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Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第百十三夜/重厚かつしなやかに~

あけましておめでとうございます。
本当は2018年中にと思っていたのですが、バタバタしているうちに年を越してしまいました^^;
本年も気長にやっていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

大バリトン特集、第2回目ですが早速大穴と言うべき人です。

Herlea.jpg
Rodrigo, Marchese di Posa

ニコラエ・ヘルレア
(Nicolae Herlea)
1927〜2014
Baritone
Romania

ブカレストに生まれた名バリトン。
現在日本では知名度が高いとはとてもいえませんが、実は来日もしていれば時の人にもなっています。キャリア後半になったカラスがディ=ステファノとともに『トスカ』を日本で公演することになった際、スカルピア役として指名されたのが誰あろうヘルレア(但しカラスは結局キャンセルして代打はカバリエ)。公演の直後から爆発的人気となったらしいのですが、やはりその録音の手に入らなさからか、今やまさに知る人ぞ知る、という感じになってしまっています(ちなみに未見ですがこの時の映像が残っているようなので、これは手に入れたいと思っています)。
実のところ録音が取り立てて少ないということではないのですが、羅国のローカル・レーベルで地元の歌手たちと遺しているものが多いのがその手に入りづらさを生んでしまっているようです。

録音に実際触れてみるとわかりますが、日本ですぐ圧倒的人気が出たのも宜なるかな。バスティアニーニを少しエキゾチックにしたような肉厚で力強い輪郭のはっきりした美声と、熱量の高い、しかし優美なカンタービレは伊もののオペラ、とりわけヴェルディを愛する人であればお気に召すこと間違いなしでしょう。正直なところここでご紹介しているマイナーな歌手は、私自身の趣味による偏りが少なからずあると思っているのですが、こと彼に関しては多くの人にその良さが伝わるのではないかと思っています。
今回は、この知られざる伊ものの名手に光を当てていきます。

<ここがすごい!>
後で改めて詳しくご紹介しますが、僕がヘルレアを最初に聴いたのはトッツィやコレッリとMETで共演した『ドン・カルロ』(G.F.F.ヴェルディ)のロドリーゴでした。この時の関心は専らフィリッポを演ずるトッツィで、エボリのアイリーン・デイリス(彼女もいずれ記事にしたいですね)とロドリーゴのヘルレアは全然知らない人だしまあどっちでもいいかなという程度の認識でした。しかし聴き終わって一変、両者ともその歌唱の見事さに圧倒されたのでした。コレッリはカルロとしては最重量級と言ってもいい歌手ですが、彼と組んでも全く不足を感じさせない馬力が、まずはヘルレアの武器だと言っていいでしょう。バスティアニーニの名前を先に上げましたが更に一段重い声で、G.G.グェルフィを思わせる瞬間も少なからずあります。ここまで重い声だと過度におどろおどろしい印象になりかねないのですが、あくまでも歌い口は正統派で、いたずらに凄んだり力んだりすることなくスマートにまとめていく手腕には大変好感が持てます。どんな役を演じてもグロテスクになり過ぎず、剛毅な声と表現の中にも気品が漂っているのです。先の『ドン・カルロ』でも超重量級の歌手とがっぷり四つに組みながらも、ノーブルで若々しい活力をも感じさせています。

重さばかりに焦点を当ててしまいましたが、やはりその声の音色は賞賛すべきもの。黒檀を思わせる重厚な輝きのあるヘルレアの声の響きには、メタリックな煌めきとはまた違った暖かみがあります。よく伸びる高音からは胸のすくような力強さが鮮やかに感じられ、声区こそ違いますがドラマティコのテノールを聴いているような爽快感を受けることもしばしば。レパートリーの中心が伊ものであるのも、こう言った声だからこそでしょう。声量の必要なドラマティックな役柄ではその真価が遺憾なく発揮されています。

そんな中でフィガロ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)を当たり役にしているのもびっくりしますが、聴いてみると意外なほどフットワークが軽く洒脱に歌いこなしているのがわかります(それこそ彼よりは声質そのものは軽いと思うカプッチッリやバスティアニーニがフィガロを演じた時の重々しさったら!)。言葉さばきも巧みですし、柔軟で器用なところもまた彼の持ち味です。言われなければひょっとすると伊国出身と勘違いする人もいるのではないかと思わせるほど伊ものに適したしなやかで熱の籠った歌い回しは、今でこそたくさんいる東欧出身の歌手たちと較べても垢抜けたものです。
偉大な先駆者として再び注目が集まることを願ってやみません。

