Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第五夜/“アウラ”のある女~

ソプラノって実は長いこといまいち興味なかったんですよね(^^;
それなのにオペラ愛好家を気取るなんて何てやつだ!!と言われてもしょうがないぐらい(苦笑)まぁロッシーニもソプラノが嫌いだったそうですが。
でも、そんな僕でもこのひとは以前から凄いと思っていました。

Scotto2.jpg
Abigaille

レナータ・スコット
(Renata Scotto)
1934~
Soprano
Italy

彼女の演唱は大変素晴らしい。
このひとの歌を聴くと、最近話題に上りがちな、顔がなんだとか姿がなんだとかというのはどうでもよくなります。
もっと見栄えのいい歌手は今の時代いくらでもいますが、それよりもずっと真実味を以て本当の薄倖の麗人を描き出していきます。こういうところに総合藝術としてのオペラの凄さもあるんだろうな、と同時に思う訳です。

<ここがすごい!>
このひとは本来なら舞台で見るのが1番良かったに相違ないひとだと思っています。
もちろんその卓越した表現力や、きちんとした基礎に裏打ちされた技術を我々はいま録音でも享受することができますが、彼女の凄さを実感する録音にライブが多いことを考えるとそう思わざるを得ません。僕の知っている数少ない哲学者のW.ベンヤミンのことばを借りるなら“アウラ”がこのひとの芸術には宿っています。

話が逸れますが最近のポップスのライブには感心しません。ポップスの好き嫌いは別にして、演奏が良かろうが悪かろうがどのコンサートでもいつも観客は立ち上がって同じノリで盛り上がり、踊り、騒いでいます。あれならばライブで演奏するのではなくあの会場でアルバムのCDを大音声でかけても、もっと言えばうちでCDを聴いても変わらないでしょう。演奏はそのときそのときで出来不出来がありますし、演奏者はもちろんのこと、聴衆のノリもそのときそのときで違います。だからこそその場でしか味わえない“アウラ”があり、“アウラ”からこそコンサートに行く価値がある筈です。いまのポップスのコンサートではそれが台無しなように思えてなりません。

さて大きく逸れましたが、レナータ・スコットです。
彼女の演奏はどんな役のどんな歌を聴いても手抜かりをしているようなものは一切ないように、僕は感じます。1回1回の舞台、1つ1つの録音に全身全霊を傾けて演奏されている、そんな感じがするのです。音楽を多少なりともするひととしては、これはよく理想とされることだと思うのですが、やっぱりこれって難しいことでもある。むしろ難しいからこそ理想とされる。それができているのがこのひとの1番偉大なところではないでしょうか。言い換えれば1つ1つの演奏の“アウラ”をこのひとは大事にしていたのかなと。

だからそれがハマったときの素晴らしさは、私の筆の及ぶところではありません。手に入りやすいところで、尚且つ聴きやすいスタジオ録音でいけばヴォットー指揮G.ライモンディ、バスティアニーニ共演のG.F.F.ヴェルディ『椿姫』の哀切極まるヴィオレッタ、ムーティ指揮マヌグエラ、ギャウロフ共演の同じくG.F.F.ヴェルディ『ナブッコ』の最早破綻寸前のアビガイッレも最高です。

ライブで取るなら僕も全部はまだ観られていないのですが有名なNHK公演でクラウス、サッコマーニ、ギャウロフと共演したC.F.グノー『ファウスト』のマルゲリータ、それにベルゴンツィ、G.G.グェルフィ共演のG.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』のルチア、マイナー演目ながらクリストフ共演のG.マイアベーア『悪魔のロベール』のイザベラあたりはただただ感動するばかり。

<ここは微妙かも(^^;>
そうした“アウラ”のある歌手と言うことで、逆に言うと聴いてみて残念な思いをしたり、意外と感銘を受けなかったりするような録音もなくはありません。

でもここまで読んでくださった方にはわかっていただけると思いますが、その演奏だけで彼女を評価してはいけません(笑)

