Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

オペラなひと♪千夜一夜 ~第三十一夜/ヴェルディ・バリトンの鑑~

以前宣言したとおり、というかバスとバリトンに書きたい人があまりにも偏っているので、縛りをかけて書くのやめます(笑)

長いこと書きたかったこの人のことを。

Cappuccilli2.jpg
Simon Boccanegra

ピエロ・カプッチッリ
(Piero Cappuccilli)
1929~2005
Baritone
Italy

この連載で最初に扱ったニコライ・ギャウロフとともに数々の名録音を残した20世紀後半最高のバリトン歌手の一人です。

後で述べますが、その名声・業績はなんといってもヴェルディでしょう。前々回扱ったフィッシャー=ディースカウが広大なレパートリー、分野で金字塔を打ち立てたのに対し、今回のカプッチッリは、実際にはドニゼッティやベッリーニなどの作品でも舞台に立っていますが、圧倒的にヴェルディの諸役において語られる人物です。それだけ彼のヴェルディが素晴らしいということと同時に、ヴェルディの作品に於いて、バリトンが重要な役どころを占めているということの証左でもありましょう。

ヴェルディを得意とするバリトンは数多くいますが、そんな中でも彼は独特のスター性を持っていると思います。同じように美声でならした、早世したバスティアニーニとも、声はなくとも藝で聴かせるゴッビとも、また現代のバリトンたちのようにより演技で魅せるというのとも違うカプッチッリのユニークな魅力は、或る意味で過渡期だからこそ誕生したものだったのかもしれないとも、個人的には思う訳ですが、その魅力は、その前後とはまた違った意味で後世に残るものだと言っていいでしょう。

まだまだ歌えるというときに交通事故に遭い、以後は殆ど活動できなくなってしまいました。何とも残念。

<ここがすごい!>
ヴェルディを歌うのには声が必要です。
それも単に美声であればいいということではありません。絶対的に力のある声である必要があります。如何に美しい声であったとしても、例えばモーツァルトやロッシーニを得意として歌っているような人がヴェルディを歌った時に、絶対的に物足りないものになってしまうのはそこの部分です。流麗ながらも、骨太で男臭い歌を情熱を持って歌う必要がある。
そういう見地に立った時に、カプッチッリという人の声は、例えばバスティアニーニなどと較べると必ずしも格の違う美声であるとは思わないのですが(や、確かに美声だけれどもww)、ものすごく力強い、逞しい声なのです。力感漲るパワフルな声はまさにヴェルディを歌うために生まれてきた、と言って障りなく、彼がヴェルディというジャンルに於いて絶対的な成功を収めたのは、彼の資質から言って当然のことだと言っていいでしょう。

次いで挙げられるのは彼の一種のカリスマ、スター性というところだと思います。先述しましたが例えば前の世代にはよりストレートな声や藝の魅力で聴かせる名手たちがいて、後の世代には演技がうんと達者な人たちがたくさんいる訳ですが、その狭間にあってカプッチッリの輝きが色褪せないのは、その舞台感覚、舞台人としてのある種の勘に於いて非常に秀でているということに負う部分も大変大きい。近年より学究的な歌手や、或いは指揮者、下手をすると演出家の専横の下に、オーケストラの楽器と同じように扱われている歌手が増えている現状の中では、なかなかこの人のようなパフォーマンスを聴くことはできなくなっていて、個人的には非常に残念です。例えば慣例で高音やカデンツァを入れるということを、最近はとみに嫌う傾向にありますが、オペラは本来劇場の中で、演奏者と観衆が両方で変化をさせていくことで醸成してきたという側面は拭えない訳で、もちろん原典回帰自体を否定する訳ではないのですが、そういう部分を全部切り捨ててしまうと、それはそれでつまらないと思うのです。話が多少ずれてしまいましたが、カプッチッリについて言えば、観衆を喜ばすことのできるパフォーマンスを、創りあげていくことのできる人であり、そこが彼の稀有な部分でもあります。
例を挙げれば枚挙に暇がありませんが、東京での伝説的な『シモン・ボッカネグラ』で“娘よ”というフレーズをpで延々と伸ばした話もそうですし、シノーポリとの『アッティラ』のエツィオのカバレッタの最後のハイBとそのアンコール、シッパーズとの『エルナーニ』の最後の高音などなど。嬉しいことに結構ライヴ録音で手に入れることができます。

