Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第七十夜/人知れぬ涙~

さてさてまた切番です。
と言う訳で三“アラ”テノールは一時休憩して、切番恒例の楽器に耳を向けるシリーズをお送りしたいと思います^^
フルート、オーボエ、クラリネットと徐々に音域の低い木管楽器へと移って参りましたが、今回はその殿軍、クラシックの木管アンサンブルを支えるファゴットの登場です。ファゴットまたはバスーンと日本では呼ばれていますが、この両者を同一の種類の楽器と見做すのか、それとも別の楽器と見做すのかは意見の分かれるところのようです。とは言え、ここではそこに踏み込み過ぎると余計に長くなりますので(笑)、ファゴットという呼び方で統一しようと思います。
また、オーボエの時と同様、長くなるので楽器の詳しい説明は敢えてしません。いまいち馴染みの薄い楽器とされがちなのは音量の大きな楽器ではないというのもあってポップな音楽での露出が少ないからですが、クラシックでの活躍は目覚ましく、オペラでもしばしば美味しいところを持って行く存在です。
割に一般的にみなさんがご存じの音楽で言うなら、大山のぶ代時代のドラえもんでのび太が怠けているときのBGMですね。或年代以上の方にはこれが一番わかりやすいかと!w

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・ネリスのアリア“あなたと泣きましょう”(L.ケルビーニ『メデア』)
所謂オペラらしい絡み、声楽パートとのガッツリとした絡みという部分で言うならば、このネリスのアリアをまずは挙げたいと思います。歌手と同等の主役的な扱いですが、ロッシーニの作品で遣われた他の楽器のように技巧的なパートではなく、ゆったりとたゆたうようなもの悲しい旋律を歌います。このようにしてファゴットは深い哀しみを表現するときによく登場する楽器だと思います。それは決して過激で強烈な悲しみではなく、淡々と沈んでいくような重たい哀しみ…これがこの楽器のひとつの魅力です。ここでもファゴットがネリスの想いを、より深々と聴く者に印象づけます。

・ファン=ベット市長のアリア“おお聖なる法よ!”(A.ロルツィング『露皇帝と船大工』)2015.11.19追記
歌とがっぷり絡むものをもうひとつ。ロルツィングは日本でこそあまり知られていませんが、独国におけるドニゼッティのようなポジションの人で、明るくて楽しい作品をたくさん残しています。この作品は彼の代表作で、ファン=ベットはコミカルな役どころ。所謂ABA形式のこのアリアでは、B部分のメロディアスな歌にファゴットが何処かのんきでとぼけた色合いを添えて行きます。ネリスのアリアでは重厚感のある哀しみの表現が得意と述べましたが、こういうのもこの楽器は得意中の得意。ソロを取るときは比較的高い音で出てくることの多いファゴットですが、ここではバスとどっしりした低音の掛け合いを繰り広げ、両者最低音のあたりでは重みのある響きがかえっておかしみを増しています。狂乱の場でのルチアとフルートの掛け合いと或意味似たようなことをしているんですが、その結果の印象が180度違うというのは非常に面白いですね^^

・ネモリーノのアリア“人知れぬ涙“(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
ファゴットの活躍するアリアとしてより有名なのはこの曲でしょう。ドニゼッティの書いたテノールのアリアの中でも断トツの人気を誇るこの曲でも、ファゴットはイントロから旋律を取り、ネモリーノの気持ちを先どります。ここでのこの役は悲しみに沈んでいる訳ではなく、愛する女性の涙から彼女の自分への想いを確信していくというような内容ですが、ここでは歌詞以上にその音色が雄弁に彼の想いを吐露していると言えるように思います。このアリアの間ずっとネモリーノは不安なのです、本当にアディーナの想いが自分にあるのかどうか。そのもやもやとした考えを、ファゴットの音色は非常によく表現しています。この曲はオペラ全体の中でのポジションも含めて非常によく出来ていて、そこまでのどんちゃん騒ぎ的なブッフォの音楽が、このアリアですっとトーンダウンした内面的な音楽になって緊張感がぐんと増すのです。このあたりドニゼッティ先生の手腕は流石だなあと個人的には思わされるところ。

・レオノーレのアリア“悪漢よ何処へ急ぐ”(L.v.ベートーヴェン『レオノーレ』)
ファゴットはそもそもあんまり細かい動きに向いた楽器ではないと思うのですが(私見。大学の吹奏楽で吹いてた時は16分の連続が出てくると萎えたものです…や、もっとちゃんと練習したら違うんだろうけどww)、ヴィルトゥオーゾ的な音楽が用意されることもあります。で、オペラの中でこれは凄いなと思うのがこれ。有名なアリアですが、『フィデリオ』の方ではなくその原型となった『レオノーレ』の方です。ベートーヴェンの書いた唯一のオペラは『フィデリオ』だと言いますが、この『レオノーレ』とは結構音楽が違います。このアリアについても楽聖はかなり手を入れていて、特に後半が大きく異なります。よく言われるとおりベートーヴェンは声楽に疎かったため、かなり無理な要求が多く(僕の先輩はあの交響曲を『第9番叫び付』とよく言ってましたw)、『フィデリオ』版でもこの曲は充分えっぐいのですが、『レオノーレ』版は更にそのえぐさが度を越しています。前半のドラマティックな歌は同じまま、後半延々とコロラトゥーラを繰り広げるのです!最初聴いたとき、正直アホかと思いましたwww(エッダ・モーザーはよく歌っていて感動もしましたが)。話が大分脱線しましたが、実は部分でこそファゴットが活躍します!ここまで歌ってきてそれをやるんかい!と思ってしまうレオノーレと一緒にその猛烈なコロラトゥーラをなぞっているのがファゴット!両者ともに鬼気迫る細かい動きは圧巻です。ファゴットの音色はここまで出てきた哀しげな旋律や不安な旋律では漠然としたやわらかなタッチで雰囲気を作るのですが、こうした細かな動きではぐっと活き活きとした、ヴィヴィッドな印象を受けます。流石にこれはあかんと思ったのか大先生はその後カットする訳ですが、これやれたら本当にカッコいいと思うよ!

