Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第六十夜/星は光りぬ~

前回の切番は50回と言う大きな節目だったのでヴェルディをご紹介しましたが、今回はそれ以前の例に倣ってまたオペラで活躍する楽器に焦点を当てて行きたいと思います。
フルート、オーボエ&コール・アングレと木管楽器のパートで上から順に下がってきているので、今回はクラリネット。有名な楽器ですしどんな楽器かと言う話は今回も割愛します。

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オケの定番として活躍する木管楽器としては最も若い楽器として知られ、楽器の特性を最初に引きだしたのはW.A.モーツァルトだと言われています。彼はクラリネットやバセット・ホルン(古楽器。現在はアルト・クラリネットで代用するのが一般的になっている)の音色を愛したことで知られ、数々の名曲を残しています。ご多分に漏れず歌劇の中でもクラリネットが活躍するものが少なからずありますが、中でも有名なのはこの曲でしょうか。

・セストのアリア“私は行くが、君は平和に”(W.A.モーツァルト『皇帝ティートの慈悲』)

恥ずかしながらこの作品はまだ全部聴けていないのですが、この曲は名曲だと思います(ベーム盤は我らがベルガンサがセストを演じていると言うし、仕入れねば)。聴きました。彼の超有名作程のキャッチーさはないものの、やはり素晴らしい名曲!(追記2014.4.8)
何と言うか空恐ろしいのは、この曲にはこのあとご紹介する作品で聴かれるようなクラリネットの使い方のエッセンスが既に全て入っているようにすら聴こえるところで、流石は神童モーツァルト、といった感があります。クラリネットの場合は音域が広いと言うこともあり、印象的なテーマで旋律となる登場人物の独唱に絡んで行くことが多いように思います。主人公の第2の心象風景を表していると言っていいものなのでしょう。このセストのアリアではそういった部分がよく出ています。

・ヴィッテリアのロンド“花の鎖を編むために”(W.A.モーツァルト『皇帝ティートの慈悲』)

全曲を聴いて、どうしてももうひとつ追記せねばと思ったのがこのロンド。これを聴くと確かにモーツァルトはバセットホルンと言う楽器を殊更愛していたんだなぁということがよくわかります。その華麗で豊かな心象の表現は、上記のセストのアリアと同等或いはそれ以上と言ってもいいかもしれない。ヴィッテリアを演じるソプラノとバセットホルン奏者のふたりが揃えば、オペラ聴きとしての極上の一時を味わえること請け合いです(2014.4.8追記)。

・ロドリーゴのアリア“ああ、どうして私の苦悩を”(G.ロッシーニ『オテロ、またはヴェネツィアのムーア人』)

これに対し、よりクラリネットが前に出てヴィルトゥオーゾ的な妙技を披露するのは、やはりロッシーニ。これももちろん主人公の心象風景としての効果と言う部分はあり、千々に乱れるロドリーゴの想いを描きだすのに一役買っていると思います。ただ、それ以上に秀でたクラリネット奏者の腕の見せ所的な意味合いが強いかもしれません。こうした細やかで華麗な管楽器のソロを伴う楽曲はロッシーニには少なくなく、フルートのところでご紹介したシドニー卿のアリア(『ランスへの旅』)などと同じような系列にある作品と言ってもいいでしょう。

・ドン・アルヴァーロのアリア“天使のようなレオノーラ”(G.F.F.ヴェルディ『運命の力』)

ロッシーニではないですが、実際に優れたクラリネット奏者のためにソロを書いた人物もいます。ちょっと意外な気もしますが、誰あろうヴェルディです。このアリア、歌の出てくる本体も長いのですが、アリアの前奏としてはかなり長いクラリネットのソロがあります。この部分は、初演を行ったマリインスキー劇場の第1奏者だったエルネスト・カヴァリーニが彼の学生時代の友人であったことから作曲されたと言われています。アリア本体に入ってからもアルヴァーロと積極的に絡み、喪失と虚無に包まれた彼の想いを良く表しています。ロッシーニほど技巧的ではなくゆったりと聴かせる部分が多いため、逆に言えば奏者の歌心がよく出る音楽だと言えるかもしれません。

