Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第百一夜/私の名はミレッラ~

さて3桁の大台に乗った訳ですが、このコーナーの名前的にはあと900夜(!)お送りしなくてはいけないということで、むしろこれからまだまだ、頑張っていきたいと思います笑。
今回は、先の100回でなんで登場していないんだ!とやきもきされていた方もおそらく多いであろう(ほんとか?)名ソプラノ。共演者のところにも何度も名前が挙がってますね^^;

Freni.jpg
Mimi (Puccini)

ミレッラ・フレーニ
(ミレルラ・フレーニ)

(Mirella Freni)
1935~
Soprano
Italy

押しも押されもせぬ伊ものの重鎮。
レパートリーの幅は広く、モーツァルトからプッチーニに至るまでの伊ものから仏もの、果てはタチヤーナ(П.И.チャイコフスキー『イェヴゲニー・オネーギン』)、リーザ(П.И.チャイコフスキー『スペードの女王』)といった露ものに至るまで。もちろん様々な意見がありますが、どのジャンルでも一定以上の評価を得ています。20世紀を代表するマルチな歌手と言っていいでしょう。

とりわけ多くの評価を得ていたのが娘役。彼女の後年のドラマティックなレパートリーに懐疑的な人であっても、ミミ(G.プッチーニ『ラ=ボエーム』)やミカエラ(G.ビゼー『カルメン』)での彼女の素晴らしさは衆目一致するところではないかと思います。いくつになっても若々しい娘が演じられる声と歌、そして容貌をキープしていたことは注目に値します(必ずしも美人ではないんですが、「娘」に見えるんですよね笑)。

パヴァロッティとは同い年、同じモデナ出身と言うばかりでなく、どちらのお母さんも同じ煙草工場に勤めていたということで同じ乳母に育てられたとか。どちらも長じて20世紀のオペラを語るのに欠かせないスーパースターになってしまったのだから凄い話です。米国のアカペラ・グループPENTATONIXもスコット、ミッチ、カースティーが同じ田舎の高校出身と言いますが、才能がひとっところに集まる奇跡というのがこうしてときどきあるようです。
加えて、夫君は我らがニコライ・ギャウロフ!彼もまた20世紀最大のバスの1人な訳です。『ラ=ボエーム』(G.プッチーニ)、『グリエルモ・テル』(G.ロッシーニ)、それに『メフィスト―フェレ』(A.ボーイト)などでは3人共演していますが、なんというか狭い世界と言いますか(笑)いずれも名盤です。

<ここがすごい!>
彼女の凄さをひとことで言ってしまうなら、歌がうまい、それもべらぼうにうまい、都この言葉に尽きます。古今東西さまざまな歌手がいても、みんなオペラ歌手なんだから歌がうまいのは当たり前っちゃ当り前なのですが、それにしたって殊に歌のうまさと言う点で彼女を凌ぐ人と言うのは、私には思い当たりません。
私がここで想定している歌のうまさというのは、単純に技巧的に優れているとか劇的な表現力が秀でているとかという部分とイコールではありません。巧く言えないのですが、彼女には、役柄に適した表現で音楽的に歌う傑出したセンスがあるように感じます。言い方を変えると、異なる作曲家の作品の持ち味をきっちり引き出しながら、尚且つ彼女らしい色合いを添えることができる点が凄いんです。例えば伊ものの有名作曲家に限ってもみんな同じようには歌えないと思うのですが、用の東西を問わず相当有名な歌手でもそのあたりの区別なく同じように歌ってしまっていて、スタイルのずれを感じさせる人は意外と多いんですよね。逆に、そこをこなせちゃう人は没個性な歌になってしまったりしてなかなか難しい^^;それをちょっと考えられないようなハイレベルで実現しているのが、フレーニだと思うのです。
また、技巧面で行けば彼女の後輩に当たる今のベル・カントを歌いこなす現代の歌手には及ばないと思いますし、劇的な表現力で行けば逆に彼女の先輩筋の所謂「黄金時代」の歌手の爆発的な力には敵わないでしょう。しかし、いずれもそういった驚異的なレベルでこそないものの、充分に水準以上のレベルで満足させてしまうだけの器用さを持っているのもまた彼女の凄まじいところです。個々の歌の要素でより優れた人はいるだろうけれども平均点の高さというところで、彼女ほど卓越した歌手は殆どいないと言っていいでしょう。
そういった彼女の特質を考えて行くと、彼女のレパートリーの広さはごくごく自然なものと思えてきます。伊ものだけで見てもモーツァルト、ロッシーニ、ドニゼッティ、ヴェルディ、ボーイト、プッチーニを全てスタジオ録音で遺していて、いずれに於いても見事な歌唱を聴かせているなんて言うひとはまずいない訳ですが、それができてしまうのは、偏に彼女の歌のうまさに拠るのかなと。

