Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第五十五夜/その輝きは稲妻のように~

前回に引き続き今回も録音が少ないのが大変残念なひと。
と言っても、チャンガロヴィッチに較べたら多いですが^^;

G-Raimondi2.jpg
Sir Edgardo di Revenswood

ジャンニ・ライモンディ
(Gianni Raimondi)
1923~2008
Tenor
Italy

実は伊系のテノールで、私が一番好きなのはこの人かもしれません。
声量が凄くある方ではないと思うのですが、ハリのあるきりっとした声はどの音域でも非常によく伸び、よく飛びます。そして、これ以上望むべくもない美声です。本当に惚れ惚れするぐらい!歌い口も実にエキサイティングなもので、特にライヴでの緊張感の高い歌唱は刺激的です。その実力は特にミラノ・スカラ座で買われ、同劇場で200回を越える出演をしたのだとか。

個人的には第1級の名テナーだと信じて疑わないのですが、このひとの実力に対するメジャー・レーベルへの録音の少なさはちょっと信じがたいものがあります。確かにデル=モナコ、ディ=ステファノ、ベルゴンツィ、コレ ッリと群雄割拠の時代にあった訳ですが、そうした人たちと比肩して格が落ちるとはとても思えない。私自身の趣味から行けば同じような感じのディ=ステファノよりは、彼の方がうんと好きなんだけど…。どうしてもライヴでいろいろなものを探さざるを得なくなります。“海賊盤の女王”と呼ばれたゲンジェルの、テノール版とでも言いましょうか。

とはいえ、スタジオ録音以上にライヴで強烈な演奏が多いのもまた事実なのですが。ほぼ確実にホットな歌唱を期待できる稀有な歌手だと言っていいでしょう。

<ここがすごい!>
伊系の美声テノールは?と問われればいろいろな名前が挙がると思いますが、その中でも筆頭に掲げるべき歌手です。どの音域を取っても兎に角素晴らしい声!特 にその高音の響きの魅力には、心も詞も及ばれね。G.F.F.ヴェルディの作品を歌う中では軽めの声なので、圧倒的な破壊力と言う点では一歩譲るかもしれませんが、絶好調の時にはその響きの鋭さと言いますか輝きの強さと言いますか稲妻のようなキレがあり、聴くものに強烈な印象を与えます。

またこうした声の使いどころを良く心得ています。如何に決定的な武器となる素晴らしい声を持っていたとしても、使いどころや使い道を誤れば却って平板な印象になってしまったり、いま一つ印象に残らないという残念な結果に繋がりかねません。オペラは長いので、音楽的・演劇的な決めどころでしっかりと力を見せるということが、結構歌手のセンスを問われる部分になってきます。それは必ずしもアリアや 目立つアンサンブルと言う部分に限らず、レチタティーヴォにもはっきりとそういう場面はあって、例えば歌舞伎でいえば見栄を切るところだなというような音楽は絶対に決めどころです。で、そういうあたりライモンディは大変うまいのです。そういう箇所を外さない、ということができればまずは手堅い印象を受ける訳ですけれども、そこで全力の表現をして聴衆を圧倒するのです。もちろん妙な崩しを入れたりせず、きっちりと美しいフォルムの歌を歌いながら。表現者としてこれほど優れたテノールもなかなかいないのではないかと。これがこのひとを聴いていてゾクゾクする一番の要素でしょう。

レパートリーは伊ものの中では結構幅広く、ロッシーニからプッチーニまでいろいろ歌っています。 個人的には強く印象に残っているのはエドガルド(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)及びフェルナンド(同『ラ=ファヴォリータ』)の両役です。どちらもテノールに素晴らしい歌が用意されていますから、いろいろな歌手が録音を遺している訳ですが、これらはダントツに彼が素晴らしい!極めて集中度の高い、圧巻の歌唱を楽しむことができます(^^)

<ここは微妙かも(^^;>
ハリのある緊張感の高い高音が魅力ではあるのですが、今の歌手のように超高音までやすやす、という訳ではないです。ですからアルトゥーロ(V.ベッリーニ『清教徒』)などは歌のフォルムは非常に美しいものの、キーや音を下げたりしています。ですからそういう部分での或る種のカタストロフ的な魅力はどうしても一 段落ちてしまうところがあります。

