Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第廿一夜/かけがえなき相棒~

カラスを語るうえで欠かすことのできないテノールと言えばやはりこのひとでしょう。

Di Stefano2

ジュゼッペ・ディ=ステファノ
(Giuseppe di Stefano)
1921~2008
Tenor
Italy

キャリアのなかでの共演の回数はダントツではないでしょうか?
カラスの伝説的ライヴ録音と言うとほぼ確実に登場するのがこのひとです。軽く上品な声質ながら馬力もあり、見栄えのする舞台姿も相俟って非常に人気がありました。

カラスと公私に亘る付き合いというのはゴッビと同様ですが、こちらは甘いロマンスがあった方のひと(笑)

と言ってもそれはカラスもディ=ステファノもキャリアの末期の話。
当然ながら声域が違ってもスター同士はライヴァルですから、お互いの黄金時代には火花の散った話もあります。
カルロ・マリア・ジュリーニの指揮によるG.F.F.ヴェルディ『椿姫』の舞台はカラス、ディ=ステファノに加えジョルジョ・ジェルモン役にバスティアニーニを得た火を噴くような名演(何と録音が残っている!)ですが、取材がカラスに集中して頭にきたディ=ステファノは翌日から降りてしまったというエピソードでも有名です。

最後の舞台はG.プッチーニ『トゥーランドット』の皇帝。この役は完全に脇役ですが、その存在感たるや完全に主役を喰ってしまっていたと言います。

晩年はケニアで暮らしていましたが、強盗に襲われ妻を庇うも頭に重傷を負い、3年半の昏睡状態からついに目覚めることなく帰らぬひととなってしまいました。

<ここがすごい!>
このひとは、前述の通り本来非常に明るく上品な声質です。
しかしその藝風は品の良さの殻のなかに納まることなく、大変ドラマティック(声質ではないですよ、念のため)なもの。
本当に調子が良いときには、殆ど喉が割れるのではないかと思うような激烈な表現を繰り広げます。特にライヴ録音での演唱は、聴衆の熱狂もなるほどと頷ける見事なものがたくさんあります。

また、私は伊語を勉強していないのできちんとわかる訳ではないのですが、ことば捌きの巧さは格別のものがあったと言います。確かにG.プッチーニ『トスカ』のカヴァラドッシやG.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』のエドガルドのような役でのしっとり表現するところと叫ぶように訴えかけるところの使い分けは並の歌手ではとてもできないものだと思います。

伊国ものの比較的軽めの声を必要とされるようなオペラ・アリアについてはもちろん、ナポリターナやカンツォーネなどでも未だに最高の歌手だとおっしゃる方がたくさんいます。絶好調のときの録音を聴く限り、その評価は支持できるものでしょう。

彼の声質にぴたりと合った役、例えば先述のカヴァラドッシやエドガルド、『椿姫』のアルフレード・ジェルモンあたりを語るうえでは外せないでしょう。C.L.A.トマ『ミニョン』のヴィルヘルム役も、伊語版でアリアを聴く分には大変素晴らしい!

<ここは微妙かも(^^;>
ただ私個人が好きかと言えば正直微妙(苦笑)出来にもかなりムラがある気がするし…

明るくて軽めの声質なんですが、いまひとつ高音が抜けきらない感じがあるんですよね。もちろんちゃんとハイCとか出すんですけど、どうもスカッとしきらない…彼の声質で行けば確かにぴったりであるG.F.F.ヴェルディ『リゴレット』のマントヴァ公爵はその点でどうもしっくりこないし、V.ベッリーニ『清教徒』のアルトゥーロなんかは音下げてやってるし。そもそも声楽的に言うと発声がよくない、という話とこの当たりは絡んでくるところなのかもしれない。

ドラマティックな表現力という部分で言っても声質の面で言っても、同世代の同じようなタイプの歌手で行くなら、一部の曲を除けばジャンニ・ライモンディの方がずっと好きですね。