どんなものでもうまく歌えてしまう彼女ではありますが、役柄として彼女の声質や持ち味が発揮されるのは、やはり上述のとおり娘役でしょう。
とりわけ「ミミはやっぱりフレーニ!」と思ってらっしゃる方は少なくないのではないかと^^彼女のディスコグラフィーを見れば一目瞭然、彼女がミミのエキスパートとして如何に信頼と尊敬とを集めていたかよくわかります。ミミは有名で人気もある役柄でもありますが、意外と人を選ぶところがあって、プッチーニの濃厚な音楽に合うようなこってりした歌唱をと思うと大物になり過ぎて少女らしい可憐さが出ませんし(個人的にテバルディの新盤が歌の素晴らしさに対してベストにできない理由。むしろ彼女は旧盤の方が魅力的)、娘らしさに重心が行きすぎると軽くなり過ぎてしまいます。彼女はその声が絶妙で、重さは充分ながらも可愛らしい響き。尚且つその表現もこってりとしたところもしっかりと感じさせながら立派にはなり過ぎず、等身大の人物像を創りあげている点がやはり非常に素晴らしいと思います。
また、彼女自身最も思い入れを持って歌っていた役として知られているのはミカエラです。この役でデビューしたというのみならず自分の娘に「ミカエラ」とつけるぐらい気に入っていたというのも有名な話です。こちらは仏ものですから、ミミに較べるとうんと軽やかでスッとしたソプラノでも充分な役柄ですし、その範疇で素晴らしい歌唱を遺している人もいます。しかしフレーニはその声の豊かな響きを駆使して、よりたっぷりとした表現でミカエラを作っています。これがまた仏流の鼻筋の通ったすらりとした歌唱とはまた違う、よりグラマーで密度の濃い魅力があります。このあたり他の仏もののヒロイン、例えばジュリエット(C.F.グノー『ロメオとジュリエット』)やミレイユ(同『ミレイユ』)といった役でも同じように、本場仏国の人たちとはまた違った側面に光を与えています。

フレーニが歌っているというだけで少なくとも音楽的な魅力には太鼓判を押せる、そういう歌手だと言っても過言ではないと思います。

<ここは微妙かも(^^;>
どの音源を聴いても、しっかりと中身の詰まったリッチな声と平均点の極めて高い歌唱を楽しむことができるという点では、本当に彼女は優れています。ただ、時としてその高水準の歌唱とは裏腹に、いまひとつ感興を呼ばない音源があるのもまた事実です。これは本当になんでだろうなあと思うのですが、よくベルゴンツィに対してなされるような、「優等生的」と言うことばが的を射ているのかもしれません。そういった音源は、彼女は歌がうまいので聴けるものになってはいるものの、彼女の個性には合っていないのでしょう。

<オススメ録音♪>
・ミミ (G.プッチーニ『ラ=ボエーム』)
フォン=カラヤン指揮/パヴァロッティ、パネライ、ギャウロフ、ハーウッド、マッフェオ、セネシャル共演/BPO&ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団/1972年録音
>この役については、ライヴやアリア集を含めるとかなりの回数入れていると思いますが、敢えてひとつ選ぶならやはりこれかなあと思います。役者の揃った理想的なキャスティングですし(勘違いおばさんにしか聞こえないハーウッドを除けば)、フォン=カラヤンのシンフォニックなアプローチもこの作品では成功していると思います。ここでのフレーニは、彼女のミミの中では比較的ヴェテランになってからのもの。もっと若々しい歌声を聴けるものは他にある訳ですが、円熟した歌を、彼女の藝の完成形を楽しむことができるという点でこの録音を推します。娘らしい可愛らしさを感じさせる声質という長所はもちろんなのですが、それすら飛び越えて、フレーズ一つひとつが、ことばの面でも歌の面でも彼女に染みついていると言いますか、もうあまりにも自然にミミその人であると言いますか。これを聴かずしてこの作品は語れないと思います。

