Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第八十六夜/荘厳な光輝を湛え~

なんだかんだ言ってもやっぱり露国と言えばバスなんですよ、私のイメージの中でも。
露国特集と言えば、どうしてもとりもなおさずバス特集に近くなる^^;

と言う訳で、今回は露国のバスの中でもとりわけ有名なこの人。


Nesterenko.jpg

イェヴゲニー・ネステレンコ
(Yevgeny Nesterenko, Евгений Евгеньевич Нестеренко)
1938~
Bass
Russia

このひとがこの時代の露国でも有名な理由もまた、オブラスツォヴァやヴィシニェフスカヤと同じく西側でも目覚ましい活躍をしていたことにあるでしょう。比較的若い時分から東西いずれでも録音や映像があるため、どちら側の大物歌手とも共演した記録があるのは嬉しいところです。youtube等を見るとTV放送の音源もかなり出てくるし、そういうものもひっくるめるとこの世代としてはかなり記録の多いひとだと言うこともできるのかも。

またざっくりとした印象ですが、その豪快な声や歌いっぷりから来るイメージとは異なり、意外と器用な面があるのも東西どちらでも受け入れられた理由ではないかなと個人的には思っています。露ものを歌う時と西欧ものを歌う時でスタイルの違いを感じさせると言いますか、そのあたりを結構しっかりと分けているような印象です。もっと言うと、豪快にごつごつとした歌を演じて欲しい演目と、滔々とカンタービレを聴かせて欲しい演目とを心得ていると言いましょうか。あとでも述べますが、このあたりがボリス(М.П.ムソルグスキー『ボリス・ゴドゥノフ』)でもドゥルカマーラ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)でも素晴らしい演奏を遺していると言う、普通なら考えられない離れ業を成し遂げて いる所以かもしれません。

何度か来日リサイタルもしており、その時の歌唱を聴いた世代はこぞって彼のことを褒めちぎって(Webで見る限り)おり、日本ではバス歌手としては珍しく、一般に非常に評価の高い人と言えるように思います(大体オペラ歌手特集でバス歌手が1人も出てこないなんてのもよくありますからね苦笑)。

考えてみると綴り的にはニェスチェリェンカ(アクセントがないから「カ」ですね^^;)になるんだろうけど、流石に誰だかわかんなくなってしまうので、ここではネステレンコで通します^^;

<ここがすごい!>
バスと言うと、それもスラヴのバスと言うと重厚で暗い音色の響きのイメージが強くなります。重心が低くて渋い響きこそに魅力があると言いますか。ところがネステレンコはちょっと違う印象です。深くてどっしりとした声ではあるのですが、その響きはむしろ明るく黄金色に輝いているように思われるのです。もちろん、例えば黄金のトランペットと呼ばれたデル=モナコのようにロブストながら高い響きの声と言う訳ではありません。あちらが美しく磨きぬいた金の美しさならば、ネステレンコの声は例えば古代埃国やインカの装飾品のような、或いは古刹の風格ある大伽藍のような、そうした荘厳な金の美しさを湛えている感じ。キラキラとした生々しい金属の輝きと言うよりは、加工した金属の深 みのある輝きなのです。この持ち声だけでも充分に素晴らしい訳ですが、上から下まで澱みなくその声を楽しめるのもまた、彼の大きな長所です。およそ彼の歌を聴いていて音域的な辛さを感じたことはありません。ルスラン(М.И.グリンカ『ルスランとリュドミラ』)のハイトーンから、コンチャク汗の最低音(А.П.ボロディン『イーゴリ公』)まできっちり出るので、或種のスリルはない代わりに抜群の安定感。バスは下支えになるパートですから、これは大きいです。

