Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

第1回十字軍のロンバルディア人

第1回十字軍のロンバルディア人
I lombardi alla prima crociata
1843年初演
原作:トンマーゾ・グロッシ
台本:テミストクレ・ソレーラ

<主要人物>
アルヴィーノ(T)…ミラノ領主ファルコの上の息子。かつて絶世の美女ヴィクリンダをめぐってパガーノと骨肉の争いをし、最終的に彼女を娶った。という経緯を聞くと立派な声のテノールがやりそうだが、第2テノール。けど第1テノールより歌う場面多いんじゃないの?結構第1テノールに比べて遜色ある人だったりするんだなぁ。イメージ違うなぁ。
パガーノ(B)…実質的な主役。ミラノ領主ファルコの下の息子。ヴィクリンダをめぐる争いに敗れたことを根に持っており、兄の暗殺を企てるが、誤って父を殺してしまい、隠者になる。いつ見ても波瀾万丈。は、いいんだけどあんたころころ人が変わり過ぎでないかい?アリアが2つあったりはするんだが、正直もう少し音楽的に活躍して呉れてもいい役。
ヴィクリンダ(S)…アルヴィーノの妻。上記のような経緯で絶世の美女のソプラノと言えば大活躍しそうだが、気がついたら死んでるというなんかおいしくない役。っていうかこんなおいしい設定作ったなら活用しなさいよソレーラさん。
ジゼルダ(S)…アルヴィーノとヴィクリンダの娘。一応美しい、のかな?よくわからないけど一応この作品のヒロインで、イスラームの囚われの身になってるうちにイスラームの王子(=オロンテ)を彼氏にしちゃうすごい女(まあイスラームはハーレムだからね)。母親に比べて設定的には普通だが、キャラクターは激しい。歌はむちゃんこ難しく、タイプの違う3つのアリアをこなさなければならない。
ピッロ(B)…パガーノの部下。パガーノに手を貸したせいでこのひとの人生もいつ見ても波瀾万丈。しかも出番少なくてあんまりおいしくない。上司に恵まれなかったら、スタ○フサービス。
アッチャーノ(B)…アンティオキア王。イスラーム。迫力ある音楽に乗って荒々しく登場するので思わず先の展開を期待するが、登場はその場面のみで気づいたら死んでる何かかわいそうな王様。
ソフィーア(Ms)…アッチャーノの妃。密かにキリスト教に改宗している。夫と同じく出番はほぼ一瞬。
オロンテ(T)…アッチャーノとソフィーアの息子で、ジゼルダの戀人。何度あらすじを読んでも話の筋の上ではアルヴィーノの方が大事だし出番も多そうな気がするんだけど、なぜだかやたらいい音楽が割り当てられた第1テノール。途中の改宗の場面は愛のためとはいえホントにそれでいいんかい?と思ってしまうが、まあここの音楽は最高なので良しとしましょう。

<音楽>
・前奏曲
○第1幕
・導入の合唱とジゼルダ、ヴィクリンダ、アルヴィーノ、パガーノ、ピッロの5重唱
・パガーノのアリア
・ジゼルダのアヴェ・マリア
・フィナーレ

○第2幕
・導入の合唱
・オロンテのカヴァティーナ
・パガーノの祈りと十字軍行進曲
・合唱
・ジゼルダのアリア

○第3幕
・巡礼の合唱
・ジゼルダとオロンテの2重唱
・アルヴィーノのアリア
・間奏曲
・ジゼルダ、オロンテ、パガーノの3重唱

○第4幕
・導入曲
・ジゼルダの夢
・フィナーレ

<ひとこと>
「『ナブッコ』で勢いに乗ったヴェルディが、同じパターンで2匹目の泥鰌を狙って当てた作品」、というような文脈で語られることが多いですが、似ている部分もたくさんあるものの、どうしてどうして『ナブッコ』とは異なる要素も多い作品だと思います。似ている部分としては、まずは何と言ってもその合唱の多用でしょうか。あからさまに“行け、我が想いよ”に似た曲もありますし、それ以外の合唱単体のナンバーも多い。それにアリアや2重唱でも少なからず合唱が絡んできます。そしてブンチャカした作風。これは『ナブッコ』と『ロンバルディア人』に限らず、初期ヴェルディを通した特徴です(や、もっと広く見て中期に亘るまでの特徴と見てもいいかもしれませんが)。異なる部分としては、主役級に求められる声、具体的にいえばテノールの扱いが大きく違うと言っていいと思います。と言っても第2テノールのアルヴィーノに当てられた音楽はイズマエーレと同じような雰囲気があります(彼に当てられたアリアはイズマエーレのソロと合唱のからみと近い関係と言っていいと思います)。重要なのは第1テノールでしょう。彼の歌う有名なカヴァティーナと続くカバレッタは、ゴリゴリとした力押し一辺倒だった『ナブッコ』の音楽には見られない優美なものです。それ以外の彼に与え足られた音楽も、改宗の場面の3重唱やジゼルダの夢の場面での舞台裏からの歌など非『ナブッコ』的な音楽が並びますし、それらはいずれも作品のハイライトとも言うべき名旋律です。特に改宗の3重唱はこの時期のヴェルディが描いた音楽の中でも指折りの物だと思います。また、興味深いのはその3重唱の直前の間奏曲で、これはヴァイオリンの小協奏曲とでも言うべき内容の代物。後にも先にもヴェルディは似たようなものは作っていなかったと思うので、これは実験的な試みだったのだろうと思います。ヴァイオリン・ソロは、続く3重唱の中でも活躍します。

