Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第六夜/現代最高のフィリッポ~

さてさて我が儘気儘に自分の趣向を書き散らして参りました本企画も、ひとまず前回ですべてのパートを巡ったと言うところ。

ちなみに、パートひと巡りひとセットのかたちでテーマを一応考えていこうと思っています。
※当初こういう予定だったのですが、某所での30回を数えたあたりで無理が出てきたので、こちらでの書き下ろしが始まったら、好きにやっていくつもりです^^

前回までは各パートで最も好きな歌手をムリヤリ選んで並べました次第。そしたら矢鱈古いひとばっかりで最早誰も現役で歌ってないし、鬼籍に入ってる方もいらっしゃるような感じになっちゃったので、今回はいま話題の歌手に注目していこうかなと。

で、第2クール最初はこのお方。

Furlanetto.jpg
Filippo II

フェルッチョ・フルラネット
(Ferruccio Furlanetto)
1949~
Bass
Italy


1949年生まれと言うことは2009年で還暦!
このひとが若い世代に見えていると言うと、如何に普段昔の録音ばかり聴いているかがわかってしまいますな(^^;

いまや大御所中の大御所、伊国生まれの現代のスターです。
特にG.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』のフィリッポ2世を歌わせたら当代随一と言われています。

当初はもっと軽い声が必要とされる作品で名を成したひとです。
有名なところで言えば、例えばW.A.モーツァルト『フィガロの結婚』のフィガロや、『ドン・ジョヴァンニ』のレポレロ、G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』のドン・バジリオあたりでしょうか。
このころの音楽を聴いてみると、後年ヴェルディで名を成す人とは思えない軽妙さ!
この変化がフルラネットの音楽を聴く上で、ひとつとても興味深いところでしょう。

<ここがすごい!>
まずはその分厚い独特の声質には注目すべきでしょうか。
所謂バスの美声と言うのとはまたちょっと違うような気はするのですが、何と言うか耳に残る声なんですよね。凄く深みがあって、どっちかというと硬い感じのする声。結構好き嫌いは分かれるかもしれません。

実は僕自身も最近まであまり好きな歌手でもありませんでした(^^;ま、その話は次のコーナーですることにしましょう。

しかし『ドン・カルロ』での最近のフィリッポを、それからA.ボーイトの『メフィストーフェレ』の題名役を見て、またG.F.F.ヴェルディの『ナブッコ』や『アッティラ』を聴いてこのひとやっぱり凄いひとだと認識したような次第。本当にあんたそこまでやって大丈夫なの?!っていうぐらい崩したり強い表現を使うんですが、そんなぎりぎりの表現が悪印象にならず、むしろそこまでやることで感動を与えているようでさえある。これはやっぱりなかなかできるものじゃない。

で、そこから逆に若いころの録音に立ち返って聴いてみたらいいんだよね、違う意味でww
この時代のヴェルディなんかを聴くと、やっぱりよくない。でも、ロッシーニやモーツァルトを聴くと抜群にいい。
ヴェルディに必要な声、歌ってものすごく油気の強い感じなんですね。それに比べるとロッシーニやモーツァルトはもっとすっきりした、或る意味で爽やかな声が求められる、生命力に溢れた音楽。若き日のフルラネットの声は、こうした音楽には、まさに最適。逆に言うと今の声でこうした音楽は、もちろん巧く歌うでしょうけど、若いころに比べると柄が大きくなりすぎてしまうのではないかと思います。

キャリアを進めるに従って、感銘を受ける役どころを大きく変えているのがとてもよくわかるフルラネット。
近年ではR.シュトラウス『薔薇の騎士』の超難役レルヒェナウのオックス男爵にも挑戦すると言うことで…ちょっと聴いてみたいところ。
これからも大注目の歌手です。

<ここは微妙かも(^^;>
そんな歌手ですから、合わない時期にやった役(多いのは、若き日のヴェルディ)なんかはもう一歩二歩踏み込んで欲しいものがある。端正に、立派に歌ってはいるんだけど、もう少し訴えてこない。
若いときのは崩したときは表現なのかな…なんか音の処理が綺麗じゃない感じがするのもあるんですよね。

あと、最近の様々な挑戦はわかるんだけど、基本は伊もののひとだなあとも思う。『イェヴゲニー・オネーギン』のグレーミン公爵なんかはあまりにも拠って立つ美学が違うなあと思う訳です…まあそうするとオックスもそうなんじゃないかという気もする訳ですが(^^;

