Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第四十三夜/ブッフォの王様~

ふと思い立ってこのシリーズの目次を見直して愕然としたのは、ここまで紹介しているのって殆どセリアで活躍してる人ばっかりなんですね^^;
や、もちろんカペッキとかペルトゥージとかバルトリとかシラグーザとかもブッファでも聴かせる人なのですが、ざっつ・ブッファというような、喜劇のひとは登場していないなと。私自身はロッシーニやドニゼッティのブッファは大好きなので、これは由々しき事態!誰か紹介せねばなりますまい!
さあ誰から始めましょう?モンタルソロか?ダーラか?プラティコか?コルベッリか?いえいえ、彼らももちろん卓越したブッフォですが、ここはやはり彼からでしょう。

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Don Pasquale

フェルナンド・コレナ
(Fernando Corena)
1916~1984
Bass
Turkey, Switzerland

土人の父(本当は綴りはKorenaなのだとか)と伊人の母の間に瑞西で生まれたバスです。もともとは神学を専攻し司祭になろうとしていた(後の世から見るとこの事実ですら笑える設定のように思えてくる訳ですが!w)のですが、伊人の指揮者ヴィットリオ・グイに見出され、本格的なオペラ歌手を目指します。
当初はスパラフチレ(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)、エスカミーリョ(G.ビゼー『カルメン』)、それにスカルピア男爵(G.プッチーニ『トスカ』)あたりの“普通の”バス、バリトンの役を中心にしていたそうですが、鳴かず飛ばず。レパートリーを徐々にブッフォへと移行していたのだそうです。今となっては、逆に彼のスパラフチレやらエスカミーリョやらスカルピアやらを聴いてみたいような気もしますが(笑)、もし彼がそっち方面で成功していたら録音史に残る名ブッフォは登場しなかったかもしれない訳で、人生と言うのはわからないものです。彼ぐらいうまくて声のいい人がどうしてまた鳴かず飛ばずだったのか、と思うところもある訳ですが、やはりそこはブッファ向きの歌、声だったということなのでしょう。

希代のブッフォとして知られる彼ですし、私の認識としてもまたそういう歌手な訳ですが、実はレパートリーはかなり広大で、準主役~脇役として歌っている録音もまた大量にあります。それも悲劇・喜劇問わずです。そういう意味では脇役歌手としての彼の業績と言うのもまた、外せないものです。

<ここがすごい!>
まずは何と言ってもそのユニークな存在感を挙げるべきでしょう。や、本当にオモシロいんです(笑)
喜劇的な役どころとして何が大事かといえば、まずはそこにいるだけでなんとなく空気が浮き立つような存在感です。いるだけで笑えるっていうやつですね。もちろんCDで聴いたりする時にはいるかどうかなんてのはわからない訳ですが、この人の場合は第一声を発した瞬間から、「あ、いる(笑)」という感じが漂ってきます。場面が進んで彼の喋りなり歌なりが増えてくると、もう堪りません!聴きながら、彼の世界にぐんぐん惹きこまれ、思わずにやけてしまう。まさに至藝と言うべきでしょう。
演じる役が演じる役ですから、多くの他の歌手と同じように、彼もまた必ずしも楽譜通りではなく、外すところは外し、遊ぶところは遊んでやっている訳で、例えば声色を変えたり楽譜とは違うかたちで歌ったりするのですけれども、それがまったくスベらない。これはもう、本当にオモシロい。しかも品が悪くならない!天性のコメディアンなのでしょう。まったく演技功者。

声質の点でも彼は非常に独特です。彼のようなブッフォ系のバスやバリトンだと、必ずしも美声である必要は無くて、ダーラも美声とはちょっと違うし、プラティコに至っては濁声であるからこその歌、キャラづくりをしていますが、コレナの場合はまず美声と言って差し支えない声です。明朗ということばがよく似合う、明るくて輝かしい声!ただ、それはシリアスな大役といった風情の声ではなく、まあるく響く声。同じ美声でも冷たくて厳かな声ではなく、非常に人間くさい、とっつきやすい声です。ちょっとうまく言えないのですが、まろやかな響きがあるんですよね。本当に彼以外にああいう声の人というのは、ちょっと思いつかない^^;敢えて言うならば、則巻千兵衛をやっているときの内海賢二は近いかもしれません(わかんないよって笑)
とにかくですね、いい声なんですが喜劇っぽい感じなんですね!←雑なまとめ

