Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

ヴァルヴィーゾ盤『セビリャの理髪師』~ギャウロフを聴く/その3~

ギャウロフを聴くシリーズの第3弾(っていうかいろいろシリーズ作ってるけど、むしろそろそろそれぞれの目次がいるんじゃないかと言う気もしてきたぞ汗)

今回はヴァルヴィーゾ盤の『セビリャの理髪師』。
で、いろいろと聴き比べもしてみたんだけど、聴き過ぎて全部書き出すとエラい騒ぎになるのでやめます(^^;
一応ちまちま比較では出しますが。

G.ロッシーニ『セビリャの理髪師』(1965)
アルマヴィーヴァ伯爵/ウーゴ・ベネッリ
フィガロ/マヌエル・アウセンシ
ロジーナ/テレサ・ベルガンサ
ドン・バルトロ/フェルナンド・コレナ
ドン・バジリオ/ニコライ・ギャウロフ
ベルタ/ステファニア・マラグー

シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮
ナポリ・ロッシーニ合唱団&管弦楽団

ギャウロフが出ているものは私が把握している範囲で音源が3種と映像が1種ですが、私が今回聴いたのはいずれも音源で、大体同じぐらいの時期であるサンティーニ指揮のライヴ盤(1964)と最晩年のヴィオッティ指揮のこれもライヴ盤(2003)。
最晩年のものは流石に声の衰えが感じられるし(って言ってもトンデモナイ存在感だけど笑)、サンティーニ盤はライヴの良さもあるものの、ちょっと時代がかっているので今回はヴァルヴィーゾ盤を中心に。

いずれの録音でも共通して言える部分であり、かつ私の好みに合っていると感じるのは、ギャウロフのバジリオの役作り。いやぁこれぐらいオーバーにやってくれる方がバジリオはやっぱり面白いよねww
超有名なアリアがあったりするのでつい誤解してしまうのだけれども、バジリオの登場場面って実は意外と多くないんですよね(^^;ただ、そこで彼の影が薄くなってしまうとこのオペラ自体の面白みも少なからず減退してしまう。というかこの話自体、主要な5人が拮抗していないといけない演目だと思うのですよ。劇としての基本的な構造として、必死の自分の問題に立ち向かう伯爵&ロジーナvsバルトロの対立があり、そこから一歩退いた言わば第三者として自分が儲けることを考えて策を弄するフィガロとバジリオという格好だと思うので、バジリオが力量不足で印象に残らないと、相対的にフィガロの印象も弱まってしまうと思うのです。
となると、その少ない登場場面でもフィガロと対立しうるぐらいのインパクトが欲しい。
一つの解決法がギャウロフのような、超大袈裟なバジリオではないかと。

ご存じのとおりそもそもギャウロフはアジリタや早口を駆使するロッシーニの諸役で名を成した人ではないし、バジリオの楽譜自体もそういう楽譜ではない(バルトロとは違う)。だから、彼がバジリオ役でものすごくオーバーにしているのは強弱です。特にfの指定があるところには、あんたいったいどれだけfつければ気が済むのよというような大声量でぶちかまして呉れます。これがまぁ、痛快なんだわ(笑)嵌まると他のバジリオはなんだかちょっとお上品に聴こえたり、パンチ不足に聴こえたりする。それぐらいの豪快さです。
だから、或る意味その役作りのエッセンスはバジリオ最大の見せ場であるアリア“陰口はそよ風のように”に凝縮されてると言って良いかもしれません。ここでのアリアは本当に素晴らしい!
加えて言葉の扱いの巧さ。これはドン・ジョヴァンニでも同じようなことを感じましたが、レチタティーヴォ一つとってみてもバジリオの表情がにじみ出てくるかのようです。こういうところを聴くと、意外とこの人、もっと喜劇をやってもよかったんじゃないかと言う気もしてきます(笑)
今回取り上げる録音は、流石に声が非常に若々しい!
第1回で述べたあのドン・ジョヴァンニよりも更に1年前の録音だからさもありなん、というところではありますが(笑)オーバーな演技に腹を抱え、一方で滴るような美声には感服してしまいます。総合的に見ると、彼のバジリオ録音の中でも最も出来がいいものではないかと思います。
サンティーニのライヴ盤。声は若々しいしライヴのノリもあるんだけど、如何せんちょっと音楽が古めかしい。見せ場のアリアの調も変えてあるし、最低音は避けてるし。けれど、2幕の5重唱は本当に凄まじいので、セビリャ好きとギャウロフ・ファンには一聴の価値ありです。こんなとんでもない「ぶぉおおおおおおなせええええら!」は、今回取り上げた録音もそうですし、他でも聴いたことがありません。これを聴くためにあると言ってもいい(笑)
ヴィオッティのライヴ盤はやはり最晩年の記録(彼は2004年になくなっていますが、これは2003年の録音)としての貴重さが一番に来るのかな。声自体は流石にだいぶ衰えていて、上記2つの録音と較べると声の魅力・瑞々しさは望めませんが、その老獪ともいえる存在感は、逆に上記いずれの録音とも異なる魅力と言えるでしょう。特筆すべきは声量。マイクの位置もあるのかもしれませんが、出演者で一番デカい声で、バジリオの動きがとてもよくわかりますwww考えてみればバジリオは、彼のデビューの役でもあるので、彼が一番長い間歌った役とも言えそうですね。