物語の主役と言うべきは、上にも書いたとおりやはりパガーノでしょう。憎しみに満ちた男が改心し、異教徒だった男を天に導き、自らも戦い傷ついて、最後には赦されて死んでいくというのが話のひとつの筋だと見えるからです。ただ、その描かれ方が極めて大雑把なので、あまり主役感がないのも事実でしょう。1幕で邪悪な怒りに満ちていたパガーノは、2幕ではすっかり改心して徳の高い隠者になっています。さきほどの筋書きを本当に大事にするなら、パガーノが苦悩しながら尊敬される隠者になって行く過程が絶対に必要ですが、そのあたりの描写はさっぱりありません。なので彼のキャラクターはかなり唐突なものになってしまっている訳ですし、それがないがためにあまりこの人に没入できない感じになってしまっています。その違和感を匿すことは無理にしても、大して気にはならない程度にするためには、歌手にそれを押し返すだけの魅力がないと、と言うところでしょうか。1幕と2幕以降の描き分けは最低限として、少なくとも場面場面での人物像に説得力を持たせられる程度の演技力は必要です。また、音楽的にはジゼルダの方が圧倒的に華やか且つ技巧的、しかもオロンテには有名なカヴァティーナもありますから、歌にも声にも相当の魅力が無ければ他の役に喰われてしまいます。おいしいんだかおいしくないんだか^^;でもそれらをクリアできる有能なバス歌手がいればぐっと良さが増します。つけられている音楽も地味ながらなかなかカッコいい。アリアは天国的な女声合唱とコントラストのついた不穏な感じのするカヴァティーナとこのことのヴェルディらしい豪快お気楽カバレッタ。悪くない曲ですが個人的にはゆったりしたテンポ運びの中でドラマティックに盛り上がる祈りの方が好みかも。アンサンブルでの出番は思うほど多くないですが、やはり作品のハイライトである改宗の3重唱は特筆すべきものでしょう。

物語上のもう一人の主役、と言えるのはジゼルダでしょうか。音楽的にはアヴェ・マリアがあり、カヴァティーナ=カバレッタのアリアあり、壮絶な夢のカバレッタありとアリアも厄介だし、重唱も結構あるしと完全に主役です。アビガイッレに比べれば随分普通なお姫様とは言え、単純に難しいことに加えて、力強さも無いと十字軍を非難するカバレッタなどは聴き劣りがしてしまうでしょう。ただ、役柄的にはそんなに演じ甲斐のある感じでもないかな、と言うのが正直なところ。とにかくまずは与えられた超絶技巧的な音楽をこなせればいい役ではあると思います。というか、それがまずかなり難しい。ここも力量のある歌手が必要です。

音楽全体に『ナブッコ』とは違う彩りを添えているオロンテは、物語的には全くの添え物^^;せめて改宗に際してもう少し思い悩んで呉れれば大見栄切って主役、と言えるのですが…というかもう少し愛と自分の立場や宗教との間で悩んでくださいよwしかしキャラクターとしてはがっかりな出来でも音楽的には非常に素晴らしいことに変わりはなく、実際スター・テノールたちがこの役を歌っています。少なくとも魅力的な声で整った歌が歌える人でなければ務まりません。

流れ的にはオロンテよりも大事そうな第2テノール、アルヴィーノは、キャラクターの描かれ方としてそんなに大事にはされてません。一応十字軍の指揮官なんだけどな^^;とは言え第2テノールとは言いながらも、音楽的には脇役と言うよりは准主役の扱いです。オロンテと比べたらいい曲は与えられていませんが、ある程度以上の力量は欲しいところです。

『ナブッコ』同様登場回数の多い合唱も、音楽面での活躍が多いので頑張って欲しいところです。合唱単体の曲でなくても、例えば先にも挙げたパガーノのアリアの裏の合唱などピンポイントで魅力的な音楽を受け持っている部分もあります。ただ、一方で『ナブッコ』よりは、物語に積極的に登場する“主役”という印象はありません。

