Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第六十五夜/メルセデスならまかせてよ~

どうもここのところやることが多くて滞りがちです^^;準備自体はしているのですが。
仏歌手特集が続きます。

Berbie.jpg
Mercedes

ジャヌ・ベルビエ
(ジャーヌ・ベルビエ、ジェーヌ・ベルビエ)

(Jane Berbié)
1931~
Mezzo Soprano
France

前回のバスタンと共演の多かった名メゾを。
名前の読みにはかなり表記揺れがあります^^;

彼女は非常に高い歌唱技術もあり、また響きの明るい美声であった人物で、記録を見ると所謂主役として舞台に立ったことも少なくはなかったようです。しかし、いま我々が楽しむことのできる録音に耳を傾けるなら、むしろ脇役の第一人者としての彼女が見えてきます。いずれの役柄においても短い出番の中でもしっかり主張をし、存在感を立たせることができる彼女は、前出のバスタンの他、セネシャル、バルボーなどとともに演奏の質を支える重要な活躍をしています。

その方面での彼女の評価が高かったことを示す事実として、今回のタイトルにも挙げたメルセデス(G.ビゼー『カルメン』)の録音の量があります。
・プレートル盤(1964)
・マゼール盤(1970)
・ショルティ盤(1975)
・フォン=カラヤン盤(1982)
正規のスタジオ録音でぱっと調べられるものでも4つ!同じ役を吹き込んでいる人は2度ぐらいならまあいますが、4度となるとそうはいません。メルセデスはカルメンのロマの友人で、あらすじに関わる役ではないものの、フラスキータとともに結構な頻度で登場し、歌う部分も多いです。それをこれだけ任されるというのは、その実力の高さの証左と言うべきでしょう。

<ここがすごい!>
明るくてとおりの良い音色の美しい声です。明るいと言っても派手な色合いではなく落ち着いた、しっとりとした印象です。強過ぎず出過ぎずだけれども、耳触りのいい歌声。系統としてはベルガンサに近いでしょうか。実際、ベルガンサが得意としたようなロッシーニは、録音こそあまり無いものの人気があったようですし、モーツァルトでは数多くの優れた音源を残しています。モーツァルトとロッシーニを得意としたとなれば当然のことながら、技巧も達者。それも半端な達者ぶりではありません。メルセデスと並ぶ彼女の当たり役のひとつマルチェリーナ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)では複数の録音で、カットされることも多い厄介なアリアをさらりとこなしています。もちろん、単にそつなくこなしているというだけではなく、きっちり聴かせてしまうあたりに手腕の確かさが感じられる訳です。

そういうところを前提として、前回のバスタンもそうですが、彼女も脇役に魂を宿らせるのが本当にうまいなあ、と。僕みたいなみいはあなオペラ聴きだとどうしてもやはり大きなアリアのある主役のキャストが気になってしまう訳ではあるのですが、芝居ですから脇役にきっちりとした存在感がある方が断然面白いんですね。特に人物の多い演目だと特にその傾向は強いように思っていて、となれば彼女のような存在は物凄く貴重。前出のメルセデスやマルチェリーナももちろんですが、デズピーナ(W.A.モーツァルト『女はみんなこうしたモノ』)やアルティエール伯爵夫人などひと癖ふた癖ある個性派の脇役のキャラクターを多くはない出番の中でしっかりと立てて呉れるので、物語に奥行きが出てくるのです。しかも少年からオバタリアンまでこなせる役の幅が広いですから、各所で起用されていたのも納得のいくところです。
そして、僕ら聴く側としても、彼女が出ていればひとつ安心して脇を楽しむことができるとも言えます。

<ここは微妙かも(^^;>
脇で出ていればまず鉄板と言っていいような人ですし、実のところそれ以上の実力の持ち主ですから、殆ど悪いと思わないんですよね^^;ただ、通常はソプラノが歌う役どころを歌っていることもままあるので、そこに違和感を覚えることはあるかもしれません。

