Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第廿八夜/永遠のファム=ファタル~

さて、現在「評価が分かれるひと」というシリーズで進めてましたが、今回はちょっと予定変更。
この1月に亡くなった私の大好きな歌手の追悼記事を。

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Dalila

リタ・ゴール
(Rita Gorr)
1926~2012
Mezzo Soprano
Belgium

白国が誇る世界的メゾ・ソプラノです。
どういう訳だか日本ではいまいち実力どおりの評価をされていないような気がしますが…知ってる人は知っている止まりになってしまっている感があるのは大変惜しい。商業録音も数多く残しているのに、何故だか廃盤・入手困難なものが多いし…。
私見では、シミオナートやコッソットと同様、もっと多くの人に語られるべき偉大な歌手だと思います。

このひとの力量が最も発揮されるのは仏国もの。
それも所謂ファム=ファタルと呼ばれるような、男の人生を狂わせる運命の女の雰囲気を持った人。得意とした役はデリラ、オルトルート、アムネリス…メゾの大役がずらり。

このシリーズでも以前に扱ったエルネス・ブランとの共演が多く、私自身彼の録音を集めていくうちに彼女の録音に触れ、ファンになった部分があります。『ローエングリン』や『ルイーズ』での名夫婦(?)っぷりは見事なもんですし、『サムソンとデリラ』でもこのふたりで絡んでるとやたら色っぽい感じになるんですよねw

<ここがすごい!>
古今東西いろいろな声の人がいますが、セクシーという形容が最も似合うのはこの人の声だと思います。ま、言ってみれば史上最強のセクシーヴォイスですww
「ベルベットのような」という言い回しが、美しくて深々した、柔らかい声にはよくなされ、この人はそういった要素がすべて当てはまるとは思うんだけれど、或る意味もっといい意味で粘着質なというか声なんですよね。その何とも言えぬ湿り気が、独特の色気を醸し出しています。でまた、低い方の声が響くんですよね、いい意味でドスが効く。電話かけた相手がこんな声だったらドキッとしちゃいますねw

一方でゴールは、その色気たっぷりの声で甘く艶っぽく歌うことは、敢えてしていません。歌い口自体は、どちらかと言えばものすごく淡々としていて、絶叫したりするようなことは絶対ありませんし、過剰に演劇的になったりすることもありません。ゴールのファン仲間のしまさんは「不感症っぽい」と以前表現していましたが、本当にそんな感じ。
普通であればもっと表情付けをして欲しいと考えるところですが、この人の場合はこれが成功しています。というのも、彼女ほど色っぽい素材の声で、がっつりしっかり表情付けをされてしまうと、おそらくものすごくくどくなる。確かにセクシーで魅力的な歌だけれども、そんなにされてしまったら、何度も聴くのは正直しんどい、みたいになってしまうと思うんですね。
その意味で、この人は自分の持ち味をしっかりわかって歌っているように感じます。

最高なのはC.サン=サーンス『サムソンとデリラ』のデリラ!ヴィッカーズ、ブランという最強の布陣で楽しめるプレートル盤が、手に入りやすいですし、彼女の魅力を余すことなく楽しめるものです。
それ以外では、ファム=ファタルだったり色っぽい敵役だったりというようなところがやっぱり魅力的なので、G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』のアムネリス、R.ヴァーグナー『ローエングリン』のオルトルート、アリア集でしか聴いていませんがF.チレーア『アドリア―ナ・ルクヴルール』のブイヨン公妃やG.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』のエボリ公女も最高です。艶役ではありませんが、G.シャルパンティエ『ルイーズ』の母も良かったです。
惜しいことに『カルメン』の録音がありません(あっても入手困難)…何故ビーチャム盤ではデロサンヘレスを起用したのか…(泣)

<ここは微妙かも(^^;>
微妙…というかやっぱりお色気のあんまり入らないような役には合ってないのかな…G.F.F.ヴェルディ『イル=トロヴァトーレ』のアズチェーナなんかは迫力もあって全然ダメとは言わないんだけど、なんかちょっと違うような。
あと、この人の場合は悪役の方が断然映えます。J.E.F.マスネー『ウェルテル』のシャルロッテなんかも素敵なんだけど、なんかぎらついた感じになってしまうww