ギャウロフ以外のバジリオもいろいろ聴きましたが、印象に残っているのはまずはレイミー(ロペス=コボス盤)。やっぱりロッシーニ・ルネサンスで大活躍した彼だけあって、歌はバチッと決まるし、彼のちょっと冷たい感じが、なんともいえずバジリオの存在感に繋がっていていい。役作りで言えば定評あるモンタルソロ(アバド旧盤)がやはり秀逸で、如何にもせせこましくてけち臭い感じのバジリオは、或る意味定番っちゃ定番なんだけど、これだけ大見得切って定番ができるのは才能でしょうね^^役作りのコミカルさで行くと米国の名バス、ジョルジョ・トッツィ(ラインスドルフ盤)、F.フルラネット(アバド東京LIVE盤)も楽しくて素敵です。ギャウロフと同じくオーバー路線が成功してるシグムントソン(マルティネス盤)、ブルチュラーゼ(パタネ盤)も良かった。特にブルチュラーゼは予想外の超高音が出てきて思わず笑ってしまいます。
(以下2013.1.10追記)ロッシ=レメーニ(セラフィン盤及びデ=サバタ盤)も同様のオーバー路線、というかひたすら悪乗りのような気もしてきますが、キャラが立っていて個人的にはありだと思います(笑)盛大に暴れているものの、音楽自体をぶっ壊してはいないしね^^

総合してこの盤を押したくなるのは、共演の良さにもあります。

特にバルトロのコレナ!これはまさに秀逸の一言です!
ギャウロフの出ているほかの録音ではいずれもバルトロが弱くて、サンティーニでのバディオーリは歌えてないレベルだし、ヴィオッティでのデ=シモーネは全くバルトロらしくない若々しくて軽い声でげんなりします。私は前述のようにこの作品を見ているので、バルトロが弱いのはバジリオやフィガロが弱い以上に大問題です。
そこに行くとスペシャリストともいうべきコレナがやっているという時点で大花丸がついてしまうところですが、そのコレナのいくつかある録音の中でも、このヴァルヴィーゾ盤はベストと言うべきでしょう。音だけ聴いていても面白いことこの上なし。アリアでの抱腹絶倒の早口もそうですし、ギャウロフのオーバー・バジリオとのレチタティーヴォでのからみもひたすら面白いです(笑)
バルトロはいまいちその重要性を認識していない公演が多いようで、聴いてガッカリするのも多いですが、コレナ以外だとイタリアの陽気なおっさんそのものと言うべきダーラ(アバド旧盤)と、けち臭くてヒステリックながら声の魅力もあるカペッキ(レヴァイン盤)が素晴らしい。この3人はが個人的にはバルトロ御三家です(笑)あとはくそまじめにやるのが逆におもしろいコルベッリ(ロペス=コボス盤)、濁声でコミカルにガ鳴るプラティコ(ジェルメッティ盤)などブッファのスペシャリストがやはり記憶に残りますが、意外にいいのがアバド新盤のガッロでしょうか。アバド新盤はバトルとドミンゴが決定的にだめなのだけどうにかしてほしかった。。。

