Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

アバド盤『マクベス』~ギャウロフを聴く/その2~

ギャウロフを改めて聴いてみようというシリーズの第2弾。
の、つもりだったんだけど普通に『マクベス』に嵌っていろいろ聴いてしまったww

アバド旧盤『マクベス』。
(なお、この記事を書くにあたって、フィッシャー=ディースカウ主演のガルデッリ旧盤(1971)とカプッチッリ主演のガルデッリ新盤(1986)、タッデイ主演のシッパーズ盤(1964)、ミルンズ主演のムーティ盤(1976)、ウォーレン主演ラインスドルフ盤(1959)、グェルフィ主演のガヴァッツェーニのライヴ盤(1968)、堀内主演のサッカーニのライヴ盤(2009)、ヌッチ主演のシャイー盤(1986)も併せて鑑賞しました。カラスの出ているヴォットー盤は、ちょっと鑑賞以前の音質だなと思ってスルーしました…私はカラス教徒ではないので。)

G.F.F.ヴェルディ『マクベス』(1976)
マクベス/ピエロ・カプッチッリ
マクベス夫人/シャーリー・ヴァ―レット
バンクォー/ニコライ・ギャウロフ
マクダフ/プラシド・ドミンゴ

クラウディオ・アバド指揮
ミラノ・スカラ座合唱団&管弦楽団

ギャウロフが出ている全曲盤は2種類。
今回のガルデッリ旧盤をメインにしようかアバド盤をメインにしようかっていうのは、結構悩むところではあって。ギャウロフについて言えばどちらもいいところがあるし、音源全体としてもそれぞれ趣味に合うところ合わないところがあるし…総合的に判断して、ギャウロフの出来がいい方を。

まずギャウロフについて言えば、ガルデッリ盤の方が若干早い時期だということもあってか、声にゆとりがあるように思います。ギャウロフはキャリア自体も結構長いし、いい録音がたくさんあるのですが、実質的な声のピーク自体はあまり長くないと思っていて、名盤と言われているものには、その圧倒的な表現力、歌の巧さで聴かせている部分が少なからずあると、個人的には捉えています。
録音年にして僅か5年の差ですが、声そのものを俎上に取るならガルデッリです。但し、バンクォーについてはドン・ジョヴァンニのように色気の欲しい役という訳ではないので、声の色艶が多少落ちていると言ってもアバド盤が、ものすごく聴き劣りするという印象はありません。渋さを買うならアバド盤でしょう。
あとは指揮者の趣味か。ガルデッリは結構サクサクとしたテンポ感のイタオペっぽい音楽作り、一方のアバドはゆっくりじっくりテンポを取り、不気味な雰囲気。個人的にはこのアバドの不気味な音楽作りが大変冴えていると思います。その不吉な空気を感じながら、不安に駆られて歌うと言う感じをギャウロフは非常に良く出している。ガルデッリも悪くないんだけど、ちょっと拙速な感じがしてしまうのよね。

いずれについても、この演目ではギャウロフは基本的に脇に徹しているという印象。もちろん結構重要な役どころではありますから、しっかりと存在感は示しているのですが、あまり前に出ることは、敢えてしていません。
アリアでは朗々と歌うというよりは、不吉な予感を訥々と語り出す感じ。ヴェルディ自身はこの部分をアリアとはせず、グラン・シェーナとしている筈なので、アプローチとしてはそういう方が良いのかもしれません。

聴き比べた中では、R.ライモンディ(ムーティ盤)が、特にアリアで不気味な雰囲気をよく出しており、好みでした。場合によってはギャウロフよりも好きかも知れません。レイミー(シャイー盤)はいまいちヴェルディに合わない気がしている歌手ではありますが、独特の品格があり、マクベスに危機感を抱かせるバンクォーという意味ではありなのかも。ハインズ(ラインスドルフ盤)、風格があっていいのですが、もう一つパンチが欲しい。フォイアーニ(シッパーズ盤)、ガエターニ(ガヴァッツェーニ盤)、コヴァーチ(ガルデッリ新盤)は、それぞれいいところはあるものの、もう一声というところ。タノヴィツキ(サッカーニ盤)は魅力薄。
総合するとギャウロフかR.ライモンディか。

