源です。エンリーコに彼を、ライモンドにシエピを配したことで、この作品本来の低音陣の充実した音楽の見事さが発揮されています。この役は権威的で一方的な人物として描かれることは数あれど、意外とカッコいい悪役として演じられることは少ないような気がしていて、そういう意味で渇を癒して呉れる名唱!暗い情熱に支配された高圧的な男を、スタイリッシュに創りあげています。ここに如何にも徳の高そうなシエピが絡むことで、物語全体がより立体的になっているのです。チオーニとデュヴァルは今でこそ無名ですが実力のあるテノールですし、若きサザランドが悪い筈もなく、非常にバランスのとれた名盤と言っていいでしょう。

・レナート(G.F.F.ヴェルディ『仮面舞踏会』)
サンティ指揮/ベルゴンツィ、リザネク、マデイラ、ローテンベルガー、ジャイオッティ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1962年録音
>彼はベルゴンツィとコンビで登場したときに素晴らしい録音を残すことが多いようで、これも実にスリリングなライヴ。ここでも重厚で味のある歌い回しが決まっています。このもう一人の主役は善から悪へ転ずる深みのある役ですが、彼はいつものように全てを歌に込めた名唱で、そのダンディな存在感に痺れます。特にアリアは絶品!リッカルドを当たり役の一つにしたベルゴンツィもまた、期待に違わぬ素晴らしい歌ですし、ローテンベルガーの小粋なオスカルも◎重たいリザネクとまあまあなマデイラがもう少し良ければとも思いますが、全体には熱気の楽しめるライヴではないかと。

・フィガロ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
ラインスドルフ指揮/ヴァレッティ、ピータース、コレナ、トッツィ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1958年録音
>この作品を一足早く楽譜通りに近付けたという意味で歴史的な演奏だと思います。半世紀以上前の演奏ですが、未だに鮮度のいい音楽で感心します。彼は珍しく喜劇の狂言回しですが、意外なぐらいしっくりくる歌唱。米人らしいにやけた感じがよく出ていて、ああこの人もやっぱりそういう味が出せるんだなあと何となくほっとしたり。この役はヴェルディが売りの人が力一杯やるとどうしようもなくおっかない感じになってしまうのですが(cf. バスティアニーニ、カプッチッリ)、その辺の力の抜け具合も丁度いいです。ラインスドルフの指揮は相変わらず堅実。もう少しテンポを上げて欲しいようなところもありますが、メリルを含めロッシーニに特化した小回りを必ずしも身につけている訳ではない歌手陣にしっかりつけている感じで好印象です。恐らく世界で初めて伯爵アリアを復活させたヴァレッティがかなり頑張って呉れている他、名人藝のコレナ、とぼけた味のあるトッツィなど共演もお見事。元妻ピータースのロジーナは旧時代的ではあるのですが、キャラにも合っていてありかなと思います^^

・ジョルジュ・ジェルモン(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
プリッチャード指揮/サザランド、ベルゴンツィ共演/フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団/1962年録音
>割と影の薄い音盤ですが全体によく整っていてい平均点の高い演奏です。彼の父ジェルモンはいつものようにダンディな魅力のある素敵な感じでもあるのですが、それ以上に或意味での暑苦しさがあって、それが役に実に合ってる(笑)何と言いますか高度成長期に青年・壮年期だったオジさまたちが自分たちの価値観でゴリゴリと若者たちを評価する感じと言いますか、何とも言えぬ脂ぎった押しつけがましさみたいなものが感じられるのですね。普通の役だったとしたらそれはウザかったり鬱陶しかったりしますが、この役であればそれはプラスに働き得る訳で、そのあたり実にうまいなあと。カバレッタをちゃんと繰返し含めて歌っているのも嬉しいところです。ここでもベルゴンツィが実に姿勢のいい歌唱、サザランドもニュアンスに富んだ歌で素晴らしいです。

・アモナズロ(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
ショルティ指揮/L.プライス、ヴィッカーズ、ゴール、トッツィ、クラバッシ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1961年録音
>異色のメンバーが作り出したちょっと変わったアイーダの名盤。こういう演奏もできるんだなあとこの作品の懐の深さを感じたりします。そんな中ではヴェルディ・バリトンとして活躍していたメリルはそこまで変わった感じは一見受けないような気もしますが、聴いてみるとやはりちょっと独特です。普通どちらかというとエネルギッシュで力感を重視した歌唱になるこの役ですが、彼はいつもどおり自分の土俵で素敵に、スタイリッシュに演じています。パワフルなアモナズロを期待するとちょっと肩透かしを食らうのですが、逆に言えばこれだけイケメンなアモナズロというのはこれ以外にないのではないかと。ショルティの筋肉質な指揮の下、当たり役をしっかりと歌うプライス、苦み走ったヴィッカーズ、妖艶な大人の女の魅力を聴かせるゴール、相変わらず芝居のいいトッツィに剛直で堂々としたクラバッシと曲者揃いが心地よいです。

