Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第九十二夜/華ある歌姫~

我ながら呆気に取られるぐらい久しぶりに女声の登場です。ヴィシニェフスカヤ以来なので8回ぶり?いやあどんだけだよっていう偏りっぷりですねw更に言えば露国の渋い低音歌手が多かったですから、今回は思いきって方向転換!スッキリした美声の華やかなコロラテューラ・ソプラノをご紹介いたします。
とはいえ、彼女も商業録音が多いとは言えないのですが。。。

Swenson.jpg
Juliette (Gounod)

ルース=アン・スウェンソン
(Ruth Ann Swenson)
1959~
Soprano
America

彼女もまたMetでの活躍が、個人的には非常に印象に残っている人です。特にレヴァインのMetでのキャリア25周年のガラ・コンサートの時には絶好調で当たり役のジュリエット(C.F.グノー『ロメオとジュリエット』)を披露しており、並みいる有力歌手の中でも鮮烈な印象を受けました(とはいえあのころすでに40代ちょっと手前ぐらいだったんですね、もっと若く見えます^^)

米国出身のコロラテューラ・ソプラノと言えばロバータ・ピータースやアンナ・モッフォ、それにビヴァリー・シルズといったネームバリューから行けばかなりの大物がたくさんいるのですが、その中で一番僕自身がピンときているのは彼女だったりします。もちろん先に挙げた大歌手たちも技術的な見事さに酔いしれることは少なからずあるのですが、その声の美しさ、如何にも伊もの仏ものに似合いそうな明るく透き通った美声を思うと、僕はスウェンソンが好き(このあたり好き嫌いのレベルの話なので、人によっては反論もあるのは重々承知の上であります)。その分彼女の録音が上記の人たちに較べて非常に少ないのは残念でもありますが。

まだまだ”巨体”の歌手が沢山いた世代ではあるかと思うのですが、そうした中では舞台姿もまた美しく、その声の明るさと恐らくはお人柄もあってか、非常に健康的な魅力のあるイメージです(実際には乳癌にかかったり結構大変なことも乗り越えられてきたようなのですが)。
そのフレッシュな彼女のパフォーマンスに今回は迫っていきたいと思います。

<ここがすごい!>
これまで扱ってきた様々な歌手を振り返るとお分かりいただけると思うのですが、オペラ歌手と言っても多種多様な声がありますし、それを例えばソプラノとかテノールとかって言うかたちで限定していっても十人十色です。ヴンダーリッヒとデル=モナコとネレップとアラーニャは同じではあり得ない訳です。これを更に分類していってコロラテューラソプラノと言うところまで絞ったとしてもこの状況は変わりません。試みに分けてみるのなら、華やかな伊国、精密な独国、優美な仏国に素朴な露国という言い方もできるように思いますが、そんな中で米国の歌手陣はニュートラルで癖が少なく、どんな役でもこなせるところにその特徴があるように個人的には思っています。
で、その上で彼女の特徴が何処にあるかと言えば、米国のコロラテューラにも拘らず彼女の声には伊国的な輝きがポテンシャルとしてある点です。しかもその声の華々しさは伊国のソプラノと比較しても引けを取らないもの。一声発した瞬間に、「あ、この場面の主役は彼女だな」と思わせるようなそういう存在感のある声です。声からしてプリマの資質があると言ってもいいかもしれない^^
なんですが彼女がいいなと思うのは、そのプリマ感、ゴージャスな声にも拘わらずと言いますか何と言いますか、厭味がないんですよね。素直な美しさと言いますか、実際のお人柄を知っているわけではもちろんないんですけれど、このひと気さくでいい人なんだろうなと感じさせる声と歌なのです。或意味でポップちゃんとちょっと似ているかも、若い女性らしい生命力が宿っているんです。恐らくはそれが、健康的なイメージに繋がって行くんだと思います。だからやっぱりこの人に似合うのは娘役、若々しい女性的な魅力が感じられる役で、前者ならばジュリエット(C.F.グノー『ロメオとジュリエット』)やラウレッタ(G.プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』)、後者であればムゼッタ(G.プッチーニ『ラ=ボエーム』)が彼女の魅力を最も引き出しているということができるでしょう。同じコロラテューラでも貫禄の必要な役のイメージではなく、実際手に入る録音ではドニゼッティの女王三部作などはやっていないようです。

