Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第九十七夜/公演の隠し味~

前回も言ったとおり、4回に亘って脇役をご紹介していこうと思っております^^
本日は2回目。前回は男声だったんで、今回は女声。

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ステファニア・マラグー
(Stefania Malagù)
1932~1989
Mezzo Soprano
Italy

女声の脇役って男声の脇役に較べると比較的パートに拘りがないところがあって、ソプラノの人がメゾの役やったり逆もまたあったりなかなか悩むところ。この人の場合も「ソプラノ」とされていることも結構あるんだけど、まあ声質からいくとメゾかなと思います。

脇役歌手のご多分に漏れず、彼女もかなり広大なレパートリーを誇り、特にある時期の伊系のレパートリーではアンナ・ディ=スタジオと並びかなりよくお目にかかる人です。大きく扱われない小さい役でいくつも出ているので、ディスコグラフィーが調べづらいったら^^;複数の録音が多く残っていて手に入りやすいところでは、フローラ(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)やベルタ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)あたりが挙げられます。いずれも必ずしも歌うところの多くない役ではありますが、フローラはあらすじ上軽んじられない役柄ですし、ベルタにしてもちょっとエクストリームな主人公たちを横目で見ながら観客に寄り添う役割を鑑みれば、適当な人を宛がうと興を殺ぎかねないところ。こうしたところで隠し味的、品のいいスパイス的に良い仕事をして呉れる人なんですよね、だからこそ多くの録音で起用されています。

あまり写真が出てこないのですが整った顔立ちの一方で、ベルタでの映像などを観ると老け役的なメイクをしても自然に見えます。若い召使から老婆まで様々な役柄で違和感なく馴染めるというのは、歌でも視覚でもハードルの高いところですし、そういう意味でも重宝されたのではないかと思います。

<ここがすごい!>
どんなに僕が頑張ってバスやバリトンの魅力を説こうと、オペラの花形が女声であることは覆りません。多くの演目でヒロインたるソプラノが、ロッシーニなどではメゾが舞台の中心を担っていく訳です。逆にそうだからこそだと思うのですが、女声の脇役と言うのは活躍の場が男声の脇役に較べると際立ちにくいところがあります。前回のヴィンコのオススメ録音の一覧などをご覧いただければわかるとおり、バスなどではあらすじ上そんなに大事ではない役でもアリアや見せ場がついていたりする。一方で女声はどうか。ロッシーニやドニゼッティの時代の作品の息抜きとしてのシャーベット・アリアを歌う役としてはソプラノやメゾが登場することは少なくないにしても、一般にはあまり目立たない。フローラやスズキ(G.プッチーニ『蝶々夫人』)やメルセデス(G.ビゼー『カルメン』)は大事な役であっても歌の見せ所はあまり無い訳です。だってそんな見せ場があったら、プリマ・ドンナの印象と被りかねないですから。だから、割とこの分野の人たちは不遇と言いますか話題になりづらい。でも、そういうパートでも適当にまあ歌えるひとを配しておけばいいというのはやはりちょっと違っていて、その道のプロの人が歌うことでだいぶ役自体の印象が変わってくるし、ひいてはその舞台の印象が変わってくることもあるのです。

そういった意味で行けばマラグーと言う人は実に柔軟に物語の世界を膨らませることのできる歌手だと言っていいのではないかと思います。例えばアバドのライヴでのマルチェリーナ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)では、比較的声質も近いベルガンサが爽やかな少年然としたケルビーノを演じているのに対し、はっきりとオバサンと言う感じの年増らしさを出しています。それも年増は年増なんだけど醜い老婆と言う感じではなく、女としての魅力はまだもっているというような、この役にちょうどふさわしいぐらいの年齢感を絶妙に醸すのです。ベルタを演じているときはそれよりも更に歳の行った印象になるし、逆にフローラなどを演じる時にはそうしたオバサン感はむしろおくびにも出さず、ヴィオレッタの同業者、友人である華やかで艶めかしい普通の高級娼婦(つまりヴィオレッタのような悩みを抱えない人物)として、主人公たるヴィオレッタというキャラクターを目立たせるのに一役買っています。
そう、言ってしまえばオペラの主人公たちと言うのは、オペラの世界の中でのちょっと異常な人たちなんです。考え方が普通と違ったり境遇が普通と違ったり、その要素はいろいろありますが、ちょっと以上だからこそ主人公になり得るんです。で、脇役と言うのはそれに対し物語世界の中での「普通」を提示することにひとつ大きな意味がある。この世界の中での「普通」がこうだからこそ、主人公は悩み苦しむんですよと観客に納得させるんです。そういう意味でいくと、マラグーはどんな役柄でも実に自然にその「普通」を私たち聴衆の前に用意して見せます。これが不自然だと、一気に公演の作りもの感が増してしまうところを絶妙な塩梅で演じ、舞台を立体的にしていくんです。主役の素材を引き立てるのに、まさにこれ以上はない隠し味であり、多くの録音での起用はその証左と言うことができるのかもしれません。

<ここは微妙かも(^^;>
どんな脇役でも本当に器用に創りあげて行きますし、あまり上述しませんでしたが実際のところ歌もかなりうまいので、聴かせどころのある準主役級の役を演じても納得させてしまう実力もあるので、そこまで不満を感じることは殆どないと言っていいでしょう。
敢えて言うのであれば、派手さはやはりないので例えばマッダレーナ(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)みたいな役をやったときには、もう一声パンチが欲しい気はします。