・ヴァランタン(C.F.グノー『ファウスト』)
モントゥー指揮/ピアース、シエピ、デロサンヘレス共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1955年録音
>彼の本領は伊もので仏ものはもう少しといった訳ですが、ヴァランタンは結構ハマっているように思います。もちろんブランやマッサールのような仏国のエスプリこそ感じられませんが、その筋肉質でパワーのある彼の持ち味は、この役が誇り高い軍人であることを思い出させて呉れます。こういうマッチョなヴァランタンと言うのもあってもいいのかなと。アリアもいいですがピアースとシエピがまた声量・力量のある歌手たちなので、やはり決鬪の場面の聴き応えがお見事!モントゥーの予想以上にさばさばした指揮もいいですし、充実した声でライヴとは思えない完成度で歌うデロサンヘレスも◎

・リゴレット(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)
ショルティ指揮/クラウス、モッフォ、フラジェッロ、エリアス、ウォード、ディ=スタジオ共演/RCAイタリア・オペラ管弦楽団&合唱団/1963年録音
>この役も本来ならば彼の持ち味とは違うところの役で、彼がやっちゃうとちょっとそれこそカッコ良過ぎてしまう感じはあるのです。しかしそのドラマティックで真に迫った歌唱は、やはり彼を語る上では外すことができないように思います。力強い男泣きを聴かせる“悪魔め鬼め”は感動的ですし、復讐を誓う重唱のパワーにも圧倒されます。同じような意味でクラウスもキャラ違いなのですが、こちらもまたスタイリッシュな歌唱と全盛期の声で圧倒。モッフォはやや芝居過多ですが、悪くはないと思います。フラジェッロ、エリアスといったメトを支えた歌手たちやウォード、ディ=スタジオら名脇役がしっかりとしているのもあって、音楽的には非常に魅力的な演奏になっているかと!
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オペラなひと♪千夜一夜 ~第七十六夜/イベリアの薔薇~

再び女声。
どうもこううまくロッシーニのスペシャリストをご紹介できておらず、個人的にはどうにかしたいと思っているのです。という訳で、その筋で一時代を背負って立ったと言ってもいい名メゾを。

TeresaBerganza.jpg
Rosina (Rossini)

テレサ・ベルガンサ
(Teresa Berganza)
1935~2022
Mezzo Soprano
Spain

モーツァルトで活躍したという目で見ている方も多いかもしれません。そちらでも素晴らしい録音をたくさん残しています。またアバドの指揮の下で、フレッシュなカルメン(G.ビゼー『カルメン』)を聴かせていたのも印象的です。寡聞にして僕は聴けていないのですが、オッフェンバックのオペレッタやお国ものサルスエラなどでも録音を遺しており、或程度マルチな活躍をしたと言ってもいいのかもしれない。

しかし、個人的にはやはりロッシーニのヒロインというイメージが非常に強いです。明るく華やかな声と存在感、そして気品のある優雅な歌。技巧的な部分ももちろん軽やかに、苦も無くこなしてしまいます。そのスマートでキリッと引き締まった歌唱は、ホーンと並び未だにロッシーニのメゾの模範的な歌唱として親しまれており、特にその女性的なコケットリーを求められる役で数々の名盤を遺しています。

ロッシーニ・ルネサンス前夜の第一人者に迫っていきたいと思います。

<演唱の魅力>
或程度マルチかもと言いましたが、基本的にはかなりレパートリーを絞っています。大きくはロッシーニとモーツァルト。彼女ぐらいの声の重さで転がしも達者なら、ヴェルディは流石に無理にしてもドニゼッティあたりなら録音を遺していてもおかしくなさそうなのですが、少なくともメジャーなものはないようです。このあたり彼女が自分の声のキャラクターに合う役を厳しく選んでいたことを窺わせます。彼女の声の特徴は、メゾらしい深みと味わいを持ちつつも重々しく暗くならない、明るくてすっきりした贅肉の少ない響きにあります。僕自身は彼女の声を聴くと瑞々しい紅色の薔薇を思い出します。生命力に満ち、薫り高く新鮮な声。こうした響きに合う役柄こそ彼女が本領を聴かせられるところで、逆に言えば段々とドラマティックな路線を志向していったドニゼッティの音楽などは、彼女の判断では自らの適性に対して“濃過ぎる”と感じていたのかもしれません。彼女のジョヴァンナ(G.ドニゼッティ『アンナ・ボレーナ』)やエリザベッタ(同『マリア・ステュアルダ』)が聴いてみたくなかったかと言えば嘘になりますが、重たい役柄へとシフトしていかなかったからこそ聴けた歌もたくさんあると思いますし、その選択に誤りはなかったのではないかと(こうした傾向にもかかわらず、スズキ(G.プッチーニ『蝶々夫人』)を録音しているのは、一方で非常に興味深いですが)。