このタイプのソプラノとして求められるのは、大前提としての歌の美しさがあった上での転がしの達者さと高音の処理の巧さだと思うのですが、この人の場合に――もちろん転がしも達者でもあるけれど――特に高音の、それもpでの処理が達者さが印象に残ります。妙な引っ掛かりなく超高音で紡いでいく絹糸のような細く澄んだ歌声は、彼女のヴィヴィッドな美質をより際立たせるように思います。そしてこれができるからこそ、ベル・カントや仏もののみならず、プッチーニでもその実力を遺憾なく発揮できるのかなと^^もちろんトスカやトゥーランドットみたいなドラマティックな表現が求められる役は違いますが、先述のような役どころでのうまみには替えがたいものがあります。
そういう意味ではそれなりにレパートリーを広く担保できたはずで、もっと多くの録音を遺して欲しかったなあと言う思いを強くするところ^^;

<ここは微妙かも(^^;>
私の知っている彼女の商業録音を聴く限りは、「あちゃ~こりゃだめだ」っていうものはないのですが、上述のような彼女の特徴を考えて行ったときに、ドラマティックな表現が必要な役に対しては或程度限界のラインが見えてくるように思います。アリア集ではリュ―(G.プッチーニ『トゥーランドット』)は最初のアリアのみ録音していますが、これは妥当な判断だろうなと思います。同じくヴィオレッタ(G.ヴェルディ『椿姫』)も最初のアリアのみで、こちらの方が彼女の良さが出そう。とはいえ、これについては全曲聴いている人たちの評判もすこぶるいいですし、お得意のジュリエットでもカットされることも多いドラマティックなアリアを見事に歌っていますから、この辺まではテリトリーの範囲内なのかな。
いずれにしても彼女の場合繊細で音楽的な表現の方が合っている、ということは言えるのではないかなと。あとは、明るくて健康的なイメージがうまく合致しない役だと厳しいと思います。そういう意味でも実は彼女のヴィオレッタの2幕以降は気にはなっているのですが……

<オススメ録音♪>
・ジュリエット(C.F.グノー『ロメオとジュリエット』)
スラットキン指揮/ドミンゴ、マイルズ、マルトマン、ヴェルヌ、グレアム共演/ミュンヘン放送管弦楽団&バイエルン放送合唱団/1995年録音
>個人的には彼女の録音のベストと思っています^^何処を取ってもフレッシュで瑞々しい、弾けるような若さが溢れている歌唱で、ジュリエットと言う女性を本来的には明るくて生命力に溢れた人物として描いているように思います。ですから何と言っても聴きどころはあの有名なロンド!夢見る少女の、言葉を紡いでも紡いでも思いが溢れて行くさまをここまでヴィヴィッドに表現できている歌唱はそうはないように感じます。またその一方で、カットされることも多い毒のアリアも、彼女にしてはかなりドラマティックな部類の曲に入るのではないかと思うのですが十二分に満足いく歌唱です。もちろんこちらについてはもっとパワーのある歌を好む向きもあるとは思いますが、彼女の方が年端の行かない少女の大胆で思い決心であることが感じられるような気がしています。共演は所謂有名どころではありませんが粒の揃った歌唱で安心して聴くことができます。個人的には仏ものでは贔屓にしているマイルズがここでも柔和な神父さまで好きかな。ただ、ドミンゴがまずまず悪い歌ではないのですが、クライマックスの高音をかなりカットしているのは流石に大スターでもちょっとなあと言う感じ。この頃であればそれこそアラーニャに登板してもらっても良かったのでは?と思わなくありません。