<ここは微妙かも(^^;>
フットワーク軽い歌もうたえるのは確かなのですが、どうしても重たい声の人の常としてちょっともこもことした感じに聴こえてしまう時もあるので、気になる人は気になるかもしれません(僕は気になりません笑)。
あとはバスティアニーニやブランの時にも同じようなことを書きましたが、基本的には端正な雰囲気のある歌ですので、下卑た人物を歌うとしっくりこない感じはあります。

<オススメ録音♪>
・ポーザ侯爵ロドリーゴ(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
アドラー指揮/コレッリ、リザネク、デイリス、ヘルレア、ウーデ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1964年録音
>現在最も手に入りやすいのはこの録音でしょう。明らかなバリトンながら宗教裁判長を歌っているウーデ(そして成功していない)を除けば、数ある本作の音源の中でも最重量級のキャストによる演奏ではないかと思いますが、力負けしないどころかむしろ抜群の存在感で、これがMETデビューだったのだというのですから肝が据わっています。気力横溢した声と情熱的な歌い回しからは、ロドリーゴに欲しい理想に燃えたパワフルで若々しい輝きが感じられまさに当たり役。死の場面ももちろん聴かせますが、トッツィやデイリスとの丁々発止のやり取りや落ちまくるコレッリを好サポート(?)する場面など全編にわたって彼の魅力の詰まっています。アドラーのキビキビとした指揮も気分がいいですし、繰り返しになりますがトッツィとデイリスは素晴らしい出来。コレッリとリザネクは凄い声ですが好き嫌いが別れそうです。

・アシュトン卿エンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
ヴァルヴィーゾ指揮/サザランド、コンヤ、ジャイオッティ共演/メトロポリタン歌劇場管弦楽団&合唱団/1964年録音
>こちらも同じ年のMETでのライヴ。ベルカントとは言えドラマティックにも演じられてきましたし、豊かなな旋律をたっぷりと歌い上げる悪役なので、ヘルレアの良さがとてもよく出ていると思います。冒頭のアリアは客席をドラマの世界にグッと引き込む要の曲ですが、緊張感の高いスタイリッシュな歌唱でお見事。高音も気分良く飛ばしています。ルチアとの重唱の冒頭では多くの歌手のように強権的な力技で行くのではなく、朴訥に宥めすかすような抑えた表情をつけていて、エンリーコの新たな一面を引き出しているように思います。こういうところのセンスの良さや器用さは彼の大きな美質でしょう。コンヤもまた同じような方針の力感溢れるエドガルドだったので、本当は3幕の重唱も欲しかったところです(6重唱ももちろん素敵なのですが)。カットは多いですがヴァルヴィーゾはいつもながらフレッシュな音楽、共演陣も優れた隠れ名盤です

・リゴレット(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)
ボベスク指揮/イアンクレスク、ブゼア、ラファエル、パラーデ共演/ブカレスト・ルーマニア歌劇場管弦楽団&合唱団/1965年録音
>羅国の地方レーベルでの録音ですが、侮るなかれなかなかの名演です。ヘルレアはリゴレットにはちょっと整いすぎているという意見も出そうですが、迫力のある声によるスケールの大きな歌唱にはやはり得難い魅力があります。娘をさらわれた後に平静を装って鼻歌しながら入ってくるところだとか2幕のジルダとの重唱だとかは、結構しっかり演技を入れつつそれがくどくならない匙加減が流石。それだけに悪魔め鬼めや復讐を叫ぶ部分での爆発がかなり際立っています(2幕フィナーレの見事なこと!)。他の人は全く知らなかったのですが、イアンクレスクの古風ながら薄幸な乙女を感じさせるジルダ、ブゼアの重ためながらキリッとしたスタイルのいい公爵はじめ全体にかなり楽しめます。ボベスクの指揮も個性的で悪くない。

・スカルピア男爵(G.プッチーニ『トスカ』)
オラリウ指揮/ゼアーニ、ファナテアヌ、クラスナル、アンドレエスク、ハラステアヌ共演/ブカレスト・ルーマニア歌劇場管弦楽団&合唱団/1977年録音
>随分前に入手した時、実はヘルレア以外あまりピンとこなくてMDに録った後CD本体は売っぱらってしまったのですが、今回聴き直してなかなかどうしてかなり立派な演奏で手放したのを後悔しています……なかなか手に入らないし^^;さておきヘルレアは登場時点から巨大な声で強烈なスカルピアを印象付けます。これだけ声量があるとテ=デウムも素晴らしい聴きばえ。柔剛よく取り混ぜてというよりはかなりマッシヴで高圧的な役作りで、暑苦しいのがとても良いですね(笑)とりわけ2幕でトスカやカヴァラドッシを詰問するところなどは、結構退屈してしまう場面だったりするのですが、サディスティックな雰囲気がハマっていてグイグイ聴かせます。ゼアーニはややヴィブラートきつめですが熱唱ですし、ファナテアヌはびっくりするぐらいごついドラマティコでお好きな方にはたまらないのではないかと。オラリウの指揮も◎で、堂守と子どもたちが大騒ぎする賑やかな場面などこんなに楽しかったけというほど雰囲気を出しています。