<オススメ録音♪>
・アビガイッレ (G.F.F.ヴェルディ『ナブッコ』)
ムーティ指揮/マヌグエッラ、ギャウロフ、ルケッティ、オブラスツォヴァ共演/ロンドン・フィル&アンブロジアン・オペラ合唱団/1977-1978年録音
>まさに絶唱の一言。個人的には特に有名なカバレッタ“今私は昇りはじめた”がおススメ。本来のスコットの声はこの役に適性のあるものではないと思うのですが、それでもなお、このアビガイッレは数ある『ナブッコ』の録音のなかでも最良のもののひとつでしょう。その破綻を恐れない歌唱は、まさに鬼気迫ると言った感があります。ムーティのサポートもこの頃は的確だと思いますし、尊大なマヌグエッラ、懐の大きなギャウロフはじめ共演陣も抜群。この作品のベスト盤のひとつでしょう。

・ヴィオレッタ・ヴァレリー(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
ヴォットー指揮/G.ライモンディ、バスティアニーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1962年録音
>最高のヴィオレッタのひとつだと個人的には思います。時にややきつめに響くことのあるスコットの声ですが、ここでは情感たっぷりでとても素敵。特に有名な1幕のアリア“ああ、そはかの人か”はカバレッタ含めておススメです。繰返しをカットしてしまってるけど4幕のアリアもいい。ここにスタイリッシュで若々しいG.ライモンディと、滴るような美声で流麗に歌うバスティアニーニ(父ジェルモンにはちょっとキャラ違いかもしれないが)が絡む名盤。

・マルゲリータ(C.F.グノー『ファウスト』)
エチュアン指揮/クラウス、ギャウロフ、サッコマーニ共演/N響&合唱団/1973年録音
>所謂「イタリアオペラ団」の中でも屈指の名演のひとつ。残念ながら私は抜粋版のCDしか持っていませんが、NHKがDVDも作っています。このなかでは、スコットは終幕フィナーレが本当に圧巻。クラウスやギャウロフが最早伴奏になってしまうような圧倒的な迫力でマルゲリータの昇天を歌いあげます。
追記:全曲観ました!いやぁ全編作られている音楽が本当に素晴らしくて、全く飽きさせません!スコットは教会の場やヴァランタンの死の場面での発狂など大袈裟ではないながらも十分な演技!しかしやはり最後が!仏ものがどうしても苦手なあなたもこの場面は是非ご覧いただきたい!

・ルチア(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
アバド指揮/G.ライモンディ、G.G.グェルフィ、A.フェリン、デ=パルマ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1967年録音
>これも単にスコットが素晴らしいというだけではなく、おそらく数あるルチアの中でも最高のライヴ録音のひとつだと思います。スコットは狂乱の場ももちろんですが、まず登場のアリアから尋常ではない雰囲気と緊張感で聴かせます。そしてここでも共演しているG.ライモンディは絶好調で2幕フィナーレは圧巻ですし、G.G.グェルフィも悪辣なエンリーコを作り上げています。

・シチリア王女イザベラ(G.マイアベーア『悪魔のロベール』)
サンツォーニョ指揮/クリストフ、メリーギ、マラグー、マンガノッティ共演/フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団&合唱団/1968年録音
>伊語歌唱ではあるものの、こうした珍しい作品を、最高の歌で聴くことができるというのは非常にありがたい。スコットは全く絶好調というべき完成度の高い演唱で、アリアで見せる高音のppなど息を飲んで聴いてしまう(そしてそのあと2分ぐらい拍手が止まらないというライヴ録音ww)。共演も、クリストフの悪魔はじめ非常にいい出来です。

・エレナ公女(G.F.F.ヴェルディ『シチリアの晩禱』)2012.11.27追記
ガヴァッツェーニ指揮/G.ライモンディ、カプッチッリ、R.ライモンディ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1970年録音
>これまた火を吹く名演。スコットが技術はもちろん表現も激烈で音源で聴いていてもゾクゾクしてくるほど。特に有名なボレロ“ありがとう、愛する友よ”は圧巻で、録音さえもう少しよければこの歌のベストと言ってもいいと思います。観衆の熱狂もさぞやと思いますが、スコット以外には割と冷淡。しかし、このメンバーはいずれも名唱だと思います。R.ライモンディはこういう若々しい役の方が合っているし、G.ライモンディも如何にも伊的な美声で楽しめます。カプッチッリの力演も悪かろうはずがありません。