更に言えば、そうしたパフォーマンスが可能なのは、逆説的ではありますがそれだけ彼の元々の歌のフォームの確かさ、歌の端正さがあるからだと言えると思います。意図的にものすごく楽譜から逸脱したりという箇所が少なくないにもかかわらず、彼の歌は非常に美しく聴こえ、そして流麗な旋律を無理なく活かしたものに聴こえます。それが何故かと言えば、それだけ彼自身が音楽をよくわかっていて、しかもきちんと歌っているということなのだと思うのです。だからこそ、彼のレパートリーとしてヴェルディの次によく挙げられるのはベッリーニやドニゼッティです。もちろんジョルダーノやプッチーニだって得意な訳ですが、ベッリーニについて言えば『清教徒』、『テンダのベアトリーチェ』を正規録音で残しているし、ライヴ録音ではそして『海賊』まで正規録音があります(『海賊』、正規録音ありましたね^^;)。ドニゼッティは『ルチア』の正規録音が2つもあります。やっぱりこうした旋律の美しさを端正な歌で引き出す必要があるベルカントものは得意な演目なのでしょう。

そうした中でも特筆すべきなのはG.F.F.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』の題名役でしょう。20世紀後半にこの作品の価値が見直されるきっかけとなったのは、指揮者としてのクラウディオ・アバドの尽力やともに精力的にこの作品を取り上げたニコライ・ギャウロフ&ミレルラ・フレーニ夫妻の活躍もさることながら、やはり題名役で名を成したカプッチッリのなしには語ることはできません。
それほどの当たり役です。

<ここは微妙かも(^^;>
さて、そんなカプッチッリですが、最前述べているようにレパートリーは広くありません。私の持っている録音でも大半が伊もの、あとは僅かに仏ものがありますが、正直仏ものはちょっと…あまりにもアツいんだよね、歌が(^^;全部イタオペに聴こえてくるwwブランとかマッサールみたいなエレガンスはちょっと無理かなあというところ。あと、最初期のモーツァルトは面白くありません(笑)マリア・カラスと共演したA.ポンキエッリ『ジョコンダ』のバルナバに抜擢されたあたりからがこのひとの本領ではないでしょうか。

何故かG.ビゼー『カルメン』のエスカミーリョを正規録音してますが、これも歌は兎も角仏語がちょっと…らしいwwっていうかそんなん録音するだったら『トスカ』(スカルピア男爵)とか『アンドレア・シェニエ』(カルロ・ジェラール)とか『マリーノ・ファリエーロ』(イズラエーレ)とか残して呉れればよかったのに。。。

<オススメ音源♪>
・シモン・ボッカネグラ(G.F.F.ヴェルディ『シモン・ボッカネグラ』)
アバド指揮/ギャウロフ、フレーニ、カレーラス、ファン=ダム、フォイアーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1977年録音
>不滅の名盤。渋い演目ではあるものの、カプッチッリと言えばこの役というべき名刺代わりの役。バリトンとバスを基調としたこのオペラは或る種ダンディズムの極致とも言うべきもので、これに嵌るとテノールとソプラノのちゃらちゃらした愛の重唱なんかどうでもよくなりますwwエネルギッシュでパワフルな藝風から一歩引きつつ、ヴェルディ的なアツさを失わないカプッチッリの業を楽しみことのできる1枚です。この作品を愛したアバドの丁寧な音楽作りに加え、カプッチッリとともにこの曲を世界中で歌ったギャウロフ&フレーニ夫妻の堂に入った演唱、脇にもカレーラスやファン=ダムを据え、死角なしといったところ^^

