Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

ジョヴァンナ・ダルコ

ジョヴァンナ・ダルコ
Giovanna d'Arco
1845年初演
原作:ヨハン=クリストフ=フリードリッヒ・フォン=シラー
台本:テミストクレ・ソレーラ

<主要人物>
ジョヴァンナ・ダルコ(S)…史実におけるジャンヌ・ダルク。仏国の小村ドン=レミーの農家に生まれるが、森で天使の声を聞き、劣勢であった仏軍に協力、破竹の活躍を見せるあたりは皆様ご存じのとおり。これもまた周知のとおり異端者として火刑になる訳だけれども、この作品では戦死する。えーって感じだけどフォン=シラーの原作からしてそうらしい(ごめん読んでない^^;)。また、カルロとの戀に落ちたことで聖なる務めに反したということになっている。意外なことにこの頃のヴェルディが如何にも書きそうな女丈夫のカバレッタはない。
仏国王カルロ7世(T)…史実でのシャルル7世。登場したときから負けそうな上に、続く展開でもあんまりいいところのないなんか残念な王様。まぁテノールらしい役ではある。夢のお告げによりジャンヌを見出すが、彼女に戀心を抱いてしまう。原作のカールはもっとチョイ役で、ジャンヌと戀に落ちるのは英雄リオネルという人物らしいが、このあたりソレーラは思い切って登場人物を省略している。
ジャコモ・ダルコ(Br)…ジャンヌの父で史実ではジャック、原作のティボー。天使に導かれていた娘を悪魔に導かれているものと勘違いし、さんざっぱら苦慮した上に娘を邪魔するというなんというかこれもあんまりいいとこの無い父ちゃん。しかも自分は仏人だが英国に協力するよ♪っていう娘どうのこうのっていうのと違うんじゃないの?っていう奇行に至る(大体騎士とか貴族とかじゃない農民に協力するよ♪とかって言われても英国軍そんな大歓迎しないでしょうよ^^;)。挙句最後には自分が間違ってましたって悔いるというあんまり一貫性のないキャラクター。ただ、苦悩する表現とかは結構ヴェルディ研究してると思う。
デリル(T)…史実ではジャンヌの戦友として知られるラ=イルことエティエンヌ・ド=ヴィニョルらしい。この人だけでも面白そうな作品にできそうな気もするけど、ここでは特別出演みたいなもんで純然たる脇役。
タルボ(B)…英国の総司令官。百年戦争の話ですから完全に悪役側の人ではありますが、こいつも脇役。けどデリルよりはしっかり歌う場面がある気がする。

<音楽>
・序曲
○プロローグ
・導入の合唱
・カルロのカヴァティーナ
・ジャコモのシェーナ
・ジョヴァンナのカヴァティーナ
・フィナーレ

○第1幕
・導入曲
・ジャコモのアリア
・ジョヴァンナのロマンツァ
・ジョヴァンナとカルロの2重唱

○第2幕
・行進曲
・ジャコモのロマンツァ
・フィナーレ

○第3幕
・ジョヴァンナとジャコモの2重唱
・カルロのロマンツァ
・フィナーレ

<ひとこと>
はっきり言ってヴェルディの作品の中でも1,2を争う面白くない作品というイメージでした、長いことwww今回取り上げた音源を聴き、DVDを観、1つ1つの曲はまあまあなんだけど、全体通すとなんというか締りのない感じの作品だなあと^^;
ところが今回改めて虚心に帰って聴いてみて、あら意外と面白いじゃないと思っている自分がいたりする訳です。と言っても、『ナブッコ』から『エルナーニ』までの勢いや『フォスカリ』で見せた秀逸なスケッチというようなところはないのですが、愚作と切り捨てるほど酷い作品でもないし、ヴェルディ自身ただ流してやった仕事でもなさそうだなと(流してるなと思う部分がない訳ではないですが笑)。
ぐじゃぐじゃ言ってますが、歌手が揃えば存外面白い部分も多い作品だと言うことです。

例えばジョヴァンナのアリアだけを取ってみても、それまでの作品とは違うものを狙っていることが伺えます。女性の主人公、しかも如何にも勇壮な役柄にも拘わらず、彼女の二つのアリアはいずれも合唱を伴わずカバレッタもないシンプルで短いもの。こうしたところからもわかるとおり、全体に彼女のキャラクターの勇壮な側面よりも、天使と悪魔の声を聞くことができる霊的・夢幻的な側面と、戀する乙女=普通の女性としての側面が強調されています。最たるものはカルロとの重唱の最中に悪魔の合唱が聴こえてくるところなどでしょう。ここは、力量のあるソプラノがやれば、狂乱の場風に結構盛り上がるのではないでしょうか。能天気に愛を語るカルロと錯乱するジョヴァンナの対比が効いていて、後のマクベスの祝宴の場面(マクベスにだけ亡霊が見え、恐れ慄く場面)へと繋がっていくのではないかと。内面的で新しい表現を志向していることが感じられるように思います。ただ、そもそも台本からして突っ込みどころ満載だし(ソレーラに関してはいつものことですが。作品の構成からして、全体に対して長すぎるプロローグとかww途中で飽きちゃうんですかね^^;ただ当たると物凄くインパクトのある場面を書ける人ではあるのですが)、フォスカリの時のようなヴェルディ自身が強い共感があったかというとそうではないでしょうし、或る意味苦労を感じるところも。