ネステレンコと他の露勢の歌手を較べて聴いて思うのは、上述もしていますがその歌い分けの巧みさ。今の歌手でも露国の歌手のローカル色は良くも悪くも残っているし、逆に国際的に活躍している人は西欧流の或種グローバルな歌い口になっているように思います。これはいずれもいい面と悪い面があるように思っていて、伊独などのメジャーな演目では土臭さや田舎くささのあるローカルさが足を引っ張る部分があり、逆に露ものや東欧もののような泥臭さが欲しい演目ではグローバル過ぎちゃうとつまらない。となったときに、ネステレンコと言う人が凄いなあと思うのは、微妙にその歌を使い分けるところ。伊ものなどでは洗練された流麗な歌を披露する一方で、露ものではずっしりゴツゴツとした 歌い方をして見せるんですよね。だから、露人では割と珍しいと思うのですが、先述したとおりドゥルカマーラやドン・パスクァーレ(G.ドニゼッティ『ドン・パスクァーレ』)と言うような役でも魅力的な録音を遺すことができてしまう。これって結構凄い話でこの辺の役ってベルカント流儀に歌えるだけではなく、フットワークの軽さも備えているっていうことで、スラヴのバスでこれは珍しいです。そりゃあクリストフやギャウロフだってベル・カントものは歌っていますが、こういうブッフォ的な身軽さが欲しいところは流石に遺していない訳です。一方でその彼らが得意としていた重厚な歴史悲劇みたいなところでも実績を遺している訳です。如何にコレナやダーラと言ったブッフォの大家みたいな人たち はドゥルカマーラでは名演を披露していても、ボリスやフィリッポ(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)、果ては宗教裁判長(同作)なんてあたりは歌えない訳です。
そういう意味でこのネステレンコと言う人は実に侮れない。恐るべき器用さを持っていると言えるでしょう。

器用さと被る部分でもありますが、その歌い回しの知的さも忘れてはなりません。露ものなどを手掛けても、徒に豪放磊落に何でも歌い飛ばす訳ではなく、それぞれの場面をよく考え、ことばを大切にして歌っているなあと言うことは強く感じます。そのバランス感覚の巧みさは露国のみならずバス歌手全体を見渡しても一級品でしょう。
ペトロフと並び、露国のバスの魅力が破壊力だけではないと言うことをよく伝えるひとと言えます。

<ここは微妙かも(^^;>
非常に正統派の歌を歌う人だと思うのですが、その崩し方なども含めてときにややお手本通り過ぎるきらいもなくはありません。充分なパンチのある声でパンチのある表現をしているのに、もう少しインパクトが弱いと言いますか。むしろ彼ならもっとできるはずだと思って聴いてしまうところがあるのかも^^;
世評の高いボリスはやや演技過多になって他の部分とのバランスを欠くように感じられ、実は僕が聴いた音盤では必ずしも全体にベストとは思えませんでした。死の場面なんかはもちろんとてもいいのですが。

<オススメ録音♪>
・ルスラン(М.И.グリンカ『ルスランとリュドミラ』)
シモノフ指揮/ルデンコ、シニャフスカヤ、モロゾフ、フォミーナ、マスレンニコフ、アルヒ―ポフ、ボリソヴァ、ヤロスラフツェフ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1978-1979年録音
>余り全曲録音のないルスランの快演と言っていいと思います。と言いますかこの作品の場合恵まれているなあと思うのは、代表的な演奏が3つしかない(本盤、コンドラシン盤、ゲルギエフ盤)のにいずれも素晴らしい演奏だと言うこと^^この音盤はシモノフの華やかな音楽づくりはじめ魅力満載ですが、とりわけ素晴らしいのがネステレンコ演ずるルスラン!彼の金色に輝く声の魅力が最も発揮されている演奏だと思います。輪郭のしっかりとしたハリのある声で、堂々とした英雄の姿を描いています。西欧ものではバスと言うと高齢の人物に割り当てられていることが多いですが、ここでの彼の歌声を聴くと必ずしもそうでなければいけない訳ではなくて、若々しい力に満ちた人物をも表現し得るのだと 言うことを感じることができます。シモノフは比較的ゆったりとテンポを取っていますが、それでも音楽全体に勢いを感じられるのは、彼の歌唱の持つ推進力が大きいと思います。共演陣はマスレンニコフを除くとあまり知名度こそありませんが、みなかなりの実力者。この曲の序曲だけではない魅力を是非お楽しみいただきたく!^^

