Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第四十二夜/愛すべきエンターテイナー~

生粋の伊人ながら日本での舞台を愛し、毎年来日してくれる旬の名歌手を。

Siragusa.jpg

アントニーノ・シラグーザ
(Antonino Siragusa)
1964~
Tenor
Italy

愛されるキャラクターと類稀なる美声、そして確実なテクニックで日本のファンを魅了する現代のスターです。彼のリサイタルに行けば、楽しい気持ちで帰れること請け合い!ロッシーニやドニゼッティを愛するのであれば、彼の来日は外せないでしょう。

ペーザロのフェスティヴァルなどでも高水準の歌唱を披露し、国際的に活躍している筈です。が、彼が日本贔屓なのもあってか、特に日本で人気があるようです(ネットで見た話ですが全然渡英しないから英国では全く無名だとか)。
ひとつには、日本のファンに愛されている自覚があるのかもしれません。彼が日本でもそこまで有名でなかった頃、当時すでに有名だったフローレス(もう2度とは来日しないだろう男!)がアルマヴィーヴァ伯爵(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)を大アリアつきで歌ったその数ヶ月後、軽々とその大アリア入りで披露したと言います。しかもこの話はそれだけではなく、別キャストで組まれていたテノールが体調不良により僅か幕で降板したため、4日連続でこの役を歌い、しかも4日連続であの至難のアリアを歌ってのけたのだとか!そりゃあたくさんファンもつくと言うもの!笑

それ以降何度も来日し、G.ロッシーニ『チェネレントラ』のドン・ラミーロを歌った時には超絶技巧アリアをアンコールしたとか、あの不幸な2011年に多くの歌手のキャンセルが相次いだ中、不調を押して難役アルトゥーロ(V.ベッリーニ『清教徒』)をこなしてくれたとか、我々はファンとして足を向けて寝られない存在だと思います。

これだけ日本を愛して呉れてるんだから、せめて日本語版Wikipediaにページぐらいは誰か作りましょうよ^^;

ちなみに、もともとはギタリストが本職だったとかで、アルマヴィーヴァを歌う機会があると毎度自分でギターを弾きながらセレナーデを歌って呉れます(^^)これはいつもアンコールにも混ぜて呉れるのでいつもお得な気分になります笑。聴くところによるとこの役についてはギターを弾けるかで仕事を受けるか決めているのだとか。

<ここがすごい!>
このコーナーでは珍しく、私は彼の実演に都合4回触れています。
そのたびに思うのですが、彼は当然歌や声も魅力的なのですが、何といってもそのステージ・パフォーマンスの良さ、お人柄の良さから来るものだと言っていいのではないかと思います。私が足を運んでいるのが、リサイタル2回とブッファ2つ(『セビリャ』とG.ドニゼッティ『愛の妙薬』)だということはもちろんあると思うのですが、彼の舞台はとにかく楽しい!行くといつも、うきうきしたいい気分で返ってくることができます。挙措動作のひとつひとつから、お客さんをうんと楽しませよう、自分もうんと楽しもうということが滲み出ていて、飽きさせません。昨日(2013/0710)のリサイタルなどもまさにそういった感じで、彼が出てくると曲間も目が離せない!何かしら常に面白いことをしようとしているようで、始終ピアニストにも絡んでいきますし、アンコールとなれば客席まで下りてお客さんにもどんどん攻めていきます(笑)そして、それが絶妙。こういうのが舞台感覚の良さ、というのでしょうか、何をやっても面白いのです。尤も、これをふざけてると取る“真面目な聴き手”の方々も日本には多いようですが(かつてカペッキのフィガロやロッシ=レメーニのバジリオを非難された向きはいまだに一定数いそう)、ヌッチもそうですけど、こういう姿勢こそ聴衆を大事にする姿勢だと思うのです。音楽家である以上高水準な藝術としての音楽を聴かせることももちろん大事な仕事ですが、舞台人である以上聴衆を楽しませるのもだいじな仕事だからです。