当たり役は、何といってもまずはドン・バルトロ!(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)この役のスペシャリストとしてスタジオでもライヴでも数多くの録音がありますが、やはり秀逸です。もちろんW.A.モーツァルトの方のバルトロも素晴らしいし、ドゥルカマーラ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)、ドン・パスクァーレ(同『ドン・パスクァーレ』)、それにムスタファ(G.ロッシーニ『アルジェのイタリア女』)もオモシロいことこの上なく、忘れられない演唱です。

もちろん上記の功績は大変輝かしいですが、その一方で数多くの脇役をこなしていることについても触れなくてはなりません。
よくよく彼のディスコグラフィを見てみると、まあ小さい役もたくさんやっています。その中には当然彼の持ち味を活かせるコミカルなものもたくさんありますが、そうではない役、例えばモンテローネ伯爵(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)、エジプト王(同『アイーダ』)、ロドヴィーゴ(同『オテロ』)、ゲッスレル(G.ロッシーニ『グリエルモ・テル』)、ショーナール(G.プッチーニ『ラ=ボエーム』/ブノワ&アルチンドロのイメージが強いですがこんなんもやってるんですね!ww)なんていうものも含まれます。いずれも小さいながらも重要な役で、ピリッと全体を〆ています。こうした小さいけれども重要な彩りを添える役にたくさんのオファーがあるのは、やはり彼の個性的な声と持ち味が当時非常に買われていたからでしょうし、今の我々から聴いても、それは十分に納得できます。このシリーズではどちらかというと主役を取るような歌手のご紹介がどうしても多くなりますが、いい脇役がいなければいい公演は成り立たないんだよなぁということを思い出させて呉れるひとでもあるのです(いつかデ=パルマ、クラバッシ、ディ=スタジオあたりで記事を書くという野望もあるのですが…まあまだ先かなぁw)。

<ここは微妙かも(^^;>
藝達者でセンスもいいので、この系統の人では珍しくやり過ぎって感じはほとんど無いです。と言う訳で殆ど欠点らしい欠点は無いようにも思うのですが、敢えて言うなら高音にちょっと難があるかな~いいことなんですが自分が勝負できる音域以上のところは出さないですから、そういう意味ではやや物足りなく思うものもあるかも。

あとは存在感があり過ぎて主役を喰ってる時もありますが…それは彼のせいと言うよりは存在感の無い主役のせいですわなww

<オススメ録音♪>
・ドン・バルトロ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
ヴァルヴィーゾ指揮/ベルガンサ、ベネッリ、ギャウロフ、アウセンシ、マラグー共演/ナポリ・ロッシーニ劇場交響楽団&合唱団/1964年録音
>超名盤。ギャウロフのところでも紹介しましたが、バルトロ×バジリオのコンビに着目するならこの音盤が最高だと思います。バルトロの音源はいくつかありますが、彼の持ち味が一番出ているのはこれではないかと。当然ながらアリアも文句ない出来栄えですが、レチタティーヴォがまたゲラゲラ笑えます!このぐらいバス2人が極端に異なる性格の名手だと彼らがむしろ主役みたいですらある訳ですがw指揮を含め共演はアウセンシを除けば素晴らしい演奏だと言うのは、もう何度もこのblogで言及したとおり。

・ドン・パスクァーレ(G.ドニゼッティ『ドン・パスクァーレ』)
ムーティ指揮/パネライ、ボッタッツォ、レヴァリア共演/WPO&ヴィーン国立歌劇場合唱団/1971年録音
>これはいくつか録音があって、どれを立てるかな~というところ。スタジオ録音は当然ながら一番音がいい訳ですが、割と共演が大人しくて伊的なばかばかしさが薄まってしまっている感じ(クラウゼはじめ立派な歌唱なのですが)。カペッキ、クラウスとの共演は理想的ですがyoutubeで聴く限り音質がイマイチで、特にこの作品のクライマックスである早口2重唱はオケに声が埋没してしまって残念。ということでこいつを。何といってもコレナ×パネライの早口2重唱が圧倒的にオモシロいです!やはりこのぐらいすかっとブッファをやって呉れると爽快。コレナもスタジオより客席を前にしている方が派手にサーヴィスして呉れてます。パネライも藝達者!このひとはある意味“普通の人”をやらせると一番味の出るバリトンですね。カットは多いのですがムーティの指揮は若いころながら流石。戀人たちがいまひとつキャラが薄いのが残念です。