<オススメ音源♪>
・デリラ(C.サン=サーンス『サムソンとデリラ』)
プレートル指揮/ヴィッカーズ、ブラン、ディアコフ共演/パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団/1962年録音
>不滅の名盤。ゴール最大の当たり役です。敵役メゾの面目躍如ともいうべき名唱が楽しめます。仏音楽が好きな人、サン=サーンスが好きな人にとってこれは必須アイテムだと思いますよ!ヴィッカーズの英雄然としたサムソン、ブランのどこか生臭い感じのする素敵なダゴンの大司祭と、ファム=ファタルを演じさせたら右に出るもののないゴールの掛け合いは、まさに稀有と言うべきもの。特に有名なアリア“君が声に心は開く”の官能的な雰囲気の盛り上がりの素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものがあります。熟した果実のような、陶然とした響きがあります。

・アムネリス(G.F.F.ヴェルディ『アイーダ』)
ショルティ指揮/L.プライス、ヴィッカーズ、メリル、トッツィ、クラバッシ共演/ローマ歌劇場管弦楽団&合唱団/1961年録音
>これは名盤だとは思うけど、ちょっと不思議な感じで、アイーダっぽくないアイーダ。その範疇の中で、ゴールが独特なアムネリスをやっている、と言う感じでしょうか。コッソットみたいな或る意味エネルギッシュな解釈とはまた全然違うアプローチですが、こういう粘着質なアムネリスもなかなかいいもんです。表面的にはすごく大人なんだけど、内面的にはドロドロしてそうなお局様タイプとでも言いましょうか。実際こういう人が近くに居たらお友達にはなりたくないですが笑)

・オルトルート(R.ヴァーグナー『ローエングリン』)
マタチッチ指揮/コンヤ、グリュンマー、ブラン、クラス、ヴェヒター共演/バイロイト祝祭歌劇場管弦楽団&合唱団/1959年録音
>同じく最大の当たり役のひとつです。もうこういう魔女とかやらせたら怖い怖いwwヴァーグナーは苦手であまり聴いておりませんが、ブランのドラマティックなテルラムントと合わさると、おそらく悪役夫婦としてはかなり上位に食い込んでくる演奏なのではないかと思っています笑。個人的には白雪姫をオペラ化するなら、王妃は絶対この人だと思いますw)

・ブイヨン公妃(F.チレーア『アドリア―ナ・ルクヴルール』)
・エボリ公女(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
ダウンズ指揮/パリ音楽院管弦楽団/年代不明
>どちらもアリア集に収められたもので全曲聴けてませんが、たぶんピッタリな役だと思いますね、キャラ的に笑。貴族的なねちっこい感じが絶対にぴったり!『ドン・カルロ』のあったらいいな名盤を考えていて、エボリ:ゴール、フィリッポ:マルス、カルロ:ゲッダ、ロドリーゴ;ブラン、エリザベッタ:クレスパン、宗教裁判長:クリストフ、修道士:ソワイエ、クリュイタンス指揮パリ管オペラ座合唱団仏語全曲盤なんてあったら素敵ですよねw

・マルガレート(V.A.E.ラロ『イスの王』)2014.3.19追記
クリュイタンス指揮/ミショー、ルゲイ、ボルテール、マルス共演/フランス国立放送管弦楽団&合唱団/1957年録音
>マイナーですが、意外といい音源がある作品です。何と言ってもゴールのマルガレートが魅力的。このひとはアムネリス何かでもそうでしたが女の嫉妬や情念を描かせると大変達者で、ここでも物語を動かしていく颱風の目として音楽面でも演劇面でも素晴らしいパフォーマンスを繰り広げています。ルゲイの仏国らしいリラックスした高音、録音の少ないボルテールの演劇的な歌唱、脇ながら堂々たるマルスなど共演も見事。クリュイタンスの指揮は言わずもがな。

・シャルロット(J.E.F.マスネー『ウェルテル』)2017.6.15追記
エチェヴリー指揮/ランス、バキエ、メスプレ、ジョヴァニネッティ、マル共演/仏放送管弦楽団&合唱団/1964年録音
>ずっと気になっていながら視聴できていなかったものを漸っと。ゴールの落ち着いた音色の声がしとやかなヒロインを作り上げています。ソプラノでも素晴らしいシャルロットを遺している歌手はたくさんいますが、この役の持つ二面性――貞淑な人妻と情念に燃える女性――をよりリアルに描けるのはメゾなのかなと改めて納得させられる歌唱です。有名なアリアも当然素晴らしいのですが、それ以上にウェルテルとの重唱の緊迫したやりとりにハッとさせられます。そのウェルテルを歌うランスがまた大変お見事!この役こそがこの演目の軸であることをはっきり感じさせる情熱的で優美な歌です。アルベールのバキエもまた立派で巧いんですが、この役にしてはちょっと迫力がありすぎな印象。メスプレはここでも心の底から陽気なソフィーで華を添えています。
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