・ミカエラ(G.ビゼー『カルメン』)
フリューベック・デ=ブルゴス指揮/バンブリー、ヴィッカーズ、パスカリス共演/パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団、パリ木の十字架合唱団/1969-1970年録音
>世評は兎も角個人的にはお気に入りの録音です。フリューベック・デ=ブルゴスが作る音楽は華やか且つ色彩的で、仏ものとしての『カルメン』というよりは西国の空気を感じさせるもの。等身大の気分のいいカルメンを演ずるバンブリーはじめ、共演にも恵まれています。彼女はこの役もいくつか録音していますが、ここでの歌唱がベスト。この役の純真さと愛らしさをここまで表現しているのは本当に凄いと思います。恥ずかしながら私自身は、ここでの彼女の歌を聴くまでこの役に余りが興味が持てなかったのですが、これを聴いて衝撃を受け、思わずアリアを何度も聴き返してしまいました^^;それぐらい印象に残っています。単にフレーニのミカエラとしてお見事と言うだけではなく、全てのミカエラのパフォーマンスの中でも傑出したものと言えると思います。

・アディーナ(G.ドニゼッティ『愛の妙薬』)
モリナーリ=プラデッリ指揮/ゲッダ、セレーニ、カペッキ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1966年録音
>彼女の代表的なレパートリーではないのですが、役柄が彼女の個性にあっていて見事な歌唱を披露しているのがこちら。単純にかわいらしいと言うだけではなく、良家の若いお嬢さんらしいちょっとした自惚れを感じさせるあたり流石です。フレーニ自身の頭の良さも相俟ってだと思いますが、この役に欲しい知的な魅力もしっかりと盛り込まれています。悲劇での活躍の多い人ではありますが、なかなかのコメディエンヌぶり^^コロラテューラを一番の武器にした人ではないにも拘らず、よくカットされるカバレッタでも達者な歌いぶりを披露しており、意外と難しいこのアリアのベストのひとつと言える歌唱です。こってりとした声と表現の路線によるアディーナとしてはカルテリと東西の横綱でしょう。モリナーリ=プラデッリの安定のマンネリズムの指揮(こういう作品ではこれが心地いい!)の元に集まった男声陣は必ずしもドニゼッティで活躍した人たちばかりではありませんが、3人とも素晴らしい名唱!個人的には本作の決定盤の1つと思います。

・ジュリエット(C.F.グノー『ロメオとジュリエット』)
ロンバール指揮/コレッリ、ドゥプラ、グイ、カレ、ルブラン、ヴィルマ、トー共演/仏国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1968年録音
>本場仏流のエレガントで柔らかな歌唱を持ち味とするメンバーに、主役2人だけ伊ものの大歌手を突っ込んだ演奏で、ちょっと不安を感じながら聴き始めたのですが、かなり楽しめる内容です!有名なワルツのところなどほんの少し転がしにたどたどしさを覚えなくはないのですが、しっかりと身の詰まったフレッシュな美声を駆使して好演しています。流石は娘役のフレーニといったところで、スウェンソンやヴァドヴァといった人たちと較べるとかなり重心の低い声ながら、溌溂とした少女像を創りあげています。また、声が重たい分役柄にドラマティックな魅力を添えているのもユニークです。折角彼女を起用したのなら毒のアリアも復活すればよかったのに!と思わざるを得ない充実した演奏です。ロンバールの仏ものをよくわかった音楽とドゥプラやルブランといった仏勢の洗練された歌唱が見事なのはもちろんのこと、一見ミスキャストに思えるコレッリが彼らしい力強さで独特の魅力のあるロメオを演じていてこちらも素晴らしいです。

・ミレイユ(C.F.グノー『ミレイユ』)
プラッソン指揮/ヴァンゾ、ファン=ダム、ロード、バキエ共演/トゥールーズ・カピトール管弦楽団&合唱団/1979年録音
>なんどかこのblogで述べてきたとおり、『ファウスト』や『ロミ&ジュリ』の陰に隠れていますが『ミレイユ』は数々の美しい音楽に彩られたグノーの傑作のひとつです。素朴な田舎の娘の役ですから、やっぱり彼女にはよく似合っています。上述のジュリエットに較べると更に声が重くなってからの録音と言うこともあり、こちらでは若干周りの仏勢から浮いてしまっている感じはあるのですが、それでもしっかりとした美声と確かな歌心によって入念に練り込まれた歌唱の魅力は捨てがたいです。ヴァンゾはじめ共演にも恵まれていますし、プラッソンの指揮も総じて勘所をよく押さえたもの。