当たり障りのなさそうなところから他の役の比較しよう(笑)マクダフのドミンゴ(アバド盤)はとてもいいのですが声がゴージャス過ぎてまるで主役なのが玉に瑕でしょうか(苦笑)や、この声でこの出来で文句を言う方がおかしいのはわかってますが^^;パヴァロッティは、声質的に必ずしもベストな役柄という訳ではなさそうですが、この録音のころの彼は何を歌っても一定以上の感動を与えてくれるぐらいの美声を誇った時期ですから不満はありません。とはいうものの三大テノールでは結局カレーラス(ムーティ盤)が一番適性に合った仕事と言えそうです。ベルゴンツィ(ラインスドルフ盤)はスタイリッシュな歌がたまりません。端正なイタリア・オペラを聴きたければやはりベルゴンツィでしょう。録音の少ない名テノール、プレヴェーディもいい仕事をしています。ヴェルディの旋律にはこういうイケメン声は栄えます。日本では人気のあまりないルケッティ(シャイー盤)やキシュ(サッカーニ盤)、無名と言って良いケレン(ガルデッリ新盤)もそれぞれにいい仕事していますが、カセッラート=ランベルティ(ガヴァッツェーニ盤)は声が軽すぎかなぁ…。
大きくない役だというのもあるでしょうが、マクダフは比較的趣味で選べる感じ。

指揮も結構古今の名匠が振っている感じなので、選べるところではあるのではないかと。イタオペわかってんなぁと思うのはやっぱりムーティやシャイー。アバドは所謂イタオペっぽい演奏だとは思わないんだけど、丁寧な仕事ぶりでこの悲劇を不気味に仕上げていて良い。シッパーズとガヴァッツェーニは演奏自体はカッコいいんだけどカットが多いのが(泣)ラインスドルフは中庸の美、サッカーニは印象薄。ガルデッリは旧盤ではなかなか引き締まったいい仕事なんだけど、新盤はなんかたるんじゃった感じで今一つ。

問題はこっからで、まずは陰の主役たるマクベス夫人。
音楽的に大変厄介な役どころというだけでなく、ただ綺麗に歌ったんじゃ全然つまんなくて、そこに例えば迫力だったり狂気だったりそういう付加価値がつかないといけない。そしてこの役ががっかりだと、全体ががっかりになってしまうという(苦笑)ベストはカラスだという人も多くいるんですが…あの音質ではちょっと判断しかねます。
今回のアバド盤のネックがそこで、個人的にはまずヴァーレットの声が魅力的なものとは思えないし、この役でどうしても欲しい迫力、それも低音域での凄味に不足している気がします。アバド盤が決定盤と言えない理由がここ(^^;シャイー盤も同じくヴァーレットが夫人なのでパス。ニルソン(シッパーズ盤)、リザネク(ラインスドルフ盤)はなんか方向性が違うし、コッソット(ムーティ盤)は意外と迫力がない。大熱演のゲンジェル(ガヴァッツェーニ盤)はかなりいいんだけど後半息切れしているし、ルカーチ(サッカーニ盤)も凄い迫力には瞠目するもののこちらは前半の音程が不安定。シャシュ(ガルデッリ新盤)はそういう意味では総合的に見ていい出来だと思った訳ですが、それよりも頭一つ分前に出ているのが、ガルデッリ旧盤のスリオティス。彼女は一瞬で消えてしまった人ではあるけれど、ここでの夫人は蓋し希代の名演と言うべきもの。若干技術の甘さはあるけれども、これだけの声で、これだけの迫力で歌われれば文句はまずありません。

ガルデッリ旧盤で実は一番ネックになってくるのが、主役のマクベスを歌うフィッシャー=ディースカウ大先生(^^;やー、まーイタオペじゃないんだ、このひと。他のヴェルディ作品だったらちょっとご遠慮願いたいと思うところ。ただこのマクベスという役は、ヴェルディのバリトン役の中でもちょっと異質で、かなり心理劇的役どころということもあり、フィッシャー=ディースカウのちょっと練りすぎなんじゃないかというような歌唱でも納得できるところではあるのです。狂乱の場面や幻影の場面に関しては、或る意味で伊系のバリトンよりも真に迫ったものになっているように思います。ただ、声はまったく伊的でないので、そこの違和感は拭えない(苦笑)
やっぱりいいのはアバド盤及びガルデッリ新盤のカプッチッリです。決定的に伊系の声だし、いかにもヴェルディらしいこの役で彼が悪かろうはずがない、というところ。声自体はやはりアバド盤の方がうんといいですが、キャリアを積んでからのガルデッリ新盤ではより掘り下げた表現を楽しむことができます。特にガルデッリ新盤のアリアの後の凄まじい笑いは、一聴の価値ありです。独白などはどちらもそれぞれの味わいがあります。ただ、意外と狂乱や幻影の場面はちょっと間延びしてしまっている気がして、こちらはフィッシャー=ディースカウの方がむしろ好きだったり。伊系の人たちは何故か全体に狂乱の場面や幻影の場面がいまひとつだったりする。
そういう意味では日本を代表するバリトン堀内(サッカーニ盤)は、かなりいい線行ってると思います。声はフィッシャー=ディースカウよりうんと伊的だし、狂乱や幻影の場面は、伊系のバリトンよりも良い。こういう歌手が日本にいるというのは誇るべきことでしょう。
同じような路線で期待したヌッチ(シャイー盤)は、そういう意味では思ったよりおとなしくてちょっと期待外れ。十分水準以上だし、よく練られた役作りだし、例えば独白なんかは素晴らしいんですが…ライヴが聴いてみたい。ヌッチと近い気がするのはミルンズ(ムーティ盤)。どちらも「気弱なマクベス」として一本筋が通っていて、悪くないですが、個人的には「武将マクベス」という面も欲しいところ。そういう意味では剛毅極まるグェルフィ(ガヴァッツェーニ盤)や、男気あるタッデイ(シッパーズ盤)の方が好みです。特にグェルフィは、狂乱や幻影も良かったしアリアもカッコいいしで、なんで正規録音しなかったんだろうという感じ。ウォーレン(ラインスドルフ盤)はちょっとこの中だと役作りが単調なような気もしなくはないですが、マクベスの悲哀みたいなのは出ていて悪くはありません。特にマクベスの死(通常カットする曲で、あと歌ってるのはアバド盤のカプッチッリのみ)は絶品。なんでアリアの最後をオクターヴ挙げたのか謎ですがwww

