Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第十六夜/映像の時代に~

いろいろな時代を代表するような歌手を特集してきた今回のクール、今日はこれからを背負って立つであろう人をご紹介します。

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エリーナ・ガランチャ
(Elīna Garanča)
1976~
Mezzo Soprano
Latvia

オペラは音楽ですから当然ながら歌がうまいことが大事です。
だからこそ20世紀に於いては実演と同様に録音が重視されてきました。
そして容易に映像が手に入る時代になったいま、単に歌唱力が優れているだけではなく、より容姿や演技にシフトが移っていると言うことが言えます。
更に言えば今は演出の時代、となればその傾向がより強まっているのは言うまでもありません。

そんななかでガランチャは完璧な歌唱テクニックと共に、恵まれた容姿とチャーミングな演技も相まってこの映像の時代を代表する歌手として、近年では世界中の観衆を魅了しています。

<ここがすごい!>
ここ数年北欧や東欧、そして露国は魅惑的な低い響きを持ったメゾを数多く輩出していますが、ガランチャはその中でも最右翼に据えられるべき存在です。非常に深くふくよかな美声で、しっとりとした適度な湿り気を帯びています。これぞまさしくベル・カント!といったところ。

そう、その豊かな声がいまのところ最も本領を発揮していると言えるのがG.ロッシーニ、V.ベッリーニ、G.ドニゼッティなどの所謂ベル・カントの作品群でしょう。美声なだけではなく細かいパッセージをこなすアジリタの技法も抜群です。いまや世界の歌姫となったネトレプコとの共演も多いですが、アジリタに関してはガランチャの方が数段上手だと言っていいでしょう。

また独特の上品な雰囲気を持っているひとなので、仏ものの作品を歌えばベル・カントのそれとはまた違う洗練された味わいのある歌唱を楽しませて呉れます。C.サン=サーンス『サムソンとデリラ』のデリラやJ.オッフェンバック『ジェロルスタン女大公殿下(ブン大将)』の女大公殿下、あるいはJ.E.F.マスネー『ウェルテル』のシャルロッテなどもとても素敵。

基本的に美人ですし、何と言っても非常に演技がチャーミング♪
男役何かをやってもすらっとして格好いいんですが(あたかも宝塚!笑)、個人的には最初に映像で観たのがG.ロッシーニ『チェネレントラ(シンデレラ)』のアンジェリーナだったこともあってそのかわいらしい演技がとても魅力的。過度になり過ぎることなく作品の持つ楽しい世界を表現できるのは彼女の才能だと思います。アンジェリーナは、ことによるとそのいい子ちゃんキャラが鼻についてしまったりと言うことがありそうな役ではありますが、ここでの彼女はそんなことは微塵も感じさせません。ほとんど素なんじゃないかと言ういうような、ある種の純粋さを強く感じさせるような演技になっています。そういう意味ではやっぱり歌とともに演技を、舞台を見たいひと。

<ここは微妙かも(^^;>
演技もうまいし、とても可愛らしいひとなので世界の劇場で引っ張りだこになっている訳ですが、個人的にはこのひとは声のパワーで思いっきり押していくタイプの人ではないと思っています。そういう意味では役を選ぶ部分があるのかなと。例えばG.F.F.ヴェルディの諸作品に出てくるメゾ役はいずれも彼女の声にはドラマティックに過ぎるのではないかと思います。そもそも『イル=トロヴァトーレ』のアズチェーナや『仮面舞踏会』のウルリーカをやるのには容姿が可愛すぎ(^^;可愛らしいアズチェーナやウルリーカは観たくないですし、それ以上に汚らしくしているガランチャも見たくないですしね(笑)