・ドゥルカマーラ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
モリナーリ=プラデッリ指揮/ディ=ステファノ、ギュ―デン、カペッキ共演/フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団/1966年録音
>世評ほど素晴らしい音源だとは思わないのですが、彼のドゥルカマーラをステレオで聴けると言うのはやはり大きいです。何といってもこの役がオモシロくなければこの作品は面白くないし、ここでの歌唱は全く素晴らしい!この人を聴いてるだけで笑みが零れます。言葉数が多い一方でたっぷりと歌っても欲しいと言うハイレベルな要求を軽々とクリアし、更に彼らしいオモシロみも出しています。残念ながら共演がイマイチ感があって、カペッキは十分楽しいのですがどっちかっていうとドゥルカマーラの方が合ってるし、ギュ―デンは技術はあるけれども独的な鋭い声でもうひとつ。世評の高いディ=ステファノのネモリーノは、キャラは兎も角どうもあの喉を絞めるような声がここでも興を殺ぎます。

・ムスタファ(G.ロッシーニ『アルジェのイタリア女』)
ヴァルヴィーゾ指揮/ベルガンサ、アルヴァ、パネライ、モンタルソロ共演/フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団/1963年録音
>不滅の名盤。ばかばかしい作品を思いっきりばかばかしくやっています!こんだけはっちゃけて呉れればもう言うことはありません!特に彼の傲慢で鼻の下の伸びきった、けれども愛嬌のあるムスタファは空前絶後の出来と言ってもいいのではないでしょうか。抜群の存在感で、全編ひたすらオモシロいです(ちなみにコレナはアリア集ではタッデーオのアリアも歌っていて、こちらも絶品!)。タッデーオはTHE普通の人パネライ、ここでもとんでもない事態に巻き込まれちゃった普通の人をとぼけた感じでやっていてこちらも笑えます。リンドーロのアルヴァも流石当時のロッシーニ・テノールの第一人者という出来なので、パッパ・ターチの3重唱の可笑しいことと言ったら!若々しくて色気のあるベルガンサがまた最高の出来で、これだけ魅力的なイザベラならそりゃあたくさん男も引っかかるでしょうよ、と(笑)アーリーにはもったいないぐらいのモンタルソロが脇を支え、名匠ヴァルヴィーゾが愉悦に富んだ音楽づくりと来れば無敵の布陣。この作品を愛したスタンダールも満足の出来栄えでしょう。

・フィガロ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
ジュリーニ指揮/ブラン、シュヴァルツコップフ、セーデルストレム、ベルガンサ、キュエノー共演/フィルハーモニア管弦楽団&合唱団/1961年録音
>隠れ名盤でしょう。この作品では圧倒的にバルトロを演じることが多かったであろうコレナがフィガロを演じた貴重な記録です。彼らしいユーモアたっぷりのフィガロは、一般的なイメージとはちょっと違うかもしれませんがこれはこれで楽しい(^^)ブランのノーブルな伯爵やフレッシュなベルガンサのケルビーノなど他ではあまり聴くことができない、しかも質の高い共演陣も混ざっていて一聴の価値ありです!

・マテュー(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)
ガヴァッツェーニ指揮/デル=モナコ、テバルディ、バスティアニーニ共演/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団/1959年録音
>文句ない不滅の名盤でしょう。主役3人が素晴らしいのは最早言わずともがな(というかそれぞれのところで紹介しましたね笑)ですが、この音盤は脇にも彼のような大物をポンと使っているところ。出番も僅かなコミック・リリーフですが、いい味出しています。この役にこれだけの存在感が出せるのは彼だけだと思います。

・モンテローネ伯爵(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)
エレーデ指揮/プロッティ、デル=モナコ、ギュ―デン、シミオナート、シエピ共演/ローマ聖チェチリア音楽院管弦楽団&合唱団/1954年録音
>超有名スター揃い踏みですが普通こんなキャスティングしないよっていうデル=モナコの公爵が良くも悪くもブッファとは違う意味でオモシロ過ぎて珍盤になっている音源ですwwwここではコレナはシリアスどころのモンテローネ伯爵を演じている訳ですが、ここでは愉快痛快路線には当然走らず、小さいながらも作品の鍵となる役をびしっと決めています。やあ、藝が広い。脇役歌手としても面目躍如です。オモシロ公爵デル=モナコをどう評価するかは人によりけりですが、他のキャストは異質な感が否めないギュ―デンを除けば流石に見事、言うことありません。
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