Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第七十七夜/The dandy~

考えてみればバリトンも久しぶりなんですね、バキエ以来でしょうか。
理由は明白で途中で“三アラ・テノール”をやったからですなw

という訳で久々にバリトンのお話。

Merrill.jpg

ロバート・メリル
(Robert Merrill)
1917~2004
Baritone
America

どうでもいいことですがこの人を検索すると矢鱈に「ロバート・デ=ニーロとメリル・ストリープ」ばかり引っかかって、どっちにも特に興味がない私めは結構うんざりしてしまったりします^^;

そんなことはさて置き、米国を代表するドラマティック・バリトンです。同郷の後輩ミルンズやハンプソンがマルチな活躍をしていたのに対し、仏ものも歌っていますが基本的には伊ものを中心に据えた活躍をしていた、と言って差し支えないと思います。重厚で照りのある彼の声は確かに如何にも伊もの向きで、その活躍も肯けるもの。その声の魅力とエネルギッシュな歌が日本の聴衆にはウケがいいようで、ほぼ同世代のウォーレンやちょっと後輩のマックニール、それに先ほどのミルンズのような米国出身のバリトンの評判が未だに我が国では悪いのに対し、メリルは昔から比較的人気があると言えそうです。歌そのものは結構アメリカンな空気が漂わせてると思うんですけどね笑。

共演の多かったソプラノのロバータ・ピータースとは一時期夫婦でしたが、離婚。その後ピアニストと結婚し、亡くなるまで連れ添ったようです。

<ここがすごい!>
米人ではありますが、伊ものを歌うために生まれてきたと言ってもいい歌手でしょう。力強いながらも丁寧な歌唱スタイルと威風堂々たる男っぷりのよさ、そしてやはり声の輝かしさ!分厚く、伊もので求められるいい意味での脂身やドラマティックさに富んだ声の存在感と説得力は本家伊国を見渡してもそうそう見られるものではありません。バリトンですから主人公ではない役柄も多い訳ですが、テノールやソプラノよりも強い印象を残すこともしばしばです。

個人的には、彼の場合特に敵役でその美質を発揮していることが多いように感じています。とはいえ、多くの敵役を得意とする歌手のような演技功者ではないように思います。性格的な人物作りや凝った演技という点で行けば彼の上を行く歌手は少なくないですし、斬新な解釈が顔を見せるということもありません。或意味非常に正統的。普通に歌っていると言えば普通に歌っているのですが、それが物凄くハマっている、キマっている。もちろん先述したような持ち声の良さや歌の趣味の良さあってのものですけれども、それに加えて彼の持つダンディさがかなり効いています。

彼の場合、声がとか歌がとか演技がというような限定的な話ではなく、彼の演唱、藝そのものがダンディな雰囲気を湛えています。うまく説明できないのですが単純に渋いというのともちょっと違うんですよね、非常に華もある。第一声からぐっと聴き手を引きこみ、自分の仕事を鮮やかにこなし、決めるところをしっかり決める。そういった彼の長所を総合すると、昔の米映画に出てくる俳優のような、洗練された空気を纏っているように僕には感じられるのです。そしてその米国っぽさが変にイヤミじゃなくて、彼にとってプラスの個性になっているんですね。そしてそれが最大限に活きるのが敵役だと思うのです。幸いなことに、伊ものの敵役はバリトンと大方相場が決まっていますから、我々は彼の本領が発揮された音源をたくさん聴くことができます^^特にやはりルーナ伯爵(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』)は、バスティアニーニと比肩し得る数少ない名唱と言っても差し支えないでしょうし、悪の魅力がギラギラと光るバルナバ(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)、苦み走ったエンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)あたりは絶品。本当はジェラール(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)の全曲があれば最高だと思うのですが、どうやらアリアしか残されていなさそうで痛く残念。

<ここは微妙かも(^^;>
基本はやっぱり伊ものの人だなあとは思いますね、メトではいろいろ歌っていますが。
強いて言えば仏ものの録音はそこそこあります。カプッチッリやバスティアニーニみたいに仏もの歌っちゃうと違和感で笑い転げると言うようなことはありませんが、ちょっと脂はきつめになっちゃいますね、どうしても^^;そうなると役によって好き嫌いは出てくるかも。仏ものの録音と言ってもショーピース的に歌ったものやアリア集が多いあたり、よくわかってらっしゃると言うところでしょうか。