<オススメ録音♪>
・メルセデス(G.ビゼー『カルメン』)
プレートル指揮/カラス、ゲッダ、マッサール、ギオー、ソートロー、カレ、マル共演/パリ・オペラ座管弦楽団、ルネ・デュクロ合唱団&ジャン・ぺノー児童合唱団/1964年録音
フォン=カラヤン指揮/バルツァ、カレーラス、ファン=ダム、リッチャレッリ、バルボー、G.キリコ、ツェドニク共演/BPO、パリ・オペラ座合唱団&シェーンベルク少年合唱団/1982年録音
>この人の場合まずは何と言ってもメルセデス!ということで4つも正規録音がありますが、僕がしっかり全部聴いているのはこの2つ。いずれも不滅の名盤の名にふさわしく『カルメン』の話をするときに必ず出てくるものですが、どちらにも登場しているのは彼女だけ、しかも同じ役と言うことで、それだけでもそのスペシャリストっぷりがわかるというものです。メルセデスはカルメンのような魔性の女、運命の女と言ったような凄みこそないものの、フラスキータとともにやはり女性として色気のある歌を与えられている人物です。ベルビエはそのあたり絶妙な匙加減で女声の魅力に満ちた、しかしカルメンには及ばないという役柄を演じています。いずれにおいてもフラスキータとの微妙な個性の違いが感じられるのも素晴らしいです。プレートル盤ではカラスを除きLa 仏流歌劇と言うべきメンバーの中で、フォン=カラヤン盤では脇までよくこれだけ固めたねというメンバーの中で、ぶれずにキャラを出しているあたり流石第一人者という演唱です。

・マルチェリーナ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
フォン=カラヤン指揮/ファン=ダム、コトルバシュ、クラウゼ、トモヴァ=シントヴァ、フォン=シュターデ、バスタン、ツェドニク、エキルス、バルボー、ケレメン共演/WPO&ヴィーン国立歌劇場合唱団/1978年録音
ショルティ指揮/レイミー、ポップ、アレン、テ=カナワ、フォン=シュターデ、モル、ティアー、ラングリッジ、ケニー、タデオ共演/LSO&ロンドン歌劇合唱団/1981年録音
>この役もまた彼女が得意とした役どころ。この作品の肝は伯爵夫妻、ついでフィガロとスザンナだと個人的には思うのですが、登場人物すべてがひと癖ある人たちであり魅力的な見せ場も与えられていること、加えてアンサンブルをしっかりできる人でなければならないことを考えると、ケルビーノ以下バルトロ、マルチェリーナ、バジリオ、クルツィオ、アントニオ、バルバリーナあたりのキャストも気になるところ。そういう意味では上記両盤とも端役に至るまで拘わりが感じられていて好きな音盤です。ケルビーノと声区が被る訳ですが、ボーイッシュで可愛げのあるケルビーノに対し(いずれもフォン=シュターデと言うのも面白いですが)、ベルビエはちょっと歳の行ったおばさまらしさをはっきり出しています。それもただのおばさんと言う感じではなく、歳こそ取っているけれども若いころには結構美人だったんだろうということを予想させる歌声で、同じく品位のあるバスタンやモルと共にむくつけしい老カップルではなく、品のいい熟年カップル感を出しているところが憎い。重要度に比して異様に難しいアリアもロッシーニで鍛えた技巧で聴かせますし、マルチェリーナの範とすべき歌ではないかと思います。

・デズピーナ(W.A.モーツァルト『女はみんなこうしたモノ』)
ショルティ指揮/ローレンガー、ベルガンサ、デイヴィース、クラウゼ、バキエ共演/LPO&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1973-1974年録音
>普通であればソプラノが演じるデズピーナをメゾの彼女がやっていることには少し驚く向きもあるかと思いますが、これが凄くいいと思います。大きな声では言えませんが僕はこの作品長く苦手にしてきたのですが、この録音でデズピーナとアルフォンソを中心に見ると面白いなあと感じられたもので思い入れがあります笑。彼女の小回りの利く活発な人物造形、ここしかないというタイミングで入れる笑いは、デズピーナを如何にも蓮っ葉な世慣れた小娘にしていて非常に楽しいです。お淑やかで箱入りな空気の漂うローレンガーとベルガンサとも好対照です。このメンバーの中では知名度の落ちるデイヴィースも脇役で鳴らした人だけに歌はちゃんとしていますし、若々しく颯爽とした感じがいい。クラウゼも覇気があります。そしてバキエ!老獪な狸ジジイっぷりはにやけが出てくるぐらいです^^