・マルゲリータ(C.F.グノー『ファウスト』)2016.2.5追記
プレートル指揮/G.ライモンディ、ギャウロフ、マッサール、アルヴァ、ディ=スタジオ、ジャコモッティ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1967年録音
>これは素晴らしい録音です。フレーニは後年ギャウロフと共に、プレートルの指揮でこの作品のスタジオ録音に臨んでおり、そちらでも彼女らしい完成度の高い歌唱を遺していますが、個人的にはこのライヴの方が更に乗った歌唱を聴くことができるように思います。彼女は比較的声をキープしていた歌手ですが、それでもやはりこちらの方がより若々しく目の詰まった厚みを感じさせる声に思われます(ライヴ録音の音であることを踏まえても、です)。もちろんそれで重すぎてしまうことはなく、いつもながらころころとした可愛らしさがあり、有名な宝石の歌などを聴いているとうっとりさせられます。教会の場でのギャウロフとの絡みもドラマティックで引き込まれますし、終幕の昇天の場面も神々しい。共演も伊的ではあるものの名手が揃ってお見事ですが、特筆すべきはギャウロフ。圧巻の大悪魔です。

・ツェルリーナ(W.A.モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』)
クレンペラー指揮/ギャウロフ、クラス、ベリー、ルートヴィヒ、ゲッダ、モンタルソロ、ワトソン共演/ニュー・フィルハーモニア交響楽団&合唱団/1966年録音
>不滅の名盤です。何と言っても若きギャウロフの圧倒的な歌唱と、クレンペラーのデモーニッシュな音楽が最高なのですが、フレーニはここでも娘役のだ第一人者らしいチャーミングな歌いぶりです。この役はミレイユのような純朴さもある一方、マゼットを手玉に取る機転の効いた賢しさはアディーナに通ずるところもある訳ですが、そのいずれの側面もきっちり出しています。当り前と言えば当たり前ですが、同じ娘役とは言ってもそれぞれに対して、これだけ的を射た表現を与えるあたりこの人は本当に凄いなと思います。”お手をどうぞ”はギャウロフの良さも相俟って秀逸ですし、後に夫婦になる2人の息の合ったアンサンブルをこうしてステレオで聴けるのは、なんだかとっても嬉しくなります^^

・アルマヴィーヴァ伯爵夫人(W.A.モーツァルト『フィガロの結婚』)
アバド指揮/プライ、ファン=ダム、マッツカート、ベルガンサ、モンタルソロ、ピッキ、リッチャルディ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1974年録音
>娘役で名を成した彼女がスザンナで定評があるのは尤もなところだとは思うのですが、彼女のリッチな声はむしろ伯爵夫人でこそ真価を発揮すると私は感じています。アリア集に入れたものもありますが、恐らく全曲ではこのライヴのみで、その圧倒的なパフォーマンスにため息が出ます。この時期の彼女の声ですから、モーツァルトの歌唱としてはかなり重たい部類に入るかと思いますが、それがただ無暗に重たいだけではなく、きちんと伯爵夫人の役柄としての重みにしっかり繋がっています。3幕のあの有名なアリアも、極めて集中力の高い絶唱。個人的には録音史上指折りの夫人ではないかと。対する伯爵のプライがまた最高!カヴァリエ・バリトンらしい品位と色気を感じさせ、しかも愛嬌があります。他の面々も優れていますが、もう一人あげるならマッツカートのスザンナが出色です。若きアバドの指揮はやりたいことはわかるものの、まだ完成できていない印象なのが惜しい。

・マティルデ(G.ロッシーニ『グリエルモ・テル(ウィリアム・テル)』)
シャイー指揮/ミルンズ、パヴァロッティ、ギャウロフ、コンネル、D.ジョーンズ、トムリンソン、マッツォーリ、デ=パルマ共演/ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団&アンブロジアン歌劇合唱団/1978-1979年録音
>不滅の名盤。彼女にしては珍しいロッシーニの録音を、ステレオで聴けるのは大変嬉しい。この作品はロッシーニとは言え華麗な装飾技巧で聴かせる演目ではなく、むしろもっとうんと先の時代を予見する率直でドラマティックな音楽が魅力の代物(余談ながら本当にロッシーニは天才だと思う)ですので、フレーニの声と歌が非常に活きるのは得心するところではあります。それでも転がしが必要な部分は2つ目のアリアでは顕著にあったりする訳ですが、これぐらいならものともしないのもまた彼女の凄いところですね笑。そちらのアリアもドラマティックな魅力がありますし、有名な最初のアリアはハプスブルクの女らしい気高さや崇高さすら感じさせる貫禄の名唱。とは言え一番見事なのは2幕でのパヴァロッティとの2重唱なんじゃないかと言う気がします。2人とも脂の乗り切ったうまみのある声とのびやかな歌い口が最高。そのあとのパヴァ、ミルンズ、ギャウロフの3重唱も圧倒的な演奏で、ベルリオーズをして「(ロッシーニではなく)神が作った」と言わしめたこの2幕の素晴らしさを十二分に堪能できます。
オペラ・ファン必聴です!

