Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第八夜/燻し銀の味わい~

この回は本当ならテノールをやる回ですが、2009年12月に行われたコンサートを受けて予定変更。

Pertusi.jpg
Alidoro

ミケーレ・ペルトゥージ
(Michele Pertusi)
1965~
Bass
Italy

コンサートの1週間ぐらい前に思い立って突然行くことにしたんですけどこれが素晴らしかった!!
そのあと数日明るい気分でいられるぐらい良かった!感動した!

いろいろなエピソードからひとがらが良い方だと言うのは漏れ聞いていましたが、実際非常に気さくな感じの方でそれが演奏会全体の空気にも伝わってきました。何ていうか凄く楽しかったんですよね♪演目はブッファでないものも結構あったのに。

何でもオフの時にはいろんなオペラ歌手のモノマネ(それもうまいらしい笑)をやって周囲を笑わせているとか…う~ん、本物を見て納得www

サービス精神も旺盛でブロマイドも終わったあとその場でサインして配ってました!CDやプログラムにもサインしてもらっちゃった♪

<ここがすごい!>
いまやサミュエル・レイミーのあとの代表的ロッシーニ・バッソ(という言い方が正しいかは微妙ですが)だと思うのですが、日本での知名度はどうなんですかね?日本のオペラファンは兎角ソプラノ(特にカラス)とテノールばかり持ち上げる良くない癖があるので。

彼も凄く目立つ方ではないのかもしれませんが、その滋味溢れる声はまさしく燻し銀の味わいとでも言うべきもの。バッソ・プロフォンドではなくバッソ・カンタンテで、バリトンの役もいくつかこなしているようです。本当に美声で、そして伊語の発音も素晴らしく綺麗、ベルカントのお手本とも言うべきスタイリッシュな歌い口には痺れてしまいます。そして息が長いのにも感心します。コンサートで披露していたG.F.F.ヴェルディ『ナブッコ』のザッカリアのアリアでは、最後の低音を延々と伸ばし、聴衆を感嘆させました(最後に咳をした大バカ者がいたけれども苦笑)

コミカルな演技も良くて、例えばコンサートのなかでは共演のマリーナ・レベカと共に歌ったG.ドニゼッティ『愛の妙薬』のドゥルカマーラ、そしてG.ロッシーニ『セビリヤの理髪師』のバジリオの有名なアリア“陰口はそよ風のように”は最高でした!個人的なイメージでは『チェネレントラ』のアリドーロや『イタリアのトルコ人』のセリムも印象的でした。

特にアリドーロは初めて聴いたのがこの人のものだったので、自分の中ではスタンダードが彼になってしまっています。ご承知のとおりアリドーロは『チェネレントラ』という作品に於いては第3バス、完全に脇役ポジションなのですが、この人の美声とスタイリッシュな歌のインパクトがあまりに強くて、私の中では中途半端な人では聴けない準主役に完全になってしまっていますwwまた、アリアがカッコいいんだ笑。

ベルカントものだけではなくもちろんヴェルディの諸役も達者で『エルナーニ』のデ=シルヴァや『シチリアの晩禱』のプローチダ、『ドン・カルロ』のフィリッポも素晴らしいです。
ただ、所謂ヴェルディ歌いの油気の多い歌ではなく、よりさっぱりとした軽い風合いのものなので、面喰う人はいるかもしれませんし、「これはヴェルディじゃない」という人も居そうな気もします。しかし、この人は自分なりのヴェルディの料理の仕方をよく弁えていると思います。爾来ヴェルディというとイメージするような音楽、今でいうならフルラネットのようなヴェルディを歌う訳ではありませんが、ペルトゥージのヴェルディもまた違う方向性の、しっかりとしたヴェルディだと思うのです。

まだ40代半ば、バスとしてはこれから楽しみなひとですね♪

<ここは微妙かも(^^;>
先ほどブッファの演技の良さは述べたのですが、どうもシリアスな役どころとなると歌にウェイトが行く傾向があるようです。僕自身は特に気にならないのですが、「もっと演技をして欲しい」という評価がいくつかネット上で散見されます。