<参考音源>
○ランベルト・ガルデッリ指揮/アルヴィーノ…ジェローム・ロ=モナコ/パガーノ…ルッジェーロ・ライモンディ/ヴィクリンダ…デスデモーナ・マルヴィシ/ジゼルダ…クリスティナ・ドイテコム/ピッロ…スタッフォード・ディーン/アッチャーノ…クリフォード・グラント/ソフィア…モンセラ・アパリチ/オロンテ…プラシド・ドミンゴ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団
>まずはこの音盤が一番勧めやすいかな、というところ。ドイテコムのクリスタルな声はやはり夜の女王とかに向いている気がしていて、伊もの、特にヴェルディでは違和感は拭えないのですが、歌唱そのものは称賛すべきものでしょう。初期ヴェルディの熱気とはちょっと種類が違うような気はしますが、あたかも氷の女王のような冷たい迫力には圧倒されますし、技術的にも申し分ありません。ドミンゴは流石器用人と言うところで、この役にぴたりとハマってる、とは言わないものの水準は高いものでしょう。ロ=モナコはこの中ではちょっと非力な印象になってしまいます。このなかで独り圧倒的に素晴らしいのはライモンディでしょう。輝きに満ちた力強い声!彼の声はこのころの録音がピークでしょうか。しかしそれは単なる美声の垂れ流しではなく、知的な役作りが非常に冴えています。これだけの完成度なら、パガーノが主役と大見栄切って言える、蓋し名唱でしょう。

○ジャナンドレア・ガヴァッツェーニ指揮/アルヴィーノ…ウンベルト・グリッリ/パガーノ…ルッジェーロ・ライモンディ/ヴィクリンダ…アンナ・ディ=スタジオ/ジゼルダ…レナータ・スコット/ピッロ…マリオ・リナウド/アッチャーノ…アルフレード・コレッラ/ソフィア…ソフィア・メッツェッティ/オロンテ…ルチアーノ・パヴァロッティ/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団
>ライヴ録音を聴きなれている方であればこれが一押しです。カットがぽろぽろあるのは残念ですが、全体の出来はこちらの方が上記の録音より優れていると思います。如何にスタジオのドイテコムが優れていても、ヴェルディ作品でしかもライヴとなればどうしてもスコットに軍配が上がります。必ずしも絶好調ではないのかヴァリアンテで入れている高音とか、彼女ならもっとできそうな気もするのですが、それでも白熱した気合の歌唱。十字軍を非難する部分など手に汗握ります。そしてベル・カントの匂いのするオロンテならドミンゴよりもパヴァロッティでしょう。スタジオ録音ではかなり遅きに失した感のあるパヴァちゃんもこのころはいくらでも声が出る感じ。彼のライヴものでも指折りの歌だと思います。カヴァティーナの柔らかな歌ももちろんですが、カバレッタ2回目(カットしてない!)でのヴァリアンテの高音には痺れます。アルヴィーノのグリッリは言及されることの少ない歌手ですが、隠れた実力者でオロンテでも十分いけると思います。美声ですし歌心もあれば、軽いながらもパワーも十分で、この役としては十分以上の働きをしていると思います(彼の録音ならもうひとつ、G.ドニゼッティ『ベリザリオ』も素晴らしいです)。設定がおいしすぎるチョイ役ヴィクリンダに名脇役ディ=スタジオも嬉しいところ。そしてここでもライモンディ!スタジオ録音に勝るとも劣らない完璧な歌をここでも披露してくれています。他のメンバーの平均点が上がっても存在感の強さは変わらぬまま!文句ない主役の歌唱だと思います。実はパガーノがライモンディではない録音もいくつかあるのですが、僕が知る限り全体通してこれだけの歌唱を聴かせて呉れるのは彼だけです。
スポンサーサイト

Viva! VERDI! | コメント:2 | トラックバック:0 |
<<オペラなひと♪千夜一夜 ~第四十二夜/愛すべきエンターテイナー~ | ホーム | かはくの展示から~第20回/オオバタグルミ~>>

コメント

はじめまして。突然で失礼します。
失礼ついでに申しますと、Basilioさんの文章、いいですねぇ、好きです。

ホントに数年ぶりに聴いて、おっ!こんなに味わい深くもおもしろい曲(と演奏)だったのか・・・と感慨を新たにしていたところ、偶然このブログで取り上げられていたので思わずコメントしてしまいました。

ヴェルディ【十字軍の~】レヴァイン指揮パバロッティ、ジューン・アンダーソン、レイミーの演奏CD全曲です。

 これが自分のこの曲の(総合点で)ベストのCD全曲なんです。

 マクベスも好きな曲なのでBasilioさん絶賛の全曲CDである『ライブ盤ムーティ指揮、ブルーゾン、スコットetc.』の全曲CDをアマゾンとhmvオンラインで調べましたが、現在、廃盤中でした。残念!

イタリアopera全曲を、自室で聴き続けて40数年がたちます。
 ジャズとオペラを中心に聴き続けて、未だに飽きずに聴いてるのは、自分でも不思議・・・他は何にも長続きしたことないまま62歳になってしまいました(笑)

 おっと、ズイブン長く書いてしまいました。ご迷惑かけました。では
2013-07-14 Sun 00:38 | URL | 南天の実 [ 編集 ]
はじめまして^^ようこそ!
お褒めにあずかり恐縮ですmm

実は私もこの作品、ヴェルディの中ではあまり印象に残っていない方だったので、今回改めて聴いて良い部分がたくさんあるんで、自分の不明を恥じた次第です苦笑。

例のマクベスは私も中古屋で偶然見つけて飛びついたような代物ですので、なかなか見つけづらいかもしれません…
2013-07-15 Mon 11:31 | URL | Basilio [ 編集 ]

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

| ホーム |