・序曲(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
細かい動きで活き活きとした印象、と言えばこの有名な序曲の冒頭もですね^^ここでは他のパートとユニゾンではあるのですが、結構細かな動きをこなします。この作品のエネルギーが爆発する直前、卵の殻の中で何かが蠢いているかのようなこの動きの中では、個人的にはファゴットの音色が立つのが理想です。というのは上記のようなヴィヴィッドな感じとともに、この楽器の明るくてとぼけたがこの作品の雰囲気、この「ばかげた一日」の幕開けに相応しいと感じるのです。流石はモーツァルト、他の木管楽器群との絡みも素晴らしく、何度聴いても新鮮な空気を保っているところには、頭が下がります。

・第2幕前奏曲(G.ビゼー『カルメン』)
先ほどは序曲でしたが、オケの活躍する部分では結構出番があります。最たるものはこのカルメンの2幕への前奏曲。ここではジョゼがこの幕の中盤で歌う峻嶮な表情の旋律を先取りしてファゴットが奏でます。このあとの第2幕はジプシーの歌、鬪牛士の歌、盗賊団の5重唱…と華やかで豪華な音楽が続くので、そのちょっと手前で箸休めと言う感じの朴訥な音楽です。短いあっさりとした曲ではありますが、この楽器の個性的な音色によって演奏されることによって味わいのあるものとなっており、幕間の休憩が終わって聴衆が舞台にぐっと集中するのにピッタリ。ビゼーの天才が光る部分でしょう。

・悪役のテーマ(J.オッフェンバック『ホフマン物語』)
個性的な響きのファゴットは、上述のようなあからさまに目立つ部分に限らず、特定のキャラクターに関連付けられる特徴的な音形で使われることも多いです。特にオーボエや低弦とと絡むと独特の怪しげな雰囲気が出るため、インパクトのある性格的な人物や、魔法の匂いがする人物、もっと言えば悪魔のテーマではよく登場します。ここでも4悪役に当てられた付点のリズムが印象的なテーマを、低弦とともに演奏します。このフレーズはたびたび出てくることもあり、かなり耳に残ります。特に近年の楽譜の校訂作業の結果、ダッペルトゥットのダイヤの歌をカットした演奏では、悪役の旋律としてはアリアよりも印象に残るかもしれない。どこかに胡散臭さを感じさせながらも、しかし絶妙にカッコいいんですよね。ニヒルなカッコよさと言いますか。こういう雰囲気を煽るのにファゴットは適役、と言う訳です。

・A.ボーイト『メフィスト―フェレ』
同じくファゴットがキャラクターの雰囲気を引きたてている例としては、この作品を挙げたいです。ここではどのフレーズ、テーマと言うのに拘わらず、悪魔メフィスト―フェレに関わる主題で繰り返しこの楽器が登場します。メフィストの登場、ファウストの前にメフィストが姿を現す場面、地獄の場面などなど。いずれもオーボエはじめ他の木管楽器と絡んでいく中で、西洋の民俗的・土俗的な空気、キリスト教的な神の世界と対置されそうな世界の空気を作りだしています。怪しげで諧謔味の効いたファゴットの音色で、小回りよく動き回る音楽を聴いているだけで、嘲笑気味に舞い遊ぶメフィストの姿が目に浮かぶようです。このあたりボーイトは超有名作曲家として歴史に名を残すほどにはなりませんでしたが、その手腕の確かさを感じさせるところ。個人的にはここでのファゴットの活躍が好きで、大学時代にちょっぴりファゴットを齧ったという経緯があったりします…いやあ若かったなあwww

・フィリッポと大審問官の2重唱“玉座の前か”(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
最後にファゴットの特殊管、コントラファゴットが印象に残る楽曲を。ヴェルディが書いた奇曲、バッソ・プロフォンド同士の対決の場面です。ここでは当然フィリッポと大審問官の声楽陣も気になるところではありますが、低弦、低管、そしてティンパニ&バスドラムが中心の不気味なオーケストレーションも聴きもの。ここではコントラファゴット物凄い存在感が光ります。ピリピリするぐらいの低音の響きが、このグロテスクな音楽をよりおぞましくするのです。バスドラムと並び、この場面で大審問官の圧倒的なキャラクターを演出する隠し味だと言っていいと思います。

自分が吹いたことのある楽器だということもあって、この切り番シリーズでは一番ごっつりした内容になったようなそうでもないような(笑)
次回以降三“アラ”の残り2人に迫って行きます^^
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