それでもいい歌歌えちゃうんですけどね、このひと笑。

<オススメ録音♪>
・レーヴェンスウッド卿エドガルド(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
アバド指揮/スコット、G.G.グェルフィ、フェリン共演/ミラノ・スカラ座歌劇場管弦楽団&合唱団/1967年録音
>不滅の名盤です。これまでもスコットとグェルフィのところでそれぞれご紹介したように共演陣も素晴らしいのですが、実は一番興奮させられるのはライモンディの歌唱だったりします笑。伊国のテノールらしい明るい声で歌われる最後のアリアは、まさにこういう歌唱を期待していたというような熱を帯びたもので、素晴らしい死に様。しかし、それ以上に凄いのは有名な6重唱の後、ストレッタに入るところの直前での呪いの言葉!これはもう強烈としか言いようがない一世一代の大見栄を切っていて、ここまでスリリングな演奏は他に類を見ません。ベル・カントは苦手だという向きの方にも是非聴いていただきたい凄演です!

・フェルナンド(G.ドニゼッティ『ラ=ファヴォリータ』)
プレヴィターリ指揮/シミオナート、ザナージ、ザッカリア共演/ナポリ・サン=カルロ歌劇場管弦楽団&合唱団/1963年録音
クエスタ指揮/バルビエーリ、タリアブーエ、ネーリ共演/トリノ・イタリア放送響&合唱団/1955年録音
>フェルナンドは優美な旋律線を如何に魅せられるかという役だけに、彼の持ち味を最も楽しむことのできる役だと言っていいでしょう。今回ご紹介する音源は上がライヴ盤下がスタジオ盤で、どちらもその性格が色濃く出ていると思います。手に入りづらく、また音もいま一つではあるけれどもやはりライヴ盤は圧倒的な熱気!かなりのカットやライヴらしい疵があるのもまた確かなのですが、そうしたことを補って余りあるパワフルな高音の連続に痺れます。プレヴィターリの采配が見事でのめり込めますし、シミオナート、ザナージ、ザッカリアの共演陣も上々。対してスタジオ録音は当然音質はライヴより上で、落ち着いた色合いの端正な演奏になっています。とは言え共演がバルビエーリとネーリと言う迫力系の人だということもあり、これもまた聴き応えのある演奏。有名な終幕のアリアはやわらかな歌い口でうっとりとしますし、ネーリとの重唱では声のコントラストが決まっていて非常に耳に心地よいです^^

・アルフレード・ジェルモン(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
ヴォットー指揮/スコット、バスティアニーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1962年録音
>不滅の名盤。カットのある昔ながらの演奏のスタジオ録音としては一等地抜いた存在だと思います。艶やかで覇気のある彼の歌声と表現は非常に爽やかであるのみならず、若さゆえの無鉄砲さ、青さ、傲慢さをも描き出し、この思慮に欠けるアルフレードという役柄に説得力を持たせています。個人的にはその無謀なまでの若々しさでカバレッタも歌って欲しかったところではありますが^^;切れ味抜群のスコットのヴィオレッタ、ジョルジュにはイケメン過ぎながら見事な歌を聴かせるバスティアニーニに、名匠ヴォットーの心得た指揮、スカラのオケと合唱ですから、楽しめないはずのない1枚です。ヴェルディ・ファン、椿姫ファンなら手許に置いておきたい音源です。

・リッカルド・ペルシ(G.ドニゼッティ『アンナ・ボレーナ』)
ガヴァッツェーニ指揮/カラス、ロッシ=レメーニ、シミオナート、クラバッシ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1957年録音
>楽譜の扱いには難があるものの超名盤ですね^^このblogでも繰り返し登場しています。彼の出番もかなりカットされていて、アリアも1個ないしもうひとつのアリアも半分以下に切り詰められてしまっているのは非常に残念なのですが、いつもながら明るく若々しい声とスタイリッシュな歌唱で華を添えています。共演陣との声の相性も良く、この伝説的な名演を支える重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

