Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第五十一夜/Mr.Ms.~

どうもいつも男声が続きがちなので、たまには女声続きで行きたいと思います(笑)

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Arsace

マリリン・ホーン
(Marilyne Horne)
1934~
Alto, Mezzo Soprano
America

「とか言いながらタイトルに“Mr.”って入ってるやないかい!」と思ったそこのあなた!
全くごもっともです(笑)
歴史的な経緯からオペラには妙な習慣があり、男装をした女性が男性役としてしばしば登場します。これをズボン役と言い、アニメの声優のように少年だけならまだしも、英雄と言うべき役回りもやったりします。結構これは曲者で、技術や歌心だけ俎上にとれば大変優れた歌唱を示したとしても、声質が可愛すぎたり色っぽ過ぎたりすると、様にならない!で、そうした役での活躍が目立つのがホーンなのです。或る意味で男よりも男らしい、立派な声で、きりっとした若武者が目に浮かびます。特にロッシーニの諸役については、彼女なくしては語れないもの が多々あります。

しかし、その男勝りな声をどうにも受け入れがたいと思った批評家が日本にはおり、そのために本国では長らく正当な評価がなされていなかった人物でもあります。このあたり同様にこの頃の米国を代表する歌手であるサザランドやミルンズともどもこっけこけに言われているのを見るにつけ、や、それは違うんじゃないの?と思ってしまいます。彼女の声、技術、歌心はいずれをとっても超一級のものだと思いますし、上述のとおり彼女がいなければその後のロッシーニ・ルネッサンスへの足がかりは、確実に一つ少なかったでしょう。
「男性顔負け」というアピールをし過ぎましたが、もちろん女性の役でもその素晴らしい歌唱を駆使していろいろな功績を残 しています。ロッシーニもですが、意外と知られていないところだと仏グラントペラの録音がいくつかあり、これらも聴き逃せません。

実生活の夫君はバスのニコラ・ザッカリア。ちょっと意外な感じもしますが、一緒の録音も結構あります。

<ここがすごい!>
この人の場合良くも悪くも常にまず言及されるのは、その太い響きの声です。好む好まざるに関わりなく、その声の響きは非常に印象的。「野太い」「男のような声」「ゾッとする」なんていう評が出るのもわからないではないのですが、僕自身は決して悪声ではないと思っています。深い響きのある声で、やわらかみのある響きなので、ベル・カントものや仏ものでは非常に映えます(尤も、彼女自身のレパートリ ーは僕が聴く範疇を超えてかなり広いので、より適正を感じるエリアもあるのかもしれませんが)。中でもやはりまず外せないのはズボン役で、その力強い響きは魅力的です。どうしても女声が男性役をやるとのには声質の部分で無理があって、場合によると歌そのものの立派さに至る前に違和感を覚えてしまうこともありますが、ホーンの場合はその違和感があまりありません。むしろ凛々しい若者の姿を素直に想像できるという点で、彼女は他の歌手よりも恵まれていると言っていいでしょう。ただどうしてもそのイメージが先行しているところがあって、彼女を評価する向きの人の中でも、彼女が女性役を演じた時の評価というのはいま一つ出てこないように思うのですが、それでは極めて一面的にしか彼女を 捉えていないように感じています。何故なら、彼女は女性の役を演じてもきっちりとその力を出すことのできる人だからです。当然ながら女性の役を演じるに当たってはアルサーチェ(G.ロッシーニ『セミラミデ』)やタンクレディ(同『たんくれでぃ』)と同じような歌は歌いません。その声のやわらかさをより遣い、より甘みのある表現で女性らしさを出しています。このように書くと当然のことしているようですが、それをハイレベルで実現しているからこそ、引退後久しい現在になっても取り沙汰される優れた歌手である訳です。彼女の評に於いて、どうもこうしたことは不当に無視され過ぎているように感じます。

その秀でたコロラトゥーラの技術も彼女の大きな武器でしょう。特にロッシーニの作品で顕著な高度な転がしは特殊な技能というべ きで、彼女と同世代でそれが可能だった人は少ないです。そういう意味では彼女はその後来るロッシーニ・ルネサンスと現代ロッシーニを主なレパートリーとして活躍している歌手たちの先鞭をつけたと言っても過言ではないと思います。本当にある時期までのロッシーニのメゾはホーンとベルガンサ、ちょっと下ってヴァレンティーニ=テッラーニと一部バルツァが殆ど担っていた感があります。いまでこそ百花繚乱というべき様相ではありますが、こうした先達がいなければ違っていたかもしれません。また、意外と見過ごされがちですが、コロラトゥーラの技術は仏ものグラントペラでも多用されています。彼女がこの領域でも素晴らしい録音を残しているということは、理由のないことではないのです。

