Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第三十夜/妙なる笛の音~

キリ番第十回では“合唱”、第廿回では“黙役”という風に、普段と違う中身でお送りした訳ですが、今回も同じくちょっと違った趣向で、フルートの活躍するオペラの名曲をご紹介しましょう。

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オペラというと注目されるのは歌手だったり指揮者だったり演出家だったりで、楽器はいまひとつ語られませんが、重要な役割を担っています。

・タミーノのアリア“妙なる笛の音”(W.A.モーツァルト『魔笛』)

まずはフルートと言えばこの演目は外せないでしょう笑。
尤も、フルートがそのものずばり題名に入っている割には、このオペラの中での魔笛の扱いってかなり微妙な訳ですが(^^;そうは言っても、この場面をはじめとして、いくつかの場面で王子タミーノの身を守り、また鳥刺し男パパゲーノとの連絡のために掛け合いに登場するのですから、地味な存在ではないです。
この場面ではタミーノがゲットしたアイテム“魔笛”が、真価を発揮し、猛獣を手名づけます。後半ではパパゲーノの笛(ピッコロ)が登場し、主従はお互いに笛で連絡を取り合います。

フルートはかなり出自の古い楽器ですし、やはり小さいことなどが影響してか、実は『魔笛』以外の作品でも重要なアイテムとして活躍しています。

・3重唱“ああ、聞いてよお母さん!”(A.C.アダン『鬪牛士』)

これ、ちょっと変わり種の曲で、モーツァルトのきらきら星変奏曲をベースに違う曲に仕立て直しています。この『鬪牛士』というオペラは題名からは考えられないぐらいコンパクトでお洒落な作品で、ヒロインのオペラ歌手役のソプラノとその愛人のフルート吹きのテノール、ヒロインの夫の退職した鬪牛士のバリトンの3人の喜劇です。テノール役はフルート吹きなので、テノールのアリアの途中でフルートが結構遊んでたりします^^劇中ではフルートを吹くテノールや、コントラバスの真似をするバリトンが手三味線で入る愉快な3重唱になります。
けど、実際フルート吹けないテノールはここでの吹き真似は結構練習しないとあかんのではなかろうか…ww

続いて登場するのは、楽譜上はフルートは伴奏なんだと思うんだけど、思い切ってソリストが舞台に乗っちゃった、とんでもない演目(笑)

・シドニー卿のアリア“空しくも心から矢を引き抜かんとするが”(G.ロッシーニ『ランスへの旅』)

ロッシーニの作品では結構管楽器が重要なソロを取って歌と絡んでいくものが多いんだけど、そのなかでもこれはピカイチ。『ランスへの旅』自体は歌合戦的な作品で、殆ど話の中身なんかありゃしないんだけど、演出によると、このフルートの激しいながらも物憂い旋律がシドニー卿の戀の想いを悔しいぐらいにうまく表現しているのが浮き彫りになる。歌それ自体と同様にこのフルートはシドニー卿そのものだし、だからこそここでのフルート奏者がシドニー卿の影として振舞うことの意味があるのだと思う。

他にもフルートは、その細くてどこか不安定な響きが登場人物の精神的なやばさを表すのにうってつけなのか、所謂狂乱の場とかでもよくソロで登場します。極めつけがこれ。

・ルチアの狂乱の場“香炉はくゆり”(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)

ここでフルートが入ってくるとぐっとルチアがこの世ならぬ感じになってきていいところではあるんですが、実はここの部分にはいろいろ裏話が。
ドニゼッティはそもそもこの部分フルートではなく、グラスハーモニカを使いたかったらしいのです。ところが、実際問題として、当時のグラスハーモニカの音では小さすぎて劇場での演奏に適せず、フルートにしたのだとか。最近ではグラスハーモニカでの演奏の録音も増えてきましたし、私自身実演で接しましたが、確かにルチアのやばい感じはフルート以上に出てる気がします。音程が不安定だし。
またここでの一番の聴きどころとされるソプラノとフルートの掛け合い、そもそもドニゼッティの書いた楽譜にはなく、劇場とプリマドンナたちの手によって築かれてきた慣例だということです。こういうの、純音楽の人たちからするとものすごく気に喰わないところなのかもしれませんが、一方でそれがオペラというものだし、こういう慣例を全部が全部無くしてしまった演奏というのも、それはそれで寂しいものがあるのもまた事実なんですよね(^^;

最後に一つ、ソロで入る訳ではないけれども、刺身のつま的に効果を上げているものを。

・騎士長の場“ドン・ジョヴァンニよ、晩餐に招かれたので参った”(W.A.モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』)

クレンペラー盤を聴くとよくわかると思います。モーツァルトの傑作であるこの作品の中でもハイライトというべき大詰めの場面、ドン・ジョヴァンニが刺殺した騎士長の亡霊が、彼の晩餐にやってくるところ。最後には、さしものジョヴァンニも地獄に引きずり込まれるのだけれども、まさにその地獄に堕ちる部分、急き立てるようなフルートの細かな動きが入ってきます。クレンペラー指揮の演奏では、特にこの部分を目立たせて、事態の切迫感を出していて、聴いていてぞくぞくするほどです。ソロ楽器としてのイメージの強いフルートですが、オペラのなかでは結構こういった地味な形でも舞台を盛り立てていっている、という一例です。

さて、フルートが出てくるオペラの曲をとりあえず紹介しましたってだけになってしまった感も否めないですが(^^;、とりあえず今日はこんなところで。
次回からはバリバリバスバリを紹介していこうと思います。
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