また、彼がエンターテイナーとして優れているなと思うのは、自分の持ち味、自分の土俵をしっかり弁えたうえで舞台に臨んでいる点です。
実は、私が初めて彼のリサイタルに行った時、彼は絶不調でした。振り返って今までに見た中でも最も調子が悪かった。しかし、そのリサイタルの充実度は決して低いものではありませんでした。それは彼が自分自身の持ち味をよくわかった上で歌っていたからで、そのときは高らかに高音を張ることはなく、むしろ繊細で柔らかなppを多用していました。もしこの弱音がしょぼかったからみんなガッカリして帰る訳ですが、それが非常に素晴らしい!うっとりしてしまうような、まさに天国的な表現で、聴衆を魅了していました。これを聴いて非常に球種が多く、自分の調子によってアプローチを変えられる本当の意味でのプロなんだな、と思ったものです。その後絶好調の演奏を聴いてその考えは確信に変わっています。

その全体の意味でのパフォーマンスの良さ、そして自分の藝術をよくわかったコントロールの良さという2つの秀でたプロ意識があった上に、透き通った明るい伊的な美声と歌の端正さ、更には高音や転がしをものともしない優れた技術が乗っかっています。この上に乗っている声や歌、技術の良さだけでもこの人は十分勝負できる人ですし、多くの歌手はそこで勝負をする訳ですが、その台座の部分が彼にとっては大いなる+αになっています。これはある種天性のものと言ってもいいのかもしれません。
スター気取りの歌手は今も昔もあちこちにいますが、個人的には、本当の意味でのスターと言うのは、彼のような人物なのではないかと、接するたびに思います。

だんだんと声も重たくなってきて、新たなジャンルを開拓していきそうです。昨日のリサイタルでも予想以上にアルフレード(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)が素晴らしかったですし、今後も注目していきたいところ。

<ここは微妙かも(^^;>
彼のキャラクターによって相当隠されてしまいますが(本当に得な人!)、意外と波はあるようです。これはリサイタルのパンフにあった話ですが、意外と(予想通り?!)練習嫌いなのだそうで、ボイトレを怠けてるときは調子が出ないのだとか。というか逆にいえばボイトレしてないで自分流にやってあれだけすらすら声が出てしまうんかい!というのがまたびっくりだったりしてしまう訳ですがw
自分の適正はよくわかっている人でそういう意味では心配いらない人なので、懸念があるとするならば、練習ちゃんとしてね、というところでしょうか(笑)

あと、非常に残念なのですがCDが少ない…下での紹介もこれだけ好きな歌手なのですが貧弱で申し訳ないです。新国立で素晴らしかったネモリーノ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)やリサイタルで最高だったトニオ(G.ドニゼッティ『連隊の娘』)あたり入れて呉れないかな、と心から思うのですが。

<オススメ録音♪>
・アルマヴィーヴァ伯爵(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
ヴィオッティ指揮/ポルヴェレッリ、シュレーダー、デ=シモーネ、ギャウロフ共演/フェニーチェ劇場合唱団&管弦楽団/2003年録音
>名盤。シラグーザに限るのなら超名盤と言ってもいいかもしれません。彼は録音史上に残る伯爵だと思います。歌も確かにものすごく、特に大アリアは圧巻の一言ですが、録音ながら彼のコメディ・センスが楽しめるのも嬉しいところ^^当然ご自身で弾いてらっしゃるセレナーデは東京でもやりましたが後半いきなりフラメンコ調にしてみたりで、聴いてるこちらも笑みが零れます(そう言えばこの人はこの曲とかグラナダとか普通の人はウケを狙わないところでウケを狙って、しかもそれを外さないのもすごいとこですねw)ギャウロフは2004年に亡くなっているので最晩年の記録で、流石に声の衰えは顕著ですが、その声の巨大さは健在(出演者中最大ww)で存在感のあるバジリオ。シュレーダーはよく歌っていますが、たぶんこのひとはセリア向きでしょう。ポルヴェレッリはいまひとつ調子が悪そうで残念。バルトロにデ=シモーネを配した録音は少なくありませんが、僕は好きではないです。歌唱技術は立派なものだと思うのですが、声が高め軽めでそれっぽくないのです。シュレーダーが落ち着いたバリトンだけにフィガロよりバルトロの方が若く聴こえてしまうのはちょっと…(苦笑)

