Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

新発見!『異朝奇獣逸矢鼻歩』&『奇獣鼻歩折形』

新年度早々これはとんでもないニュースが飛び込んできました!
鼻行類の研究史と文化史が大きく塗り替えられそうです。
しかもそのホットスポットは、日本です。

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4/1付発行の英国の科学雑誌Matureに掲載された論文『江戸期に来日した彷徨えるオランダ人の記録――鼻行類発見史における新たな知見 The archives of the flying Dutchman who visited Japan in the Edo period -- The new knowledge of the history of Rhinogradentology (大洞、鷽尾、ダーラント)』では、新たに米国で発見された幕末期の日本の資料等の研究から、人類の鼻行類の発見はこれまで考えられていた1941年を100年近く溯る19世紀中葉とする結論が出されています。

鼻行類は南太平洋のハイアイアイ群島に固有な哺乳類の1グループで、鼻を特殊な形に進化させ(種によってはいくつもの鼻を持っています)、捕食や歩行などに用いる奇妙な生態で知られています。また、大陸から遠く切り離されたことでこの島には新しい哺乳類のグループが進出してこなかったため、あたかもオーストラリアの有袋類やガラパゴス諸島のフィンチ、タンガニーカ湖などのシクリッドのように様々な形態に進化していった、適応放散の代表例でもあります。

これまで科学史的には、1941年に瑞典の探検家エイナール・ペテルスン・シェムトクヴィストによって南太平洋のハイアイアイ群島で発見されたとされてきました。しかし文化史的には、この発見に先立つ1905年に発表された独国の詩人クリスティアン・モルゲンシュテルンの詩『ナゾベーム』の中で彼らの姿が描かれており、モルゲンシュテルンがどのようにして鼻行類のことを知ったのかと言うことは、研究史及び文化史に於ける大きな謎とされてきました。
この問題について、フレドリック・ブレートコープはモルゲンシュテルンと親交のあった貿易船の船長アルブレヒト・イェンス・ミースポットから鼻行類の存在を聞いたとしています。しかし、決定的な証拠はなく、またその場合そもそもミースポットが何故鼻行類を知っていたのかと言う問題も指摘されていました。

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今回の論文のきっかけとなった資料である『異朝奇獣逸矢鼻歩(いちょうのきじゅうはややのほなたた)』及び『奇獣鼻歩折形(きじゅうほおなたたおりがた)』は2012年、米国の資産家エイプリル・バッカー女史が自宅を整理していたときに発見されたもの。彼女の先祖ドゥーガル・レオ・バッカーは明治期に商売のため何度か来日し、その際趣味で古文書を大量に集めており、その中にあったそうです。
この発見を受けて日本から京都国立虚構博物館の大洞富貴夫(江戸時代専門)、国立架空博物館の鷽尾月弥(哺乳類専門)らが派遣され、合同チームでの研究が始まりました。

『異朝奇獣逸矢鼻歩』は幕末の蘭学者原戸周藤軒(はらと・しゅうとうけん)が、長崎に来訪した蘭国商人ヨゼフ・ファン=ダムから聞いたハイアイアイ群島と鼻行類の詳細な記録について著述したものです。出版がなされる間際に原戸が安政の大獄により永蟄居となり、今回発見された草稿のみが遺されました。また『奇獣鼻歩折形』は、原戸と交流のあった戯作者の栗栖庵明星(くりすあん・めいせい)の手によるもので、鼻行類の折り紙の展開図が掲載されています。こちらも原戸の入獄で立ち消えとなったようで、草稿の一部のみが遺されています。

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これらの資料から、恐らく1850年頃に日本を目指していた蘭国商人のファン=ダムが遭難の末ハイアイアイ群島に漂着しそこで数年を過ごしたこと、その後ファン=ダムはモルゲンシュテルンオオナゾベームほか数種類の鼻行類の生体ともに長崎を訪れ原戸と交流があったこと、そして1858年にファン=ダムが日本を出立したことがわかってきました。即ち、江戸末期に何と鼻行類が日本に齎されていたのです!

その後のファン=ダムについては両資料からは当然不明でこれらの内容をもとに、大洞らは本来なら、モルゲンシュテルンの没後100年に当たる昨年、この記念すべき論文を発表する予定だったそうなのですが、直前に独国で帰欧後の彼に関する記述が当時の新聞に見られることが共同研究をしていた独人博物学者ゼンタ・ダーラントによって発見されました。
これによると、彼はその後不遇な人生を歩んだようです。帰路で再び遭難し、鼻行類の生体を含む全ての資料は失われました。辛くも生きていたファン=ダムはこのとき独人航海士ゲルト・ミースポットによって助けられ、欧州の土を踏みます。彼は再三ハイアイアイ群島と鼻行類のことを伝えようと努力したようですが、狂人として相手にされず、1861年に失意のうちに没しています。
注目すべきは彼を救ったゲルト・ミースポットです。当時の戸籍によってこのゲルトは、モルゲンシュテルンに鼻行類の存在を伝えたかもしれないと言われているもう一人のミースポット、アルブレヒトと親戚関係にあることがわかってきたのです!(ああ何と言う奇跡的ご都合主義!!!)

