Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第六十四夜/人間的な脇の名手~

気づけば10000アクセス!
この面白いんだか面白くないんだかようわからんヲタクの長語りにいつもお付き合いいただき、本当にありがとうございますmmこれからもマイペースにw、更新を続けて行きたいと思いますので、引き続きお引立ていただければ^^

そして気づけばなんとこのシリーズ2ヶ月も空いてしまいました!いかんいかん。。。準備はしているんですがね^^;

仏国特集と言いながら、今回は白国の人。
そういえば既出のゴールもそうだし、いつか取り上げたいと思っているファン=ダムも、先日ご紹介したドゥセとの共演も多かったラオー、軽いものでの活躍の多いトランポンなどなど、仏人かと思いきや白国出身の名歌手は結構います。いずれもやわらかな声と自在な表現で鳴らした人ですが、今夜の主役はフォン=カラヤンにも重用された名手です。

Bastin.jpg
Agamemnon (Offenbach)

ジュール・バスタン
(Jules Bastin)
1933~1996
Bass
Belgium

名手は名手なのですが、このひとはあまり大役を演じている印象はありません。
というのも圧倒的な声のパワーで押してきたり、濃厚で強烈な表現をするタイプではないからです。どちらかと言うと、脇を固める人。しかしそうは言っても、印象が薄い訳ではなく、脇なりにぐっと印象に残るキャラづくりをしてきます。伸びやかでかろみのある声と小回りの利く表現力で、実に人間くさく親しみやすい人物像を描き出します。バスですから悪役を演じることも多々あるんですが、そうした役でも単に悪辣で厭らしい者に堕すことなく、何処か憎めない、大らかささえ感じるものに仕上げる手腕はお見事。

ここまで登場していた仏歌手シリーズだと、ベストはやっぱり仏もの!という人たちでしたが、彼の場合は小さい役とは言え、よりいろいろなジャンルで活躍しているように思います。特にモーツァルトやR.シュトラウスでの優雅で味のある歌いぶりはなかなかのもので、それぞれスペシャリスト的な歌手の記録も残っているとは言え、一聴に値する記録でしょう。

<ここがすごい!>
他の仏系での活躍が目立つバス、例えばヨセ・ファン=ダム、ロジェ・ソワイエ、グザヴィエ・ドゥプラ、ジャック・マルスといった人たちにも共通する特徴ではあるのですが、彼は非常に音色が明るく、軽い印象を受けます。悪く言えば重厚さがないと言うことになるのでしょうが、必ずしも全てのバスの役に重厚さが求められる訳でもなければ重厚な表現こそがバスの表現の真髄だという訳でもなく、彼のようなソフトでしなやかな声が求められる場面もあります。その声は高音がのびやかに響く印象が強いですが、実はオックス男爵(R.シュトラウス『薔薇の騎士』)も当たり役としていたぐらいですから、かなり低い音域まで余裕を持って出せましたし、そうした低音が響き歌手にありがちな鈍重さとは無縁で、非常に小回りがいい。そうした長所が、彼の場合は歌以上に表現力で活きているように思います。歌は間違いなくうまいのですが、人物の人間性をはっきり感じさせる藝には毎度感心させられます。特に喜劇的な人物を闊達に、嫌味なく創りあげる腕は素晴らしい。先に出てきたオックスにしてもバルトロ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)にしても、敵役ではあるんだけれどもどこか憎めない姿にしてしまいます。また、同様に得意な役としてパンドルフ(J.E.F.マスネー『サンドリヨン』)のように愛情深い優しい人物も挙げられるでしょう。

フォン=カラヤンのようなひとにも脇として重用された理由として、アンサンブルでの存在感があるように思います。より細かく言うなら、アンサンブルそのものの巧さと、上記のような彼の特長により埋もれず出過ぎず程よく聴こえてくると言うことでしょう。味のある響きの声は何処にいてもしっかり聴こえてきますが、それにより重唱のバランスが崩れたりすることはなく、非常にいい仕事をして呉れます。小さな脇役でもしっかり味付けができるセンスが、芝居にも歌にもある人、と纏めることが出来るかもしれません。

いろいろな役を歌っている彼ですが、以上のように見てくると、彼の良さが最も活きるのはオペラ・コミークやオペレッタの世界だと言えるかもしれません。軽妙洒脱な音楽と、脇役にもハッキリした存在感の欲しい芝居の色が濃い台本の中で、元気に動き回るバスタンを聴いていると、何だか楽しい気持ちになってきます。
正しく名優と言うべき逸材でしょう。

<ここは微妙かも(^^;>
逆に言えばどうしても重さの必要な役で出てくると、少し軽い印象になってしまうのもまた確かです。スタジオ録音もあるレオーニ(G.ヴェルディ『アッティラ』)などは、アッティラ役がレイミーだったこともあり、どうしても軽過ぎの印象を否めませんでした。
シリアスなものも巧いですが、個人的にはコミカルの方が好き。