仏ものでもG.ビゼー『カルメン』の題名役は結構世評は高いようですが、個人的にはこれは前にご紹介したドマシェンコの方が良い気がします。何と言うかここまでに何度も述べてきた通りガランチャはひととして非常に洗練された、上品な感じを受ける人なのでカルメンとなったときに欲しい蓮っ葉な感じや暗い迫力何ていう部分には不足しているように思うのです。まあそれでも何故か一方でデリラでは納得させられてしまうのですが…。

<オススメ録音♪>
・アンジェリーナ(G.ロッシーニ『チェネレントラ(シンデレラ)』)
ベニーニ指揮/ブラウンリー、コルベッリ、アルベルギーニ、レリエ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/2009年録音
>前述の通り僕のなかでのガランチャのイメージはこの役です。お話自体はシンデレラですから下手なひとがやると何とも主役のアンジェリーナがクサくて嘘っぽいウザい感じになってしまうと思うのですが、ここでのガランチャは嫌味な感じを感じさせることなく、そして歌唱的にも完璧にこの難役をこなしています。コルベッリをはじめ共演陣のブッファっぷり(特にアルベルギーニが王子になりきってブラウンリーを邪険にするとことか、レリエが正体を現すとことか)も笑えますし、みんな歌も演技も巧い。映像的には最高のチェネレントラのひとつではないでしょうか。

・ロメオ(V.ベッリーニ『カプレーティとモンテッキ』)
・エリザベッタ1世(G.ドニゼッティ『マリア・ステュアルダ』)
R.アバド指揮/ボローニャ市立歌劇場管弦楽団/2008年録音
>いずれもアリア集『ベル・カント』で聴くことができます。『カプレーティとモンテッキ』、要は『ロミオとジュリエット』ですが、こちらはネトレプコ共演の全曲盤もあります(未聴)。ここではロミオはメゾ・ソプラノが男装して演ずる所謂ズボン役。凄く嵌るなぁ…と思ったら顔立ちも宝塚ッぽいww『マリア・ステュアルだ』は、英国史では有名なエリザベス1世(エリザベッタ)とメアリ・ステュアート(マリア・ステュアルダ)の対立を描いたオペラ。エリザベッタに扮するメゾとマリア役のソプラノの強烈な対決場面が作品の白眉ですが、ここではエリザベッタのアリアのみ。これを聴くと全曲録音してくれないかなと思ってしまいます。そういえば最近ネトレプコ主演のアンナ・ボレーナにも出ていたし、そちらも聴きたいところ。
(2012.10.17追記)
『カプレーティとモンテッキ』の全曲、聴きました。
ルイージ指揮/ネトレプコ、カレヤ共演/WPO&ヴィーン・ジング・アカデミー/2008年録音
>感想としては、これを聴かないのはあまりにももったいない、超名盤です。ガランチャのロメオの凛々しいことと言ったら!彼女は美人ですが中性的な顔立ちなので、このロメオは舞台で見たらさぞや、と思います。

・ジェロルスタン女大公殿下(J.オッフェンバック『ジェロルスタン女大公殿下(ブン大将)』)
ルイージ指揮/ドレスデン国立管弦楽団/2006年録音
>アリア集『アリア・カンティレーナ』に収録。日本では『ブン大将』として浅草オペラ時代から親しまれた作品で、音楽的には非常に充実してますが何故か最近は人気が…orzガランチャはマイナーながらもちょっとお洒落な隠れたこの名曲を、実に洒脱に歌っています。これも全曲入れて欲しい。。。

・デリラ (C.サンサーンス『サムソンとデリラ』)
アルミリアート指揮/SWR南西ドイツ放送交響楽団/2007年録音
>こちらはコンサートの録音『ジ・オペラ・ガラ~ライヴ・フロム・バーデン・バーデン』に収録。このコンサートはバルガス、ネトレプコ、テジエ共演と言う大変豪華なもの。この曲のしっとりとした雰囲気に彼女の美声が非常にマッチしています。とは言えあんまりこの役に必要な悪女めいた空気を彼女は持っていないように思うので全曲聴くとまたちょっと違うのかもしれません。
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