・ザッカリア(G.F.F.ヴェルディ『ナブッコ』)
シノーポリ指揮/カプッチッリ、ディミトローヴァ、ドミンゴ、ヴァレンティーニ=テッラーニ、ポップ共演/ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団&合唱団/1982年録音
>この作品を語る上で外すことのできない名盤!個人的には最初にネステレンコを聴いたのがこの音盤と言うこともあり、彼と言えばこの録音のイメージです。重厚で堂々とした声と或種の鷹揚さすら感じるゆったりとした歌には非常に貫禄があり、ユダヤの人々の精神的支柱であるこの役の説得力を増しています。カプッチッリの千両役者的なナブッコや、ディミトローヴァの烈女っぷりとも充分に亘り合うザッカリアで大変お見事。特に預言のアリアのちょっと何かが降りてしまった感じ(や、預言だからねそりゃそうかw)は、シノーポリの音楽設計の良さもあって非常にカッコいい。そのシノーポリの音楽は伊的熱狂を感じさせるとともに緻密に計算された面もあるものですし、前出の2人に加え独唱陣も隙がなく(何故アンナにポップ?!)楽しめること請け合いです。

・アッティラ(G.F.F.ヴェルディ『アッティラ』)
ガルデッリ指揮/シャシュ、ミレル、ナジ共演/洪国立管弦楽団&放送合唱団/1987年録音
>これは彼を聴くための演奏と言ってもいいんじゃないかと思います。シャシュ、ミレル、ナジともに健闘しており、それぞれ聴きごたえはあるのですが、ネステレンコのタイトル・ロールが一段抜けて良いです。ここまでの記述のとおり彼は露ものをやれば露ものっぽい土臭さが出せるし、伊ものを歌えば流麗にできるのですが、この強烈な異民族の役ではちょうどその間ぐらいをうまく突いているように感じます。まだベル・カントの匂いのする時代のヴェルディをやりつつも、随所で野性味を感じさせる表現は容易にできるものではありません。最近のちょっとスマートでお行儀がよすぎるアッティラ歌唱に爪の垢を煎じて飲ませたい気すらしてきます(笑)独唱陣は先述のとおり悪くないのですが、ガルデッリがちょっともたもたし過ぎで今ひとつ。旧盤の方がうんと良かったのですが……。

・西国王フィリッポ2世(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
アバド指揮/ドミンゴ、M.プライス、オブラスツォヴァ、ブルゾン、ローニ、フォイアーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1977年録音
モリナーリ=プラデッリ指揮/ルケッティ、ヴァラディ、B.ファスペンダー、マズロク、モル共演/ミュンヒェン歌劇場管弦楽団&合唱団/1980年録音
>いずれもあんまりメジャーな録音ではないものの、フィリッポが彼の当たり役であったことをよく伝える録音だと言うことができると思います。前者はアバドとフォン=カラヤンの因縁の事件があった際の録音ですが、これが裏キャスト(+応援キャスト)のものとは思えない豪華なメンバーによる纏まったライヴ録音。ネステレンコは宗教裁判長からスライドだったのですが、元来の本キャストのギャウロフとはまた違う人間的な弱さや哀愁を感じさせるフィリッポ。“独り寂しく眠ろう”は非常に完成度が高いです。また、アバドの肝煎りでロドリーゴの死のあとにあるレクイエムを歌っているのも嬉しいところ(相手はドミンゴですしね!)共演陣もしっとりとした味わいを聴かせるプライスや端整なブルゾンはじめ満足度が高いです。これに対してモリナーリ=プラデッリ盤はアバドほどの意欲的な音楽ではないものの、伝統的で正統派な曲作り。ここでの彼はアバド盤から3年経ち、より成熟したパフォーマンスになっています。特にフィリッポの人物の多面性と言う部分では、こちらの方がより表現されているように感じます。ここではアリアももちろんですが、モルの重厚な宗教裁判長との対決が最大の聴きどころと言ってもいいでしょう。これだけ凄まじい馬力のある2人がこの場面を作ると、やはり緊張感が全然違います。その他共演ではまずファスペンダーが非常に良い出来、ルケッティも完成度の高いカッコいい歌唱を披露している一方、ヴァラディは個人的にはいまひとつ。マズロクはかなりの曲者らしいロドリーゴで、普通に行ったら上記のブルゾンの方がうんといいと言う話になると思いますが、フィリッポと交渉し、カルロの剣を取り上げるこのキャラクターの政治的な一面を考えるとこれもありかも。ランゴーニかシャクロヴィートゥイのようなロドリーゴで興味深いです(笑)