<オススメ録音♪>
・フローラ・ベルヴォア(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
クライバー指揮/コトルバシュ、ドミンゴ、ミルンズ共演/バイエルン国立管弦楽団&合唱団/1976-1977年録音
>クライバーの指揮に痺れる1枚ですね^^フローラはヴィオレッタの友人の高級娼婦で、歌う場面こそ少ないものの、2幕後半の夜会の主であり、ヴィオレッタとの対比でも重要になった来る役どころです。マラグーにとってはそれなりに年齢が行ってからの録音ではありますが決して姥桜にはなりすぎず、華やかな社交界を生きる普通の女を演じています。短い出番ですが、その中にもヴィオレッタのカウンターパートとしてのキャラクターが籠められていることがわかるパフォーマンスであり、お見事。マゼール盤でもいい仕事をしています。

・ベルタ(G.ロッシーニ『セヴィリャの理髪師』)
ヴァルヴィーゾ指揮/ベルガンサ、ベネッリ、コレナ、ギャウロフ、アウセンシ共演/ナポリ・ロッシーニ劇場交響楽団&合唱団/1964年録音
>こちらは上記に較べてうんとコミカルで、言ってしまえばいい意味でオバチャン感が強い歌唱。騒々しい主人公たちをよそに客席に向かってぶちぶちと愚痴を呟いている様がリアルで楽しいです(笑)キャリアはこれからという若手が歌うことも多いですが、やはり彼女のように脇で鳴らした人が歌うと味わいも一入です(とはいえここでの彼女はまだまだ30代前半だった訳ですが。そうは思えない堂に入った歌いぶり)。一方で例えばバルビエーリのような往年の大御所が歌った録音も面白いのですが、聴かせどころもシャーベット・アリアですし、本来的にはここでの彼女のような歌唱が求められているように思います。同じメゾのベルガンサとの共演ですが、ヒロインとしてフレッシュな歌を聴かせるベルガンサときっちりキャラ分けがなされています。この2人は後にアバド盤でも共演していますが、こちらでもうまく棲み分けしており、この頃にはそれぞれの役の第一人者とされていたのでしょう。

・マルチェリーナ(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
アバド指揮/プライ、フレーニ、ファン=ダム、マッツカート、ベルガンサ、モンタルソロ、ピッキ、リッチャルディ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1974年録音
>アバドの若さが出た感はあるものの、面子の揃ったライヴ盤。先ほどのベルタから10年後の歌唱にも拘わらず、こちらの方が年増なものの容色の衰えていない女性像を作っていて、懐の深さを感じさせます。ここでもまたベルガンサと共演していますが、両者のキャラクターの違いがより顕著に顕れているように思います。折角彼女のように歌える人を配したのだから、マルチェリーナのアリアも歌えばよかったのに……と思わなくはないです^^;(バジリオも往年のテノールピッキを起用したなら、ねえっていう苦笑)とはいえ、女声も男声もそれぞれ声のカラーが違う人たちが登場していて、楽しめる録音です。

・アリーサ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
サンツォーニョ指揮/スコット、ディ=ステファノ、バスティアニーニ、ヴィンコ、リッチャルディ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1959年録音
>メンバーの揃った佳演。何と言っても他にこの作品の録音のないバスティアニーニとヴィンコがいい味を出しています。いつもながらキレッキレのスコット(と言っても必ずしも彼女のベストではないかなと思いますが)に対して、温和で心底ルチアを心配している侍女という風情が感じられます。また、有名な6重唱からフィナーレにかけては意外とバリバリ聴こえて来て欲しいパートなのですが、そこでの声量も十分なもの。名アシストぶりが顕れていると言えるのではないかと^^

・ベルシ(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)
サンティーニ指揮/コレッリ、ステッラ、セレーニ、ディ=スタジオ、モンタルソロ、モデスティ、デ=パルマ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1963年録音
>不滅の名盤。主要3人が飛び抜けて素晴らしい上、細々とした場面で活躍して欲しい小さな脇役たちがこれ以上はないぐらい粒ぞろいのメンバーです。さて我らがマラグーもここではそんな脇役のひとつベルシを演じていますが、ここではまたこれまでの他の役とはだいぶ違った人物造形をしていて、抽斗の多さを感じさせます。上品な貴族の娘であるマッダレーナに対して、小憎らしいぐらいのアグレッシヴで軽々しくて蓮っ葉な小娘ぶり。同じく脇役のスペシャリストであるディ=スタジオのマデロンが渋い老婆ぶり。2人とも康サポートですが、逆だったらどうなるかな?というのもちょっと聴きたくなります^^

・アリス(G.マイヤベーア『悪魔のロベール』)
サンツォーニョ指揮/クリストフ、スコット、メリーギ、マンガノッティ共演/フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団&合唱団/1968年録音
>最後に彼女の録音の中では恐らく最も大きな役を。この大作グラントペラの主人公のひとりであるアリスは、しっかりとしたアリアも準備されていれば、題名役のロベールや魅力的な悪役であるベルトランとも絡む場面が多いのですが、このメンバーの中であっても決して聴き劣りしない立派な歌唱を披露しており、その実力の高さを感じさせます。また、この作品のもう一人のヒロインであるイザベルに較べるとより演劇的な部分に重点が置かれていることも、脇役功者の彼女の良さを際立たせているようです。伊語盤でメンバーも伊的にすぎるところはありますが、この娯楽大作のエンターテインメント性と言うところを考えるなら、聴き逃せない録音ではないかと思います。
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