Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第九夜/シチリア・熱く燃える太陽~

今回は、私が最初に生で聴いた歌手を。

La scola
Pollione

ヴィンチェンツォ・ラ=スコーラ
(Vincenzo La Scola)
1958~2011
Tenor
Italy

ポスト三大テノールの一角とも言われた実力の持ち主、もうこのひとも今更凄く話題になる、という風でもないヴェテランですが(苦笑)
21歳のときに、彼自身が大ファンでもあったルチアーノ・パヴァロッティに見いだされ、パヴァロッティの師匠筋にあたるアッリーゴ・ポーラと大歌手カルロ・ベルゴンツィに師事しています。

その後軽めの作品から重量級の役までいろいろと手堅くこなし、現代を代表するテノールとして知られていますが、個人的にはどちらかと言えば軽いレパートリーを歌っていた若い頃の演唱の方が良いと思います。

この記事を最初に書いたころ、実はもうあまり歌ってはいなかったのですが、またかつてのような歌を聴きたいと思っていたこともあって取り上げた部分がありました。

その後余りたたないうちに、残念ながら亡くなられたということです。
享年53。滞在先のトルコで客死したそうです。
私にとって最も実演を見た歌手でもあり、あまりにも早い死に大変ショックを受けました。

ここ数年は来日した際にも調子が今一つでどうしたことかと思うこともありましたが、実は前回の来日の際には心肥大で既に歌うのも危険な状態だったのだそうです。それから数年…最近来日しないな、と思っていた矢先でした。


<ここがすごい!>
何よりこのひとはその美声に於いて特筆すべきでしょう。
伊国本国でも、そして日本でも「太陽」と称される非常に透明で張りのある声の持ち主です。凄く高い音を持っているひとではありませんが、彼の出す高音の響きには独特の、ちょっと金属的な感じがあり、それが非常に印象的ですね。

いろんな役をやるひとではありますが、思うに本質的にはスピントからリリコの間ぐらいの感じなので、硬い感じの曲よりももっとしっとりと、それこそリリックな雰囲気の柔らかい曲を歌っているときにこそその本分を発揮しています。そして、どちらかというとより様式のはっきりした時代の歌の方により適性があったように思います。歌のフォルムもしっかりしているし、口跡もいい。基本的には歌の巧さがベースにある人であり、演技やドラマティックさを持ち味にしている人ではないような気がします。そういう意味では、彼にとっては初期のレパートリーになるのでしょうがベル・カントものやヴェルディの前期の作品では代え難い録音を残していると思います。

最も手に入りやすく、そして彼自身としても最良の録音のひとつとしてはNAXOSから出ているG.ドニゼッティ『愛の妙薬』のネモリーノが挙げられるでしょう。これは本当に素晴らしい!趣味の問題はあるでしょうが、正直この曲には少し暑苦しい節回しを展開するパヴァロッティ(笑)よりも個人的には好きですね。尤も、史上最高のネモリーノはフェルッチョ・タリアヴィーニだとは思うのですが…(笑)

後、いまはやや手に入りづらいですがG.F.F.ヴェルディ『エルナーニ』の題名役や、A.ボーイト『メフィストーフェレ』のファウスト、オペラではないですがG.ロッシーニ『小荘厳ミサ曲』のテノール独唱も素敵です♪個人的にはV.ベッリーニ『ノルマ』のポリオーネも好きです。世評は高くないのですけどね(^^;重量級の役としてマリオ・デル=モナコやフランコ・コレルリなどが賞賛されるのですが、むしろ彼の演唱の方が好感が持てます。

ただ、歌のフォルムの良さがあるので、本来の持ち役ではないと思われる後期ヴェルディ、例えばG.F.F.ヴェルディ『アイーダ』のラダメスなんかは、先入観を持たずに聴くと、非常に新鮮な魅力に気づくことも確かです。