・宗教裁判長(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
アバド指揮/カレーラス、ギャウロフ、フレーニ、カプッチッリ、オブラスツォヴァ、ローニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1977年録音
>上記のアバド盤のAキャスト、既にこのブログでも何度もご紹介している、この作品の或意味での決定盤ですね^^ここでは宗教裁判長に回ったネステレンコ、流石にギャウロフに較べると良くも悪くも若々しさを感じられる部分がありますが、やはりこのハリとパワーはこの役に於いては非常に大きいです。ギャウロフの力加減のうまさもあるのですが、ネステレンコに圧倒的な声があるからこそ、宗教裁判長がフィリッポを無理矢理従わせる構図がしっかり成り立つからです。また、彼の声の荘厳さが、“ありがたい”宗教権力の幹事を引き出すのにも貢献しています。

・ソバーキン(Н.А.リムスキー=コルサコフ『皇帝の花嫁』)
マンソロフ指揮/ヴァライチス、アルヒーポヴァ、ヴィシニェフスカヤ、アトラントフ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1973年録音
>露国のヴェリズモ作品と言うべき本作の名盤のひとつです。ヒロインであるマルファの父親ソバーキンは、娘が絶世の美人でさえなかったらこんな目に遭わなかったのにという悲劇の人。或意味でこの演目の主要キャストのうちで一番「普通の人」なのですが、そこに彼のような重量級の歌手が来ると、全体がキリッと締まります。聴きどころはやはり4幕冒頭のアリア。寂々とした哀しみをしみじみと歌いあげており、ああこれぞ露もの!の世界だなあと感じさせて呉れます。共演陣がまた当時のボリショイを代表するメンバーであり、渋く険しい音楽を存分に味わうことができます。

・メフィストフェレス(C.F.グノー『ファウスト』)
デイヴィス指揮/アライサ、テ=カナワ、A.シュミット、コバーン、リポヴシェク共演/バイエルン放送交響楽団&合唱団/1986年録音
>意外と名盤の多い本作の録音の中では比較的地味な部類に入るように思うのですが、ネステレンコの輝き溢れるバスを楽しむ上では外せないもの。仏もの特集のところでさんざっぱら言ったような仏的洗練とは全く異なる世界の、クリストフやギャウロフと同じような路線を継承した豪放磊落な悪魔像を築いています。デイヴィスも共演陣も仏人ではなく、演奏も割と無国籍な印象の中で、彼のエッジの効いた悪魔の表現が功を奏していると思います。中でも金の仔牛のロンドは絶品!蕩けるようなアライサとの掛け合いにもうっとりさせられます。

・ドゥルカマーラ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
ヴァルベルク指揮/ポップ、P.ドヴォルスキー、ヴァイクル共演/ミュンヘン放送管弦楽団&バイエルン放送合唱団/1981年録音
>はい、来ました珍盤ですwwとはいえこの演奏音楽的なレヴェルは相当高いと思います。愛の妙薬もいろいろ聴きましたが、彼のドゥルカマーラは或意味で限界への挑戦と言いますか、最重量級だということは間違いありません。それこそこっち系で手を出していそうなレイミーすらやってないですからね(笑)しかしその堂々たる重厚で高級な声でのイカサマ師ぶりが実に面白い。これだけ破壊力のあるドゥルカマーラは他にはないと思いますし、一方で意外なぐらいフットワークも軽い。歌が流麗な上に喋りも達者で、この人の器用さに改めて舌を巻いてしまいます。同じく真面目系のヴァイクルのすっとぼけた軍曹もまた、彼のやわらかな声が良く出た名唱ですし、ポップの生命力溢れるアディーナも最高!ドヴォルスキーの好き嫌いは出そうな気がしますが、痛々しいぐらいの若さはこの役にはプラスではないかと。ヴァルベルクの音楽づくりも個性的ながら楽しくて◎

