Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第四十七夜/剛毅なる武人~

このシリーズも我ながらよく保ってるもんだなぁと感心するやら呆れるやらなのですが、もうすぐ五十の峠が見えて参りました。第四十七夜、随分やったもんです。
四十七と言えば日本では武人たる赤穂浪士に所縁のある数ですから、ちょっとそこに肖って、今宵は無骨で豪快なバリトンを。

Guelfi.jpg
Ezio

ジャン=ジャコモ・グェルフィ
(Gian Giacomo Guelfi)
1924~2012
Baritone
Italy
※この手の伊国系の名前はどこで切るのかが謎です(^^;ネットで見ても“Giangiacomo”表記派と“Gian Giacomo”表記派がいて頭を抱えます。。。今回はグェルフィ自身が協力して作成されたと言うMytoの出しているアリア集の表記に従い、この表記にしました。

残念ながら正規録音にはあまり恵まれていません。
しかし残されたあまり音質の良くない録音からでも、その強烈なパワーを宿した声を伺い知ることができます。「圧倒的」と言うことばがこれほど似合う歌手もおらず、録音で聴く限り声の馬力という面から行くのであれば、史上並みいる名バリトンを向こうに据えても尚彼の方が凄いかもしれない。最近のバリトンで同じ姓のカルロ・グェルフィという人がいますが、声のキャラクターは正反対です(っていうかなんであんな平板な声で人気があるんだカルロは^^;なんか別の路線の役ならまだわかるんだが)。
「ライオンのような声」と言う喩えがまさにぴったりくる感じですが、調べてみると「ライオンのような声」と呼ばれた19世紀末の伝説のバリトン、ティッタ・ルッフォの弟子だったと言いますから何となく納得してしまいますね(笑)

いかつい筋肉質な歌声に反して(?)、歌手を目指すまでは法学を学んでいたのだとか。そのせいもあってか(??)、力強い声ではあるもののそれだけでごり押ししていくようなタイプの歌ではなく、歌い回しも巧くてちょっとインテリめいた役どころでも味のある歌を聴かせて呉れます。

テノールのフランコ・コレッリとは同期だったそうで仲が良かったとか。調べてみると共演も多いです。また、前回登場したベルゴンツィとは同じ年でこちらも結構共演しています。

<ここがすごい!>
剛毅な武人。豪快な武闘派。気風のいい漢。
このひとの声を聴くと、即座にこうした言葉が思い浮かぶぐらい、非常にごつくて分厚い声です。いまどきこういう声は聴かないというレベルではなく、録音史に於いてもなかなかこういう強い声の人はいないです。あくの強い美声と言うところのみを見るのであれば、この超重厚な声に匹敵するのは、或る意味クリストフぐらいではあるまいかと。バスティアニーニのような気品やカプッチッリのような荘重さこそないですが、パワーと言う点では彼らを凌ぐ強烈な声です。そして同時に、何処か漢らしい清々しさもあります。何と言いますか、仲間内から「あいつほど気分のいいやつはいない」と言われてそうな感じ(笑)と言っても、エンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)やスカルピア(G.プッチーニ『トスカ』)のようなやらしい役柄でも実力を発揮する訳ですがww

ただそこから来るイメージは、不思議と脳味噌筋肉な体育会系という印象ではなく、どこかクレヴァーなのです。歌いぶりそのものは非常に荒々しいのですが、荒々しいだけに終始している訳ではない印象なんですね。同じ軍人気質でも猛将というよりは智将と言う感じ。何処がとか何がと言われると答えに窮すのですが(^^;、やはりその歌い口が藝達者なのだと思います。役作りもいかにもって言う雰囲気ではあるんだけど、それが見事な「いかにも」なんです。大物歌舞伎役者が自分が完全にものにしている役を演じている時のように、決まった型をびしっと決めている、或る種の様式美的なものが感じられるのです。

さてこのとおり、智恵の回る武人というイメージの役どころが合うぞ、となると似合ってくるあたりは大体想像がついてきます。パッと思いつくのはエツィオ(G.F.F.ヴェルディ『アッティラ』)、アモナズロ(同『アイーダ』)、マクベス(同『マクベス』)、ナブッコ(同『ナブッコ』)あたりはぴたりと来ます。珍しいところではエンリーコ5世(G.スポンティーニ『ホーエンシュタウフェンのアニェーゼ』)なども残していますが、ここでもドラマティックな歌いぶりが見事。エツィオは当時の『アッティラ』の上演回数から考えればかなりの数やっているのではないでしょうか。エツィオと言うとカプッチッリがハイBを出したものももちろん聴きものですが、彼のこの役もぜひ聴いていただきたいところ。