<ここは微妙かも(^^;>
やはり声がやわらかいのだと思います。堅い声が欲しい作品ではいま一つかな。
具体的なことを言うとボニング盤『イル=トロヴァトーレ』(G.F.F.ヴェルディ)のアズチェーナは明らかにミスキャスト。これは他にもヴィクセルのルーナ伯爵とかサザランドのレオノーラとかトホホなところがあるもんで余計印象が悪いという説もありますが^^;(ちなみにサザランドはここでは持ち味が違うだけで素晴らしい歌手だと思います。ヴィクセルは…ま、いいやw)アムネリス(同『アイーダ』)やエボリ(同『ドン・カルロ』)も歌っているそうですが…ヴェルディのこういう大きい役はこれらから考えるとイマイチなような気が。
未聴ながらツェルリーナ(W.A.モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』)も歌ってるようですが…怖いもの聴きたさがあるようなないようなwwwでもミニョンは良 かったしなぁ。

<オススメ録音♪>
・アルサーチェ(G.ロッシーニ『セミラミデ』)
ボニング指揮/サザランド、ルロー、セルジ、マラス共演/LSO&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1966年録音
>いろいろな意味でいまや古いスタイルと言わざるを得ないとは思いますが、ひとつ重要な録音であると思います。何と言ってもホーンのアルサーチェ!これはやはり素晴らしい歌だと思います。この荘重な作品の主人公として、登場場面から華のある存在感を示して呉れますし、技巧の面でも舌を巻きます。まずはこれだけしっかり歌っているということだけでも評価されるべきですし、力強い若武者の姿を充分に表現していると思います。どうしてこれが空っぽな歌唱と称されるかね、 この国は^^;加えてここではサザランドとの相性の良さも特筆すべきもの。このふたりの声の重なりを聴ける重唱はこの録音の白眉でしょう。サザランドそのものもいまやベストのセミラミデではないとは思いますが、それでも立派な歌です。ルローのアッスールは技術的には辛いところもありますが、なかなかカッコいい悪役声で頑張っていると思います。セルジは正直つらいなぁ…どうせならアリア両方カットでも良かったのでは。ボニング先生の指揮はいいところもありますが、だるいとこはだるいといういつもの感じ。なにより盛大なカットが残念ではあります。とはいえ、ホーンの魅力を語る上では欠かせない音盤でしょう。

・タンクレディ(G.ロッシーニ『タンクレディ』)
ヴァイケル ト指揮/クベッリ、パラシオ、ザッカリア、ディ=ニッサ、シューマン共演/フェニーチェ歌劇場管弦楽団&合唱団/1983年録音
>流石に古い録音だなとも思いますが、ここでのホーンはやっぱり名唱だと思います。彼女はこの作品を好んで各地で取り上げ、人気の復活に一役買ったそうですが、それもよくわかる立派な歌唱。ここでもその凛々しい声が非常に活きていますが、終幕の死の場面などpで持っていく部分もよく練られた歌だと思います。これが中身のない歌唱だったらいったいどんな歌唱を期待しているのでしょう。また外面的なところではありますが、彼女は原作通り悲劇で終わるフェラーラ版に拘っていたのだそうで、そういったエピソードを勘案しても、何も考えずただ綺麗に歌いましたという人ではないのは透けて見えると思うのですが。共演ではパラシオが凛々しくてよいですが、クベッリはもうちょっとかな。

・ジョヴァンナ・セイモール(G.ドニゼッティ『アンナ・ボレーナ』)
ヴァルヴィーゾ指揮/スリオーティス、ギャウロフ、アレグザンダー、コスター、ディーン、デ=パルマ共演/ヴィーン国立交響楽団&合唱団/1968-69年録音
>この音盤も既にギャウロフとスリオーティスの回でそれぞれ登場し、世間の評は兎も角個人的には名盤と思う、というお話をしているところですね^^サザランドとの声の相性がよく取り沙汰されますが、スリオーティスともいい感じ。従ってアンナとジョヴァンナの重唱の場面は見事ですが、ここはヴァルヴィーゾの采配もあって緊張感 のある仕上がりになっています。意外と少ないギャウロフとの重唱も聴き逃せません。2人とも声が最も豊かな頃ですからかなりの充実感があります。当然ながらホーン単独で歌う部分でもその技術の高さで聴かせ、特にカバレッタは立派な演奏だと思います。

