Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第六十六夜/録音史上最高音~

仏歌手特集、女声が続きます。
この人は録音がかなり限られていて、私自身彼女の唯一の全曲盤は、まだ手に入れられていないのですが…。

Robin.jpg
Lakme

マドレーヌ=マリー・ロバン(マド・ロバン)
(Madeleine Marie Robin / Mado Robin)
1918~1960
Soprano
France

僕自身は声楽の素養が全く無いのできちんと説明はできないのですが、現在の歌手たちは主に胸声を使っていると言います。しかし、過去の歌手たちがみな胸声で歌っていたかと言うとそうではなく、頭声(まあ裏声ですね)を活用した表現を活用していた歌手も少なくありません。テノールで言えばゲッダやタリアヴィーニは多用していますし、パヴァロッティーも『清教徒』で頭声を使ってハイFを出しています。女声で言えばシュヴァルツコップフが頭声を主に用いた歌手として有名です。カラスやサザランドより前の時代には、伊ものでも特に女声では頭声を用い、非常な高音で高度に装飾的な歌唱をする歌手が主流でした。ガリ=クルチやパリューギなどに代表される彼女たちは「白い声」と呼ばれています。

世代的にはやや後になりますが、「白い声」の最後の歌手と思われるのが今回の主役マド・ロバンです。彼女を専ら有名にしているのは、表題にも書いたとおり、オペラ歌手として録音史上最高音、なんと3点B(!)をスタジオで遺しているということ!録音では残していないものの、4点Cも出せたとか…オペラ歌手の勲章ハイCのオクターヴ上、夜の女王の最高音が3点Fと言うことを考えると、思わず口が開いてしまいます^^;(ちなみに同時代のエルナ・ザックも4点Cまで出せたらしい。この時代の人たちは一体何喰ってたんだwww)
ただ、どうもこういうキワモノ的な話題ばかりになってしまうのはどうかなぁとも思うのです。当然ながら声楽的に出されていて、非常に美しい。いまの感覚のオペラとは違えど、その美しさはもう一度評価されてもいいのではないかと。

残念ながら41歳の若さで白血病に斃れてしまいました。彼女の後には彼女の系譜に乗った声でありながらより現代的なマディ・メスプレが、そして更にその先にはより演劇的な表現を開拓していったナタリー・ドゥセが現れて大変な活躍をする訳ではあるのですが、このロバンがもっと長生きしていたらどんな歌を歌っただろうかと。残念なことです。

<ここがすごい!>
「白い声」と言うことばは、基本的には人工的で不自然な響きを揶揄するような言い回し。現在は見向きもされない、と言っても過言でもないと思います。しかし人工的だとは言っても、その陶器のような凛とした声には、やはり独特の魅力があるなぁと個人的には思うのです。或る種様式美的な部分も感じられるように思います。確かに、カラス以降尊ばれるようなドラマを感じる歌ではないですが、それでもこれだけ美しい歌を歌えるのであれば、それはまた別のベクトルのもとして評価されて然るべきではないかと。
そのベクトルの中でも彼女の、その自在でやわらかな歌い回しは特筆すべきものだと思います。コロラトゥーラを得意とする歌手の自由にコントロールの効く転がしにはいつも驚嘆させられますが、ロバンのそれはとりわけお見事。職人が融けた硝子を意のままに操って様々なものの形を作るかのように、無尽蔵に声を紡ぎだして装飾を付けて行きます。しかも、彼女の歌は非常に安定しており、聴いていて不安になることが全くと言っていいほどありません。澄んだ声に身を委ねていれば、至福の時を過ごすことができる歌手と言うのはなかなかいないもので、その一点だけでも彼女が卓越した歌い手であると思うのです。

そうした面があった上での彼女の超高音でしょう!
安定した澱みない転がしの流れの中で、ごくごく自然に超高音域に至ってしまうところが本当に恐ろしいと言いますか、何と言いますか。贅沢な話ですが技巧に間違いが無い分、転がしの部分にはそれほどドキドキしないのですが、その分高音でのスリリングさが歌全体を引き締めていると言えるのではないかと。しかも絶叫にならない!例えるのならばヴァイオリンの最高音でしょうか、非常に音楽的で心地よい響きです。人は、歌としてこういう声を出すことができるのかと。