・アッリーゴ(G.F.F.ヴェルディ『シチリアの晩禱』)
ガヴァッツェーニ指揮/スコット、カプッチッリ、R.ライモンディ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1970年録音
>これまた怒濤のライヴと言うべきもの。ここでもアリアとか結構盛大に切り詰められちゃってるのが残念ではあるのですが、ハリがあり飛ぶ声は非常に耳に心地よいです^^特にカプッチッリとの重唱はざっつ・いたりあん!というアッツい歌唱を繰り広げています。何故だかスコット以外の歌手陣に対する客席の反応が非常に冷めているのですが、カプッチッリもR.ライモンディもあらまほしきパフォーマンスを見せています。当然ですがスコットも凄まじい歌で個人的にはエレナ公女のベストと思います。

・ロドルフォ(G.プッチーニ『ラ=ボエーム』)2014.2.17追記
フォン=カラヤン指揮/フレーニ、パネライ、ギューデン、ヴィンコ、タッデイ共演/ヴィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1963年録音
>名演と言っていいものでしょう。あたりを取ってあちこちで上演し、映像にもなったプロダクションのもの。彼のロドルフォについては結構意見の分かれるところなのかもしれませんが、僕自身は好きです。結構この役は若さを甘く、或る意味暑苦しく表現する歌手が多いように思うのですが、そうしたものとは一線を画した清潔感のある歌唱でさっぱりした印象を受けます。それがつまらないと捉える向きもあるのでしょうが、個人的にはこの方がより若く頼りないロドルフォのキャラクターには合っているように思います。さっぱりしているとは言いましたが、いつもながら響きは充実していますし、暑苦しくはないけど情熱的ではある。結構いいバランス。こういう歌はなかなか歌えるもんじゃないと思います。フォン=カラヤンの指揮も有名なスタジオ録音のような豪奢で緻密な響きで押してくる演奏ではなく、より歌手を前に立たせたもの。基本的には僕はこういう方が好きだな笑。フレーニのミミ、パネライのマルチェッロは相変わらず天下一!ギューデンのムゼッタは響きはやはり堅く独的なものの、スタジオ程の違和感はなく、彼女の伊ものの中ではベストの出来。ヴィンコのコッリーネも重すぎずちょうどいい存在感です。ショーナールになんとタッデイ!!もちろん素晴らしい歌唱で、ボヘミアンたちの中では地味になりがちな音楽家を存在感たっぷりに演じています。

・ファウスト(C.F.グノー『ファウスト』)2016.2.5追記
プレートル指揮/フレーニ、ギャウロフ、マッサール、アルヴァ、ディ=スタジオ、ジャコモッティ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1967年録音
>超名盤!漸く聴きとおすことができました^^;これまでも述べてきたとおりライモンディは素晴らしい声を持った、歌い口の優美なテノールではありますが、この鋭い輝きは仏ものではどうかなあと思っていました。しかしこれは全くの杞憂で、確かにゲッダのような上品さややわらかさとは一線を画すものの、スタイリッシュで動的なファウスト像を創りあげています。そしてここでもまた彼らしいライヴでの爆発力!高音の切れ味の見事さにはことばもありません。有名なアリアももちろんですが、決めどころでしっかり見栄を切れるのは、やはり彼の大きな長所です。フレーニやマッサールといった共演も総じて最高のパフォーマンスですが、ギャウロフの悪魔が出色。伊的な演奏ですが、オペラ好きなら必聴!
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コメント

そうそう! ジャンニ・ライモンディの名前はよく聞くんですが、しっかり聴いたことないんです。

しかし、困りました。オススメ音源、ほとんどベルカント系じゃないですか(^^;;
あ、椿姫がありますね! 兄ぃニがジェルモンだし、それで行こう!d( ̄  ̄)
2014-01-14 Tue 23:15 | URL | しま [ 編集 ]
ライモンディいいですよ~イチオシ!
このルチアはかなりテンション高い系なんで、しまさんもお好みではないかと思うのですが^^

あと、名盤として推されるのは『ラ=ボエーム』でしょうか。実はようやっと入手したのでこれから聴きますw
2014-01-15 Wed 07:42 | URL | Basilio [ 編集 ]

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