Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第四夜/20世紀の証人~

前世紀の最高のメゾ・ソプラノです。1910年生れで、このひとは大変長生きし、亡くなったのはつい2年前。
100歳を1週間後に控えた2010年5月5日のことです。
20世紀のオペラ史を語るうえで欠かせない彼女は、その後のオペラ界をどう見ていたのか。聞くところによるとあんまり好意的ではなかったようですが、本当のところその変遷をどう考えていたのか、ちょっと興味のあるところではあります。

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Azucena

ジュリエッタ・シミオナート
(Giulietta Simionato)
1910~2010
Mezzo Soprano
Italy


コンクールで優勝して注目を集めるも、第2次世界大戦下の伊国ではファシストの息のかかった歌手ばかりが重用されて苦難の日々を送ります。尤もこの時代があったからこそ、戦後あちこちで活躍できた訳ではあるのですが。

戦後C.L.A.トマの『ミニョン』で一躍人気を博すと、瞬く間に世界の頂点に登り詰めて遅咲きの大輪の花を咲かせます。カラスやバスティアニーニをはじめさまざまな歌手との競演に彩られた彼女の藝歴は敢えてここに書くまでもありません。
彼女は考えてみれば自分よりひと世代若い歌手たちとともに歌っていた訳ですが、録音で聴く限り年齢による遜色は全くと言っていいほど感じませんね(^^;

とは言っても歌劇界のスーパー・スターとして世界で活躍するというのはやはり大変なことのようで、後年のインタヴューでは、あの時期はあまりに大変で苦しくてあまり覚えていないという趣旨の発言もしています。一方で、イタリア歌劇団として来日した際の日本人の鑑賞態度、熱狂を非常に好意的に回想したインタヴューもあります。多少のリップ・サーヴィスはあるでしょうけども、ちょっとうれしいですよね^^

<ここがすごい!>
やはりそのベルベットのような美声に言及しない訳にはいきません。
低めの、何とも艶のある色っぽい声。こういう魅力はソプラノからは感じられないものですし、メゾのなかでも低めの声を持っているひとに特有のものでしょう。一筋縄ではいかない、そんな感じの役をやるにはうってつけです。

幅広いレパートリーに対応できる表現力・演技力にも注目せねばなりません。
例えばG.F.F.ヴェルディ『アイーダ』のアムネリスやG.ドニゼッティ『ラ=ファヴォリータ』のレオノーラ・ディ=グスマンでは気高く誇り高いなかにも、人間的な弱さを感じられる女性ですし、G.ビゼー『カルメン』の題名役やC.サン=サーンス『サムソンとデリラ』のデリラでは近づいたらヤバそうなファム=ファタル。
強調したいのは、最近の歌手はどっちかって言うと舞台の上での演劇としての演技力に傾注している感がありますが(それの是非はひとまず置きますけれども)、シミオナートは歌で、演技し表現することのできる歌手なのです。音源で歌を聴けばすべてがわかる、伝わってくる。そういう人です。

なかでも特におススメしたいのはG.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』での圧倒的なアズチェーナ。この役に関しては僕のなかではこのひとに代わり得るひとは、あとはフェドーラ・バルビエーリぐらいでしょうか。物凄い迫力で存在感抜群。このオペラ筋のなかでもこのアズチェーナが訳わかんないことするやつなんですが、そんなこと関係なく説得力のあるキャラクターを打ち出してきます。

<ここは微妙かも(^^;>
このひとも何を聴いても素晴らしいです(笑)ってか初回はそういうひとになりますね、どの声部も(^^;

より卓越したコロラテューラの技術を持った後の時代の歌手を聴いている耳からすると、 G.ロッシーニの諸役では不満が残ります。この時代としてはロッシーニのブッファでヒロインなども随分やっていたということですが、どうしてもロッシーニ・ルネサンス以降のひとではないので。

<オススメ音源♪>
・アズチェーナ(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』)
クレヴァ指揮/ベルゴンツィ、ステッラ、バスティアニーニ、ウィルダーマン共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱/1960年録音
>シミオナートはいくつかのセッションでこの役を残していますが、これは特に絶対の自信を持っておススメするライヴ録音です!!スタジオ録音でも彼女の良さというのは十分感じられるのですが、やはりライヴ録音だとその盛り上がり方が違います。スイッチ入っちゃった感じ(笑)同じくスイッチの入っちゃってる他の共演者、そしてクレヴァの熱い指揮もあって伊ものの醍醐味を味わえる録音となっています。特にバスティアニーニとの対決は聴きもの。このひとのできるライヴのこの曲だと有名なカラヤンのがありますが、あれよりもよっぽど楽しめますよ♪