<ここは微妙かも(^^;>
僕自体は好きなんですが、彼の豪快過ぎるぐらいの力感のある声自体が苦手と言う人はいるかもしれませんね(^^;多分クリストフやコレッリみたいなアクが強い系が苦手な人は苦手なんじゃないかと。
あと結構出来不出来の波もありますかね~並みならぬ実力者だとは思うのですが。

<オススメ録音♪>
・エツィオ(G.F.F.ヴェルディ『アッティラ』)
ムーティ指揮/R.ライモンディ、ステッラ、チェッケレ共演/RAIローマ管弦楽団&合唱/1970年録音
>決して多くない本作の音源の中でも名盤と言っていいでしょう。グェルフィはこの役には本当によく嵌まっていると思います。憂国の士、ローマの英雄といった役どころですから、彼の武将声がびしっと決まっています。R.ライモンディとの対決も聴きもの。全曲未聴ですがクリストフとの共演盤もあり、2人の異形の声の対決はいい意味で怪獣映画を見ているような気分にもなります(笑)ただ、どちらでもアッティラ倒しちゃいそうな勢いですがwR.ライモンディはスタジオでも録音していますが、声は若々しいですし、なにより歌が巧い。まだ20代とは思えない堂々たる歌いぶりで、双葉より芳しいです。ステッラはキャラにあってるかと言うと微妙ですが達者、チェッケレが聴けるのも嬉しいところ。

・アモナズロ(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
クエスタ指揮/カーティス=ヴァーナ、コレッリ、ピラッツィーニ、ネーリ、ツェルビーニ共演/RAIトリノ管弦楽団&合唱/1956年録音
>大穴的な演奏でしょうか。実は個人的にはアモナズロのベストではないかと思います。荒々しく力強い声と表現は、悲劇の猛将の姿にぴったりです。この役出番的には落ち目でとほほな感じなんで、力のあるカッコいいバリトンがやらないと逆に様にならないんですが、彼ならば文句なしです!屈辱を噛みしめる誇り高い武人の様が感じられます。コレッリは癖の強いテノールですがここではぴったり、ネーリの不気味で頑固そうなランフィスも聴き応えがあります。それに較べると女声陣は若干薄味ですが悪くはなく、古いながらも結構楽しめる音源です。

・フランチェスコ・フォスカリ(G.F.F.ヴェルディ『2人のフォスカリ』)
ジュリーニ指揮/ベルゴンツィ、ヴィターレ共演/RAIミラノ管弦楽団&合唱団/1951年録音
>ベルゴンツィのところでも紹介した名盤。録音時20代とあって圧倒的な声を聴くことができますし、そんなに若いとは思えない老成した表現も見事なもの。録音は少ないけれども実力のある歌手に演じてほしいこの役を、グェルフィで聴けるのはありがたいです^^若々しいベルゴンツィもいいし、ヴィターレも上々。

・マクベス(G.F.F.ヴェルディ『マクベス』)
ガヴァッツェーニ指揮/ゲンジェル、ガエターニ、カセッラート=ランベルティ共演/ヴェネツィア・フェニーチェ歌劇場管弦楽団&合唱団/1968年録音
>グェルフィは私の中でのベスト・マクベスのひとりです(あとはカプッチッリとブルゾン、大穴でFD)。どちらかというと夫人に唆されて堕ちていく哀れな男という感じで演じられることの多い役だと思うのですが、同時に武人として尊敬を集め、曲がりなりにも王になった男という側面も重要と考えると、漢ぶりのいい彼の歌唱は納得できます。狂乱や幻影の場面も彼の演技功者なところが活きていて非常に巧い。これで周りが揃えば言うことなしなのですが…カットの多さやゲンジェルの後半の息切れ、脇2人の非力さなど勿体ないポイントが多いです。。。

・アシュトン卿エンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
アバド指揮/スコット、G.ライモンディ、フェリン共演/ミラノ・スカラ座歌劇場管弦楽団&合唱団/1967年録音
>隠れ不滅の名盤。これは数あるルチアのライヴの中でもベストだと思います!グェルフィは登場すぐのアリアから堂々たる悪役ぶりで聴き手を一気に物語の世界に引きずり込みます。先のルチアとの重唱のところなどでもそのパワフルな声で強権的で厭らしい兄貴の姿を表出しています。スコットのルチアもキレッキレでその重唱のところでも熱唱していますし、狂乱の場も息を呑む出来ですが、登場のアリアが圧巻。G.ライモンディも彼の最良の録音であると同時にこの役の最高の歌唱と言うべきもので、ルチアに指輪を叩きつける場面の壮絶さは類を見ません。フェリンも名脇役ぶりを発揮していますし、アバドの指揮も充実。ルチア好きには外せない音源でしょう。