・ドン・パスクァーレ(G.ドニゼッティ『ドン・パスクァーレ』)
ヴァルベルク指揮/ポップ、アライサ、ヴァイクル共演/ミュンヘン放送管弦楽団&バイエルン放送合唱団/1979年録音
>同じく異色盤ですが、ここでもヴァルベルクの音楽が非常に楽しく、伊的なバカバカしさとは違う価値観でもこの作品は面白く作れるんだなあと思います。ネステレンコはここでもメガトン級の声で軽妙にブッフォをしていて、そのうまさに圧倒されます。1幕のロンドなど、あの重々しい悲劇を歌う人と同じとはとても思えないぐらいの目じりが下がって鼻の下が伸びた歌いぶり(物凄く褒めてるよ!)でほとほと感心してしまいます。ここではポップ、アライサ、ヴァイクルの各メンバーとそれぞれ大きな重唱があり、彼らそれぞれとのコンビの良さ、アンサンブルの美しさが堪りません!中でもヴァイクルとの有名な重唱は、テンポ的には必ずしも速くもないし、おふざけも少なめなんですけれどもしっかりと品の良い笑いを生みだしている点は本当に藝のなせる技だなあと^^

・ボリス・ゴドゥノフ(М.П.ムソルグスキー『ボリス・ゴドゥノフ』)
エルムレル指揮/バビーキン、アトラントフ、オブラスツォヴァ、リソフスキー、マズロク、マスレンニコフ、エイゼン、ヴォロシロ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1985年録音
>ネステレンコと言えば、やはり世間的にはこの役だと思います。そしてここでも充分に水準以上の歌なのですが、個人的にはちょっと良さも悪さも出てしまったかなと思っている録音です。全体的に圧巻の大熱演なのですが、物語中盤の独白からシュイスキーとの会話、そして錯乱にいたるまでのあたりの演技が私自身の耳には過剰に感じられて、全体の音楽の流れから浮いてしまっている気がしたのが残念なところ。とは言え戴冠の場面での第一声のとりわけ見事なこと、ああ主役が出てきたというのはこういうことなんだなあと思わせる登場の素晴らしさは替えがたいものですし、何と言っても死の場面での大立ち回りはそこまでの不満を吹き飛ばす集中度の高い名演です。そういった良い部分を考えると、やはりネステレンコを紹介するにあたってボリスを無視する訳にはいかないよなあと思うのです。共演陣はみな圧倒的な声の持ち主で楽しませて呉れますが、バビーキンの節度の効いた渋いピーメン、怪僧ぶりににやりとさせられるマズロク、そして何と言っても数ある録音の中でもベストと言うべき豪壮快傑っぷりが見事なエイゼンのヴァルラーム!!名盤目白押しのボリスですが、聴いて損のない演奏かと思います^^