<ここは微妙かも(^^;>
もうね、ここまででもう既に或る意味彼女の欠点については語り尽くしてしまってる感もあるのですが、「オペラは芝居だ!ドラマだ!」って言う耳や「音楽は至高の藝術でありその思想性が最も尊ばれなければならない」っていう耳、即ちヴェルディやヴァーグナーを聴く耳で聴いてしまうと、表情に乏しく技巧だけの能面歌唱として評価はされないだろうなと思います。そういうベクトルのものではありませんから^^;
煌びやかで高度な装飾も、過多に感じられる向きもあるかもしれません。が、これはベルカント復興以降のオペラを楽しんでいる世代には、逆にそんなに違和感はないのかも。いろんなことを言って否定する向きはあると思うのですが、こうして技巧を聴かせる歌は、間違いなくオペラの歴史の1頁。純粋にそれを楽しむのも、一興ではないでしょうか。

<オススメ録音♪>
・ルチア(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
・ラクメ(C.P.L.ドリーブ『ラクメ』)
・オフェリー(C.L.A.トマ『アムレ』)
・コラリーヌ(A.C.アダン『鬪牛士』)
・ロジーナ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
リュシアン・ラヴァワロット指揮/ヌヴェル・交響楽団
>いずれも彼女のオペラ・アリア集から。恐らく彼女の唯一の全曲録音として『ラクメ』(セバスティアン指揮/デ=ルーカ、ボルテール他共演)もありますが未聴。お恥ずかしながらここに挙げた録音が、私の聴いた彼女の録音のほぼすべてと言うような状況です^^;が、いずれも彼女の歌の凄さを楽しむにはうってつけの役柄かと思います。まずは何と言っても3点Bというとんでもない代物が聴けるルチアでしょう!これは本当に凄い声だと思う。それだけではなく、カットがあるとはいえまるっと狂乱の場を遺して呉れているのは非常にありがたい限りで、かつてのルチア像を彷彿とさせます。ついで仏国の珍曲3つですが、いずれもこれぞヴィルトゥオーゾ!というべきもの。まずラクメですが無尽蔵な声での転がしはまさに圧巻と言うべきもの。何とかして全曲盤を手に入れねばと思わせる歌です。余談ですがメスプレ、ドゥセという後輩たちも歌っており、仏国三大ナイチンゲールの演奏を本領の作品で聴き比べられるのも嬉しいところですね^^今の耳からすれば表情に乏しい能面歌唱という向きもあるだろうとは言いましたが、オフェリーの狂乱では、それが心ここにあらずな雰囲気を出していて、これはまたこれで演技過多になるよりも寧ろいいのではないかとも思います。この非実在感はなかなか捨てたものではないなと。コラリーヌは更に耳にする機会の少ない役ですが、フルートとの超絶技巧合戦が心地よいです。彼女になるとフルートとほぼ同じ音域なんですね、すげえ^^;そしてロジーナ!いまどき聴かないソプラノ超絶技巧アプローチで、時代遅れと言われてしまえばそれまでなんですが、独特のコケティッシュさがあり、これはこれで魅力のある歌です。
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コメント

是非、市原多朗の批評も聞きたいです。
これだけの歴代名歌手の批評がある中ですので、厳しいコメントは覚悟していますが、市原多朗は特に歌において日本一のオペラ歌手だと僕は思います。
2014-06-19 Thu 07:45 | URL | BastianiniSiepiPinzaFan [ 編集 ]
ようこそのお運びで^^
素人の書き散らしでお恥ずかしい限りですが、おたのしみいただけたなら幸いです。

お恥ずかしながら市原さんの歌はまだ十分聴きこめておらず、未登場という格好になっています^^;しかし、特に全盛期の伸びやかな声と真摯な歌い口は好印象で、もう少し勉強せねばと思っているところです。

日本のテノールですと山路芳久が好きなのですが、夭逝してしまったのでなかなか音源に巡り合えませんね。。。
2014-06-19 Thu 23:47 | URL | Basilio [ 編集 ]
因みに今年9月15日オペラシティで歌うみたいです。(ゲストですが・・・)
それにしてもこのブログ本当に面白いです。1日でオペラの部分をほぼ読み終えてしまいました笑。僕は比較的オペラを響きや声質、フレーズ感などを優先で聴くタイプなので、そういったものをここまで詳しく解説してくれるブログにたまたま出会えて凄く刺激になりました。これからも楽しみにしています!
2014-06-20 Fri 23:31 | URL | BastianiniSiepiPinzaFan [ 編集 ]
> 因みに今年9月15日オペラシティで
トスカのようですね~カヴァラドッシは当たり役なのか結構歌っていますね。
個人的にはドニゼッティからヴェルディ初期の方が合いそうな印象ですが(笑)

> 1日でオペラの部分をほぼ読み終えて
あいやー拙文でお恥ずかしい限りです(>_<)
そもそも声楽の素養はないもんでほとんど素人耳の書き散らしなのですがお楽しみいただけて何よりです!
ちまちま書いておりますので、気長にお付き合いいただければ幸いです(^^)
2014-06-21 Sat 12:03 | URL | Basilio [ 編集 ]

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