<オススメ録音♪>
・フィリッポ2世(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
ガッティ指揮/ニール、チェドリンス、イェニス、ザージック、コチェルガ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/2008年録音
>フォン=カラヤンとかと残した昔のやつのほうがyoutubeの評価が何故か高いんだけど、最近のもののほうがずっと良いと思う。ということになるとこの映像。声自体は全盛期に比べて衰えているんだとは思うんだけど、フィリッポは声の若々しさを必ずしも必要とする役ではないし、この演唱の中に込められたダンディズムの極致、癖になります。実演に較べて精彩のないイェニス(スカラ座来日ではとても良かった!)と、声も歌も見てくれもいいところの全くないニール、美しい場面は美しいものの子供の使い方とかよく意味が分からない演出が大変残念。

・アッティラ(G.F.F.ヴェルディ『アッティラ』)
レンツェッティ指揮/テオドッシュウ、ガザーレ、サルトリ共演/トリエステ・ヴェルディ劇場管弦楽団&合唱団/2000年録音
>アリアをはじめ全体的にかなり荒っぽい表現をしてるんだけど、それによって、破竹の勢いで進行を進める力強い異民族の王に説得力が出せるのは凄いと思います。悪役なんだけど、英雄という感じがするのがこの役に必要な要素で、そこが弱いと台本自体が脆弱な作品ではあるから、どうしても説得力が落ちてしまう。だからこそギャウロフ、ライモンディ、レイミーと名だたる歌手がやっている訳だけれども、ここでのフルラネットは、そのなかでも或る意味でベストというべきものです。

・メフィストーフェレ(A.ボーイト『メフィストーフェレ』)
ランツァーニ指揮/フィリアノーティ、テオドッシュウ共演/パレルモ・マッシモ劇場管弦楽団&合唱団/2008年録音
>歌も演技ももちろんいいのだが、ここでは悪魔や修道士の扮装が実に嵌っていて観ていてとても楽しい作品になっていると思います(但し、4幕をラス・ベガスにしたのには納得がいかない)。他の歌手を圧倒する存在感で、公園全体の大黒柱になっている。あまり映像で見る機会のない作品ながら、非常に音楽の質は高いものなので、これをフルラネットの力演で観られるというのは嬉しいところ。

・ザッカリア(G.F.F.ヴェルディ『ナブッコ』)
オーレン指揮/ブルゾン、グレギーナ、アルミリアート、ザレンバ共演/東京交響楽団&オペラ・シンガーズ/1998年録音
>このあたりからフルラネットのヴェルディはだんだん良くなっていっているように思います。オーレンの熱っぽい音楽に乗って、フルラネット自身も大変熱演しています。ブルゾンの剛直なナブッコに、迫力満点のグレギーナの共演も嬉しい(グレギーナ、高音出てないが^^;)。これを東京でやっていたというのは…観たかった…泣。

・レポレロ(W.A.モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』)
フォン=カラヤン指揮/レイミー、ブルチュラーゼ、トモヴァ=シントヴァ、バルツァ、ヴァンベルイ共演/BPO&ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団/1985年録音
>個人的にはこれ歌ってるイメージが強いなあ笑。フィガロと並び、若いころの最大の当たり役のひとつと言っていいのではないかと思います。単なる道化役に堕すことはなく、ドン・ジョヴァンニをなんだかんだで慕い、つき従っていながら、その実非常に醒めた目で主人のことを観察している、腹に一物ありそうなレポレロですが、これはこれでありかと。というかレポレロは単なるブッフォじゃないと思うので、或る意味でいいところをついていると思います。フォン=カラヤンの指揮は重厚過ぎるかな…テンポ飛ばすとこは飛ばして欲しいし。共演は男性陣が強力。女性陣は評価が高いですが、どの人もちょっと違うような。

