Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第廿七夜/黄金のトランペット~

このひとを「評価が分かれるひと」だというと物凄く怒る人たくさんいる気もしますが、一方でいまはアンチもかなり多いように思います。
ま、私は曲によっては大好きですが笑。

Del Monaco


マリオ・デル=モナコ
(Mario Del Monaco)
1915~1982
Tenore
Italy

年配のオペラ・ファンがカラスと同様に(時としてカラス以上に)愛好し、ほとんど崇拝していることもある20世紀中盤を代表する名テナーです。

特に年配のファンが多いことは理由のないことではなく、NHKがかつて数回に亘って主催した「イタリアオペラ公演」で当時は本当に欧州から遥かかなただった日本にやってきて、その全盛期の歌声を響かせたということがあります。もちろん、彼以外にもここでかつて紹介したテバルディやシミオナートをはじめさまざまな名手がこの企画で来日している訳ですが、彼は或る種このイベントのシンボル的な存在として扱われることが多いように思います。
いまの海外劇場の引っ越し公演とは訳が違いますし、持っている声がとんでもない代物ですから、当時からのファンが夢中になるのも十分納得できるのです。しかもファンへの心遣いというかサーヴィス精神が旺盛でさまざまな逸話を残しています(尤も、一方で気難しさや気の小ささを伝える逸話も多いのですが笑)。
例えばこんな話。
飛行機嫌いのデル=モナコは来日の際にも船を使い(喉を守るためだったという説もある)、その情報を聴きつけたファンたちは港に集まっていたのだそうです。待ちに待ったデル=モナコの乗船した船が近づいてくると、船の方から何か声が聴こえます。耳を澄ましてみるとそれはG.F.F.ヴェルディ『オテロ』の有名な一節“喜べ!傲慢な回教徒どもは海の藻屑と消えた!”ではありませんか!デル=モナコは船が港に着くのに合わせてこの歌を歌っていたのです!こんなパフォーマンスをしてくれたらファンが夢中になるのもわかるというものです(喉を大切にしたと言うデル=モナコが本当にこんなことをしたのかということには一定の留保がいりそうな気もしますが。)

<ここがすごい!>
彼に関しては言うことはありません!圧倒的な声の威力!声!声!声!
録音史上、もっと巧い歌や精緻な表現を聴かせるドラマティコのテノールはたくさんいるでしょうが、これほど威力のある、輝かしい、見事な声を聴かせる歌手はなかなかいないでしょう。彼が「黄金のトランペット」と呼ばれる所以です。まさに空前絶後の声。特に全盛期の声は素晴らしく、その図太く煌びやかな響きだけで脳髄がピリピリしてくるように思えます。
オテロなんかは彼の後に様々な名手が歌っていて、いい録音もたくさんありますが、登場の場面での“喜べ!”だけでこれだけ聴衆を引っ張り込める人はいません。というか、私自身は最初に録音で聴いたオテロが彼だったというのもあってか、ああいう威力がないと「喜べ!」は聴けないですね(^^;
録音で聴いてこれなんですから、実際に彼の声を聴いた人たちの感動は如何ばかりか。

そしてそのヒロイックな声に見合った甘いマスク。英雄の役が多いテノールでは、この点も大きな美質でしょう(全身映ると結構顔がデカくて脚が短いんだけどね笑)。近年オペラ歌手もヴィジュアルが意識される時代になった、と言って見た目ばっかりいい歌手が跋扈していますが、こうした声を持った時代の歌手にも見目麗しい人はたくさんいたのです!彼とバスティアニーニ、それにテバルディやシエピが舞台に一緒に立っていたら、目にも耳にも大変な贅沢だったに違いありません。

最大の当たり役としていたG.F.F.ヴェルディ『オテロ』の題名役や、同『アイーダ』のラダメス、同『エルナーニ』題名役、G.プッチーニ『トゥーランドット』のカラフ、R.レオンカヴァッロ『道化師』のカニオ、それにU.ジョルダーニ『アンドレア・シェニエ』の題名役などドラマティコの諸役においては、彼に触れることなくして語れますまい。