・ルイザ・ミラー(G.F.F.ヴェルディ『ルイザ・ミラー』)2012.11.27追記
レヴァイン指揮/ドミンゴ、ミルンズ、ジャイオッティ、モリス、クラフト共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1979年録音
>こちらのスコットは序盤はいまいち冴えないんだけれども、2幕になってからの切れ味が尋常ではありません。特に2幕のアリアの凄さと言ったら!CDで聴いていても思わず手に汗握る最高の出来だと言っていいのではないでしょうか。そこに絡んでいくモリスも悪人らしさが滲み出た歌唱で悪くないですし、ミルンズとジャイオッティもいずれもスタジオ録音同様実力を遺憾なく発揮しています。加えてドミンゴが絶好調。損のない1枚です。

・マクベス夫人(G.F.F.ヴェルディ『マクベス』)2013.1.14追記
ムーティ指揮/ブルゾン、ロイド、シコフ、ティアー共演/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団/1981年録音
>これは目立たない存在ながら、不滅の名盤と言うべきもの。登場のアリアはもう一声と思ってしまうかもしれませんが、そのあとの鬼気迫る演唱!2幕のアリア以降は本当にゾクゾクしっぱなしです。アビガイッレと同じぐらい声には合っていないように思うのですが、そんなことはもはや問題ではないのですね。マクベス夫人というのはこういう役なんだと思い知らされます。歌うことに沿いながらも劇的な緊張感を失わないブルゾン、重厚かつ不吉な雰囲気を纏ったロイド、やや哭き過ぎながらも哀切極まる役どころを表現するシコフに、緊張感のあるムーティの音楽作り。これは是非聴いてください!

・ジュリエッタ(V.ベッリーニ『カプレーティとモンテッキ』)2014.9.12追記
アバド指揮/アラガル、パヴァロッティ、フェリン、モナケージ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1968年録音
>近年の目から見てベッリーニらしいとは必ずしも言えませんが、如何にも伊国的なパワーのある快演。ジュリエッタにスコットほどの強い声をあてる必要性云々いうひともいるかもしれませんが、ここでの彼女のキレッキレの歌唱はそういったものを度外視して評価したい気迫の籠ったもの。いつもながらその強靭かつ繊細なppでの高音!並みならぬ緊張感で聴き入ってしまいます。若いアバドのホットな指揮に、ベル・カントを体現するアラガルとパヴァロッティもgood!ロメオをテノールが歌っているところをはじめ現代では考えられないような部分もありますが、これはこういうものとして十二分に楽しめる記録かと^^

・ジゼルダ(G.F.F.ヴェルディ『第1回十字軍のロンバルディア人』)2015.9.9追記
ガヴァッツェーニ指揮/ライモンディ、パヴァロッティ、グリッリ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1969年録音
>或意味でこれ、スコットってすごいなあと思わせる録音です。ここでの彼女は、僕の印象としては必ずしもベストフォームではないかなと感じるのですが、それでもコントロールを失わないとかそういう次元ではなく、積極的に攻めの歌唱をしているんです!同時期のアビガイッレ等の陰に隠れているものの、演奏困難と言っていいこの役を、どうしてこれだけ歌いこなせるのかと唖然としてしまう勢い。特に終幕のカバレッタなどは、この曲の録音の中でもベストと言っていいのではないかと思います。ライモンディはじめ共演者も優れていますし、ガヴァッツェーニもホットな音楽で、おススメです^^
スポンサーサイト

オペラなひと | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<オペラなひと♪千夜一夜 ~第六夜/現代最高のフィリッポ~ | ホーム | かはくの展示から~第1回/フタバスズキリュウ~>>

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

| ホーム |