オペラなひと♪千夜一夜 ~第廿三夜/迫力満点~2012-10-17 Wed 23:56
カラスの時代の名手について取り上げてきた本シリーズ。
今回はカラスとの共演も多く、声を聴くだけでもド迫力の名メゾに焦点を当てていきたいと思います。 ![]() Ulrica フェドーラ・バルビエーリ (Fedora Barbieri) 1920~2003 Mezzo Soprano Italy 既出のジュリエッタ・シミオナートや、エベ・スティニャーニとは同時代の歌手であり、特にシミオナートとは激しいライバル関係にあったと言います。当時は厳格だった契約の関係か、カラスは実はシミオナートとの共演録音はあんまりないのですが、このバルビエーリとは結構よく共演しています。 またアルトゥーロ・トスカニーニ指揮のG.ヴェルディ『レクイエム』のメゾ独唱者としても知られています。 声が衰えて主役を張れなくなった後も、その優れた演技力と存在感の強さでさまざまな脇役をこなしています。そういう意味ではバスのイタロ・ターヨと同じような経歴を歩んだひとと言っていいかもしれません。 <演唱の魅力> もの凄く力強い声を持った歌手です。 特にその低音の逞しさは、群を抜いているように思います。それこそときとして、シミオナート以上のもの。美しいかどうかとはまた別の軸としての、パワーで以て聴く者の心を捉えてしまうタイプの声だと言って良いでしょう。 そしてその凄い声を惜しげもなく使って体当たり的な表現をしていくものですから、その印象たるや強烈。歌詞の一語一語の意味を歌いしめて行くかのような、或る意味でかなりねっとりとした歌唱と言っても良いかもしれません。頭が良い人だと思います。ひとによってはその歌い方が濃過ぎて好きではないということをおっしゃるかも知れませんが、ハマってしまうと癖になる。そういう演唱をするひとです。そう見ていくと、テノールのフランコ・コレルリと通底するところがあるようにも感じます。 加えて言えば演技がかなり達者。単純にねちっこく歌っていくだけではなく、その役の個性というのを最大限に表出して行くという点でも傑出しているでしょう。そういった力があるからこそキャリアの後半での数々の脇役の評価が高いのではないかと思います。G.ロッシーニ『セヴィリャの理髪師』での不満たっぷりのおばさんベルタは衰えは度外視で非常に楽しめますし、私は寡聞にして未聴ですがG.F.F.ヴェルディ『リゴレット』のジョヴァンナや同『ファルスタッフ』のクィックリー夫人の世評も大変高いです。ジョヴァンナなんてチョイ役過ぎて普通は評判とかそういうこととほぼ縁がないような役なんですけどね(笑) と、こういった藝風のひとなので、全盛期のものとして光るのはやっぱり強烈な個性を放つ役。G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』のアズチェーナであるとか同『仮面舞踏会』のウルリカ、F.チレーア『アドリアーナ・ルクヴルール』のブイヨン公妃なんかも素敵です。 一方意外と(?)G.ドニゼッティ『ラ=ファヴォリータ』のレオノーラ・ディ=グスマンとか同『ドン=セバスティアーノ』のザイーダみたいな役でも聴かせて呉れます。 <アキレス腱> 私はこういう癖のあるひとは大好きなんですが、前述の通りアクが強くてやだという方は居るかもしれません。かなり力押しで表現する藝風ではありますしね(^^;決して悪いとは言いませんがG.ビゼー『カルメン』題名役や、C.サン=サーンス『サムソンとデリラ』のデリラなんかはもはや魅惑のファム=ファタールを通り越して怖すぎかも……趣味の分かれるところです。 全盛期でもあまり高音に強くなく、結構ぶら下がってしまうのも弱点でしょうか。ライヴを聴くと最高音を避けているものも少なくありません。 G.ロッシーニもののアジリタの精度についてはシミオナート同様、今日の耳からすれば聴き劣りしますが、この点について強く非難するのは時代的に鑑みて必ずしも公平ではないでしょう。 <音源紹介> ・アズチェーナ(G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』) カラヤン指揮/カラス、ディ=ステファノ、パネライ、ザッカリア共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1956年録音 >彼女の藝を最もよく知ることのできる役だと言っていいでしょう。バルビエーリを取るかシミオナートを取るかは殆ど趣味の問題と言って良い。ここでも迫真の歌唱を繰り広げており、ゾクゾクするような音楽になっています。ひたすらバルビエーリ渾身のアズチェーナが見事。そのほかではザッカリアのフェランドがいつもながら手堅く、聴いていて心地よいです。あとはいまいちかな……この録音は、多くの“カラス教徒”の方々が「カラスを聴くためだけにある音源」何て言っていますが、少なくとも私にとってはこれは「バルビエーリを聴くためだけにある音源」。レオノーラがカラスに合っているとは思えません。ディ=ステファノもパネライも頑張ってるけどそれぞれ柄に合わない役を頑張って歌ってるっていうぐらいの感じ。カラヤンはこういう熱気が大事な曲ではのろまな感じがして好きじゃないです。 ・ウルリカ(G.F.F.ヴェルディ 『仮面舞踏会』) ・ブイヨン公妃(F.チレーア『アドリアーナ・ルクヴルール』) (ごめんなさい詳細が分かりません) >どちらもアリア集から。 ・レオノーラ・ディ=グスマン(G.ドニゼッティ『ラ=ファヴォリータ』) クエスタ指揮/G.ライモンディ、ネーリ、タリアブーエ共演/トリノ・イタリア放送響&合唱団/1955年録音 >ここではうって変わってその深い声を響かせて魅力的なヒロインを演じています。演技派の面目躍如たるところでしょう。迫力、と言うのが今回のキーワードではありますが、ここでは迫力とは無縁のしっとりとした雰囲気を作っています(笑)共演陣も魅力的で、圧倒的な美声で聴かせるG.