Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第廿四夜/偉大なる対抗馬~

ようやっと今回のシリーズ『カラスの時代に』も最後の人にたどり着きました。
カラスとの共演は恐らくないと思いますが、その時代、そしてそれ以降ずっとライヴァルと目されていた偉大な歌手の登場です。

Tebaldi.jpg

レナータ・テバルディ
(Renata Tebaldi)
1922~2004
Soprano
Italy

カラスの時代には人気を二分したと言われ、現在でもアンチ・カラスの人たちの中には彼女のファンが結構います。私自身、演目にもよりますがカラスよりもテバルディのほうがいいと思うものも。

録音に大変恵まれているというのも、現在の我々にとっては大変ありがたい。気軽に楽しめるディスク。カラスの場合はスタジオ録音自体があまり多くないし、演奏としてはライヴのがずっといいけどやっぱり聴きづらい。

こんな感じでよく対照的に語られる2人。しかし、本当にそれは適切か。

よくある評として、テバルディは確かに美声で歌も巧いが、カラスに比べると演技が木偶の坊で真に迫っていない、カラスは真に迫った表現力があり技術もしっかりしているが、テバルディに比べると悪声で耳になじみづらいというような比較をされる2人ですが、どうしてどうしてそんな単純な対照論が成り立つのか。どちらの評も私には的を射たものには思えない。カラスについては以前既に取り上げてますから、ここではテバルディについて。

<ここがすごい!>
カラスより圧倒的に美声だという部分はまず間違いはないと思います。
最盛期の声は古今の録音上の歌手の中でも魅力のあるものですし、特に中音域あたりの充実した響きは類例を見ないもの。艶やかで何度聞いても惚れ惚れします。

そうした美声で紡ぎだされる歌もまた、非常に情感豊かなもの。
歌だけでこれだけの情感を出せるだけで、木偶の坊という評はお門違いであるということを示せるのではないでしょうか。オペラはもちろん演劇としての側面も持っていますが、本来的には音楽である筈です。その意味で、演技で以て観衆を感動させることは当然重要なことではありますけれども、それ以前の問題として歌にどれだけのものを込められるかというのが重要になってくる。大体オペラに出演する人たちは“役者”ではなく“歌手”という呼び方をすることからもそれは明らかでしょう。
そう考えると、テバルディがオペラの表現者として木偶の坊である筈がないのです。

更に言えば、テバルディは演技面でも決して大根役者ではないでしょう。
確かに現代のより演劇的なオペラからすれば大仰であったり洗練されていない面もあるでしょうが、そもそも時代が違うのですからそれは公平とは言い難い。ここにカラスを持ってきて非難するのもやはり的外れで、彼女はそういった演劇的な方面でのオペラという部分からいけばやはり或る種“鬼っ子”であり、その方面で歴史を変えた存在である訳で、比較の対象に持ってくるにはあまりにも極端であまり意味がない(同様にカラスが美声でないというためにテバルディを持ってくるのもあまり意味がありません)。
テバルディが演技が今一つという評は、基本的にはスタジオ録音のみから判断しているのではないかと思います。ライヴ録音を聴くと、ここまでやるのか!と逆にびっくりするような激しい表現も結構しています。テバルディはテバルディで音楽と演劇を超高度な次元で結びつけた稀有の芸術家であることは間違いない。現在こういう人がいないというのは、大変寂しいものです。

<ここは微妙かも(^^;>
この人の最大の弱点は高音が出ないということ。
テノールでもプラシド・ドミンゴは高音が苦手で有名ですが、テバルディが高音が出ないというのも有名な話です。特にピークを過ぎた頃の録音では、高い音域をものすごく苦しそうに出していて、聴いているこっちが苦しくなる時があります(^^;

また、本来的にこの人はヴェルディの中後期のようなドラマティックな役どころが最もしっくりくるようなタイプなので、当然と言えば当然ですがアジリタのような技巧は持っていません。となるとやっぱりいい役柄は限られる部分があります。

<オススメ音源♪>
・レオノーラ・ディ=ヴァルガス(G.F.F.ヴェルディ『運命の力』)
モリナーリ=プラデッリ指揮/デル=モナコ、バスティアニーニ、シミオナート、シエピ、コレナ共演/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団/1955年録音
>まさに不滅の超名盤。未だにヴェルディ歌唱の範として多くの愛好家に愛されている録音でしょう。この共演陣にケチをつけるほうがどうかしている(笑)かくいう私も個人的にはテバルディと言えばこの役のイメージです。超高音も超絶技巧もいりませんが、非常な難役。アリアなんてへたくそな人が歌えば果てしなく長い歌になってしまいかねませんが、それを緊張感を持ってぐっと聴かせます。これを聴くと改めて彼女が声も歌心も持った素晴らしい歌手だったことがわかります。修道院長との2重唱は、シエピの美声も相俟ってオペラ界の偉大な財宝というべきものに仕上がっています。2重唱の後半には序曲にも登場する有名なフレーズが出てきます。