・ミニョン (C.L.A.トマ『ミニョン』)
・カルメン(G.ビゼー『カルメン』)
(ごめんなさい詳細が分かりません)
>ミニョンは全曲もありますが、かなり音が悪くてちょっと鑑賞するのがしんどい代物なので、アリア集に入ってる有名なロマンス“君よ知るや南の国”を聴いてみてください。シミオナートが最も愛したという役だといわれているだけあって、情感を込めて歌いこんでいます。カルメンは来日公演でやっていますが、残念ながら全曲の正規録音はありません。とはいえ、“ハバネラ”を聴くと陽気ながらも油断ならないファム=ファタルという印象を受けます。

・アムネリス(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
カラヤン指揮/テバルディ、ベルゴンツィ、マックニール、ヴァン=ミル、コレナ、デ=パルマ共演/WPO&ウィーン楽友協会合唱団/1959年録音
ごめんなさい、これは全曲聴けてないんですが(どうにもマックニールがネックで苦笑)、聴きました。アムネリスの出てくる場面については最高です。非常に優雅で気品のある王女。烈女、という感じのコッソットや独特の雰囲気を出すゴールとはまた違ったキャラクターを打ち出しています。
(2014.3.18追記)
と書いていた訳なんですが、どっちかっていうとこの音源そのものがシミオナートを聴くものですね^^;世紀の名盤扱いをされていますが、個人的にはフォン=カラヤンの主張し過ぎで歌手ないがしろな指揮は好きになれませんでした。確かに凱旋の場とかはキンキラキンで格好いいんですが、『ドン・カルロ』などでは比較的成功していた“声楽付交響曲”のような音楽づくりが、ここでは完全に足を引っ張っています。テバルディは明らかに不調、ベルゴンツィはいつもながら端整な歌ですが指揮のせいで印象薄、ヴァン=ミルも個性に乏しく、マックニールは論外と言う中で、コレナとデ=パルマがやたらに巧い。そして、我を通す大指揮者にただ一人楯突いて自らの本分を発揮しているのがシミオナート、という印象です。この人が出てくるとカラヤン何するものぞ、と一気に伊ものの歌の世界が広がりますし、テバルディやベルゴンツィも本調子を取り戻すようです。役作りなども先述のとおりもちろん素晴らしいですし、この人の地力と影響力を或る意味で感じさせる音盤とも言えるのかもしれません。

・レオノーラ・ディ=グスマン(G.ドニゼッティ『ラ=ファヴォリータ』)
エレーデ指揮/ポッジ、バスティアニーニ、ハインズ共演/フィレンツェ5月音楽祭交響楽団&合唱団/1955年録音
>これは長らく廃盤になっていましたが、『ラ=ファヴォリータ』の名盤のひとつです。この役を得意としたコッソットが若々しい女性として演じていたのとはちょうど対照的に、シミオナートは深い響きのある声を駆使して、より成熟した大人の女性として演じています。姐さん、って言う感じ。ポッジも明るい伊声だし、匂い立つバスティアニーニ、重厚なハインズと共演陣も充実。

・アダルジーザ(V.ベッリーニ『ノルマ』)2014.3.18追記
ヴォットー指揮/カラス、デル=モナコ、ザッカリア共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1955年録音
>不滅の名盤。音質が悪いと言う世評で聴いてこなかったことを激しく後悔した歴史的超名演。今日的な耳でこれがベッリーニかと言われると違うのでしょうが、小難しいこと抜きに普遍的に楽しめる演奏ではないかと。シミオナートは、濃密な歌声と言い歌唱の集中度の高さと言い録音史上最高のアダルジーザのひとりでしょう。何より情熱的でありながらも、ノルマの前で一歩退くことを知っている理知的で控えめな女性としての役作りが冴え渡っています。カラス、デル=モナコとの重唱での凝集された演奏は、これ以上のものは望めないと思います。そのカラスもデル=モナコも遺された音源の中では最上の出来、ザッカリアの如何にも異教徒の長らしい荒々しさ、そして名匠ヴォットーの音楽づくりも優れています。是非一聴を!
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