・ヴィオレッタ・ヴァレリー(G.F.F.ヴェルディ『椿姫』)
ガルデッリ指揮/ボニゾッリ、ブルスカンティーニ共演/シュターツカペレ・ベルリン&ベルリン国立歌劇場合唱団/1973年録音
>必ずしも彼女に向いた役柄でもないようには思うのですが、ここでの歌い口の見事さにはぐうの音も出ません。かつてスカラ座で盛大なブーを喰らったという事件もあったそうですが、この音源に触れると聴衆は何を聴いていたんだろうかと悩んでしまいます。彼女らしいたっぷりとした美声による充実した歌の素晴らしさは、幕が進むに連れてその真価を発揮していきます。終幕での集中力の高い歌は本当に特筆すべきもので、聴き終わって暫し呆然とさせられます。一見するとミス・キャストのように思われるボニゾッリは、こんな歌もうたえたのかと思うぐらい爽やかでスッキリとした味わいが◎老ブルスカンティーニの口跡や演技の巧みさもお見事。ガルデッリはツボを押さえた仕事ぶりがたまりません。

・アメーリア・グリマルディ (G.F.F.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』)
アバド指揮/カプッチッリ、ギャウロフ、カレーラス、ファン=ダム共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1976年録音
>不滅の名盤。彼女のヴェルディの仕事の中でも最も評価されているものでしょう。この渋い男たちの対決に於いて、平和の象徴であるこの役の持っている重みを充分に表現しながら、若い娘のかわいらしい純真さをも感じさせる彼女の歌唱は、やはり録音史上最高のアメーリアと言うのに相応しいものです。アバドの名采配もあって登場アリアの戀する娘の胸の高鳴りは強く印象に残りますし、1幕フィナーレで平和を訴える歌にもただならぬ説得力があります。シモンとの再会の場面はカプッチッリの名唱もあって、感動を禁じ得ません。当然ながらギャウロフ以下他のキャストも見事で、これ以上は考えられない最高の音盤です。

・レオノーラ・ディ=ヴァルガス(G.F.F.ヴェルディ『運命の力』)
ムーティ指揮/ドミンゴ、ザンカナロ、プリシュカ、ザージック、ブルスカンティーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1986年録音
>フレーニの名唱が軸になっている音源です。今回ご紹介している音源の中で、彼女のキャリア的には最も遅くになってからの録音ですが、想像以上に豊かな声にまずは圧倒されます。高音にもキツさはなく、むしろドラマティックな部分に関して言うのであれば、年齢を経ることによってより深みを増しているように感じます。彼女にとってはベストの時に録音されたとも言えるかもしれません。この役は本当に難しくて、なかなか満足いく歌唱に巡り合えないのですが、テバルディと並びうる唯一の録音でしょう。ムーティのきびきびとした音楽は魅力的だし、脇役陣も聴き応え十分ですが、ドミンゴとザンカナロにいまひとつ熱気がないのが残念です。

・エリザベッタ・ディ=ヴァロア(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
アバド指揮/カレーラス、ギャウロフ、カプッチッリ、オブラスツォヴァ、ネステレンコ、ローニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1977年録音
>これもまた不滅の名盤。私自身は、ミミやアメーリアと同じくこの役も最初はフレーニの歌唱から入ったのですが、恥を忍んでいうと最初のころはこの役そのものの素晴らしさもここでのフレーニの凄さもよくわかっておりませんでした。けれど色々な音源を聴いて改めて彼女の歌唱に戻ってくると、しみじみとその凄まじい表現力に打たれます。「ああ、これだ。これぞエリザベッタだ」と心を動かされるのは、フレーニなのです。あの厄介な、それでいて音楽としてもドラマとしても極めて魅力的な4幕のアリアをむしろ余裕を持って歌いこなし、エリザベッタの葛藤の哀しみを重厚な表現で感じさせるとともに、彼女が若い女性であることもきっちりと描き出すその手腕には頭が下がります。彼女のエリザベッタとして優れた録音はこれ以外にもフォン=カラヤンとの有名なスタジオや同じく彼の指揮によるライヴなどいろいろありますが、総合的にはこれが気に入っています。

