Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第四十四夜/烈女~

前回とは打って変わって再びシリアス系のひとを。

というかですね~今回はメゾなんですけど、なんでか知りませんがメゾはおっかない系のひとの登場確率が非常に高いんですね^^;シミオナートとかバルビエーリとかゴールとかドマシェンコとか…で、今回もご覧のとおりのタイトルで、ご多分に漏れず、というところ。
ま、メゾはおっかない役が多い訳ですから、それはどちらかと言えばプラスな要素ではある訳ですがw

Cossotto.jpg


フィオレンツァ・コッソット
(Fiorenza Cossotto)
1935~
Mezzo Soprano
Italy

と言う訳でコッソットです。
一口にメゾのおっかない系の役と言っても、ざっくりでいけば3パターンに分かれるような気がしていて、ひとつが異形の者と言うべき常人離れした人物(例えばアズチェーナ)、ひとつがファム=ファタル(カルメンとか)、もうひとつが特に戀敵に多い我の強い若い女かなと思っている訳ですが、彼女の場合は個人的にはこのうちの最後のジャンルのイメージが強いひとです。まぁ~兎に角気が強そうw

実際ものすごく気の強い人なのだそうで、リハなんかがうまく進まないとイライラしちゃって大変だったとか。元夫のバス歌手イーヴォ・ヴィンコ(クラバッシと並び、脇役歌手としては最高のバスの1人!このひとについてもいつか書きたい!)との間にはリハ中の笑ってしまうようなエピソード(呑気なヴィンコにコッソットのイライラが更に高まる系)も残っています。

バスティアニーニやカラスとの共演があるもんだから1920年代前半生まれみたいな気がしてきますが、とんでもない!随分若いです(笑)フレーニの1つ下、ブルゾンの1つ上、パヴァロッティやミルンズと同い年で、数年前には(いろいろな事情もあったようですが)来日してリサイタルをしたりオペラにも出ています。流石にもう相当お婆ちゃんでしたが(^^;まだ歌ってるのかな~。

<ここがすごい!>
変な話から始めますが、恥ずかしながら僕は最初コッソット聴いたときに、メゾだとは思いませんでした。てっきりソプラノかと…wもちろん低い方の声はしっかり出るし、そのあたりはメゾっぽい響きはあるのですが、僕の中でのメゾの声のイメージと言えば、さっき挙げたような歌手たちに代表されるような、音質からしてちょっと暗めで、倍音が多くてねっとりした感じ。で、そこからいくと彼女の声は物凄く明るくて、しかも澄んでいて、伊ものの美声のリリコのテノールやソプラノを聴いたときによく感じられる金属的な輝かしい響きのメゾというのが、なんとなくしっくりきていなかったんですね、物を知らないことに(^^;
ですが、コッソットのいろいろな音源を聴くうちに、彼女の煌びやかな声でこそ活きるメゾの役もたくさんあることに気づき、そうした役柄についてはいまでは彼女でなくては!と思うようにまでなってしまいました。特に素晴らしいのは戀敵!やはりオペラで描かれるような愛憎劇では、主人公たち以上にライヴァルが魅力的でなければ全然面白くない訳です。『サウンド・オヴ・ミュージック』の男爵夫人も魅力的じゃあないですか(笑)ああいうポジションのひと、筋から行けば悪役になってしまうのだけれども、報われない戀に悩むひとりの女性なんですよね。その悶々とした部分がまさに麗人というべき華やかな彼女の声で歌われることによって、むしろヒロインよりも肩入れしたくなってしまうような
憎たらしいけど魅力あるキャラクターになるのです。

声の輝かしさ、明るさへの言及が多くなりましたが、上記のような役でぴたっと来るのは、同時に彼女の声の持つ力強さを忘れてはなりません。まー強い声なんだこれがまた(笑)例えばヴァーグナー歌いのソプラノが持っている強靭さとはまた違う、1本芯が通っていると言いますか、強い意志を感じる声です。ソプラノの役柄でももちろん「強い女」、「できた女」っていうのはいない訳ではないですが、よりそうした感じがするのはメゾ、特にコッソットのような声は理想的だと言えるでしょう。