経歴を見ても今回の演目を見ても自分の声がよくわかっているひとのようですからたぶんないと思いますが、これも前述の通りどちらかというとバリトーナルなバッソ・カンタンテなので、プロフォンドな声が欲しい例えば『ドン・カルロ』の宗教裁判長のような役をやるとちょっと不完全燃焼になりそうです。

<オススメ録音♪>
・アリドーロ(G.ロッシーニ『チェネレントラ』)
シャイー指揮/バルトリ、マッテウッツィ、ダーラ、コルベッリ共演/ボローニャ歌劇場管弦楽団&合唱団/1992年録音
>不滅の名盤。望月の欠けたることもなしと思えば。私の中でのペルトゥージは、やっぱりまずはここでのアリドーロ。もともと第3バスのくせにイイとこ持ってく役ではあるんだけど、ここでのペルトゥージはまさに稀有の出来。声の良さ、歌のフォルムの良さももちろんなんだけれども、歌唱全体から伝わってくる慈悲深い、そして思慮のあるアリドーロの姿には、感服させられました。歌の素晴らしいアリドーロはこのあともいろいろ聴きましたが、やはり彼がベスト。当然この録音での最大の話題となったバルトリは最高の出来ですし、超高音をスカッと飛ばすマッテウッツィ、斜に構えたコルベッリ、伊国おやじそのものというべきダーラ、そしてシャイーのきびきびした指揮ぶり、と死角のない名盤です(もちろん、個々の歌手の趣味はあるでしょうが)。

・ロドルフォ伯爵(V.ベッリーニ『夢遊病の女』)
ピドー指揮/デッセー、フローレス共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/2009年録音
>出番は少ないながらもベルカント・バスの魅力満点のアリアがあり、実演で聴いたときもこれは素晴らしかった!実はこのアリアから感じられる以上に、この役色気がある役なんですが、そういう部分もこの映像ではよく出していると思います。共演はというと、フローレスは恐らく最大の当たり役と言っていい超名演、デッセーは最盛期ほどのキレはないものの知的な美しさがあります。演出が矢鱈ぼろくそに言われていますが、個人的にはこの作品の台本は全てのオペラでも最もダメな台本だと思っている――リーザ以外の登場人物に一切感情移入ができない(だってアミーナは自分のことしか考えてないし、エルヴィーノは大間抜けだし、伯爵はまったく調子いい奴ですよ)上、村人たちのリーザの扱いがひたすら酷い――ので、このぐらい思い切って料理してくれた方が、筋書きの拙劣さを忘れて楽しめると思います。

・マリーノ・ファリエーロ(G.ドニゼッティ『マリーノ・ファリエーロ』)
ダントーネ指揮/セルヴィレ、デヴィーア、ブレイク共演/パルマ国立歌劇場管弦楽団&合唱団/2002年録音
>地味な曲ですがこれももっと演奏されていいものだと思います。劇としての出来はもうちょっとかもしれませんが、音楽は大変良くできています。ドニゼッティは、ヴェルディのやったことをやりたかったんだろうな、と思わせる作品です。ここでのペルトゥージは若いころだというのもあって、老ファリエーロというよりは、まだまだ若々しく精力のある男という印象です。もちろん彼のベル・カントものに対する口跡の巧さがよく出ています。共演もなかなかのもの。

・アッスール(G.ロッシーニ『セミラミデ』)
ゼッダ指揮/タマール、スカルキ、クンデ、ダルカンジェロ共演/ボローニア劇場管弦楽団&合唱団/1992年録音
>ここでは悪役でありなおかつ狂乱の場まである難役中の難役アッスールを、全くスタイリッシュに歌っています。ペルトゥージって言うと、最初のアリドーロのイメージが強くて、結局はいいやつっていう役のイメージが個人的にはあるんだけれども、それをいい方に裏切ってくれる凄味のある悪役。アジリタも、レイミーのような鬼のような正確なアジリタではありませんが、しっかりしていると思います。クンデ、ダルカンジェロと男性陣がそろっている一方で女性陣、特にスカルキはもう一声か。