ジャコモについても、苦悩している部分の表現などは如何にもヴェルディらしい悩める父像が楽しめます。3幕のジョヴァンナとの重唱はフォスカリの義父娘の重唱より出来が良いように思いますし、4幕のロマンツァも見事なものだと思います(というか後でも述べますが、パネライの歌唱にすっかり痺れてしまったということもありますが笑)。娘を想う父の等身大の嘆きと言う点でみれば、このロマンツァは他のヴェルディ・バリトンの名曲に引けを取らないものです。とはいうものの、既に述べたとおり全体にはちょっとここまで一貫性のないというか不自然な登場人物もなかなかいないと言う部分は否めないですね^^;思っていることとやっていることの因果関係が繋がっていないということも考えると、一貫性のなさは『エルナーニ』のカルロより酷いです。1幕のアリアなんかは流麗なヴェルディ節を聴くためだけのものになってしまっています。

カルロはもう本当によくいるテノールの役ですw頭の中は自分の戀のことばっかりで、国民のことも国のことも政治のことも考えている気配がありません^^;史実のシャルル7世は権謀術策に彩られた生涯だったようですから、かなりの落差があります。とはいうものの、彼が能天気で頭ん中お花畑である方がよりジョヴァンナの苦しみも際立つので、これはこれでいいのでしょうが。そういう意味では『椿姫』のアルフレードの原型を見ることもできるかもしれません。また、曲としては登場のカヴァティーナはカルロの夢のお告げの話に群衆の合唱がかなり絡むものとなっており、よく作り込まれたものです。

そして合唱!この作品は彼らの存在が大きいです。群衆として登場する部分もありますが、それ以上に印象的なのはジョヴァンナには聞こえる(見える)霊的な存在、天使と悪魔として登場する部分です。ジョヴァンナのバックに天使の合唱と悪魔の合唱が聞こえる部分で狙われている立体的な構成は、必ずしも巧く行っているとは言えないかもしれませんが、面白いことは確かです。個人的にはA.ボーイトの『メフィトーフェレ』を思い出します。むしろこのあたりの路線を拡大してファウスト的な話にした方が、中途半端大河ドラマより楽しめる作品になったのではないかと思います。惜しむらくは全体に悪魔に当てられた音楽があっけらかんとした明るいもので、迫力を欠くところでしょう。これがもっとデモーニッシュな雰囲気の音楽だったら、ぐんと聴き栄えがするのですが。

<参考音源>
○アルフレード・シモネット指揮/ジョヴァンナ・ダルコ…レナータ・テバルディ/カルロ7世…カルロ・ベルゴンツィ/ジャコモ…ローランド・パネライ/デリル…ジュリオ・スカリンチ/タルボ…アントニオ・マッサリア/RAIミラノ管弦楽団&合唱団
>音は悪いですがこれはいい演奏だと思います。何より音楽全体に、この時期のヴェルディには欲しい熱気がありますし、主役の歌手たちに圧倒的なパワーがあります。作品そのものの欠点が少なくないだけにそれを吹っ飛ばすエネルギーが感じられるのは重要なことです。特に素晴らしいのはテバルディ!円熟してからの果てしなく美しい声とはまた違う、若くて馬力のある声を楽しむことができます。一方で終幕ジョヴァンナの死の場面では後年の美麗な歌唱の片鱗を聴いて取れます。カルロを歌うベルゴンツィがまたいつもながらの折り目正しい歌唱に加えて力強さがあって聴き応えのある歌唱。アリアよりもむしろアンサンブルの途中で派手に見栄を切っているところのカッコよさには唸らされます。このふたりの重唱はまさに声の競演と言うべきもので、その迫力たるや凄まじいものがあります。そしてパネライ。このひとは永遠のマルチェッロというべき人だと思っていたのですが、これだけパワフルなヴェルディを歌えるとは恥ずかしながら思っていませんでした。娘のみが頼りであったのにと嘆く父親のロマンツァの充実ぶりには圧倒されました。この作品でまさかこんなに感動するとは、というぐらい立派な歌です。ロマンツァの話ばかりになってしまいましたが、他の部分でも力に満ちた歌唱を展開しています。残念ながら印象的な陰の合唱は聴きとりづらいです。とはいえ或る程度ライヴ録音慣れしている人で、この作品がダメだと思ってらっしゃる方はご一聴いただきたい音源です。

○ジェームズ・レヴァイン指揮/ジョヴァンナ・ダルコ…モンセラット・カバリエ/カルロ7世…プラシド・ドミンゴ/ジャコモ…シェリル・ミルンズ/デリル…ジュリオ・/タルボ…ロバート・ロイド/LSO&アンブロジアン・オペラ合唱団
>スタジオ録音ですから上記のものに較べてこちらの方が圧倒的に聴きやすく、またカットも少ないです。熱気こそシモネット盤より劣りますが、非常に丁寧に美しく演奏されており、初めて聴かれる方にはおススメできる内容だと思います。カバリエは実演では絶対やらないだろうなと思うし、キャラもちょっと違うとは思うのですが、丁寧な歌唱で好感が持てます。いつもながら彼女の絹糸ppは堪らないですが、それがジョヴァンナの死の場面で非常に活きています。ドミンゴも一番声が充実していたころでしょうか、しっかりとした中身のある声を楽しめます。普段のシミンゴっぷりはどこへやら、カバレッタの最後にはびっくりするような高音を付加しています。ミルンズも脂が乗っていた時期でたっぷりとした歌声に聴き惚れますし、いつもながら堅実な歌いぶりです。合唱がくっきり聴こえるのが嬉しい。この作品での合唱の重要性がよくわかります。
スポンサーサイト

Viva! VERDI! | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<かはくの展示から~番外/常設展示替えと大恐竜展 | ホーム | Giraffatitan (Brachiosaurus)>>

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

| ホーム |