Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第四十九夜/魔性の天鵞絨~

すっかり空いてしまいました^^;
怠けていた訳ではなく、このひとを書くにはあれも聴いとかなきゃこれも聴いとかなきゃとかやっていたら結構時間が経ってしまったのです。。。という訳でどうにかまたそれなりのペースで行きたいものです。

久々に女声。

Bumbry.jpg


グレース・バンブリー
(Grace Bumbry)
1937~
Mezzo Soprano
America

ソプラノとメゾとどちらでも成功を収めたという人ではありますが、個人的にはメゾの印象が強いです。というか私自身が寡聞なだけかもしれませんが、一般に手に入りやすい全曲音源の多くがメゾとしてのもののように思います^^;と言う訳で、ここで私が述べていくのも、殆どメゾとしてのバンブリーの話になりそうです。

いまでこそ黒人のオペラ歌手と言うのは珍しくなくなったのではないかと思いますが、彼女が出てきた頃はまだまだ風当たりの強い時代だったようです。とはいえ一回り上の世代にはレオンタイン・プライス、世評は高いシャーリー・ヴァーレット、同い年にはマルティナ・アローヨ、一回り下にはジェシー・ノーマンやこちらも世評は高いキャスリーン・バトルと、徐々に勢力を拡大していこうと踏ん張っていた人たちの1人と言えるでしょう。

齢70を超えてからも来日してコンサートを行っていますが、その声の若々しいことは驚嘆すべきもの。ちょうど同じ時期に来たコッソットが迫力や存在感といったもので見せていたもののその声の衰えは隠すべくもなかったのに対し、艶やかでうっとりとするような美声で聴かせていたのは大変印象的です。

<ここがすごい!>
あくまで私個人の持っているイメージの話ばかりで恐縮なのですが、同じ女性でもソプラノの演じるヒロインよりも、メゾの演じる役どころ(それは往々にして敵役だったりする訳ですが)の方が、実は女性的な部分を見せなければいけない、或いは魅力的な女性として振る舞わなくてはならない場合が多いように思っています。色戀の真っただ中にいる人物よりも、横槍を入れる人物の方がそうした側面が強いというのはちょっと面白いところではありますが、たぶん悪役に魅力がないと物語が面白くないというのと同じところに帰結するんでしょうね。キャラの薄いダース・ヴェイダーなんて見たくないでしょ?笑

で、まさにそういった役がびしっと来るのが今回のバンブリーです。
天鵞絨のように濃厚で豊かな声は、魔性の女と言うイメージに似つかわしい。主役を惑わせ、物語に色を添える役がしっくりくるのです。ただ、その「魔性」というのを単なる誘惑する性悪女として捉えてしまうのはちょっと一面的で、そのときそのときそのキャラクターは必死に、真摯に、真面目に振舞っているんですよね。彼女はそのあたりを出すのが本当にうまいなぁと思うのです。紋切り型の悪役である以上に、人間的な葛藤(まあ人間じゃない役があったりもしますがw)や女性らしい感情の表出のある彼女の演唱は、登場人物に深みを与え、鑑賞者の共感を呼ぶのです。
当然ながら歌それ自体も素晴らしいです。繰り返しになりますが声も素晴らしいです。しかし、それ以上に上記のようなおおきなプラスワンがあることが、バンブリーの魅力をいや増しているように思います。

そう考えて彼女の当たり役を眺めてみると、なるほどそうした立体的な役作りをしてこそのキャラクターが揃っています。その最右翼がG.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』のエボリ公女!声質の面からもキャラクターの面からも、僕の中でのエボリのベストは彼女です。コッソットの描くそれよりももう少し大人の女と言う感じで、いい意味での粘っこさがあります。同じような部分が活きるのが『アイーダ』のアムネリスでしょうか。こちらも上品に育てられている王の娘の顔とひとりの女としての葛藤がよく出ています。

<ここは微妙かも(^^;>
僕自身が聴けているものが少ないというのもあるように思うのですが、このひとはヒロインよりもちょっと癖のある役の方がいい演奏が多いような気がします(だからメゾの役がいいのかな~どっちが鶏でどっちが卵という話にも思えますが)。全曲聴けてませんが、トスカとかはどうなのかな~という感じでしたし。さりとて、ドラマティックなソプラノ役もどうなのかな…異常人マクベス夫人なんかは私には期待ハズレな出来に聴こえました。

<オススメ録音♪>
・エボリ公女(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
ショルティ指揮/ギャウロフ、テバルディ、ベルゴンツィ、フィッシャー=ディースカウ、タルヴェラ共演/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>私の中ではエボリと言えばバンブリー!というぐらい印象が強いです。コッソットやバルツァの烈しさや、シミオナートの風格ももちろん棄てがたいのですが、若々しさと貴族としての気品のバランスが一番取れているのは彼女ではないかと思います。全く違う特徴を持つ2つの大きな見せ場についても、ヴェールの歌では重くなり過ぎたりしないし、美貌のアリアではドラマティックな迫力があり聴き応え十分。更に言えば作中でも派手な音楽が当てられているキャラクターなので、何と言いますか華やかな存在感があるのも魅力です。この録音については既に何度も触れていますが、FDが楽しめるかどうかにかかっている、という名盤ですね(笑)