・アルティエール伯爵夫人(J.E.F.マスネー『サンドリヨン』)
ルーデル指揮/フォン=シュターデ、ゲッダ、ウェルティング、バスタン共演/フィルハーモニア管弦楽団&アンブロジアン・オペラ合唱団/1978年録音
>隠れ名盤。サンドリヨン(=シンデレラ)を苛める継母ですが、これがまた性格の悪そうな義姉たちとともに終始口喧しいアンサンブルを繰り広げていて、悪役ながら非常に楽しい。共演の多いバスタンの気弱な父さんを完全に尻に敷いた歌いっぷりは見事なものです。ここで声区の被るサンドリヨンを演じるのはまたしてもフォン=シュターデ!ここでも清純派の彼女に対して、ベルビエが癪に障る感じで演じていて好対照と言えます。PTAの鬱陶しいお母さんみたいでね、もう当たり役ですよ笑。

・アスカーニオ(H.ベルリオーズ『ベンヴェヌート・チェッリーニ』)
デイヴィス指揮/ゲッダ、エッダ=ピエール、マッサール、バスタン、ソワイエ、ロイド、ヘリンクス共演/BBC交響楽団&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1972年録音
>不滅の名盤。ここまでの流れとは異なり今度は少年役。きりっとした歌いぶりが耳に心地いいです。シャーベット・アリア的なポジションの歌が与えられていますが、これがまたベルリオーズらしいオケに乗ったかなり難しいもので、並みの歌手なら難渋しそうなのですがさらりとこなしています。彼女ももちろんそうですが、このキャストは仏ものもよくわかっているし、アンサンブルも巧い人たちで非常に完成度が高い、この難曲のまさしく決定盤です。

・コンセプシオン(M.ラヴェル『スペインの時計』)
マゼール指揮/バキエ、セネシャル、ファン=ダム、ジロドー共演/フランス国立放送管弦楽団/1965年録音
>あまり歌劇らしくない作品ではありますが、これはまたこれで異国情緒溢れる魅力的な演目。珍しく彼女が実質的な主人公を演じています。とは言え歌う部分そのものはそんなに多くはないのですが、夫が居ながら若い愛人もいて、言い寄る金持ちもいて、しかも作中では彼らとは別の男と寝てしまうという奔放で魅力的な女声をとても艶っぽく演じています。こういうあたり出番の少ない脇役でもしっかり味を出せる彼女にこそ、かもしれません。男性陣は皆、主役でも脇役でもオールマイティに活躍している人たちなので、これまた思わず唸りが出てしまううまさ。マゼールの棒も冴えていて、ラヴェル好きには堪らない1枚ではないかと。

・ジェニー(F.A.ボワエルデュー『白衣の夫人』)2016.2.16追記
ストル指揮/セネシャル、ローヴェイ、レグロ共演/パリ管弦楽団&合唱団/1962年録音
>ベートーヴェンと同世代で当時大人気を博しながら、今は忘れられた作曲家になってしまっているボワエルデューの名作の代表的な演奏のひとつ。主役のセネシャルはじめややおっとりした感じはあるものの、全体的にエレガントな空気に満ちた佳演です^^全体に主役のテノールの活躍するプリモ・ウォーモ的な作品の中で、小さな役ながら存在感が光っています。特に1幕の白衣の婦人の物語の場面が秀逸!今回挙げた中でも最も若いころの録音と言うこともあって、声も歌い口もフレッシュで可愛らしく、近所の噂好きな若奥さんと言う風情でリアリティがあります。ややこけおどし的な不気味な雰囲気をよく醸し出しているのもgood!もちろん歌そのものも彼女らしい実力を感じさせるものに仕上がっています。
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