・マクベス(G.F.F.ヴェルディ『マクベス』)
アバド指揮/ヴァ―レット、ギャウロフ、ドミンゴ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1976年録音
ガルデッリ指揮/シャシュ、コヴァーチ共演/ブダペスト交響楽団&ハンガリー放送合唱団/1986年録音
シャイー指揮/ディミトローヴァ、ギャウロフ、リマ、市原、リドル共演/WPO、ヴィーン国立歌劇場合唱団&ソフィア国立歌劇場合唱団/1984年録音
>一般的にはアバド盤が名盤と呼ばれていて、ガルデッリ盤は影が薄いと思われます(ガルデッリは旧盤のいいし)。カプッチッリ自身の出来から言えば、時期が全く違うので全然別物としてそれぞれに長短があります。声自体で行くならば当然アバド盤でこちらもしっかり歌っているとは思いますが、ガルデッリ盤の方では声が衰えている分逆に表現が深くなっている感じがしてこれもまた棄てがたい。なんとなくマクベスにも狂気が感じられるのです。夫人の死を聞かされたところの笑いには思わずぞっとさせられます。全体には優秀なアバド盤だが、夫人が私の大嫌いなヴァーレットなので決定盤になれず、というところもあり(苦笑)ガルデッリ盤はシャシュの夫人も悪くないし、コヴァーチュとか洪国の大物が出てきてはいるんだけど、如何せんアバド盤のキャストは無敵艦隊だし、ガルデッリの音楽がなんかもたっとしてるんだよな…旧盤ではそんなことなかったのに。
(追記 2013.8.29)
1984年のLIVE盤が手に入りましたが、これは彼のマクベスとしてだけではなく、録音で聴けるマクベス役の歌唱としてベストと言っていいでしょう!スタジオ盤ではいまひとつの感があった狂乱や幻影の場面も掘り込みの深い歌唱で聴き入ってしまいます。夫人との重唱でも夫人を喰う勢い。対してアリアでの茫然とした様子や死の簡潔ながら印象に残る表現も魅力的。夫人はヴァーレットじゃないですし(笑)、というのは冗談ですがディミトローヴァは望みたいところもあるものの力強い悪声で満足できますし、リマも素晴らしい出来。市原も聴かせます。ギャウロフもいくつかある中でベストの歌唱で、やっぱりLIVEはいいなぁ!と(笑)

・ポーザ侯爵ロドリーゴ(G.F.F.ヴェルディ『ドン・カルロ』)
アバド指揮/ギャウロフ、カレーラス、フレーニ、オブラスツォヴァ、ネステレンコ、ローニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1977年録音
>知る人ぞ知る不滅の名盤。カプッチッリはいくつかロドリーゴを残しているけれどもいずれも素晴らしい記録。アツくパワフルで好感の持てる熱血漢と言う役作りを、ざっつヴェルディと言う感じで演って呉れるので嬉しくなる^^彼の恐らく長年共通の解釈だったんだと思うんだけど、フィリッポに対し「墓場の平和だ!」と叫ぶ場面は激しく崩している。これは彼だからこそ、と言う感じがするなぁ^^;共演陣もライヴの熱気がアンプ越しに伝わってきそうなアツい演奏。

・エツィオ(G.F.F.ヴェルディ『アッティラ』)
シノーポリ指揮/ギャウロフ、ザンピエリ、ヴィスコンティ共演/ウィーン国立歌劇場管弦楽団&合唱団/1980年録音
>超名盤。シノーポリを一気に有名にしたと言われるライヴで、凄まじい熱気が伝わってくる。ここでのカプッチッリは、ファンとしては悔しいがギャウロフを完全に喰って、この公演の主役になっている感がある^^;もちろんギャウロフもしっかり歌っているのだが、年齢的な衰えも出てきて割と渋く纏めている感がある。それに対しプロローグの重唱からテンション高く鬪いを挑みに行くし、カバレッタでは輝かしいハイB(!)を出して大喝采を受け、アンコールに応えてもう一発ハイBを出している。何度聴いてもこれには参ってしまう。