<ここは微妙かも(^^;>
多くの歌手がそうであるように彼も、年を経るに従って重量級のレパートリーを歌うようになりました。特に彼自身がG.プッチーニが好きなようで、ここ数年は(特に日本の伊オペファンはプッチーニ好きが多いこともあるためか)、日本ではほぼプッチーニ尽くしなのですが…これは正直あんま良くない(^^;僕自身がプッチーニよりもドニゼッティやヴェルディを愛好することをしょっぴいても…う~ん、何で???っていう(苦笑)声量も決してある方じゃないし。

声という点で言うのであれば、少し前のもの、できれば喉のポリープ手術をやる前の方が多くの方におススメできます。

<オススメ録音♪>
・ネモリーノ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
モランディ指揮/ルッフィーニ、フロンターリ、アライモ共演/ハンガリー国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1995年録音
>これはNAXOSに時々ある、大当たり録音のひとつです。特にこの作品のハイライトであるアリア“人知れぬ涙”は、単に彼のベスト・パフォーマンスのひとつ、というだけではなく数ある“人知れぬ涙”の録音のなかでも最良のもののひとつと言って良いでしょう。探してみると実はかなりいろいろなオムニバス盤に、ここでの彼の歌唱が引用されていたりします。柔らかな美声を発揮するフロンターリ、明るい声で軽妙に当たり役ドゥルカマーラを演ずるアライモなど男性陣の演唱が魅力的な録音です。

・エルナーニ(G.F.F.ヴェルディ『エルナーニ』)
カレッラ指揮/デッシー、コーニ、ペルトゥージ共演/イタリア国際管弦楽団&ブラティスラヴァ室内合唱団/1991年録音
>ペルトゥージのところでもご紹介した隠れ名盤です(笑)これは彼の歌う硬い感じの役のなかではいいもののひとつ。張りのある美声はやっぱり素晴らしい!中期以降の作品に引っ張られて、重たい声の歌手によるギラギラな演奏をされがちな曲ではありますが(それもまた魅力的はあるのだけれど)、この作品自体が書かれたのがヴェルディに於いても初期だということを考えるのであれば、本来ならこういうすっきりしたかたちでの演奏が意図されていたのではないかと思う訳です。

・ポリオーネ(V.ベッリーニ『ノルマ』)
ムーティ指揮/イーグレン、メイ、カヴラコス共演/フィレンツェ5月祭管弦楽団&合唱団/1994年録音
>これもデル=モナコやコレッリのイメージでいる人たちからはあまり受けのいい録音ではないようですが、何のなんの彼の最高の美声が楽しめる録音ですし、前述のエルナーニ同様、本来ならポリオーネもベル=カントの作品な訳ですから、ヴェルディを歌うような人が重厚に歌うというタイプの役ではないと思うのです。この録音は肝腎のノルマがちょっと?ななところがありますが、ムーティの熱の籠った指揮(この頃はまだ“皇帝”ではないと思う)によるきびきびとした音楽作りで楽しめます。

・ファウスト(A.ボーイト『メフィストーフェレ』)
ムーティ指揮/レイミー、クライダー、ガヴァッツィ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1995年録音
>これはベル=カントや初期ヴェルディはありませんが、彼の当たり役のひとつと言ってもいいのではないかと思っています。伊語の明晰な発音、口跡もそうだし、流麗な歌づくりもいい。共演のクライダーも美声だし、この手の役を最も得意とする極めつけのレイミーの悪魔も素敵です。この作品を愛してやまないというムーティも流石の手腕を発揮しています。

・ヤコポ・フォスカリ(G.F.F.ヴェルディ『2人のフォスカリ』)
サンティ指揮/ヌッチ、ペンダチャンスカ共演/ナポリ・サン・カルロ劇場管弦楽団&合唱団/2000年録音
>マイナー作品だし歌劇としていろいろと欠点の多い作品ではありますが、悲劇の主人公をラ=スコーラが熱演しています。熱演と言ってもヴェリズモっぽくなったりはせず、端正な歌を美声で聴かせてくれます。円熟したヌッチの力演とともに楽しめるのも嬉しいところ。ペンダチャンスカはちょっといまいちですが。。。