・ネリュスコ(G.マイヤベーア『アフリカの女』)
ムーティ指揮/ノーマン、ルケッティ、シゲーレ、フェリン、リナウド共演/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団&合唱団/1971年録音
>マイヤベーアの最後の作品の貴重な録音。個人的にはマイヤベーアは買っているもののこの作品はどうかなあと思ってはいるのですが、これだけのメンバーが揃うと聴き応えはあります。グェルフィ演ずるネリュスコは現地(としか言いようがないんだよな、アフリカと言ってもインドと言っても整合性がない気がする^^;)の武人で、西欧人を憎み、女王を愛する、歌の出番も多ければ演技力も要求されるバリトン冥利に尽きる役、言ってしまえば彼には持って来いの役です。そして、期待通りの好演で嬉しくなります^^

・皇帝エンリーコ5世(G.スポンティーニ『ホーエンシュタウフェンのアニェーゼ』)
グイ指揮/コレッリ、ウドヴィッチ、ドウ、アルバネーゼ、マスケリーニ、コルツァーニ共演/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団&合唱団/1954年録音
>これも演奏機会の恵まれていない作品ですが、結構ごっつい展開が続いて楽しめます。グェルフィはここでもまた強権的な役どころを輝かしく力感のある声で演じています。実はアリアらしいところはないのですが物語を動かしていく重要な役どころで、流石の存在感を発揮しています。ここでもコレッリが見事。他の歌手も隠れた実力者みたいな人が集まっていて良いです。

・スカルピア男爵(G.プッチーニ『トスカ』)
ギブソン指揮/ミラノフ、コレッリ、ラングドン共演/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団/1957年録音
>あらゆる意味でライヴらしい音盤。グェルフィは予想に違わずいかにもな悪役ぶりですが、紋切り型ではなく堂に入ったというべきもので、まぁ憎々しいこと!(褒めてますw)絶好調の歌唱で音質が悪い中でもガンガン鳴るオケや合唱を越えて馬力のある声が飛んでくるテ=デウムは圧巻!それに2幕冒頭のモノローグも実に達者で、この部分をこんなにわくわく聴けるものも多くないです。コレッリもまた好調で“星は光りぬ”など希代の名唱ですが、“勝利だ!”のあとで音程が迷子になったりこの人らしいミスも散見されます(ちなみに“勝利だ!”という叫び自体は凄いですw)この2人に較べるとミラノフはちょっと割を喰った感じ。悪くはないけどもうひとつ小さく纏まっちゃっているような。

・アルフィオ(P.マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』)2013.9.25追記
フォン=カラヤン指揮/コッソット、ベルゴンツィ共演/ミラノ・スカラ座歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>超名盤。グェルフィの出ている音盤の中では一番手に入りやすいかな?この役実は結構役作りが難しいと思っていて、血の気の多いところもあるし主人公と決鬪をするけれども決して悪人ではない人物(むしろ主人公が道ならぬ戀をしている訳で^^;)ですから、悪役になり過ぎちゃうとちょっと違うのです。グェルフィは快男子っぷりを発揮しつつ、気の荒い人物像を造形していて見事。事実を知って怒り狂う場面では、フォン=カラヤン指揮による非常に音楽的なこの盤の中で唯一と言ってもいい感情の爆発を見せています。共演も秀逸ですし、オケや合唱も巧い、指揮も素晴らしく、音楽的には最高でしょう。

・ファヌエル(A.ボーイト『ネローネ』)2016.9.1追記
カプアーナ指揮/ピッキ、ペトリ、デ=カヴァリエーリ、ラッツァリーニ、マッツォーリ、クラバッシ、デ=パルマ、ディ=スタジオ共演/ナポリ・サン=カルロ歌劇場管弦楽団&合唱団/1957年録音
>台本作家としても活躍したボーイトがライフワークにしていた未完の大作。主役の歌唱陣が全体にもう少し(傍役はクラバッシやデ=パルマ、ディ=スタジオもいて揃ってるんだけど)、オケもいまいち纏まりに欠けるというところではあるのだけれど、そこに1本筋を通しているのがグェルフィ演ずるファヌエル。彼らしい存在感のある堂々とした歌唱がたまりません。荒々しいながらもヒロイックな声と知的な歌い口が舞台を引き締めています。静謐な祷りも味わい深いですし、終幕の重唱も泣かせます。シモンと対立する場面の迫力は言うにや及ぶ。彼を聴くためだけに手に入れるのも悪くないかもしれません。
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