・西国王ドン・カルロ(G.F.F.ヴェルディ『エルナーニ』)
デ=ファブリツィース指揮/コレッリ、リガブーエ、R.ライモンディ共演/アレーナ・ディ=ヴェローナ管弦楽団&合唱団/1972年録音
>音質は最悪ではありますが、これもまた貴重な記録。ここでも有名なアリア“若き日の夢よ、幻影よ”の最後は譜面にない高音で〆ており、観衆の大声援を受けています。ちなみに、ヴェルディの作品ではマイナーですが、このアリア私大好きなんですよ^^ 共演もコレッリの濃ゆいエルナーニをはじめ、録音の少ないリガブーエの歌唱も悪くないし、R.ライモンディもこの役には少し若々しすぎるかもしれないですが美声で風格もあっていいと思います。

・ナブッコ(G.F.F.ヴェルディ『ナブッコ』)
シノーポリ指揮/ディミトローヴァ、ネステレンコ、ドミンゴ、ヴァレンティーニ=テッラーニ、ポップ共演/ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団&合唱団/1982年録音
>これも超名盤。この役を語る上でもカプッチッリは稀有の存在です。物語の中でかなりの浮き沈みがあり、様々な表情を見せなければならない難役ナブッコを、これだけの美声で風格たっぷりに、その上熱に浮かされたかのようなアツさを以て歌われた日にゃあ文句なんてありません。私の中でのベスト・ナブッコはこの人だと言って憚りません。シノーポリの指揮も音楽の熱気を伝えているし、ディミトローヴァの豪快でパワー漲る隈取のアビガイッレ、轟然としかし品位を以て高僧ザッカリアを演じるネステレンコの力強さ、脇役に嬉しいドミンゴにヴァレンティーニ=テッラーニにポップ、一度は聴くべき『ナブッコ』でしょう。

・アシュトン卿エンリーコ(G.ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』)
シッパーズ指揮/シルズ、ベルゴンツィ、ディアス共演/LPO&アンブロジアン・オペラ合唱団/1970年録音
>これもかなり優秀な演奏だと思うが、何故だかいまいち言及されない。カプッチッリのこの役はカラスと共演したデビュー盤が有名だが、全ての面でそれよりもうんと成熟した演奏。見果てぬ夢だがこのころの彼とカラスが対決したらさぞかしすごかったんだろうな(^^;迫力とパワーの溢れる伊国らしい声で序盤のアリアから聴かせるし、ルチアを屈服させる重唱も素晴らしいが、通例カットになることの多いエドガルドとの決鬪の場面がベルゴンツィのスタイリッシュな歌とともに楽しめるのは嬉しい。

・リッカルド・フォルト(V.ベッリーニ『清教徒』)
ボニング指揮/サザランド、パヴァロッティ、ギャウロフ共演/LSO&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1973年録音
>不滅の名盤。ギャウロフのところでもパヴァロッティのところでもべた褒めした録音だけど、ここでも改めてべた褒めしたくなる録音(笑)カプッチッリも1幕のカバレッタでこそ今の耳からするとちょっとひやっとするところがあるが、それでも全編これだけドラマティックに、そしてスタイリッシュに歌われるリッカルドにはなかなかお耳にかかれない。特に2幕終わりのギャウロフとの力強い重唱の素晴らしさは比類なく、未だにこの曲の最高の演唱だろう。ここで出てきた録音全般に言えるがカプッチッリとギャウロフのコンビは無敵だ(笑)