・ムゼッタ(G.プッチーニ『ラ=ボエーム』)
パッパーノ指揮/アラーニャ、ヴァドヴァ、ハンプソン、キーンリサイド、レイミー、フィゾーレ共演/フィルハーモニア管弦楽団&ロンドン・ヴォイセズ/1995年録音
>手に入りやすい全曲録音が上記のジュリエットとこれだけと言うのはかなりさびしいところではあるのですが、どちらもお見事な歌唱を披露して呉れているのは嬉しいです^^ムゼッタは聴き栄えのする名アリアがあるものの、意外と理想的な歌唱に巡りあえないのですが、ここでの彼女の歌唱はポップちゃんと双璧と言っても良いかと^^或種女性的な色気が強い分、ひょっとするとスウェンソンの方がいいかもしれない。この役はファム=ファタルとまでは言わないまでもそのキャラクターから行けば艶っぽさが絶対に欲しいんですけど(多くの場合そうではないひとが配されている)、そうした要素が強く感じられる上に、他方で乙女らしい一途さの片鱗も見える彼女は、まさにムゼッタそのものと言ってもいいのでは。パッパーノの颯爽とした指揮のもと、この当時の若手の実力者たちがフレッシュな音楽を聴かせているという点では、この音盤は過去のどんな音盤よりも等身大なものとして完成度の高い『ボエーム』でしょう。この作品がお好きな方は是非!

・コンスタンツェ(W.A.モーツァルト『後宮からの逃走』)
ジェルメッティ指揮/ブロホヴィッツ、ハルテリウス、フィンク、リドル、ハービヒ共演/シュトゥットガルト放送交響楽団&南ドイツ放送合唱団/1991年録音
>ごめんなさいこれは全曲の映像があるのですが、一部しか視聴できていないです^^;でもその一部だけを取り出しても、彼女の明るい声と整った歌いぶりとがモーツァルトにも適していることが良くわかります。そしてその小気味よいコロラテューラ!非常に堂々とした歌で、威厳すら感じさせます。また華のある端整な舞台姿もこの演目のヒロインとして申し分ありません。この共演陣なら歌ももちろんですが、舞台として目にも楽しいものであること請け合いですから、何とか入手したいものです。。。

・エルヴィーラ(V.ベッリーニ『清教徒』)
詳細不明
>こちらも一部だけ、それもコンサートでの狂乱の場の歌唱をYoutubeでというレベルなのですが、それだけでもその圧倒的な魅力を知ることができます。抒情的で繊細なカヴァティーナはうっとりするような、夢見心地の歌で正しく狂乱の場に相応しいです。飴細工のように細く、あたたかく、自在なppの高音もあらまほしきもので、そうこれを期待していたのだ!と思わせるもの。一転カバレッタでは実にフットワークが軽く、小回りが効いていますし、ここでも非常にヴィヴィッド。この感じならポロネーズも絶対いい筈なので、全曲がないものか…笑。

・アディーナ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
・ジルダ(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)
・ラウレッタ(G.プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』)
ルーデル指揮/LSO/1998年録音
>これらは伊ものアリア集『コン・アモーレ』の中にいずれも収録されています。彼女の歌を思いっきり楽しめる1枚なので、これはおススメ^^ここで挙げた3役は中でもその魅力が味わえるかなと思うもの。まず勝気で明るいアディーナは、彼女の個性にピッタリですし、ここでは自分の気持ちを正直にネモリーノに伝えるあたたかさを感じさせる歌唱で、作品の大団円に相応しく、こちらも全曲聴きたいという思いにさせるもの(そんなんばっかりですがw)。ジルダは彼女の陽気さには必ずしも合致しませんが、戀する乙女がうっとりと喜びに耽る様子を繊細に、絶妙なタッチで表現しておりこちらもまた絶品。全曲歌ったとしてここで歌っているアリアが一番彼女に合っていそうです。そして、ラウレッタ!あの有名なアリアの魅力的な旋律は多くの人が手掛けているものですが、数多ある録音の中でもベストの歌唱だとこれも思っています。このコンパクトな喜劇にもってこいの、純情ではあるけれども強かな娘を強い説得力を持って造形しています。何より脅し文句の歌ではありますが、かわいらしくて憎めない^^是非お聴きいただきたい録音です。
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