同年代で同じくロッシーニ再評価の嚆矢となったホーンの力強く逞しいと較べると、ベルガンサはより女性的で華やかな印象を与える声です。この声の性格の差は、そのまま演じる役どころの差に繋がっていて、ホーンがズボン役の方で評価の高い録音が多いのに対し、ベルガンサはヒロイン役として多くの名盤に登場しています。ロッシーニ・メゾの3大ヒロインと言ってもいいロジーナ(『セビリャの理髪師』)、イザベッラ(『アルジェのイタリア女』)、そしてアンジェリーナ(『チェネレントラ』)のいずれでも素晴らしい録音を遺している歌手は意外と少ないでしょう。確かにホーンやバルツァも遺してはいますが、3つの役全てで高い評価、というところまではいっていないように思います。また、この声を考えればモーツァルトでの活躍も肯けるもの。或意味で伊的になり過ぎない古雅な味わいがあるのです。その味わいは、繰り返しになりますが、彼女の声の持つ程よいコクやかろみ、品のある格調高い歌をつくれる歌心によって生み出されるものなのでしょう。また、それらにも増してヒロインたちを魅力的に聴かせる才能があります。勝気で明るくて小股の切れ上がった良い女を、からりと演じる姐御らしさが堪らないのです。

そんな彼女がカルメンを全曲正規に遺していると言うのは、一見するとかなり意外な気もします。しかしこの録音を聴けば、この役からこんな魅力を引き出すこともできるのかと、目からならず耳から鱗が落ちること請け合いです。ここで彼女が描いているのは、普通我々が想像するような異様な人、ファム=ファタルではなく、一女性、若々しい魅力に溢れた普通の女です。媚薬のような強い色気を漂わせるのでなく、等身大の女性として構築されたフレッシュなカルメンを創りあげたことは、彼女の大きな業績でしょう。
これを聴くともう少し仏ものにも進出して欲しかったな、とも思ったりする訳ですが笑。

<アキレス腱>
やはりホーンのようなドスの効く方ではなかったので、ロッシーニでも男役は(達者ではありますが)違和感を受けます。華やか過ぎる、女性的すぎる印象です。同じ男役でもモーツァルトについては思わないのですが。
この人も基本的には自分の本領を飛び出たり、或いは自分の持ち味が活かせないと彼女が判断した役は遺していないようで、なにを聴いてもあまり不満は感じないんですよね(笑)

<音源紹介>
・ロジーナ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
ヴァルヴィーゾ指揮/ベネッリ、コレナ、ギャウロフ、アウセンシ、マラグー共演/ナポリ・ロッシーニ劇場交響楽団&合唱団/1964年録音
>個人的にはこの役のベストは彼女、その中でも最良の演奏ではないかと思っています。アバド盤の方が有名で確かにいい演奏だとは思うのですが、こちらの方がより若いころの彼女の溌溂とした活きのいい歌を楽しむことができる気がするのです。歌い口もかわいらしく且つきりっとしていて、勝気でお茶目なお嬢様そのもの。ロジーナその人と言ってもいいような魅力的な演唱を、ヴァルヴィーゾの勢いのある指揮が盛り立てています。他の演奏を聴いた後に戻ってきたときに、「これだよこれ!」というような安心感を与えてくれるような演奏です。ちょっとなよっとしてはいるものの大アリアまで聴かせて呉れるベネッリ、オモシロ大王コレナ、牛刀で鶏を割く豪快さが却って笑いを誘うギャウロフ、名脇役マラグーと共演もお見事(アウセンシは今ひとつなのですが)。個人的にはスタジオ録音で最もヴィヴィッドな力に溢れた演奏ではないかと^^