<オススメ録音♪>
・アガメムノン(J. オッフェンバック『美しきエレーヌ』)
ロンバール指揮/ロード、コラッツァ、マルタン、トランポン、オーフォン、フリードマン、ギーグ、トリジュー、バルボー共演/ストラスブール交響楽団&ライン国立合唱団/1978年録音
>不滅の名盤。最高に楽しいオッフェンバック。僕が知る限りでは、バスタンの良さを最も引き出している音源です。何と言っても彼のコミカルでフットワークの軽い歌が魅力的。アガメムノン本人はいたって真面目なのに、いや大真面目だからこそ非常に滑稽に聴こえるという、まさに手本にすべき喜劇役者っぷりを発揮しています。自己紹介の歌での陽気なノリノリっぷりは必聴!作品そのものが伊ものの大パロディで、各幕のフィナーレとか相当笑えるのですが、中でも『グリエルモ・テル』の3重唱“スイスが苦しみの地となり”の出だしそのまんまな3重唱“ギリシャが戦場になれば”は白眉と言ってもいいでしょう。物々しく歌い出すバスタンが笑いを誘います。これに絡むキーロールのマルタンと名手トランポンがまた陽気でイケイケドンドン笑。リッチで色っぽい題名役のロードはじめ、脇役にいたるまで骨の髄までオペレッタの魂がしみ込んでいる面々の賑やかで華やかなアンサンブルと、それを統率する名匠ロンバールの手腕が冴える音源です。

・ドン・プロコーピオ(G.ビゼー『ドン・プロコーピオ』)
アマドゥッチ指揮/ヴァンゾ、マッサール、ギトン、ブラン、メスプレ共演/リリック放送管弦楽団&合唱団/1975年録音
>ビゼーの秘曲。ドン・パスクァーレ(G.ドニゼッティ『ドン・パスクァーレ』)に似たコミカルな役どころを愉快に演じています。この作品、長さの割に登場人物が多いこともあり、重唱が中心になってきますが、一番の聴きどころとなってくるのはすっとぼけたプロコーピオを間に置いて、アンドロニコとエルネストが腹を探り合う3重唱でしょう。これがあのビゼーかと言う軽いタッチの音楽を、仏国を代表する低音歌手たちが快演しています。3人とも仏的な優雅な声ではありますが、精悍なバリトン2人に対して彼の人の良さそうな声がよい対比を生んでいて、憎めないキャラづくり。いつもながらお見事です。

・ジル・ペレス(D.F.E.オーベール『黒いドミノ』)
ボニング指揮/ジョ、フォード、オルメダ、タイヨン、カシュマイユ共演/イギリス室内管弦楽団&ロンドン・ヴォイシズ/1995年録音
>すっかり埋もれてしまった大家オーベールの佳作。もっと上演されてもいいんじゃないかなと思いますし、この録音も優れたものだと思うのですが、ネットで調べても全然情報がなく、ちと寂しい^^;洒脱で上品な、いい作品ですので、未聴の方は是非。ここでのバスタンは小さな脇役ではありますが、穏やかでのほほんとした人物像をしっかりと作っていて流石の一言。優しい人柄が滲み出ている感じ、とでも言いましょうか。軽やかなバスが耳に心地いいです。考えてみたら最晩年の録音なんですね、ちょっと信じられません。ボニングはむしろこういう演目の方が冴える気がしますし、フォードはじめ歌唱陣はみなこののどかな作品にあった歌唱が嬉しいところですが、ここでの主役はやはりジョでしょう。瑞々しい歌声と巧みなことば捌きは魅力的で、特に早口言葉の続く大アリアは圧巻!

・パンドルフ(J.E.F.マスネー『サンドリヨン』)
ルーデル指揮/フォン=シュターデ、ゲッダ、ウェルティング、ベルビエ共演/フィルハーモニア管弦楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団/1978年録音
>マスネーの作品ではマイナーですがこれもまた仏ものの佳品。シンデレラの物語のオペラ化としてはロッシーニの陽気な傑作もまた最高に楽しいですが、こちらの方がより一般的なイメージのシンデレラに近く、尚且つやわらかく優雅な音楽が童話の世界を美しく作り上げています。バスタンはここではサンドリヨンの父親役であり、ここまで挙げたコミカルな役作りとはまた違う、優しいけれども気弱な人物を等身大に演じています。ベルビエの継母はじめ義姉たちの押しが強く厭らしいキャラづくりと好対照で、如何にも尻に敷かれていそうな雰囲気です。サンドリヨンのフォン=シュターデとの相性も良く、重唱の典雅なこと。ゲッダ、ウェルティングなど他のキャストも揃っており、この作品を楽しむ上ではベストの録音でしょう。