<オススメ録音♪>
・ルーナ伯爵(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』)
シッパーズ指揮/コレッリ、トゥッチ、シミオナート、マッツォーリ共演/ローマ国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>不滅の名盤。メリルの良さを楽しむ上で、最も手に入りやすく、またインパクトのある音源ではないかと思います。ルーナはレオノーラから一瞥もされませんけれども、つけられている音楽を鑑みれば、やっぱりカッコいい色仇であって欲しいところだと思うのです。そういう意味ではここでのメリルの、男臭さとパワーに溢れるダンディな歌はベストと言ってもいいのではないかと。もちろんあの有名なアリアも整った素晴らしい歌唱ですが、個人的にはそれ以上に1幕フィナーレを推したい。シッパーズの強烈な煽りもあってぐんぐん前に進む音楽に乗って、コレッリとトゥッチとともに口角泡飛ばさんばかりの大立ち回り!(いや、本当にスピーカーの向こうから唾が飛んできそうなのです!笑)また、シミオナートやマッツォーリと絡む3幕の重唱も聴き逃せません。最近ではあまり聴くことのできない、最高に温度の高いヴェルディを楽しむことができます。ルーナをバスティアニーニだけで満足されている方には、是非お聴きいただきたいです!

・バルナバ(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)
ガルデッリ指揮/テバルディ、ベルゴンツィ、ホーン、ギュゼレフ、ドミンゲス指揮/ローマ聖チェチーリア管弦楽団&合唱団/1967年録音
>これはいま全然手に入らないのですが、この演目最高の名盤と言っていいと思います。ここでの彼は特に前半戦での活躍が素晴らしい!筋上は悪役なのですが、殆ど主役と言って差し支えないような堂々たる演唱で、大輪の悪の華を咲かせています。ややマイナーではありますが後にG.F.F.ヴェルディの『オテロ』の台本を書くことになるA.ボーイトが書いたこの悪の権化が、やがてはイァーゴに繋がって行くんだなあと実感させる音源です。或意味でこれぐらいカッコ良く決める方が、この役も栄えるし曲自体も締まるんだなあと感心したり。絶好調で歌いまくるベルゴンツィ(この人のスタジオものでは最高かもしれない)との掛け合いはうまみもテンションも最高です!その他の共演陣も最高の歌唱、ガルデッリの引き締まった音楽も見事で、これを聴かずして『ジョコンダ』語る勿れ!

・アシュトン卿エンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
プリッチャード指揮/サザランド、チオーニ、シエピ、デュヴァル共演/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団/1969年録音
>サザランドの新盤があるためかメンバーの割に埋もれがちなのですが、これもまた非常に楽しめる音源です。エンリーコに彼を、ライモンドにシエピを配したことで、この作品本来の低音陣の充実した音楽の見事さが発揮されています。この役は権威的で一方的な人物として描かれることは数あれど、意外とカッコいい悪役として演じられることは少ないような気がしていて、そういう意味で渇を癒して呉れる名唱!暗い情熱に支配された高圧的な男を、スタイリッシュに創りあげています。ここに如何にも徳の高そうなシエピが絡むことで、物語全体がより立体的になっているのです。チオーニとデュヴァルは今でこそ無名ですが実力のあるテノールですし、若きサザランドが悪い筈もなく、非常にバランスのとれた名盤と言っていいでしょう。

・レナート(G.F.F.ヴェルディ『仮面舞踏会』)
サンティ指揮/ベルゴンツィ、リザネク、マデイラ、ローテンベルガー、ジャイオッティ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1962年録音
>彼はベルゴンツィとコンビで登場したときに素晴らしい録音を残すことが多いようで、これも実にスリリングなライヴ。ここでも重厚で味のある歌い回しが決まっています。このもう一人の主役は善から悪へ転ずる深みのある役ですが、彼はいつものように全てを歌に込めた名唱で、そのダンディな存在感に痺れます。特にアリアは絶品!リッカルドを当たり役の一つにしたベルゴンツィもまた、期待に違わぬ素晴らしい歌ですし、ローテンベルガーの小粋なオスカルも◎重たいリザネクとまあまあなマデイラがもう少し良ければとも思いますが、全体には熱気の楽しめるライヴではないかと。

・フィガロ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
ラインスドルフ指揮/ヴァレッティ、ピータース、コレナ、トッツィ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1958年録音
>この作品を一足早く楽譜通りに近付けたという意味で歴史的な演奏だと思います。半世紀以上前の演奏ですが、未だに鮮度のいい音楽で感心します。彼は珍しく喜劇の狂言回しですが、意外なぐらいしっくりくる歌唱。米人らしいにやけた感じがよく出ていて、ああこの人もやっぱりそういう味が出せるんだなあと何となくほっとしたり。この役はヴェルディが売りの人が力一杯やるとどうしようもなくおっかない感じになってしまうのですが(cf. バスティアニーニ、カプッチッリ)、その辺の力の抜け具合も丁度いいです。ラインスドルフの指揮は相変わらず堅実。もう少しテンポを上げて欲しいようなところもありますが、メリルを含めロッシーニに特化した小回りを必ずしも身につけている訳ではない歌手陣にしっかりつけている感じで好印象です。恐らく世界で初めて伯爵アリアを復活させたヴァレッティがかなり頑張って呉れている他、名人藝のコレナ、とぼけた味のあるトッツィなど共演もお見事。元妻ピータースのロジーナは旧時代的ではあるのですが、キャラにも合っていてありかなと思います^^