・イザベッラ(G.ロッシーニ『アルジェのイタリア女』)
ヴァルヴィーゾ指揮/コレナ、アルヴァ、パネライ、モンタルソロ共演/フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団/1963年録音
>このロッシーニの中でも指折りのバカバカしい作品のオモシロさを、きちんと伝えて呉れる録音は実はそう多くはないのですが、これはそうした録音の最右翼と言える音源でしょう。この作品のミソはムスタファがしっかりとバットを振り切ったアホっぽさを披露することと、それときっちりコントラストがつくように、イザベッラが才気煥発、頼りがいがあって極上の美人になりきることですが、ここでのベルガンサの歌唱はまさに百点満点です。小股の切れ上がった粋でカッコいい姐さんで実に痛快。その頭の回転の良さそうな感じが厭味にならないのは、彼女の才能、或いは人柄のなせる技なのでしょう。対するコレナがまた百点満点のすっとぼけムスタファ。アルヴァ、パネライ、モンタルソロと端々までしっかりスペシャリストで揃えた上に、名匠ヴァルヴィーゾの采配ですからぐうの音も出ません。ロッシーニの愉悦にどっぷりと浸かれること請け合いです。

・アンジェリーナ(G.ロッシーニ『チェネレントラ』)
アバド指揮/アルヴァ、モンタルソロ、カペッキ、トラーマ共演/LSO&スコティッシュ・オペラ合唱団/1971年録音
>上記2役に較べると、少し淑やかでおっとりした清純な印象の役ですが、ここでベルガンサははっきりと別の役作りをしています。ロジーナやイザベッラでのドタバタ喜劇らしい押しの強さは影を潜め、大人しくて優しいけれども、頭がよくて芯の強い、ヒロインらしいヒロインを好演しています。こういう役では、彼女の歌の品の良さ、格調の高さが大きなプラスになります。アバドの指揮もここではきびきびしていますし、典雅な響きを聴かせるアルヴァ、憎めないキャラを作るカペッキと共演もお見事ですが、中でもモンタルソロの至藝が素晴らしい!強欲で小心、理想的なマニフィコです。

・ケルビーノ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
ジュリーニ指揮/コレナ、ブラン、シュヴァルツコップフ、セーデールストレム、キュエノー共演/フィルハーモニア管弦楽団&合唱団/1961年録音
>クレンペラーの全曲盤でも、あの超低速の中で巧みな歌を聴かせているのですが、私自身はこちらの瑞々しい歌唱が好みです。テンポもあらまほしきものだし、ライヴらしいノリもいい。彼女らしい非常に丁寧な歌唱で余計なことは一切していないのにも拘らず、元気いっぱいでどこかあどけなさすら感じさせる美少年の姿をきちんと想起させます。やわらかではあるんだけれどもぎっしりと実の詰まった充実した歌声も堪りません。共演もみな立派ですが、特にブランのノーブルな演唱がいい。

・ドラベッラ(W.A.モーツァルト『女はみんなこうしたもの』)
ショルティ指揮/ローレンガー、デイヴィース、クラウゼ、バキエ、ベルビエ共演/LPO&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1973-1974年録音
>苦手意識を持っていた演目なのですが、楽しく聴けたのは名脇役バキエ&ベルビエの力が大きく、ひたすらに音楽が美しいことを感じさせたのが主役4人でした。ドラベッラの方が気性の激しい音楽がついているように思いますが、彼女はそうした面を出しつつも、下品になり過ぎない歌をうたっていて好印象を受けます。ドラベッラもまた良家の娘なのだ、ということを感じさせる歌唱ですね。同じく西国の名花ローレンガーとの相性も良く、重唱が非常に美しい……男声陣とも相性ばっちりです。

・セスト(W.A.モーツァルト『皇帝ティートの慈悲』)
ベーム指揮/シュライアー、ヴァラディ、マティス、シルム、アダム共演/ドレスデン国立管弦楽団&ライプツィヒ放送合唱団/1979年録音
>一転してセリアの役どころですが、こうした役でもまた彼女は実力を発揮します。脂気の少ないすきっとした響きの声、小回りは効くけれども決して鋭利になり過ぎない技巧、そして端正で品位のある歌が、古風で厳粛な作品に非常に映えます。アリアではバセット・ホルンのパートが渋い音色で細やかな動きをするのに対し、同じように細かな動きを華やかな色彩で描いているのが耳にとても心地いいです。女声の多い演目ですが、歌手同士の色合いのバランスもよく、特にヴァラディは白眉。アダムも立派ですし、シュライアーも衰えはあるものの僕は悪くないと思います。ベームさえもう少し若ければ……!