・ドン・バジリオ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
ヴァイケルト指揮/ブレイク、ヌッチ、ダーラ、バトル共演/メトロポリタン・オペラ管弦楽団&合唱団/1989年録音
>これも彼の若いころの記録として非常に楽しめるもの。ものすごい汚い格好のバジリオですが、出てきた瞬間から非常に素敵笑。声は大きいもののかなり小心なキャラクター作りも笑えますし、もちろん歌や声の良さは折り紙つき。バトル以外の共演陣も強力です(バトルも見た目の雰囲気はいいんだけどね)。
(2014.8.13追記)
アバド指揮/アライサ、ヌッチ、ヴァレンティーニ=テッラーニ、ダーラ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1981年録音
>伝説の来日公演。やっぱりロジーナはヴァレンティーニ=テッラーニのがうんといいですよ笑、アライサは歌えるのに大アリアはカットですが…しかし愉悦に溢れた素晴らしい演奏で、セビリャがお好きなら外せない音盤です。ここでもフルラネットは堂々たる大声で、小心者でセコいバジリオを演じていて笑えます。この人は深い声なんですが機動力もあるんですよね^^最低音こそ避けていますがそこはライヴですからご愛嬌。残るメンバーもみな当たり役で楽しめます!
(2014.8.13追記)
パッパーノ指揮/フローレス、ディ=ドナート、スパニョーリ、コルベッリ共演/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団/2009年録音
>良い演奏は多いながらも要素が多くてベスト盤がなかなかなかった本作の、これぞ決定盤と言えるのではないかと思う映像。現代的な優れたロッシーニ歌唱ができる上に演技も巧い歌唱陣(しかも見栄えも理想的!)に愉快な演出(初日に足を折ったディ=ドナートが車椅子で歌っているのも却って面白い効果を上げています)、パッパーノのフットワークの軽い音楽づくりと全てが揃っています。フルラネットに関して言えば、METの映像より足かけ20年!卓越したフィリッポ歌いとして世界中で評価されている今、改めてバジリオを演じるだなんて、それもこんなに個性的な役作りで登場するだなんて、誰が想像したでしょうか!METでも小心者っぽさが面白い感じでしたが、ここでの彼はそれを通り越して、ちょっと病んでそうと言いますか精神的にヤバそうなバジリオを怪演しています。終始何処かおどおどしていて落ち着かない、頼りない感じなのですが、例の陰口のアリアなどその本心が見え隠れするところでは、途端に大胆に、不気味な笑みを浮かべながらごり押ししてくる、そのギャップが凄まじいですwwアリアの最中に隙あらば逃げようとするコルベッリ(彼がまたここで無表情に、「考えるのを辞めた」顔に徹しているのがまた笑えます)を粘着質にひっ捕まえて引きずっていく姿がもうめちゃくちゃ面白い!wwwもちろん歌唱も彼らしいどっしりとした風格のあるものです。声はだいぶ重たくなっていますが、フットワークの軽さも健在で、舞台を盛り立てています。個人的には必見の映像と思います!

・ブロニ枢機卿(J.F.アレヴィ『ユダヤの女』) 2014.6.25追記
デ=アルメイダ指揮/カレーラス、ヴァラディ、ゴンザレス、アンダーソン共演/フィルハーモニア管弦楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団/1986-1989年録音
>書きそびれてましたが、これ秘曲名盤だと思います。いまやほぼ顧みられなくなってしまったグラントペラの大家アレヴィの最高傑作をこの万全の布陣で聴くことができるというのは非常に嬉しいところ!フルラネット演じる枢機卿は主人公の因縁の敵役ながら悪人ではなく、むしろ一人間としては慈愛に富んだ立派な人物という非常に難しい役どころ。まだ彼の声が重くなる前、ベル・カントなどで活躍していたころと言うこともあり、ぴったり。復帰直後のカレーラスとの丁々発止のやり取りは聴きものです。カレーラスはじめ実力者たちで固められており、演奏もなかなか。音もいいですしこの作品の全体像を見るのには持ってこいかと。

・ヤーコポ・フィエスコ(G.F.F.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』)2015.8.31追記
レヴァイン指揮/フヴォロストフスキー、フリットリ、バルガス、N.アライモ共演/メトロポリタン・オペラ管弦楽団&合唱団/2011年録音
>ヌッチ主演のものと並ぶ現代の名演と言っていいでしょう。メトの本気を感じられる演奏です。素晴らしいフィリッポ歌いとして今や世界で引っ張りだことなっている彼のフィエスコが悪い筈がないのですが、今回ようやっと聴くことができました^^予想どおり勢いのある崩れるか崩れないかギリギリの筆致での骨太な人物造形で、圧倒されます。かなり大胆に、荒々しく老貴族の怒りを表現していますが、決してやり過ぎにならないその匙加減、毎度ながらお見事です。意外とここまで終始怒りを顕わにしているフィエスコは珍しくて(敢えて言えばスカンディウッツィでしょうか。彼もまた素晴らしいヴェルディ歌い!)、そういう意味でも新鮮ですが、これが若くてギラギラした感じのフヴォロストフスキーと非常によく合う!ここまでヴェルディ的な脂を感じさせるシモンとフィエスコの対決はあるようでなかったのではないかと。フヴォロストフスキーは年齢的にはシモンをやる感じになってきましたが、いい意味での若々しさがあり、壮年のシモンと言う感じが◎バルガスも熱演、フリットリと甥アライモも悪くありません(フリットリ前半不調ですが…)レヴァインもこういうスケールの大きな歴史劇での采配は見事ですし、歌手をしっかり立てて呉れるのがいい^^
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