・アイーダ(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
エレーデ指揮/デル=モナコ、スティニャーニ、プロッティ、カセッリ、コレナ共演/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団/1952年録音
>この役も個人的にはカラスよりもテバルディで聴きたい役です(カラスの火のつくようなメキシコ・ライヴは、あれはあれですごいけどね笑)。こってりとしたうまみのある声質はこういうドラマティックな役どころにはぴったりです。共演者もみな素晴らしく、特にスティニャーニのアムネリスは彼女を評価していない方にも是非聴いていただきたい。そしてデル=モナコのラダメスはライヴのように爆発すると言うことはありませんが、その分大変端正な出来で、個人的には好きです。

・エリザベッタ・ディ=ヴァロア(G.F.F.ヴェルディ『ドン=カルロ』)
ショルティ指揮/ギャウロフ、ベルゴンツィ、バンブリー、フィッシャー=ディースカウ、タルヴェラ共演/コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>もう少し若いころの録音が聴きたいですが、ないものねだりでしょう(苦笑)全盛期の歌唱ではないので声の衰えもあるし、これはもうこの人のアキレス腱ですがやっぱり高音は厳しい。でも、それであってもこの気品のある歌を正規の形で聴くことができるというのはやはり幸せなことではないかと思います。共演陣も優秀で特にバンブリーは見事。ギャウロフVSタルヴェラの強烈な対決にも手に汗握ります。ただ…ここでFDはやっぱり違うんじゃ…?ww

・フローリア・トスカ(G.プッチーニ『トスカ』)
ガヴァッツェーニ指揮/ディ=ステファノ、バスティアニーニ、ザッカリア共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1958年録音
>個人的にはこの役はカラスのほうが好きですが、テバルディはテバルディで一つの金字塔を打ち立てているといっていいでしょう。特にこのライヴ盤は強烈で、テバルディがまさかここまで強い表現をするとは、と言うぐらいの代物。おなじくブチ切れを繰り出すディ=ステファノに、ダンディなバスティアニーニも最高です。音は良くないですが『トスカ』好きを語るなら聴き逃せない録音だと言えるでしょう。

・マッダレーナ(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)
ガヴァッツェーニ指揮/デル=モナコ、バスティアニーニ共演/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団/1959年録音
>超名盤。伊オペ録音の金字塔と言ってもいいのではないでしょうか。力強いデル=モナコに渋みの効いたバスティアニーニがこの作品の聴きどころですが、テバルディの掘り込みの深い歌もまた忘れてはなりません。特に終幕での重厚で悲劇的な重唱では、デル=モナコとともにスタジオなのに120%は使ってるんじゃないかと言う気迫。

・マルゲリータ( A.ボーイト『メフィストーフェレ』)
サンツォーニョ指揮/クラウス、テバルディ、スリオティス、デ=パルマ共演/シカゴ・リリック・オペラ管弦楽団&合唱団/1965年録音
>ライヴのマイナーものですし声も流石に衰えが来ていますが、ここでの鬼気迫る演奏を聴かないのは全く損。マルゲリータはこのひとが一頭地を抜いていると思います。何かが取りついたかのようなギャウロフに格調高いクラウス、それに気合の入りまくったスリオティスと、音が悪いことを除くと音楽的にはかなり楽しめる作品です。

・アメーリア(G.F.F.ヴェルディ『仮面舞踏会』)2013.1.21追記
バルトレッティ指揮/パヴァロッティ、ミルンズ、レズニク、ドナート共演/ローマ聖チェチーリア管弦楽団&合唱団/1970年録音
>名盤。テバルディ最後の録音だとかで、声の衰えばっかり指摘する向きがありますがとんでもない!確かに往時の声の輝きは失われていますが、こんなドラマティックで力強いソプラノの歌は、いまどきなかなかお耳にかかれません。何よりそのとき歌える全力の歌を手練手管を尽くして歌っているのがいい。パヴァロッティとミルンズは若い時の録音と言うのもあって2人ともいい声だし、表現力も見事なもの。チョイ役ながら不気味な存在感を放つレズニクも忘れられません。

・ジョコンダ(A.ポンキエッリ『ジョコンダ』)2013.12.6追記
ガルデッリ指揮/ベルゴンツィ、ホーン、メリル、ギュゼレフ、ドミンゲス指揮/ローマ聖チェチーリア管弦楽団&合唱団/1967年録音
>不滅の名盤!何故これが長らく廃盤なのかと声を大にして言いたい素晴らしい演奏。テバルディはここでも衰えは来ているのですが、それをドラマティックな表現でカヴァーしていて、パワフルなジョコンダ像を作ることに成功しています。往年の天使の歌声ではないものの、その鬼気迫る表現力に固唾を呑んで聴き入ってしまいます。姥桜と言ってしまえばそうなのですが、これだけ立派な桜はいまや拝めないでしょう。共演陣では、この人にしてはスタジオで乗っているベルゴンツィはエンツォのベストと言うべきもの。柔らかな声ながらスタミナを感じさせるホーン、性格的な役作りで特に前半まるで主役のようなメリル、若いころだけに破壊力のある声で圧倒するギュゼレフに、チエカをドミンゲスがやっているというのも非常に美味しい。私見ではジョコンダ最高の演奏だと思います。
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