・カルメン(G.ビゼー『カルメン』)
アバド指揮/ドミンゴ、ミルンズ、コトルバシュ共演/LSO、アンブロジアン・オペラ合唱団&ジョージ・ワトソンカレッジ少年合唱団/1977年録音
>超名盤。手垢がつきまくり、あまりにも固定化していたこの演目のイメージをがらりと刷新すべくアバドが奮闘した演奏。初めて聴いた時、嗚呼この演目こんなにもさっぱりとした音楽としても楽しむことができるんだなあとしみじみ感じ入りました。中でも特筆すべきはベルガンサ演じるカルメンでしょう。殊更に色気をふりまかない、健康的でどこにでもいる魅惑的な一女性カルメンというのは、ありそうでなかったアプローチだったのだと思います。彼女が普通の若い女だからこそ、よりストレートにこの物語の悲劇性が伝わってきます。ややヒロイック過ぎるものの後半の役作りが秀でたドミンゴ、男ぶりのいいミルンズ、彼女のベストと言ってもいいコトルバシュなど共演も揃っていますが、やはりアバドの采配が一番お見事かも。

・ペリコール(J.オッフェンバック『ペリコール』)2022.2.15追記
プラッソン指揮/カレーラス、バキエ、セネシャル、トランポン、コマン共演/トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団&合唱団/1982年録音
>明るくて身軽な藝風を考えるとちょっと意外なのですが、彼女のオッフェンバックはそう多くはありません。恐らく代表盤と言えるこの演奏が西語圏の南米を舞台としているというのは、プラッソンの慧眼ではないでしょうか。彼女が歌うことによって、単に魅力的ですよねというところを超えた底知れない、釘付けにされるような愛嬌、カルメンに通づるような女性性が宿るように思うのです。それも胃がもたれるようなエロティシズムではなく、あくまで健康的で等身大な媚態を、自然に、嫌味なく振り撒くことができてしまう。これはベルガンサと、相方役としてのカレーラスがあってこそのものでしょう。彼らを取り巻くメンバーがバキエやセネシャル、トランポンといったオペレッタの達人であるからこそこの音盤の面白さが生まれていると言っても過言ではないでしょう。
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Pachycephalosaurus

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パキケファロサウルス
Pachycephalosaurus wyomingensis

有名な割に折り紙作品の少ない恐竜だと思います。

頭突きをするというので有名ではありますが、結構化石が少くてわかっていることがあまりない恐竜でもあります。

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どうしても頭の印象が強いせいか、頭をごっつり折って身体は適当に胡麻菓してしまいそうになりますが、近縁な連中の化石を参考にすると、どうやら体つきも相当オカシい。
前から見るとかなり横に張り出して丸々としたボディラインです。この作品ではそこの特徴を出したいなと(^^)本当はもう少し背中側が丸い感じなんで、そのあたりは今後の課題かな。

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ホマロケファレなどでは尾の筋肉が骨化しているので、尻尾を太めでしなりの少ない直線的な形に仕上げています。

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いろいろな要素は盛り込めたのですが、ちと紙が足りなくて前肢が短いです。もう少しこれが長くできれば、もうちょっといいバランスなのですが。
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ミツクリザメ 2014

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ミツクリザメ
Mitsukurina owstoni
2014 version

全っ然別の作品を今作っていて、それの本折りをしよう~とかって思っていたのですが笑。

一昨日から葛西臨海水族園で、深海の貴重なサメ、ミツクリザメが公開されています。過去の飼育の最長記録は2週間だそうで、今回こそ長く生きて呉れればと思う一方、そんなに長くないかもしれないと言うことで昨日急遽実物を観て参りました!
実は生きたミツクリザメを観るのは2度目。八景島シーパラダイスで11匹もの個体が展示されたときに観に行きました。しかし、私が到着したのは展示3日目の夕刻、死んでしまった1匹とほぼ死んでいる1匹が転がっているという状態でした。ただ、その分口の周りなどが観察できて、それはそれでかなり面白かったのですが^^

今回初めて生きて泳いでいる姿を観て、旧作に手を入れよう!と思いを新たにした次第です。

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この魚自体の詳しい話は旧作の記事をご覧いただければと思います。
生きている姿を観てみて印象的だったのは、よく話題になる物凄い面構えではなく、ゆったりと優美に尾を横に振って泳ぐ姿でした。旧作作成時点で尾が短い印象はあったのですが、泳ぐ姿を観て、ここは直さなければと拘った部分。優雅な感じが出ていればいいのですが。

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また、折角直すのであれ最大の特徴である口周りももっとリアルなものにしたいと思ってかなり手を入れています。具体的には歯をきちんと折り込んだのがひとつ。それから、現物を観るとかなり鼻が印象的なので、それを新たに加えています。目っぽく見えてしまっているのですが、このくりくりが鼻の孔。
改作してかなり気に入った出来になりました^^
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