・デズデモナ(G.F.F.ヴェルディ『オテロ』)
C.クライバー指揮/ドミンゴ、カプッチッリ、チャンネッラ、ローニ、ラッファンティ、ジョーリ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1976年録音
>そしてこれも不滅の名盤(笑)彼女が出ている録音は、やはり極めて質の高いものが多いということなんでしょう。先ほどのエリザベッタに続き、お恥ずかしい限りですがデズデモナもまた私にとっては猫に小判だった時期の長い役でした(そもそも『オテロ』の価値がわかるまでにもかなりかかっていたという話も;;;)。『オテロ』そのものが傑出した作品であることがわかってきてからも、柳の歌とアヴェ・マリアの場面では退屈してしまうことが多かったのですが、その意識を変えるきっかけになったのがここでの彼女の歌唱。これを聴いて初めて「ああ、柳の歌とアヴェ・マリアが続けて歌われることには物凄い意味があったんだなあ」と衝撃を受けたことは今以て忘れられません。彼女の声に対してはかなり重い役だと思うのですが、そんなビハインドを一切感じさせない卓越した歌唱のセンスと緊密な集中力は圧巻です。また、その声からここでもまたデズデモナの若さをにじませているのは心憎いばかり。だからこそのこの役は純潔なんだ、と。弱音の表現の美しさは最早清浄ですらあります。ここに絡むドミンゴの苦悩と葛藤のオテロ、そしてカプッチッリの恐ろしいまでの悪の力、それぞれに最高のパフォーマンスを聴かせる脇役陣にそれらすべてを纏め上げるクライバーの熱狂的な音楽!
ああ、これぞオペラであります。
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コメント

フレーニさんは、LP全盛の頃からよく聴いていましたが・・自分にはその声の響きがどうしても金属的(?)に聴こえてしまい、カラス、テバルディほどの陶酔的な感動を覚えたことはなかったのです。
 basilioさんのこの歌劇ディスク一覧を拝見し、ミレイユ・ジュリエット・カルメンの3ディスクを聴き直してみまして・・・それぞれに捨てがたい素敵な盤だったんだ!とあらたな見直しが出来ました。(全くミスキャストだ、と長年感じてきたコレルリのロミオ役もけっこう面白い味があるもんだと今回感じられたです笑)
 カルメンはけっこういろいろな盤を聴いてきたんですが、私もこのフリューベック・デ=ブルゴス盤が一番総合的に好きです。主要な歌手陣も皆、役柄に合ってて堪能できる出来栄えです。
 フレーニさんの1970年頃までの若々しいフンワリとした声が一番好みに合う様です。
2016-01-26 Tue 01:11 | URL | 南天の実 [ 編集 ]
いえいえ、いつもありがとうございます^^

> 声の響きがどうしても金属的(?)に聴こえてしまい
録音当時から批判がありましたが、ヴェルディなどは彼女の声のサイズに対して柄が大きすぎると思われる方もやはりいらっしゃいますしね。
どんな歌手でも趣味は別れるものだと思います。

> ミレイユ・ジュリエット・カルメンの3ディスクを聴き直してみまして
何だか「聴けーっ!」って言ったみたいですみません^^;でも新たな発見があってよかったです。結構その時の体調とか嗜好とかで録音の評価って変わりますもんね。

>全くミスキャストだ、と長年感じてきたコレルリのロミオ役
あれはそうおっしゃる方がいても全く驚きませんw
僕としてもコレッリの歌としては凄いし素敵だけどロミオかと言われると……汗

> フリューベック・デ=ブルゴス盤
あまり話題にならない上に、話題になったときでもぞんざいな扱いを受けているような気がしていて残念だったんですが、そうおっしゃっていただいて良かったです^^
もっと評価されてしかるべきだと思うんですけどね。

> フレーニさんの1970年頃までの若々しいフンワリとした声
大賛成です。
2016-01-26 Tue 11:24 | URL | Basilio [ 編集 ]

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