・ロドルフォのアリア“星の明るい夕べ”(G.F.F.ヴェルディ『ルイザ・ミラー』)

より伴奏的にクラリネットが活躍する曲も結構ありますが、代表例と言うべきなのがこれでしょうか。3連符でアルペジオを淡々と刻むのですが、他のパートがゆったりとした音楽を奏でているのでかなり印象的。というか音楽全体を実質的に動かしていく原動力がクラリネットに与えられていると言っていいかもしれません。

・第1幕フィナーレ(G.F.F.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』)

ヴェルディはクラリネットだけではなくバス・クラリネットの見せ場も結構作っています。中でも印象的なのは、このシモンがパオロにパオロ自身を呪うように強いる場面でしょう。遠回しに怒りと恨みを込めてことばを繋ぐシモンと、自らの罪の露顕に恐れ慄くパオロの、一見平静を装ったしかし不安な会話の背景に、バス・クラリネットが剣呑な空気を作り出しています。派手なソロと言う訳ではありませんが、この場面の緊張感を生み出しているのは実は歌手ではなくてこの楽器なので、是非とも巧い人にやってもらいたい部分です。

・リュドミラのアリア“愛する人から遠く離れた”(Г.И.グリンカ『ルスランとリュドミラ』)

何だか伊ものばかりなのもあれなので、ちょっと別のものも。不安な雰囲気を良く表していると言えばここでのクラリネットも忘れてはならないでしょう。ここではどちらかと言うとアルヴァーロのアリアでも見られたような雰囲気作り的なところでの貢献が大きいのかな。囚われの身のリュドミラの不安でしょうがなく、悲嘆にくれた姿が目に浮かぶような音楽です。西欧の垢ぬけた雰囲気ではなく、土俗的な如何にも国民楽派という風情は、先述の作品にはない魅力でしょう。この作品では他にも3幕フィナーレなどクラリネットがいい味を出している部分があります。大方序曲しか聴かれない曲ですけど、もっと評価されていい傑作です。

・フェヴローニャの歌“おお森よ、私の森よ”(Н.А.リムスキー=コルサコフ『見えざる都キーテジと乙女フェヴローニャの物語』)

これはまたちょっと違うかたちでクラリネットが登場してきます。この歌に限らず前奏曲から繋がりこの場面全体に、クラリネットはカッコウの鳴き声を、フルートとピッコロが小鳥の鳴き声を描写していています。こういう楽器の使い方は他の楽曲でも結構聴かれるものだとは思うのですが、そこはオーケストラの魔術師リムスキー=コルサコフ、神秘的な森を描く音楽を彩るスパイスとして強く印象に残ります。

・マリオ・カヴァラドッシのアリア“星は光りぬ”(G.プッチーニ『トスカ』)

さてこうして様々なところで(と言っても僕の聴く音楽の偏差の影響で伊ものと露ものしか紹介してないけど^^;もちろん独もの・仏ものでもクラリネットは重要な楽器ですよ!)活躍している訳ですが、オペラのクラリネットの中でも最も印象的で有名なソロと言えばこのアリアでのソロでしょう。獄中で楽しかったトスカとの愛を思い出すカヴァラドッシの悲壮感に満ちた空気を、このソロが如何によく表していることか!このクラリネットの前奏があることで、聴衆は彼が歌い出す前からその苦悶を共感することができるのです。プッチーニが書いた音楽の中のみならず、全てのテノールのアリアの中でも最も魅力的なこの曲の効果は、クラリネットの導入によってより向上していると言っていいと思います。
ちなみに、クラリネットにはToscaというブランドがあります。そうした由来になるのもさもありなんというところです。

ちょっとアリアの伴奏に焦点を当て過ぎたかな?もちろん他の部分でもクラリネットは大活躍している楽器なので、是非ぜひ注目していただければ^^

今夜はこんなところで。次回からはまた様々な歌手をご紹介していきます。
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