以上のように全体を見渡した時に、一番平均点が高いのはガルデッリ旧盤なような気がしますが、ギャウロフに限って見るとアバド盤の方がいいかなと思う訳です(笑)
ギャウロフのファン的には彼の美声と脇に回った魅力が楽しめる録音で、お勧めできます。


(2013.1.14追記)
と、書いていた訳だけれども、ついに私自身としてはベストと思えるマクベスに巡り逢えました!ムーティ指揮ブルゾン、スコット、ロイド、シコフ、ティアーの1981年ロンドンLIVE盤で、総合点はダントツでこれだと思います。もちろん断片的には他盤の凄さを思うところ(ガルデッリ新盤のカプッチッリのアリアとか)もなくはありませんが、これは本当に素晴らしい!あくまで歌うところに徹しながらも緊張感ある表情を見せるブルゾン、鬼気迫るスコット、不吉な雰囲気を醸し出すロイドにちょっと哭き過ぎながらも哀感あるシコフ、勿体ないぐらいのティアーと気合の入ったムーティ。これは大ブラヴィ!!!

(2013.8.29更に追記)
カプッチッリ&ギャウロフが歌っていて、夫人がヴァーレットではないと言うなんとも俺得な音源を入手しました!夫人はディミトローヴァ、マクダフはリマ、マルコムは市原、医者にリドル(!)、シャイー指揮1984年のザルツブルクLIVEです。微妙な欠落があったりLIVEらしい疵もあるのですが、これは楽しめます!
まずギャウロフですが上記2盤より出来がいいと思います。アバド盤よりだいぶ後ですが声の衰えがあまり感じられませんし、表現はもちろん深い。バンクォーは悪役でも不気味キャラでもありませんが、悲劇の人らしい不吉な雰囲気が欲しいところで、そこも文句なし。LIVEらしい脂の乗った歌で素晴らしいです。
リマのマクダフも上記の諸テノールと比べても遜色ない、或いはベストと言ってもいい出来だと思います。力強いけれども重くないスピンとが心地いい。マルコムの市原もリマに負けておらず嬉しいところ。
ディミトローヴァの夫人は欲を言えばきりがないですが個人的には悪くないと思います。もちろんもっとニュアンスをつけて欲しいと思うところはありますが、やはり彼女の持ち味である力強い濁声と隈取りのキャラづくりはこういう異形の人物にはピタッと来ますね^^
カプッチッリのマクベスも彼の中ではベスト、というか僕の聴いたマクベスの中で最高の出来だと思います。これはすごい歌唱!独白での凄まじい迫力はそれぞれ面白かったスタジオの2つを超えるものだし、狂乱、幻影の場面に至ってはスタジオの比ではありません!夫人とのふたつの重唱ではディミトローヴァすら喰ってしまっている強烈な歌唱。対してアリアでの茫然とした雰囲気(ここはガルデッリ新盤とは違うアプローチと思います)、死での直截な表現など出てくるところ全てが聴きどころ。聴きたかったマクベスはこれだ!という感じです。

(2014.11.17またしても追記)
もうなんかギャウロフのことを語る本筋からずれまくっていますが、新たに手に入れた音源から、マクベスでゴッビの話をしないのはあまりにも片手落ちと思いますので(笑)
予想通りと言えば予想どおりなのですが、やはり伊国の演技派の代表とも言うべき人らしく、非常に性格的な役作り。こういうのをやらせると彼の右に出るものはいないと言う感じで、イメージどおりのマクベスを演じて呉れています。何故かアリアがカットされていますが、独白、狂乱、幻影など抜群の満足感。モリナーリ=プラデッリの穏健な指揮、ロビンソンのバンクォー、タープのマクダフ、そしていい感じに汚らしい合唱など平均点は高いです。惜しむらくは夫人のシャードがいまいちなこと。ここが決まればベストになりえるのですが。
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