・ミニョン(C.L.A.トマ『ミニョン』)
デ=アルメイダ指揮/ヴァンゾ、ザッカリア、ウェルティング、フォン=シュターデ共演/フィルハーモニア管弦楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団/1977年録音
>名盤。かつて大流行した演目ですが、こうして聴ける録音の何と少ないこと!可憐な少女の役にホーンが似合うのかと最初思いますが、いざ聴いてみると流石というところ。名アリア“君よ知るや南の国”は豊麗でやわらかな声に 合っていますし、コロラトゥーラを要求される部分もあるので、実は彼女の本領を示せる役ですね^^ヴァンゾのスタイリッシュで気品のあるヴィルヘルムは仏ものテノールの理想的な歌唱だと思いますし、夫君ザッカリアのロタリオも滋味の溢れる歌で感動的。ウェルティングの煌びやかなアリアも見事。脇役で参加しているフォン=シュターデも双葉より芳しいですね、彼女のミニョンも聴きたいと思いますが。ちょっと指揮がまったりし過ぎな気もしますが、それは作品そのものにも言えるかもしれません^^;けど、悪くないです。

・フィデス(G.マイヤベーア『預言者』)
ルイス指揮/マックラケン、スコット、バスタン、ハインズ、デュパイ、ドゥ=プレシス共演/ロイヤル・フィルハー モニック交響楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団/1976年録音
ルイス指揮/ゲッダ、リナルディ、ジャコモッティ、エル=ハーゲ共演/RAIトリノ交響楽団&合唱団/1970年録音
>いまやマイナーになってしまっていますが、これはもっと演奏されていい優れた作品だと思います。ホーン演ずるフィデスはお仕着せ預言者ライデンのジャンの母親ですが、この作品の真の主役は彼女ではないかと言うくらいの活躍ぶりを示す役どころ。ホーンはドラマティックで貫録たっぷりです。ここでもかなりのコロラトゥーラ(ヒロインに与えられた音楽よりも高度です笑)がありますが、見事に捌いています。ロッシーニなんかが書いているものとは聴いた感じでもかなり理窟が異なる音符の並びだと思うのですが、ほんと にたいしたものです。綺羅星のようなスターを並べた76年盤が立派な演奏だとは思うのですが、ジャンについてはゲッダの方がいいかな。いずれにせよ『ユグノー教徒』や『悪魔のロベール』の良い音源も出てきている訳だし、復刻して欲しい楽しめる音源です。作品自体もマイヤベーア渾身の作品だと思うし、リヴァイヴァルして欲しいなぁ。

・ジョコンダ(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)2013.12.6追記
ガルデッリ指揮/テバルディ、ベルゴンツィ、メリル、ギュゼレフ、ドミンゲス指揮/ローマ聖チェチーリア管弦楽団&合唱団/1967年録音
>不滅の名盤。ここではその豊かで柔らか味のある声をフルに使って、ラウラを優しい人物として描くことができているのではないかと思います。また、意外なぐらいドラマティックな歌いぶりで、藝風の広さを感じさせます。テバルディとの対決場面はこの音盤の白眉と言って良いかもしれません。テバルディ、ベルゴンツィのところでも述べたとおり共演陣及びガルデッリの指揮はいずれも見事でこの決して短くない作品を一気に聴かせてしまう音源です。再販を強く希望します!

・マッフィオ・オルシーニ(G.ドニゼッティ『ルクレツィア・ボルジア』)2014.9.3追記
ボニング指揮/サザランド、アラガル、ヴィクセル、デ=パルマ、ヴァン=アラン、ザッカリア共演/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団&ロンドン・オペラ合唱団/1961年録音
>名盤。アルフォンソ役以外のすべてが揃った演奏です。特にサザランドが凄い。ホーンは流石にこうした男役を演じるとびしっとハマりますね^^歌い口も凛々しく、アラガルとの若者コンビに説得力があります。大物を揃えた脇役陣とのアンサンブルの中でも埋もれずにきっちり存在感を発揮し、若者たちをリードしていくところは流石の一言。しかしそれ以上にこの人の技巧の高さに唸らされると言ってもいいかもしれません。有名なクープレの2回目の自由自在な装飾には圧倒されます。こういうコロラトゥーラを嫌う向きもありそうですが、公平に見てここまで歌える技術力は評価されるべきです。彼女の名唱のひとつとして、記憶に留めるべきものだと思います。
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