・アムネリス(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
メータ指揮/ニルソン、コレッリ、セレーニ、ジャイオッティ、マッツォーリ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1967年録音
ラインスドルフ指揮/L.プライス、ドミンゴ、ミルンズ、R.ライモンディ、ゾーティン共演/LSO&ジョン・オールディス合唱団/1970年録音
>この役もまた彼女の最大の当たり役です。若々しく突っ走るわがままそうなコッソットとはまた別の、こちらもより大人の雰囲気のアムネリス。と言ってももちろんオバサン臭い訳ではなく、どちらかというと思慮深く、普段は熱情を表には出さなさそうな感じと言いましょうか。逆に言えばだからこそアイーダにねちねちと詮索する部分の厭らしさや、ラダメスを説得しようとする場面と続く裁判の場面での悲痛な訴えがより強く活きてくる訳です。全体にはラインスドルフ盤の方が「ああ、アイーダ聴いたぁっ!!」という気分にさせて呉れる演奏。L.プライスはベストというべき出来で、バンブリーとの絡みの場面などは最高です。ミルンズやR.ライモンディ、ゾーティンの男性低音もうまみがあります。ドミンゴは凄くいいのですが、ムーティ盤の方が輝いていたような。や、あくまでドミンゴ基準での上下ですが(笑)メータ盤はバンブリーと共にコレッリが本当に素晴らしいラダメス!第1幕のアリアからぶっ放して呉れるだけじゃなく、最後の最高音を楽譜通りpからデクレッシェンド!これがまた見事なんだ!当然4幕とのバンブリーとコレッリの絡みはこの録音のハイライト。セレーニとジャイオッティはいずれもどっちかっていると地味であまり評価されないんだけど、歌はきちっとしてるし表現にも味があるし、何よりその渋い存在感が僕自身は好き。ここでも十二分にその渋さを発揮しています。問題はなぁ…マッツォーリがいまいちなのは兎も角ニルソンがなぁ…可哀そうな感じが全然しないんだよなぁ…w

・カルメン(G.ビゼー『カルメン』)
フリューベック・デ=ブルゴス指揮/ヴィッカーズ、フレーニ、パスカリス共演/パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団、パリ木の十字架合唱団/1969-1970年録音
>どうも評判がいま一つなんですがこの『カルメン』は名盤だと僕は思います。まずは単なる妖女になり過ぎず、1人の等身大の女性として魅力的なカルメンを演じたバンブリーが大変見事!キャラクターを意識し過ぎて妙にグラマラスに歌おうとすると“勘違いオバサン”みたいになっちゃうのですが、そこを音楽的にしっかりと歌うことで逆にリアルな人物像を構築しています。永遠の娘役フレーニのミカエラがまたべらぼうにうまい!娘にミカエラとつけるぐらいご本人お気に入りの役だというのも良くわかる没入ぶりで、特にアリアはベストではないかと思います。ヴィッカーズのジョゼの評価が低いのが解せないのですが、これまた立派な歌唱。そもそもは生真面目な軍人であったという側面を考えれば彼の融通の利かなそうな感じはとてもいいし、その不器用さからストーカー男に転落していく様もいい。同じく低評価のパスカリスもなかなかどうして立派な歌唱で、ブランのようなエレガントさはないにしろその荒々しさは鬪牛士らしいし、近年流行のバスによる重ったるいエスカミーリョよりうんといいと思います。その他メルセデスはじめ脇役陣もうまいですし、指揮もからっとして心地よいです。

・ヴェーヌス(R.ヴァーグナー『タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦』)
サヴァリッシュ指揮/ヴィントガッセン、シリヤ、ヴェヒター、グラインドル、シュトルツェ、クラス共演/バイロイト祝祭歌劇場管弦楽団&合唱団/1962年録音
>ヴァーグナーが苦手な僕でもこれは凄い演奏、確かに超名盤だと思いました。ヴェーヌスは最初と最後にしか出てこない、言ってしまえばチョイ役な訳ですが、この役が決まらないとタンホイザーはなんで道踏み外したのかわからん、なんてことになりかねない要役です。最初に登場した場面での適度な色気がまずあらまほしきもの。カルメンでもそうでしたが色気は或る種のスパイスですから、効かせ過ぎると却って味わいを損なってしまいます。そのあたりの匙加減が彼女は非常に巧いと思います。しかし圧倒的なのは終幕で登場したときの強烈な存在感!そこまでのヴィントガッセンのローマ語りと、タンホイザーを懸命に引き留めるヴォルフラムのヴェヒター、それに轟然と火の点いた演奏を繰り広げるサヴァリッシュの中でさえなお強い印象を残す彼女の演唱に耳を奪われます。ああ、ヴァグネリアンはこういうのを求めてヴァーグナーを聴くんだなぁと嘆息するような素晴らしい演奏です。その他ここで挙げなかった共演陣にも死角はありません。

・シメーヌ(J.E.F.マスネー『ル=シッド』)
ケラー指揮/ドミンゴ、プリシュカ共演/ニューヨーク・オペラ管弦楽団&合唱団/1976年録音
>隠れた名曲の名盤。というか相変わらず唯一の全曲盤でしょうか。珍しく彼女が純然たるヒロインを演じていますが、気品のある貴族の娘を演じさせた時の良さはエボリに通ずるものがあると思います。ドラマティックな迫力も必要な役どころですが、そのあたりも十分。この作品の真価を伝える歌唱でしょう。力感漲るドミンゴの英雄ぶりも見事で、プリモ・ウォーモ的な本作を楽しむのに不足はありません。プリシュカの渋い父親役もハマっていますし、その他脇役陣も不満のない出来です。
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