ヴェルディをはじめとするギラギラしたアツいイタオペにこそ、まさに打ってつけと言うところでしょう。そういう意味ではスペシャリストと言ってもいいかもしれません。

<ここは微妙かも(^^;>
あくまで私個人の意見ですが、やはり情熱的な戀敵のスペシャリスト的なところのあるひとなので、それ以外はちょっとどうかな~という部分があります。
例えば同じおっかない系でもアズチェーナは、世評こそ高いですが、何度聴いても僕の耳にはしっくりきません。や、いい声だし迫力も十分なんですよ。でもあのキャラクターのもつドロドロとした怨念とか怪しさと言うところで行くとあまりにも輝かしい。実はセラフィン盤を決定打にできないのは彼女が要因で、これがシミオナートやバルビエーリだったら!と思ってしまう。コッソットが凄まじい『イル・トロヴァトーレ』を聴くことができたので、認識が大分変わりました!とはいえこれも円熟してからの演奏で、やはりセラフィン盤での歌は何度聴いても若々し過ぎるし、歳が行ってからのほうがこの路線はいいですね(2014.8.20追記)。
ファム=ファタル系のカルメンも、妖艶な女の怖さというよりは、ホントにおっかないおねえちゃん(下手するとおばはん)になってしまうww
おっかない路線じゃないとなると更にキャラ違い度が上がっちゃいますね…ロジーナの怖いことと言ったら!本当に裏切ったら毒蛇になって来そうで、どう転んでもしおらしく私の幸せはどこに言ったの?なんて言いそうにないです(笑)
あ、けどズボン役はそれなりに聴かせますね!←微妙ポイントじゃない

<オススメ録音♪>
・アムネリス(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
アバド指揮/アローヨ、ドミンゴ、カプッチッリ、ギャウロフ、ローニ、デ=パルマ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1972年録音
ムーティ指揮/カバリエ、ドミンゴ、カプッチッリ、ギャウロフ、ローニ、マルティヌッチ共演/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団&合唱団/1974年録音
>いずれも甲乙つけがたい不滅の名盤。いや、メンバーも録音時期もほとんど同じなんで、最早これは趣味のレヴェルで、どっちの指揮が好みか、どっちのアイーダが好みか、そしてスタジオの音質とライヴの熱気のどっちを取るかという部分の差ぐらいしか無いでしょう。どちらにしてもアムネリスのコッソットは本当にすごい!若々しくて力強くて行動力がある、けれども人間的な脆さのあるアムネリスは、私の中ではベスト。もうコッソットのアムネリスかアムネリスのコッソットかという領域だと思います。特に後悔に暮れるアムネリスの後ろでラダメスの裁判が淡々と進行する場面は圧倒的です。この演目、個人的には主役はアムネリスだと思っているのですが、他のメンバーもこれだけ集めれば悪いはずがありません。ヴェルディ・ファンならどちらも必携でしょう。

・エボリ公女(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
サンティーニ指揮/クリストフ、ラボー、ステッラ、バスティアニーニ、ヴィンコ、マッダレーナ、デ=パルマ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団/1961年録音
>超名盤。コッソットがエボリをやっている『ドン・カルロ』はライヴを含めるとかなりの量がありますが、まずはこれかなと。或る意味もっと貴族的で、大人の女と言うべきアプローチが個人的には好みではあるのですが、そんな私的な嗜好を超えて彼女のエボリは素晴らしい!ここでも戀に悩む、若いひとりの女性としての面の強いエボリだと思います。気になるのはやはり全く逆の性格の2つの難アリアですが、華やかな声はヴェールの歌でも映えますし、圧倒的な迫力の美貌の歌には言葉もありません。残りのメンバーについてはいちいち言及しませんが、バランスが非常によく、決定盤のないこの作品の中ではかなり上位に来るのかなと。特にラボーは録音が圧倒的に少ないながらも、当たり役の本作で録音が残せて本当に良かったと思います。

・レオノーラ・ディ=グスマン(G.ドニゼッティ『ラ=ファヴォリータ』)
ボニング指揮/パヴァロッティ、バキエ、ギャウロフ、コトルバシュ、デ=パルマ共演/テアトロ・コムナーレ・ディ・ボローニャ交響楽団&合唱団/1974-1977年録音
>これも超名盤。これは戀敵ではなく芯のあるヒロインとしてのコッソットを楽しめる音盤です。当然ながら彼女のおっかなさは少し落ち着いていて、より一層悩める女性らしさが強調されているように思います。特に有名なアリアは絶品。ただ、残念なのは1幕の有名な重唱の終わりで盛大にフラットしていて気持ち悪いことになっていること。パヴァちゃんはちゃんと当ててるからね~ここだけ再録しようという話はなかったんだろうか(^^;美声で表現力のある共演陣に囲まれ、しかもカットも少ないので、荘重なアンサンブルが聴けるのも嬉しいところ。