・フィガロ(G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』)
・西国王ドン・カルロ(G.F.F.ヴェルディ『エルナーニ』)
・レナート(G.F.F.ヴェルディ『仮面舞踏会』)
・カルロ・ジェラール(U.ジョルダーノ『アンドレア・シェニエ』)
ボベスク指揮/ルーマニア放送交響楽団/1962年録音
>お得意の伊ものを中心に取り上げたアリア集なのですがここでは指揮のボベスクがちょっとかったるいのと、強すぎて違和感のあるエコーが足を引っ張っているのが残念です。とは言え彼自身の歌は上質なもの。ここでは4役とりあげます。まずは当たり役として知られるフィガロの縦横無尽な歌いぶりが聴けるのが嬉しいですね^^早口でも着実な言葉さばきや声色の使い分けをしながらの堂々たる歌を楽しむことができます。打って変わって西国王カルロでは国王に選ばれる人物らしい恰幅の良さや若さからくる思索的な側面をよく引き出しています(まあ全編見るとこの役すっとこどっこいなところがあるんですが)。前半の内面的な語りと後半の悟りを得たかのように朗々と大志を抱く部分の対比も鮮やかです。レナートでは苦悩に苛まれる渋い男ぶりがたまりません!主部に入り込むまでのレチタティーヴォが抜群にうまいですし、あの強烈な前奏の中でどちらかというと淡々と歌うことで、怒りの言葉を口にしながらも心ここにないことが伝わってきます。そしてだからこそ後半のアメーリアへの愛情を歌う場面の熱唱が切々と胸に迫ってきて、これは全曲がないものかと。最後はジェラールですが、シェニエの処遇を冗談めかして独白するところから苦渋の面持ち、その中でも迷いや愛などさまざまな表情がひしひしと伝わってくるこちらも名演。レナートもそうですが、明らかな善玉悪玉よりもこういう変化のある役の方がひょっとするとよかったのかも……音源はないものか……。
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コメント

BasiBasilio様

ご無沙汰しておりました。

ニコラエ・ヘルレアは聴いたことがないような気がします。Youtubuでいくつか聴いてみました。
仰るとおり声の魅力、力強く重厚で輝きがありながら、端正な気品を感じさせる歌唱が素晴らしいです。

エーベルハルト・ヴェヒターは意識せずに聴いていたものがかなりありました。

《こうもり》(ベームとクライバー)《ルクセンブルク伯爵》など改めて観なおしました。
《シモン・ボッカネグラ》でライモンディと共演しているようです。(1971年7月、バイエルン国立歌劇場、アバド指揮、オットー・シェンク演出)ライブ録音があるようなので是非聴いてみたいと思いますが手に入るかどうか…。

2019-01-08 Tue 20:48 | URL | musicienne [ 編集 ]
ようこそのお運びで^^コメントありがとうございます。

> ニコラエ・ヘルレア
バスティアニーニの人気が高い日本であれば、きっとピンとくる方は多いのではと思っています。長いこと記事にしたいと思っていたので、今回形にできてよかったです。
いまは気になった歌手の歌をyoutubeでさっと聴いて好みを知ることができるようになり、ありがたいことも多いですね。

> エーベルハルト・ヴェヒター
気づくとここにもあそこにも、という感じはありますよね。
《ルクセンブルク伯爵》は私は視聴していないのですが、オペレッタの名手らしい気品と芝居が楽しめるだろうなあと想像します。
《シモン》をやっているらしいというのはネットの情報で拝見していましたが、こちらも気になりますね。海賊版などを探さなければ入手できなさそうですが……1幕フィナーレの演説の場面など映えるのではないかと思います(独語歌唱の方がいいかも?)
フォン=アイネムの《ダントンの死》の素晴らしい歌唱が残されているというのも伺っており興味は尽きません。

こちらのコメントはゴミよけのため承認制にしておりすぐ反映はされませんので、どうぞお気になさらず!
2019-01-09 Wed 12:17 | URL | Basilio [ 編集 ]

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