<オススメ録音♪>
・マリオ・カヴァラドッシ (G.プッチーニ『トスカ』)
デ=サバタ指揮/カラス、ゴッビ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1953年録音
>不滅の名盤。こういう役になると彼の美質が活きます。特に有名なアリア“星は光りぬ”は素晴らしい出来。しっとりとした歌い出し、叫ぶような劇的な終結部。あまり好きな歌手ではないと言いましたが、このひとのカヴァラドッシの、特にこのアリアは格別なものだと思います。イタリア・オペラ聴いたなぁって言う気分にさせて呉れる録音です(笑)カラス、ゴッビ、デ=サバタが素晴らしいのは言及済み。

・レーヴェンスウッド卿エドガルド (G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
カラヤン指揮/カラス、パネライ、ザッカリア共演/ベルリンRIAS交響楽団&合唱団/1955年録音
>これもまた素晴らしい録音。と言うかこの時代のライヴなのにこの音質って言うのは一体何が起きたの?!wwwディ=ステファノはその高貴な声が、逆にヒステリックな感じに聴こえるのが面白いところで、2幕フィナーレのストレッタの前の呪いの言葉なんかはかなりの迫力。終幕のアリアは打って変わって歌の巧さで勝負していて、特に後半の繰返し1回目と2回目の色付けの違い(途中で剣で自分の身を刺すことになっている)など唸らされます。絶頂期のカラスが悪いはずもなく、勢いのあるパネライの力演、滋味溢れるザッカリア、そしてこの頃は独的になり過ぎなくて心地よいカラヤンの指揮と総じて出来の良い録音です。

・アルフレード・ジェルモン(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
ジュリーニ指揮/カラス、バスティアニーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団/1955年録音
>ディ=ステファノの激情的なアルフレードは、ややキツさを感じることもあるが、まぁこの役もヒステリーだしこれもまた一理ありか、というところ。ちょっと力み過ぎなところもありますが、勢いがあるのはこの役にはいいことでしょう。芳醇なカラスのヴィオレッタと男の魅力で聴かせるバスティアニーニも揃って、あとは音質がもっと良ければ…(泣)

・ヴィルヘルム・マイスター(C.L.A.トマ『ミニョン』)
エレーデ指揮/スタジオ・オーケストラ/1947年録音
>このご時世原語で歌っていないと言うのはいただけないと言う方もおられましょうが、これはこれで彼の適役かと。若いころの彼の声の魅力が楽しめるのはなんといっても嬉しいし、伊語で歌えば口跡の良さが光るところ。シミオナート、シエピ共演の全曲ライヴもありますが音がねえ…(苦笑)

・エンツォ・グリマルド(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)
プレヴィターリ指揮/ミラノフ、ウォーレン、エリアス、クラバッシ共演/ローマ聖チェチリア音楽院管弦楽団&合唱団/1957年録音
>実は、個人的には、彼の最大のはまり役且つベストの録音ではないかと思っているのがこれです。エンツォと言うのは厄介な役で、有名なアリアはリリックなものだけれども力強い声のいる場面もあり、数々の名テノールが挑戦していますが、私の中ではディ=ステファノが一番しっくり来ています。デル=モナコはリリカルな部分は得意じゃないしキャラにも合わないし、パヴァロッティじゃ軽すぎるし(^^;共演もメトで活躍した名花ミラノフを中心に据え、癖のある雰囲気のウォーレン、風格あるエリアス、融通の利かなさそうなクラバッシとキャラクターに合った人たちで、個人的には気に入っている音盤です。

・テノール独唱(G.F.F.ヴェルディ『レクイエム』)デ=サバタ指揮/シュヴァルツコップフ、ドミンゲス、シエピ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1954年録音
>超名盤。これはうえのエンツォと同様ディ=ステファノの最高の録音と言って良いでしょう。特にIngemisucoの見事なことと言ったら!もともとオペラのような作品ですけれども、オペラ的な歌い方をしながらも不必要に崩すことなく見事なフォルムで歌っています。他の独唱者も見事で、この作品を語るうえで外すことのできない演奏でしょう。
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