・セリム(G.ロッシーニ『イタリアのトルコ人』)
シャイー指揮/バルトリ、バルガス、コルベッリ、ポルヴェレッリ、デ=カンディア共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1997年録音
>ブッフォもひとつぐらい。もうちょっとスケベな感じがあってもいいような気もしないではないですが、歌の技術は全く確かなもの。特にコルベッリと超高速でやりあう場面は、この作品のひとつのハイライトと言っていいでしょう。コケットリー満点のバルトリや、気持ちよく声を飛ばすバルガスもいい。

・ドン・ルイ・ゴメス・デ=シルヴァ(G.F.F.ヴェルディ『エルナーニ』)
カレッラ指揮/ラ=スコーラ、デッシー、コーニ共演/イタリア国際管弦楽団&ブラティスラヴァ室内合唱団/1991年録音
>所謂ヴェルディ、所謂『エルナーニ』のイメージからは外れているかもしれない軽い風合いの演奏ですが、これは隠れ名盤だと思います。凄味や力みをなくして、もう一度この作品を調理すると、意外とこういうすっきりした味付けもありかもしれない、と思わせる…それだけペルトゥージはじめ主役4人の声と歌がしっかりしているということが当然ながらまずある訳ですが。ペルトゥージに関して言えば、やはり有名なアリアでの流麗な歌い口が聴きものでしょう。

・オルドウ公爵(G.ロッシーニ『トルヴァルドとドルリスカ』)(2013.4.25追記)
ペレス指揮/メリ、タコーヴァ、プラティコ、フィッシャー、アルベルギーニ共演/ボルツァーノ=トレント・ハイドン管弦楽団&プラハ室内合唱団/2006年録音
>不滅の名盤。ほぼこの録音しか存在しないマイナー作品ですが、これは素晴らしい!脂の乗った時期のロッシーニの作品だけに聴き応え抜群です。ペルトゥージはここでは悪辣な公爵役を演じていますが、そのギラギラするような悪の魅力を存分に楽しむことができます。音楽的には少しコミカルに描かれている部分もあるように思いますが、凄味があって怖いぐらいですし、若々しく力強い声からは色気すらも感じます。後にヴェルディが『リゴレット』の下敷きにしたアリアの出来の見事なこと!共演も大変強力で、スタンダールが驚嘆したという男声3重唱は圧巻!是非聴いてみてください!

・オロヴェーゾ(V.ベッリーニ『ノルマ』)2015.10.2追記
アントニーニ指揮/バルトリ、オズボーン、ジョ共演/ラ・シンティッラ管弦楽団/2011年録音
>新たな不滅の名盤と言っていいでしょう。これまでの重厚長大イメージを覆したベルカントのメンバーで生まれ変わった、軽やかでフレッシュなノルマ。作品の時期を考えると、そもそもはこういうかたちで演奏されていたんだろうなと思います。ペルトゥージは登場こそ多くはありませんが、精悍で引き締まった歌いぶりに好感が持てます。これまでのこの役に較べると、うんと身軽で軍人的な空気を纏っています。そして何より歌がずば抜けてうまい!いつもながらスタイリッシュな歌いぶりには頭が下がります。共演のバルトリ、オズボーン、ジョもそうなのですが、伊語の一語一語に気を遣い、丹念に考えられ、積み上げられた真摯なパフォーマンスがお見事!このメンバーだからこそできた演奏だと思います。彼らに合わせるアントニーニの軽やかで颯爽とした風合いの音楽も◎