・ドシフェイ(М.П.ムソルグスキー『ホヴァンシナ』)2015.5.27追記
エルムレル指揮/エイゼン、オブラスツォヴァ、ライコフ、シェルバコフ、Ю.グリゴリイェフ、アルヒーポフ共演/モスクヴァ・ボリショイ歌劇場管弦楽団&合唱団/1988年録音
>ソヴェト時代の名演。エルムレルは銃兵隊の合唱やペルシャの踊り、プレオプラジェンスキー行進曲では彼らしい爆演を披露する一方、前奏曲やマルファの戀の歌では寂寞とした雰囲気をきっちり出していて、この露的な作品を盛り立てています。ネステレンコの声の巨大さをここまで感じられる録音はひょっとすると他にないかもしれません。或意味で音源でしかないのにもかかわらず、地鳴りがするようなと言いますか、空間全体が鳴っているような響き。ドシフェイは必ずしも迫力押しが必要な役ではないし、そういう意味ではどうかなと思わなくもないのですが、これだけ力感漲らう声の魅力を前にするとただただ首を垂れざるを得ません(笑)歌そのものは露的端正さのある目鼻立ちの整ったもので、同じく圧倒的な声で豪放磊落な父ホヴァンスキーを作っているエイゼンとはきっちりとキャラクターを分けています。そのエイゼンがここではまた大変素晴らしい!私が聴いた父ホヴァンスキーの中では、ギャウロフのスケールの大きな藝まで考慮に入れてもぶっちぎりのベストの歌唱と言えると思います。まさに、役柄そのもの。オブラスツォヴァも物凄い迫力で恐らく史上最強のマルファ(笑)その他主役級のひとたちはネームバリューこそ落ちますが、いずれも優れた歌唱で、古い版の録音ではありますが、かなり楽しめる内容です。
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basilioさんの評価が高い、
ムソルグスキー『ホヴァンシナ』
エルムレル指揮他の盤
をPCネットで検索しましたが、どこの店にも取り扱いなく、h mvオンラインでのレビューで最上級のおすすめが書かれてあった
マルガリトフ(?)Margaritov指揮ソフィア国立劇場ブルガリア勢が作ったcd(コルサコフ版)を代わりに入手して5~6日繰り返し聴き返していました。
 さらにやっと海外から届いた『五月の夜』(Rコルサコフ)に切り替えて5~6日繰り返して聴き続け・・ロシアオペラ漬けの日々をすごしていました。こんな日々がこようとは思いもよらなかった(笑)
 初めから親しみやすかったオペラ『五月の夜』鑑賞が一段落して、もう一度『ホバンシナ』に戻ってみると、
ロシアオペラの中でもムソルグスキーの特異性にあらためて驚いた。特異だけれど唯一無二の存在感!が、何とも言えないんです。
 さてこの後は、エルムレル指揮ペトロフ、オブラスツォヴァ他盤のボロディン『イーゴリ公』を、と、
それら楽しみに日々過ごしています。
2015-06-14 Sun 21:05 | URL | 南天の実 [ 編集 ]
本日もようこそのおはこびで^^

> ムソルグスキー『ホヴァンシナ』
> マルガリトフ指揮ソフィア国立劇場
ギュゼレフやペトコフと言った勃国の名手が歌った演奏ですね^^あの2人のバスを目当てに僕も仕入れましたが、ミルチェヴァ=ノノヴァやポポフと言った周りの歌手陣も見事です!
あの作品は渋い音楽で、最初はなんだかよくわからないんですが、何度も聴くとじわじわ味が染み出てくる代物ですよね。

> 『五月の夜』(Rコルサコフ)
お恥ずかしながら実はこの作品未聴です^^;
露ものの定番のひとつで気になってはいるのですが…コルサコフの初期のオペラなので、耳あたりは良さそうな印象。
ちなみにコルサコフであれば、ゴロヴァノフの振っている『サトコ』が露ものの熱狂の最右翼です!このあたりがお気に召したのでしたら是非ぜひ!!

> エルムレル指揮ペトロフ、オブラスツォヴァ他盤のボロディン『イーゴリ公』
どうぞお楽しみくださいませ^^
2015-06-15 Mon 10:19 | URL | Basilio [ 編集 ]
 さっそくのご返事ありがとうございます。

>(ホヴァンシナ)作品は渋い音楽で、最初はなんだかよくわからない~
 
まさに言われるとおり,聴き始めた1~2回目は全くとらえどころなかったですww
それでも一週間ぐらい幾度も聴き返した、ということは、最初から心に引っかかる何かがあったのでしょうね。
 そして、歌手達の熱唱にひきずられて聴いてるうちに、露オペラの新しい魅力にはまったということかな?(脇役シャクロヴィティ役のpopovまでも迫力たっぷりでビックリした)

>コルサコフであれば、ゴロヴァノフの振っている『サトコ』が露ものの熱狂の最右翼

 そうですか・・・どうやら今年度は(自分的に)露オペラ年、となりそうですねぇwww
 ではまたを楽しみに
2015-06-15 Mon 16:01 | URL | 南天の実 [ 編集 ]

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