・エセックス伯爵ロベルト・デヴリュー(G.ドニゼッティ『ロベルト・デヴリュー』)
フェッロ指揮/グルベロヴァー、アレン、チョロミラ共演/WPO&ヴィーン国立歌劇場合唱団/1990年録音
>隠れ名盤と言うべきでしょう、音質こそ冴えませんが素晴らしい演奏です!女王三部作の中では一段劣る扱いを受けている本作ですが、人が揃えばこれだけ楽しめる、ということがよくわかります。ラ=スコーラは最も声の良かった時期だと思います。癖のない明るい響きは最高です。彼にあった様式感のあるベル・カントの演目ですから、彼の記録の中でも上位に入るものでしょう。グルベロヴァーのエリザベス女王も彼女のピークの時期ですから迫真の歌唱ですが、どうも彼女の伊ものには違和感があるのも事実です。ま、こんだけ歌ってるのに文句言ったら罰があたりますが(笑)ノッティンガム公爵のアレンは思っているよりずっとベル・カント物にあっているようで、スタイリッシュな名唱。英国紳士らしい落ち着いた響きの声は役柄にもあっています。サラのチョロミラもしっとりした声でまずまずの出来。

・ドン・カルロ(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)2015.6.27追記
フェッロ指揮/ファン=ダム、テオドッシウ、ヌッチ、コムローシ、ヴァニェーイェフ、シニョリーニ共演/ナポリ・サン=カルロ歌劇場管弦楽団&合唱団/2001年録音
>ここにきてひょっとすると彼のベストのパフォーマンスの一つなのではないかと思うものを入手しました。声質的には彼よりも重たい声が求められると思うのですが、一番良かったころの歌唱だということもあり、高音もばちっと決まりますし、何よりも歌声に輝きがあり、響きが稠密。伊ものはやはりこういうからっとした明るくてやや金属的な光沢がある声で歌われると栄えます^^演出が非常に古風で動きも少ないものではあるのですが、その中でしっかりカルロという人物を作っているのが印象に残ります。なよっとした頼りなさ、不安定さ、優柔不断さを彼なりによく消化し、表現しているように感じます。だんだんと本当にカルロっぽく見えてくるのだから、ラ=スコーラの計算がばっちり当たっているのでしょう。共演も好調で特にヴェテランのファン=ダムのダンディな国王と、伊ものらしい熱血歌唱のヌッチが出色でしょう(ヌッチはげてるけどな!)フェッロの指揮がちょっとだるいのが惜しいですが、この映像はおすすめできるもの。

・レーヴェンスウッド卿エドガルド(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)2017.4.22追記
メータ指揮/グルベロヴァー、フロンターリ、コロンバーラ、ベルティ共演/フィレンツェ・フェニーチェ歌劇場管弦楽団&合唱団/1996年録音
>東京でのフィレンツェ歌劇場の引越公演の映像ですが、これは超名演!!このときに自分がまだ年端の行かない子供だったのが悔やまれます……(苦笑)ラ=スコーラは上のドン・カルロを観たときに彼のベストかなと思っていたのですが、それを超える感動的なパフォーマンス。過去に視聴したどの演奏よりも、本当にのびやかに声が出ていて嬉しくなります^^そしてまた若いころの彼の透明且つ力強い響きがエドガルドのキャラクターによく合っていて、珍しくカットされずに演奏されているエンリーコとの決闘の場面など実にカッコイイ。もちろん終幕のアリアも絶品ですし、グルベロヴァーとの重唱では彼女に引っ張られてかとんでもない高音をサラッと出していてびっくりさせられますが、白眉はルチアに指環と呪いの言葉をを投げつける場面でしょう。圧倒的な緊張感と集中力で観る者の心を揺さぶります。共演ではグルベロヴァーがまた最高の歌唱で、彼女のベルカントのものの中でも出色のものと思います。狂乱には思わず涙腺が緩みます。コロンバーラやベルティもお見事、フロンターリも歌はいいのですがちょっと割を食ってしまった感じがするのが惜しいところです。
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