・皇帝フォルカス(J.E.F.マスネー『エスクラルモンド』)2015.10.2追記
ギンガル指揮/ベンダチャンスカ、クピード、バンデラ、キウルクチエフ、ビスコッティ、マルティノヴィチ共演/トリノ王立歌劇場管弦楽団&合唱団/1992年録音
>意外なところで仏もののこんな演目でも録音があります。マスネーの超大作、ヴァーグナー並みの分厚いオケの中で繰り広げらるファンタジー巨編で、伊ものベルカントを中心にしている彼とは一見縁がなさそうですが、堂々たる存在感で要役の皇帝を演じています。普段の彼に較べると声も一段重めに歌っているようですが、そこで変な話無理も感じませんし、声もしっかりとおり、威厳のある大魔法遣い像を創りあげています。共演も揃っていますが、中でも主演のペンダチャンスカがこのほぼ演奏不可能な大役を見事に演じているのと、ヒーローのクピードの輝きのある歌声と優美な歌唱が特に優れています。

・ファラオーネ(G.ロッシーニ『エジプトのモゼ』)2015.11.25追記
アッカルド指揮/スカンディウッツィ、ブレイク、デヴィーア、スカルキ、ディ=チェーザレ共演/ナポリ・サン=カルロ歌劇場管弦楽団&合唱団/1993年録音
>実はずっと観たかったのですが、ついに観ることができました!序盤に音声の乱れがあったり画質も良くなかったりということがあっても、改訂後の『モイーズとファラオン』やその伊語版の『モゼ』ではなく『エジプトのモゼ』としての録画としては最高峰のものではないでしょうか。ペルトゥージにとってはまだ若いころの記録ですが、スカンディウッツィ、ブレイク、デヴィーアといった先輩たちを大向こうに全く引かない貫禄の歌唱と存在感。上背もある舞台姿で堂々とした国王を演じており、見せ場の多いモゼとも対等に渡り合っています。アリアも見事ですが、圧巻はブレイクとの重唱でしょう。これぞロッシーニという歌唱技巧の共演を聴かせています。
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コメント

推奨されていた、ヴェルディ『エルナー二』(カレッラ指揮CD全曲)盤このたび入手いたしました。
 むかし、ムーティ指揮のものやシッパース他プライス、ベルゴンツィの盤をしばらく聴いていたのですが好きになれなかったので、この曲自体が合わないのかとずっと敬遠していました。
 basilioさん言うところの“ベルカントオペラの延長”のように演奏されたこのたびの盤、確かに聴きやすい!!ムーティやシッパース盤では聴いているこちらがシンドイ。暑苦しいwww
 主要歌手4人もかねてから好感もっていた歌手たち(4人ともスーパースターではないけれども) この盤では、中でもラ・スコーラとペルトゥージが特に曲・歌唱とも凄く気に入りました。
 最近のこの欄内ではロシア物の歌手たちの紹介が続いていますが、伊・仏系歌手達はbasilioさん的にはそろそろ品切れですか(笑)?
2015-04-16 Thu 16:02 | URL | 南天の実 [ 編集 ]
『エルナーニ』、お楽しみいただけたようで何よりです^^演奏のスタイルによってだいぶ音楽の印象は変わりますよね!
ムーティの肉厚ステーキのような如何にもヴェルディらしい演奏も自分では好きですが、あれが暑苦しくて重たいというのは十二分に理解できますwwベルカント風の演奏は、或る意味酢醤油でさっぱりいただいた感じになっていますが、ベルカントもの隆盛の今だからこそ、こうした楽しみ方もできるということはもっと広まっていいように思います。
ラ=スコーラ、ペルトゥージとも何より歌がスタイリッシュで清潔感がありますよね。ともにもっと評価されてしかるべき実力者だと思います。

> 品切れ
いえいえ、露もの東欧ものも個人的には大好きなのですがあまり扱えていなかったので、改めて特集している次第です。伊仏系、まだまだ行けますのでご安心を(笑)現状まだフレーニ、ドミンゴ、タッデイといった超大物やメスプレ、セネシャル、ドゥプラのような仏ものの名手からデ=パルマ、ヴィンコ、クラバッシのような脇の人たちまで取り上げられていない人たちもたくさんおりますから、まだまだ書いていきますよ!
2015-04-17 Fri 07:07 | URL | Basilio [ 編集 ]

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