<ここは微妙かも(^^;>
一方で、ちょっと声の力一本槍だという側面もあります。
情緒的に歌って欲しい部分で余りにも剛直すぎて、一本調子に聴こえることも多々。だからカバレッタはとてもいいんだけどカヴァティーナはいまいちなんてことも結構あったりして、例えばG.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』のマンリーコのカバレッタ“見よ、恐ろしい炎が”は唸らされるところがあるんですが、“ああ、あなたこそ私の戀人”はいまいち。
割と残してる録音でもドラマティコな声はそれほど必要ないけどリリックに、抒情的に歌って欲しいと思うような役に契約の関係で起用されていたりして、「あ、これはあってない」と思ったりするものもあったりします(^^;

あと、ライヴの爆発的な演唱を買ってる人も多いんですが、ちょっと濃過ぎというか…崩し過ぎに感じる時もあります。個人的には比較的端正に歌っているスタジオ録音の方が好きですね。

<オススメ音源♪>
・オテロ(G.F.F.ヴェルディ『オテロ』)
エレーデ指揮/デル=モナコ、トゥッチ共演/N響&合唱団/1959年録音
>超名盤!伝説のイタリアオペラ公演、こんな物凄いものを東京でやっていたのかと衝撃を覚える1枚です。!デル=モナコとゴッビはそれぞれ別のレコード会社と契約していた関係で、お互い最高の当たり役とされたオテロとイァーゴでコンビを組んで正規の録音を残すことができなかったので、このNHKの映像は奇跡と言われています。また、これとは別の日のものだという音源もあります。登場場面の輝かしい美声もそうですが、復讐を誓うオテロと姦計を巡らすイァーゴの2重唱の凄まじさと言ったら!!

・カニオ(R.レオンカヴァッロ『道化師』)
モリナーリ=プラデッリ指揮/トゥッチ、マックニール、デ=パルマ、カペッキ共演/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団/1959年録音
>私の初デル=モナコは、いまでも覚えていますがNHKが保存していたカニオの映像でした。その輝かしい声の威力はもちろん、ぎょろりと引ん剥かれた目や泣きの演技でTVに釘づけにされました。これもイタリアオペラ公演。生で、しかも東京で観た人たちがいるなんて! ここでは手に入りやすいこの音盤を。共演に難はあるものの、やっぱりこの役はこの人で聴きたいと言う向きには、聴いて損のない1枚。特にアリア“衣裳をつけろ”のドラマティックな表現は、他の追随を許しません。

・ラダメス(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
エレーデ指揮/テバルディ、スティニャーニ、プロッティ、カセッリ、コレナ共演/ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団/1952年録音
>オテロやカニオに比べると言及されることの少ないラダメスですが、私は彼の声に最も適しているのはこの役ではないかと思っています。ライヴ盤での濃ゆい演奏、爆発的な威力のある演奏も魅力的なのですが、ここではスタジオ録音を。しかし、これ、私のベスト・ラダメスです。端正に歌っているところがすごくいい!このひとでもパワーで押していくだけではなくて、こういう美麗なフォルムの歌が歌えたのかと(←失礼) 、改めて感心してしまいました笑。共演もこのメンバーで悪くなりようがないw

・カラフ(G.プッチーニ『トゥーランドット』)
エレーデ指揮/テバルディ、ボルク、ザッカリア、コレナ共演/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団/1955年録音
>何となく歌い方が想像がついて長いこと聴いてなかったんですが、聴いてあまりにいいんで反省しましたw以前パヴァロッティを褒めたけれども、やっぱり本来的にはこういう重量メガトン級の人に歌ってもらった方がこっちも緊張感が出る。ここでもやっぱりラダメスと同様、崩し過ぎず、スタイリッシュな歌を繰り広げているところが大変好印象。共演は…ボルクの好き嫌いによって変わって来るんじゃないかと思う。

・エルナーニ(G.F.F.ヴェルディ『エルナーニ』)
(ごめんなさい詳細わかりません)全曲持ってました(^^;寝ぼけて書くもんじゃないね苦笑。
ミトロプーロス指揮/バスティアニーニ、クリストフ、チェルケッティ共演/フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団&合唱団/1957年録音
>上記に較べるとマイナー演目ですが、この曲は素敵♪マンリーコほどカヴァティーナで抒情性を求められないのがいいんだと思いますね笑。悠々と、朗々と歌っているさまが本当に耳に嬉しい。これは全曲盤がいくつかあるんで、そのうち仕入れようかと画策中。全編に熱い血の滾っているような演奏で、これもざっついたおぺ!っていう感じの力強い音楽に仕上がっています。録音の少ないチェルケッティや重厚なクリストフも素晴らしいですが、ここではミトロプーロスの豪快な指揮ぶりと男伊達なバスティアニーニの魅力が秀逸。