ライモンディ、頑として動かなさそうな宗教権威の力を感じさせるネーリは、今でもベストのひとつと言って良いのではないでしょうか。 ・マデロン(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)2020.7.27追記 サンティ指揮/ドミンゴ、ベニャチコヴァー=チャポヴァー、カプッチッリ、ツェドニク、ヤチミ、ヘルム、シュラメク、山路共演/ヴィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1981年録音 >恥ずかしながら彼女を映像で観ているのはこれだけながら、その舞台での他の追随を許さない強いインパクトをよく伝える記録だと思います。この役は小さなアリアが1つあるだけながら、その歌を受けて民衆が高揚していくという作劇上の重要な装置でもあって、つまらない人が歌ってさらっと流されてしまうとちょっと残念な感じになってしまうところ、孫に手を引かれて現れたバルビエーリには、ただならぬ決意をした人物の気迫というか、ある種の殺気のようなものすら感じられて、観ていて打ちのめされるほどです。私自身は映画版のナウシカの大婆様をふと思い出してしまいました。主役3役も一番いい時期の映像ですからもちろん凄まじい歌唱を繰り広げているのですが、その中でも決して霞むことなく強烈な存在感を楔のように我々の脳髄に打ち込んでいく彼女の藝の凄まじさ。何は無くともこれは観ていただきたいパフォーマンスです。 ・ベルタ(G.ロッシーニ『セヴィリャの理髪師』) レヴァイン指揮/ゲッダ、ミルンズ、シルズ、カペッキ、ライモンディ共演/ロンドン交響楽団&ジョン・オールディス合唱団/1975年録音 >所謂シャーベット・アリアぐらいしか見せ場のない端役ではありますが、グチグチと不満を独り言するオバタリアンな感じがもの凄く良く出ていて、思わずゲラゲラ笑ってしまいます。ああ、こういうオバサンいるいると言う感じ笑。共演、というか主演の皆さんも間違いのないメンバーで非常に愉しい音盤になっています(ロッシーニかって言うとちょっと違う気もするけど^^;)。特にカペッキのケチ臭くてねちっこいバルトロは、コレナやダーラと並ぶ最高の出来! スポンサーサイト
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コメント
役造り上のこともあるでしょうが、それとは別にシミオナートとの個人的軋轢でいろいろ批判しているところは、すごかった。まあ。他にもあの時代には、火花を散らしている人たちは多かったみたいですけどね。
チェネレントラの歌唱など聴くと。とても朗らかな感じもする歌手なんだけど。 女は怖い... 2012-10-18 Thu 15:05 | URL | 斑猫 [ 編集 ]
まあ、ああいう業界ですからね^^;
加えて、ヴェルディなんかはそうやってバトルをしてる方がいい音楽になりそうな気がします(ぇ >チェネレントラ そんなもんまで歌ってるんですかwwちょっと聞いてみたいwww 2012-10-18 Thu 21:39 | URL | Basilio [ 編集 ]
調べてみるとバルビエーリは早くも第二次大戦中の1943年に『仮面舞踏会』全曲録音に参加しています。(カラスと共演した1956年版は二度目)
1943年版 https://ml.naxos.jp/album/8.110178-79 1956年版 https://ml.naxos.jp/album/8.111278-79 2020-10-04 Sun 14:44 | URL | Take [ 編集 ]
ありがとうございます!
調べが至っていなくて恐縮です。43年ということはまだ23歳!驚異的ですね。 カラスとの共演盤は見つけていたのですが未入手、ここのところ積ん聴が溜まってばかりで悩ましいところです。記事の方も直しておきます。 2020-10-07 Wed 22:38 | URL | Basilio [ 編集 ]
1955年には『アイーダ』アムネリス役で全曲二種類の録音もありました。
55年7月ローマ録音・ミラノフのアイーダ・RCAビクター https://ml.naxos.jp/album/8.111042-44 55年8月ミラノ録音・カラスのアイーダ・EMI https://ml.naxos.jp/album/8.111240-41 2020-10-11 Sun 00:59 | URL | Take [ 編集 ]
またまた情報ありがとうございます。Naxosのライブラリはすごいですね。
55年といえばカラスのヴィンテージ・イヤーでしたでしょうか。タッカーは苦手ですが探してみようかな……他方でメンバー全体としてはミラノフのものの方が気になるかも。 2020-10-12 Mon 11:14 | URL | Basilio [ 編集 ]
またまた失礼いたします。
すっかり見落としておりましたが、ご紹介済みの1956年版に先駆けた4年前にも全曲盤でアズチェーナを歌っていました。 チェリーニ指揮・RCAビクター・ニューヨーク録音(3年後の『アイーダ』と同じくミラノフと共演) https://ml.naxos.jp/album/8.110240-41 2020-10-14 Wed 22:57 | URL | Take [ 編集 ]
バルビエーリの情報、色々とありがとうございます。
ビョルリンクにミラノフですか!それはまた重厚な! この記事を書いたのがかなり前ということもありますが、改めてもう少し調べないとダメかもなあなどと思っています^^; 2020-10-15 Thu 22:03 | URL | Basilio [ 編集 ]
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