・ジョルジュ・ジェルモン(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
プリッチャード指揮/サザランド、ベルゴンツィ共演/フィレンツェ五月祭管弦楽団&合唱団/1962年録音
>割と影の薄い音盤ですが全体によく整っていてい平均点の高い演奏です。彼の父ジェルモンはいつものようにダンディな魅力のある素敵な感じでもあるのですが、それ以上に或意味での暑苦しさがあって、それが役に実に合ってる(笑)何と言いますか高度成長期に青年・壮年期だったオジさまたちが自分たちの価値観でゴリゴリと若者たちを評価する感じと言いますか、何とも言えぬ脂ぎった押しつけがましさみたいなものが感じられるのですねw普通の役だったとしたらそれはウザかったり鬱陶しかったりしますが、この役であればそれはプラスに働き得る訳で、そのあたり実にうまいなあと。カバレッタをちゃんと繰返し含めて歌っているのも嬉しいところです。ここでもベルゴンツィが実に姿勢のいい歌唱、サザランドもニュアンスに富んだ歌で素晴らしいです。

・アモナズロ(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
ショルティ指揮/L.プライス、ヴィッカーズ、ゴール、トッツィ、クラバッシ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1961年録音
>異色のメンバーが作り出したちょっと変わったアイーダの名盤。こういう演奏もできるんだなあとこの作品の懐の深さを感じたりします。そんな中ではヴェルディ・バリトンとして活躍していたメリルはそこまで変わった感じは一見受けないような気もしますが、聴いてみるとやはりちょっと独特です。普通どちらかというとエネルギッシュで力感を重視した歌唱になるこの役ですが、彼はいつもどおり自分の土俵で素敵に、スタイリッシュに演じています。パワフルなアモナズロを期待するとちょっと肩透かしを食らうのですが、逆に言えばこれだけイケメンなアモナズロというのはこれ以外にないのではないかと思います。ショルティの筋肉質な指揮の下、当たり役をしっかりと歌うプライス、苦み走ったヴィッカーズ、妖艶な大人の女の魅力を聴かせるゴール、相変わらず芝居のいいトッツィに剛直で堂々としたクラバッシと曲者揃いが心地よいです。

・ヴァランタン(C.F.グノー『ファウスト』)
モントゥー指揮/ピアース、シエピ、デロサンヘレス共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1955年録音
>彼の本領は伊もので仏ものはもう少しといった訳ですが、ヴァランタンは結構ハマっているように思います。もちろんブランやマッサールのような仏国のエスプリこそ感じられませんが、その筋肉質でパワーのある彼の持ち味は、この役が誇り高い軍人であることを思い出させて呉れます。こういうマッチョなヴァランタンと言うのもあってもいいのかなと。アリアもいいですがピアースとシエピがまた声量・力量のある歌手たちなので、やはり決鬪の場面の聴き応えがお見事!モントゥーの予想以上にさばさばした指揮もいいですし、充実した声でライヴとは思えない完成度で歌うデロサンヘレスも◎

・リゴレット(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)
ショルティ指揮/クラウス、モッフォ、フラジェッロ、エリアス、ウォード、ディ=スタジオ共演/RCAイタリア・オペラ管弦楽団&合唱団/1963年録音
>この役も本来ならば彼の持ち味とは違うところの役で、彼がやっちゃうとちょっとそれこそカッコ良過ぎてしまう感じはあるのです。しかしそのドラマティックで真に迫った歌唱は、やはり彼を語る上では外すことができないように思います。力強い男泣きを聴かせる“悪魔め鬼め”は感動的ですし、復讐を誓う重唱のパワーにも圧倒されます。同じような意味でクラウスもキャラ違いなのですが、こちらもまたスタイリッシュな歌唱と全盛期の声で圧倒。モッフォはやや芝居過多ですが、悪くはないと思います。フラジェッロ、エリアスといったメトを支えた歌手たちやウォード、ディ=スタジオら名脇役がしっかりとしているのもあって、音楽的には非常に魅力的な演奏になっているかと!
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2014-12-02 Tue 00:38 | | [ 編集 ]

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