・オーベルタール伯爵(J.マイヤベーア『預言者』)
ルイス指揮/ホーン、マックラケン、スコット、ハインズ、デュパイ、ドゥ=プレシス共演/ロイヤル・フィルハーモニック交響楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団/1976年録音
>作品そのものが最近は残念ながら演奏されませんが、傑作の名録音。ここで彼が演ずるのは物語の筋上は主役の1人と言っても問題ないような重要であり出番も多い役ながら、アンサンブルが多く意外と個別の歌の聞かせどころが少ないという或る意味厄介な役。しかしこういう役、彼は実に達者です。味のある演唱で戀敵とテロリストに翻弄されて数奇な運命をたどる貴族を演じています。主役であるマックラケンの出来が微妙なところではありますが、ホーンはじめその他のキャストもしっかり揃っており、絢爛豪華な歴史絵巻を楽しむことができる音盤です。

・ジャコモ・バルドゥッチ(H.ベルリオーズ『ベンヴェヌート・チェッリーニ』)
デイヴィス指揮/ゲッダ、エッダ=ピエール、マッサール、ベルビエ、ソワイエ、ロイド、ヘリンクス共演/BBC交響楽団&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1972年録音
>絢爛豪華さで言えばこの作品もまた負けてはいません。ベルリオーズの壮麗かつ緻密なアンサンブルが非常に聴き応えがあります。ここでのバスタンもまたアンサンブルでの出番が多い役で、その巧さを発揮しています。ただ単にアンサンブルが巧いと言うだけではなく、端々からケチくさくて滑稽なこの役のブッフォ的な匂いもしっかり醸し出す手腕はお見事。デイヴィスのしっかりした指揮の下、ゲッダやマッサールなど仏ものをよくわかった、しかもキャラクターにあった布陣で、この作品のバイブル的な音盤になっていると思います。

・アビメレク(C.サン=サーンス『サムソンとデリラ』)2015.1.5追記
プレートル指揮/ショーヴェ、コッソット、マッサール、ルロー共演/パリ・オペラ座歌劇場管弦楽団&合唱団/1975年録音
>アビメレクはこの演目のあらすじではほぼ確実に出てくるものの、1幕の序盤であっさりサムソンに殺されて退場してしまう出番の少ない役であまり印象に残らないのですが、ここでは彼がしっかりその存在を示しています。不穏な空気を伴って物々しく歌っており、この役の抗いがたい地位の高さや権力を感じさせるのは流石。意外と歌う部分が長いなあと思ったりもしますがw、もうちょっと歌って欲しいぐらい。共演陣がよく歌っており楽しめる録音です(特にあまり録音のないショーヴェは必聴!)。

・ドン・バルトロ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
フォン=カラヤン指揮/ファン=ダム、コトルバシュ、クラウゼ、トモヴァ=シントヴァ、フォン=シュターデ、ベルビエ、ツェドニク、エキルス、バルボー、ケレメン共演/WPO&ヴィーン国立歌劇場合唱団/1978年録音
>仏もの以外の印象的な役も2つほど。綺羅星のようなスターキャストをフォン=カラヤンが統率した音盤で全体に悪くない出来ですが、どちらかというと主役4人よりも活き活きとした脇役たちが魅力的な音源。バルトロを演じる彼もその1人で、コレナのような底抜けな面白さやモルのお手本のような太く深い低音こそありませんが、べらんめえで口数の多い、リアルさの面白いキャラクターを作っているように思います。伸びやかでやわらかな声と、フットワークの軽さから来る口うるさい老人との印象のギャップも面白いです。ここでの老人たちは彼に加えてベルビエとツェドニクですから面白くないはずがなく、この3役の組み合わせだけ取り出すとしたらベストの音源かも。

・レルヒェナウ男爵オックス(R.シュトラウス『薔薇の騎士』)
デ=ワールト指揮/リアー、フォン=シュターデ、ウェルティング、ハモンド=ストラウド、カレーラス共演/ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団&ネーデルラント・オペラ合唱団/1976年録音
>彼が音源に遺した役の中でも一番大きな役でしょう。語られることこそあまり多くありませんが、これが非常にいい!ヴィーン風というところからはちょっと外れるかもしれませんが、いつもながらそののびのいい声は実に優雅です。一方でその優雅さの中に隠された男爵の真の人間性、下卑た厭らしい親父っぷりが垣間見えるのには唸らされます。このあたりは彼がオペレッタで培った語りの巧さを実にうまく応用しているものと思われ、エーデルマンやモル、ベリーと言った定番のオックスとはまた違う面白味を感じさせる、ユニークな歌唱になっていると思います。フォン=シュターデやウェルティングも素晴らしいですが、リアーがこれほどまでに良いとは思いませんでした。全盛期を過ぎているとは思うのですが、その声からマルシャリンの衰えを絶妙に感じさせます。そしてカレーラスの無駄過ぎる熱唱ぶりが圧倒的!www彼の録音の中でも上位に入る出来でしょう。デ=ワールトの、マイセンの白さを思わせる清潔で透明感のある音楽づくりも◎隠れた名盤だと思います。
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