・アンドレア・シェニエ(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)
ガヴァッツェーニ指揮/バスティアニーニ、テバルディ共演/サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団/1959年録音
>伊ものオペラの醍醐味を味わえる音盤。全編が滾るような熱い伊国の血でできていると言って良いような演奏で、聴いていてスカッとします(笑)デル=モナコ演ずるシェニエにはたくさんのアリアが用意されていますが、いずれをとっても素晴らしい出来だと思います。もうね、カッチョいい!って言う言葉しか出てこないぐらい(笑)伊もののファンを名乗るなら、絶対に聴くべき一枚ではないかと思っています。

・ポリオーネ(V.ベッリーニ『ノルマ』)(2014.3.18追記)
ヴォットー指揮/カラス、シミオナート、ザッカリア共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1955年録音
>不滅の名盤。良いと言われているものは素直に聴くもんですね(笑)現代のベッリーニ演奏からすれば彼の歌唱はあまりにもヴェルディ的ではありますし、ライヴらしい疵も無きにしも非ずなのですが、そういったことを帳消しにしてしまうぐらい覇気のある歌唱。力感漲る黄金のトランペットの炸裂は、思わず手に汗握るもの。特にカラス、シミオナートとの3重唱は物凄く集中度の高い歌唱で、折り返し地点でこんなにやっちゃって大丈夫なの?というぐらい。実際には各人そのあともそのままの勢いで行くのですからとんでもない話です(笑)ヴォットーの指揮も共演陣もこれ以上はないと言う仕上がりで、まさに圧巻の演奏記録です。

・ロリス・イパノフ(U.ジョルダーノ『フェドーラ』)(2015.7.3追記)
ガルデッリ指揮/オリヴェロ、ゴッビ、カッペルリーノ、マイオニカ、デ=パルマ共演/モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1969年録音
>録音の少ない作品の代表的な録音。あらすじがいまひとつという意見もありますが、短い中にも伊的な熱狂の世界が繰り広げられる作品で、人さえそろえばかなり楽しめるのではないかと思います。ここでのデル=モナコは作中最も有名なアリアを歌う二枚目役。年齢的にはそろそろ衰えが出てきそうなところですが調子も良かったのか、情熱的で体当たりな歌唱がジョルダーノのアツい音楽を更に盛り立てます!しかしその一方で、2幕でのピアノ伴奏をバックに据えた重唱では意外なほど抒情的な歌唱を披露しています。ゴッビの喰えない外交官も素敵ですが、ここではやはり幻の名歌手オリヴェロが素晴らしい!この出ずっぱりで大変な役どころを実に見事にこなしています。
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コメント

え、Basilioさん、デル・モナコのエルナーニ、聴いてないの?!?

そりゃいかんですよ。有給とってでも、即探し回って入手してくださいよ。
フィレンツェ、ミトロプーロス、1957年。チェルケッティ、バスティアニーニ、クリストフ共演の盤ね。

どこをとっても、切れば血の出るような演奏!このわけのわからないハイテンションこそがロマンティシズムの真髄だなぁ、と感動します。これを聴いてしまうと、他のエルナーニはカスです。言葉が悪ければ、影です。

早く、お聴きなされ!
2012-10-22 Mon 08:56 | URL | 斑猫 [ 編集 ]
うわわわわ、寝ぼけて変なこと書いてる(^^;
『エルナーニ』、ミトロプーロスのやつ持ってます、持ってます(苦笑)
これはほんとに温度の高いヴェルディで聴いていてテンションおかしくなりますよね!
2012-10-22 Mon 10:12 | URL | Basilio [ 編集 ]
やっぱり、寝ぼけてたかww

おかしいと思ったんですよ。

で、あのテンションに違和感を感じる人は、デルモナコにも違和感を感じるのでしょうね。わかります。

ロドルフォとかマントヴァとかアルフレードとか歌ってるデルモナコは、なし!ですけど、19世紀的なハチャメチャな時代の病を表象するような作品だと、彼なくしては再現できない部分もあると思いますね。

では、めでたしめでたし(意味不明ですが)
2012-10-22 Mon 12:03 | URL | 斑猫 [ 編集 ]

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