・レナート(G.ヴェルディ『仮面舞踏会』)2013.1.21追記
ムーティ指揮/ドミンゴ、アローヨ、コッソット、グリスト、ハウウェル、ヴァン=アラン共演/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団&コヴェント・ガーデン王立歌劇場合唱団/1975年録音
>不滅の名盤。カプッチッリは登場のアリアからいきなり漢っぷりがよくて、先の悲劇を知っていると思いっきり彼に肩入れして聴いてしまいます(笑)ひたすらダンディでかっちょいいからこそ、裏切られたと思ったところでのレナートの怒りにものすごい説得力が感じられる訳です。これでリッカルドがへっぽこだったらよっぽど主役がレナートになってしまうところですが、ドミンゴがまたかっこいいんだー!(^^)彼の最良の録音じゃないだろうか。知性的な歌の虜になります。そしてアローヨのこってりした美声による濃厚なアメーリア、チャーミングであるだけでなく何となく若さゆえの軽薄ささえも感じられる巧すぎるグリスト、脇をびしっと〆るハウウェルとヴァン=アランも素敵だし、ムーティの音楽作りも冴えてる。コッソットは迫力は兎も角もっとドロドロしてた方がいいような気がするけど、十分立派。この作品を聴く上で必須の録音でしょう。

・リゴレット(G.F.F.ヴェルディ『リゴレット』)2014.7.3追記
パタネ指揮/アラガル、グリエルミ、アリエ、フォイアーニ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1970年録音
>リゴレットと言う役が彼に合っているのかという問題はさておき、恐らくカプッチッリが遺したこの役では最高の演奏。音質こそひどいのですが、ジュリーニとのスタジオ録音などと較べても圧倒的にのった歌唱を繰り広げています。まあ、パワフルで気迫の籠ったパフォーマンスで、アリアはもちろん復讐を叫ぶ重唱の圧倒的なこと!伊ものの楽しみを存分に味わえます。そしてアラガルがまた脂がのっており、こちらもスタジオ録音よりうんといい歌唱。この人もいま一つ大成しなかった感はあるのですが、ここでの歌唱は非常に立派。アリエも渋い存在感で登場の重唱など不気味でいいのですが、オケが鳴り過ぎで嵐の場が楽しみ切れず残念(というかこの録音全般にオケがあまりにも煩いので、カプッチッリを除くと歌唱陣かなり潰されてますね^^;)。グリエルミが不調なのも残念。とはいえ、カプッチッリですよカプッチッリ笑。

・フランチェスコ・フォスカリ(G.F.F.ヴェルディ『2人のフォスカリ』)2014.10.16追記
ガルデッリ指揮/カレーラス、リッチャレッリ、レイミー共演/墺放送交響楽団&合唱団/1976年録音
>この作品を知るためには、まず聴いておきたい名演だと思います。特にカプッチッリの大芝居が素晴らしい。この役は後のシモンに繋がって行く重要なものなので、シモンの再評価に一役買った彼の演唱を聴くことができるのは非常に嬉しいところです。何と言っても終幕のアリア!大見栄切った主役然とした歌いぶりが気持ちいいです。指揮と共演陣も魅力的で、特にカレーラスがいい。

・フランチェスコ(G.F.F.ヴェルディ『群盗』)2014.10.16追記
ガルデッリ指揮/ベルゴンツィ、カバリエ、R.ライモンディ共演/ニュー・フィルハーモニー管弦楽団 & アンブロジアン・オペラ合唱団/1974年録音
>兎角評判の良くない作品ではありますが、これだけ人が揃うと結構楽しめます。ヴェルディの筆にはまだ甘いところも多いとは言え、後のイァーゴへと繋がって行く悪の権化フランチェスコを、絶妙な歌い口で演じています。たっぷりと歌うところも悪い筈がありませんが、それ以上に乾いた声芝居にこのキャラクターの人間性が垣間見えるあたりが心憎い。演奏全体としては、熱気には欠けるところもありますが、平均点は高いです。