今回の一連の発見と研究は、これからの鼻行類の発見史、研究史、文化史に纏わる研究の世界で、大きな議論を巻き起こしていくに違いありません!今年一番の大注目研究です。

【略年表】
※( )内は推測。
(1850頃 蘭人ヨゼフ・ファン=ダム、日本への航海中に遭難し、ハイアイアイ群島ハイダダフィ島に漂着。フアハ=ハチ族と交流し、鼻行類を発見。)
1857 ファン=ダム、モルゲンシュテルンオオナゾベームほか数種類の鼻行類の生体とともに長崎に来訪し、鳴滝塾で学んだ蘭学者の原戸周藤軒と交流。
1858 ファン=ダム、日本を出立。
    原戸、安政の大獄により永蟄居となり、著作『異朝奇獣逸矢鼻歩』頓挫。今回発見された草稿のみが遺される。原戸と親交のあった戯作者の栗栖庵明星も折紙本『奇獣鼻歩折形』を著していたが、これを受けて発刊せず。こちらの草稿の断片も今回発見される。
1859 ファン=ダム、帰欧の途上に再度遭難し、鼻行類の生体を含む資料が失われる。ゲルト・ミースポット、ファン=ダムを救出。
1860 ファン=ダムとゲルト、帰欧。ファン=ダムは繰返し鼻行類の存在を周囲に伝えたようだが、狂人として相手にされず。
    (アルブレヒトはこのときに鼻行類の話を耳にしたか。)
1861 失意のうちにファン=ダム没。
1870頃 米人商人ドゥーガル・レオ・バッカー、来日時に原戸や栗栖の資料及び書簡を入手。しかし他の膨大な資料とともに埋没。
1871 クリスティアン・モルゲンシュテルン生。
(1890頃 モルゲンシュテルン、アルブレヒトと親交を結ぶ。)
1894 アルブレヒト没。
1905 モルゲンシュテルン、詩『ナゾベーム』を発表。
1941 エイナール・ペテルスン=シェムトクヴィスト、鼻行類再発見。
1961 『鼻行類』上梓。
2012 ドゥーガルの子孫エイプリル・バッカー、原戸や栗栖の資料を物置で発見。
    京都国立虚構博物館の大洞富貴夫(江戸時代専門)、国立架空博物館の鷽尾月弥(哺乳類専門)らの合同チームが調査に乗り出す。
2014 大洞と共同で研究を進めていたゼンタ・ダーラントが、帰欧後のファン=ダムの資料を独国で発見。
2015.4.1 英国の科学雑誌Matureに『江戸期に来日した彷徨えるオランダ人の記録――鼻行類発見史における新たな知見 The archives of the flying Dutchman who visited Japan in the Edo period -- The new knowledge of the history of Rhinogradentology (大洞、鷽尾、ダーラント)』が掲載される。

さて今回の資料や、そこに掲載されていた折り図をもとに作られた栗栖庵の作品が4/1(日)まで国立架空博物館で展示されているというので観てきました!写真がOKだった折り紙だけこちらに載せたいと思います。

1. 鼻歩(ホオナタタ)
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4本の鼻で悠然と歩く姿はまさしくイメージの中のハナアルキ!
鼻行類の中でも最も有名なモルゲンシュテルンオオナゾベーム Nasobema lyricum によく似ていますが、尾が短いこと、後肢がしっかりとした形に表現されていることから、恐らく近縁でやや原始的なコビトナゾベーム Nasobema pygmaea ではないかと鷽尾は指摘しています。大洞の指摘で面白いのは、今回の資料中では若干の表記の揺れがありますが、ホオナタタ、ホナタタなどと記されているということです。他の鼻行類も同じくフアハ=ハチのことばが書かれていることから、ファン=ダムは「ナゾベーム」という表現を遣っていなかったと推察されます。現在のところ「ナゾベーム」と言う語が遣われる最古の記録は相変わらずモルゲンシュテルンの詩であり、この呼称がどの段階から遣われていたのかには謎が残っています。

2. 鼻鳥(ンボルハダナキア)
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極端に広がった耳や長い鼻から空を飛ぶ仲間であるダンボハナアルキ Opteryx volitans であろうと考えられています。耳と鼻が極端に誇張され、身体がぐっと小さいデザインは折り紙ならではのデフォルメのようにすら思えますが、実際にほぼこういうバランス。

3. 鼻蜈蚣(モオスタダダザビマ)
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たくさんの鼻で歩き、様々な音楽を奏でることができ、しかも高度な知能があったと言う記録のある、鼻行類の中でも最も不思議な形態をした動物。独国の博物学者ハラルト・シュテュンプケの名著『鼻行類――新しく発見された哺乳類の構造と生活』によれば、シェムトクヴィストによって島に齎された疾病で絶滅してしまったと言われています。この仲間は2種しかいなかったとされていますが、鷽尾によれば今回の資料に描かれたハナムカデからはそのいずれとも異なる特徴が見てとれるため、未記載の新種である可能性があるそうです。

4. 花擬(ドナキモハ)
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長い尾で直立し、花に擬態した6本の鼻で虫などを捕食する生き物です。これも鷽尾によると恐らくはハナモドキ Cephalanthus 属の1種だということですが、この属に含まれる種は同定がかなり難しいため、今回の資料だけでは判然としないとのこと。かなり尾が太く、オブトハナモドキ Cephalanthus giganteus のような感じにも見えますね。

<参考文献>
・Mature 2015/04/01 『江戸期に来日した彷徨えるオランダ人の記録――鼻行類発見史における新たな知見 The archives of the flying Dutchman who visited Japan in the Edo period -- The new knowledge of the history of Rhinogradentology (大洞、鷽尾、ダーラント)』
・『鼻行類 新しく発見された哺乳類の構造と生活』/ハラルト・シュテュンプケ著/日高敏隆・羽田節子訳/思索社/1987
・『ナゾベームの問題』/フレデリック・ブレートコープ/1945
・『エイプリルフール万歳!』/バジリオ・ディ=セヴィーリャ/2015

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