・ドン・ラミーロ(G.ロッシーニ『チェネレントラ』)
リッツィ指揮/カサロヴァ、デ=シモーネ、チェルノフ、ペッキオーリ共演/ミュンヘン放送管弦楽団&バイエルン放送合唱団/2005年録音
>名盤と言っていいでしょう。十八番のロッシーニですし、それも日本ではアリアをアンコールしたドン・ラミーロですから、自家薬籠中の歌唱を楽しむことができます。軽やかで清潔で明るい美声は、同じく美声ながらもやや癖のあるフローレスよりもいいかもしれません。カサロヴァもこのころがベストだろうな、と思われる演唱で技巧もきっちりしていますし、声もいい。低音ではアリドーロのペッキオーリがスマートな歌唱で魅力的。チェルノフはもう少し自己主張があってもいい気もしますが、まずまず。デ=シモーネはここでも若々しすぎる声で、バルトロよりはましとはいえ、マニフィコでも?歌唱技術自体はあるので、むしろそれこそダンディー二の方が向いているような気がします。

・エルネスト(G.ドニゼッティ『ドン・パスクァーレ』)
コルステン指揮/コルベッリ、メイ、デ=カンディア共演/カリアリ歌劇場管弦楽団&合唱団/2002年録音
>名盤。シラグーザの透き通るような美声が楽しめます。そしてこれは映像も出ているので、彼の演技達者なところを目で楽しむこともできます。特に1幕のコルベッリとの絡みなんかは楽しそうにブッフォの演技をしていて、観ているこちらも思わずにんまりしてしまいます笑。アリアの最後の音もオクターヴ上げてびしっと聴かせます。歌唱はもちろん予想以上のコメディエンヌっぷりを発揮するメイとざっつ・ブッフォという容貌と演技のデ=カンディアも楽しいです。コルベッリは悪かろうはずがありませんが(デ=カンディアとの重唱での表情ったら!)、このひとはどちらかというと小狡い感じの第2バス(ダンディーニや、それこそマラテスタ!)の方があっているような気がします。十分水準以上なんですけどね^^;

・ネモリーノ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
・アルトゥーロ・タルボ(V.ベッリーニ『清教徒』)
・リヌッチョ(G.プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』)
・トニオ(G.ドニゼッティ『連隊の娘』)
ピアノ伴奏スカレーラ/2002年録音
>デビュー・アルバムですがこれは超名盤(髪も生えてます!www)。若々しくて艶のある、しかしやわらかな彼の美声を思う存分楽しむことができます。中でも素晴らしいのは上記のあたりでしょうか。やはりベル・カントものが並ぶ中でリヌッチョがちょっと特殊ですが、これがまた非常に彼にあってる!(とはいえ実はこれよりも来日リサイタルの方が完成度が更に高く、彼自身が音楽と一体化した印象を受けた訳ですが)。予想通りと言えば予想通りですが美しい旋律線を描くネモリーノやアルトゥーロは絶品!そして圧倒的なトニオ!悪名高きHigh-C8連発(実質は最後も上げるので9連発ですが)も余裕綽々です(こちらは来日では片足立ちでHigh-Cを出して会場をあっと言わせましたねw)いずれも全曲で入れて呉れる日が来ないものでしょうか。。。
2015.6.27追記
・リヌッチョ(G.ドニゼッティ『ジャンニ・スキッキ』)
ヴァイケルト指揮/ヌッチ、ピッツェリダー共演/ヴィーン国立歌劇場管弦楽団/2003年録音
>全曲入手しました!出番はほぼ前出のアルバムに出ていたアリアだけなのではありますが、何よりも全曲のライヴ音源ですし、オケ伴奏でもあります。という心持で聴いてみるたわけですが、これがまた来日リサイタルに勝るとも劣らない完成度の高い歌唱!この人の中で確実にこの役は完成していると言いますか、ある意味殆ど素のまま演じられているのではないかというぐらい、彼がリヌッチョその人であるかのようなパフォーマンスです。ひょっとすると彼の魅力を一番引き出す役かもしれません。共演はラウレッタのピッツェリダーがはっきり言っていまいちですが、それ以外は素晴らしい。特に題名役のヌッチの千両役者ぶりが心地いいです。
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