・ドン・カルロ・ディ=ヴァルガス(G.F.F.ヴェルディ『運命の力』)2014.10.16追記
パタネ指揮/カレーラス、カバリエ、ギャウロフ、ナーヴェ、ブルスカンティーニ、デ=パルマ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1978年録音
>よくこんなものの記録が残っていたなあと唸りたくなる名盤。僕は録音を聴いただけですが、映像も残っています。カプッチッリはスタジオ録音も別にあるのですが、やはりライヴの人。熱血ということばがピタリとはまるパワフルな歌唱で、聴衆を虜にしています。この時代のライヴなのに通常カットされる第1の決闘もちゃんと演奏して呉れているのがまた嬉しいところで、カレーラスとカプッチッリの強烈な対決を楽しむことができます。“天使のような”カバリエの美声、重厚感あるギャウロフに、ブルスカンティーニはじめ優秀な脇役陣をパタネが巧く統率し、ミトロプロス指揮の演奏と並ぶ『運命の力』の名ライヴになっています。

・ノッティンガム公爵(G.ドニゼッティ『ロベルト・デヴリュー』)2014.10.16追記
ロッシ指揮/ゲンジェル、ボンディーノ、ロータ共演/ナポリ・サン・カルロ劇場管弦楽団&合唱団/1964年録音
>カットこそ多いものの本作の随一の演奏、伊ものの至宝のひとつと言うべき超名盤でしょう。カプッチッリは第一声から堂々たる歌声!それだけで並みの歌手との格の違いを感じさせる貫禄があるのですが、続くアリアがまた立派なものです。優美なのですがいまどきのドニゼッティの演奏にはないドラマティックでヴェルディ的な、骨太の歌。ベル・カントとしては現代の方が正しいのでしょうが、こうした歌手の力瘤を感じるような歌唱もまた刺激的でいいなあと思います。彼の藝風のためかレナート(G.F.F.ヴェルディ『仮面舞踏会』)を思い出したりもしました。ロッシの力強く盛り上げる棒や、ボンディーノの粗削りながらロブストな歌唱も見事ですが、何よりかによりゲンジェルです!これは海賊盤の女王最高の名演のひとつと言っていいと思います。カプッチッリと彼女の直接対決は、まさに伊的熱狂の音楽で、伊ものファンなら絶対聴き逃せない代物です。

・イァーゴ(G.F.F.ヴェルディ『オテロ』)2015.12.18追記
C.クライバー指揮/ドミンゴ、フレーニ、チャンネッラ、ローニ、ラッファンティ、ジョーリ共演/ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団/1976年録音
>言わずと知れた不滅の名盤。指揮者以下全ての出演者が上演に没入し、完全燃焼した凄まじい公演。イァーゴといえばゴッビやカペッキのイメージが強かったのですが、ここでのカプッチッリは彼らをも凌ぐと言っていい、圧倒的な迫力。ギラギラするぐらいの悪の魅力にノックアウトされてしまうこと請け合いです。有名な信条は最早悪魔そのものと言っていいような強烈な歌ですし、夢の歌などの静かなところでも表情豊かな弱音を聴かせていて実に憎々しい!逆にエネルギッシュになり過ぎて声が割れている箇所も少なからずなのですが、それすらむしろリアルに感じられるほどの鬼気迫る歌。そしてあの2幕の重唱の〆をオクターヴ上げ、何とドミンゴと同じ音で聴かせてしまっています!あなおそろしや(笑)ドミンゴも数あるオテロの中でも最高の、ほれぼれするような歌いぶりですし、フレーニは歌がうま過ぎwデズデモナにはスケールが小さいのではなんて杞憂でした。各脇役陣もこれ以上はなかなか考えられない出来。そしてカルロス・クライバー!!指揮よりも歌でオペラを聴きがちな私ですら、これは凄まじいと思います!何と言う熱狂!何と言う壮麗!ヴェルディ・ファンならば座右に置きたい最高の『オテロ』のひとつです。
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