・ユルバン(G.マイヤベーア『ユグノー教徒』)
ガヴァッツェーニ指揮/コレッリ、シミオナート、サザランド、ギャウロフ、トッツィ、ガンツァロッリ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1962年録音
>超名盤。ズボン役もひとつと言うことで^^小姓役と言うことで、この人がこんな小さな役やるんかい?!って言う感じではあるのですが、瑞々しい声で凛々しい!出番は必ずしも多くはないんですが、小さいながらも魅力的なアリアもあり、彼女にしては珍しいコミック・リリーフ的なこの役を爽やかに演じています。カットは多いですが、この綺羅星のようなメンバーを揃えた熱気あるライヴはやはりマイヤベーア好きとしては聴いておきたいですね。

・サントゥッツァ(P.マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』)2013.9.25追記
フォン=カラヤン指揮/ベルゴンツィ、グェルフィ共演/ミラノ・スカラ座歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>超名盤。コッソットと言えば迫力歌手と言うイメージがあり、尚且つこの役ですからNHKイタリア・オペラで見せたような大迫力演奏かと思いきや、フォン=カラヤンの音楽的なアプローチに乗って非常に美しい歌を聴かせています。ですから、ここでの白眉は有名な重唱やアリアではなく禱り。合唱をリードする彼女の声の美しさと切々とした表現には心を動かされます。共演も揃っていますし、オケと合唱も惚れ惚れするほど美しい!逆にここまでいくとヴェリズモなのかな?と思う部分もあります(科白浮いてるし(^^;)が、一聴の価値のある素晴らしい演奏です。

・アズチェーナ(G.F.F.ヴェルディ『イル・トロヴァトーレ』)2014.8.20録音
ムーティ指揮/コッスッタ、クルス=ロモ、マヌグエッラ、フェリン共演/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団&合唱団/1978年録音
>いやあ失礼ながら、コッソットのアズチェーナにこれだけ唸らされる時が来るとは正直思っていなかったです。彼女について言えば、天下の名盤セラフィン盤では明らかな若過ぎ、その一つ下の世代のこちらも豪華なメータ盤でもどろどろした情念が完全に出ているとは思えず、この役は結局いまいちなのかなあと思っていたのですが、ここでのパフォーマンスはもう凄まじいの一言!圧倒的な迫力と邪気で、総毛立つおぞましい歌を披露しています。特に自分の子どもを火にくべてしまったと歌う物語は、背筋まで震える強烈な完成度です。そりゃあこれなら満場大拍手だわwwwムーティ鬼の原典主義の走りで、カットはかなり少なくてありがたいし、このころはまだ熱気の感じられる音楽でそれは素晴らしいのですが、マンリーコのカバレッタのハイC全てカットとか興ざめなこともしています。録音の少ないコッスッタはロブストで力感漲るマンリーコなだけにこれは残念です。そのコッスッタをはじめ、共演陣もフェランドのフェリンにいたるまでライヴらしい熱の籠った歌唱でおススメできるライヴ録音です^^

・アダルジーザ(V.ベッリーニ『ノルマ』)2015.8.18追記
デ=ファブリティース指揮/ゲンジェル、リマリッリ、ヴィンコ共演/ボローニャ市立劇場管弦楽団&合唱団/1966年録音
>これ、言及されることこそ少ないですが、不滅の名盤です。絶好調のゲンジェルとコッソットががっぷり四つに組んで強烈な歌合戦をしており、『ノルマ』という作品を語るに於いて欠くことのできない録音になっていると言えると思います。ここでのコッソットは何と言ってもその声量が圧倒的で、ゲンジェルが相手になってですら単純にその声の力強い響きでは彼女が優っています。もちろん力押し一辺倒ののっぺりした歌ではなく、実に彼女らしいキレッキレの研ぎ澄まされた表現で、これ以上はないから口のアダルジーザ。スリオティスとのライヴ録音でのそれが可愛く思えてくるぐらいです。ヴィンコの堂々たるオロヴェーゾもずっしりと脇を〆る一方、リマリッリのポリオーネはやや単調で惜しい。とは言え、伊もの好きならばこれは絶対に聴いて欲しい!
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