そしてベルガンサのロジーナ。これもおそらくロジーナ役のベストでしょう。
艶やかなメゾ声ながら重くなり過ぎないし、技巧もこの時代とは思えないぐらいしっかりしています。何より明るくて奔放なキャラクターが感じられ、とても健康的な感じなのが素晴らしい!コケティシュな魅力にも事欠きません。気は強そうだけれど、ドロドロしていない、勝ち気でカラッとした女性の魅力が満載であります。
サンティーニでのコッソットは怖すぎwwヴィオッティのポルヴェレッリはちょっと力負けしてる感じ。
ベルガンサと同じような路線でいくとラーモア(ロペス=コボス盤)も素敵女子だし、更に知恵が立ってそうなバルトリ(パタネ盤)も魅力的。期待のガランチャ(マルティネス盤)はちょっとお淑やか過ぎちゃうし、バルツァ(マリナー盤)はちょっと立派過ぎる。ソプラノ・アプローチは悪くないものもあるけど、基本的にはメゾに歌って欲しいな。

そして指揮の老練ヴァルヴィーゾの軽妙な音楽作り!
これだけ軽やかにドライヴしたロッシーニは、この時代に於いては他にはないんじゃなかろうか。もちろんロッシーニ・ルネサンス以降のふんわり軽やかっぷりからすればまだあれなんだけど、それでもこれだけ全編ロッシーニの愉悦に溢れたセビリャは、僕は他では聴いたことがない。聴いてゲラゲラ笑いたいと思ったら、まずこの録音を出してきてしまうのは、彼の手腕によるところが大きいと思う。
ヴィオッティは流石に最近の人だし軽快♪サンティーニはちょっと音楽が重たい…。
フンブルクも同様に愉悦に溢れていてgood!アバドはちょっと丁寧過ぎる気もするけどこういう楷書体も悪くないのかな。ロペス=コボスはなんかのたっとしていて好きでないなぁ…キャストはいいんだけど。

伯爵のベネッリは軽やかでいい声。まさにテノーレ・ディ=グラツィアの系譜に乗った感じのスタイリッシュな歌で好感が持てるし、当時としては異例ながら大アリアも歌ってる!それだけでも評価してあげたいところです。ただ、ロッシーニ・ルネサンス以降の力強い超絶技巧を歌うテノールを知っていると、もう一声と思ってしまうのも正直なところ。う~ん、大変ですね(苦笑)
サンティーニ盤のアルヴァも当時のスペシャリストですから流石の歌を聴かせますが、ギャウロフ出演の3つの録音の中でもダントツ、かつ録音史上最強の伯爵と言うべきなのはヴィオッティ盤のシラグーザでしょう!声の優雅さ、気品、力強さ、コメディセンスいずれをとっても伯爵そのもの!
シラグーザとは別の意味で最強の伯爵と言うべきはアライサ(マリナー盤)でしょう。もうそのとろけるような美声と切れ味鋭い技巧と言ったら!匂い立つような気品のあるR.ヒメネス(ロペス=コボス盤)、古風ながらこちらも凛々しい力強さのあるヴァレッティ(ラインスドルフ盤)、明るくて透明な美声で聴かせるバルガス(フンブルク盤)などなど、伯爵の現代的演奏では結構趣味でいろいろ聴くことができますね^^大アリアを歌っていないものでは、伯爵最重量級のゲッダ(レヴァイン盤)も彼のにやけたキャラと合っていて別の魅力があります(笑)

ヴァルヴィーゾ盤最大のアキレス腱、というか唯一にして最大の汚点と言うべきはアウセンシのフィガロ。
これはもう圧倒的に弱い…なんでこんな人起用したかね(^^;声はあるけど、歌が巧くない。この一言に尽きてしまう…声があるだけめり込まないけど…これが別の人だったら、と思わざるを得ない(泣)
サンティーニでのブルスカンティーニは歌のスタイルは古いけれども、キャラクターにあった歌唱でなかなか。ヴィオッティのシュレーダーも悪くはないけど、彼はセリア向きかな。
キャラの良さと歌と双方で聴かせるのはミルンズ(レヴァイン盤)とヌッチ(パタネ盤)。このふたりはキャラの明るさ、にやけ具合、歌とどれをとってもフィガロそのものと言って良いのではないでしょうか^^プライはキャラクターには良く合ってるんだけど、技術的にはもう一声か。意外とフィガロ役はこれ、という録音がないんですよね。
カペッキがまだ聴けてないから、何とも言えないが。カペッキ(バルトレッティ盤)聴きました!これはいいですね♪バルトロもねちねちしてて面白かったけど、エネルギーがあって明るくて良い^^と言う訳で個人的なお気に入りはヌッチ、ミルンズ、カペッキでしょうか。
(2013.1.10追記)あんまり期待しないで聴いたベッキ(セラフィン盤及びデ=サバタ盤)が予想以上に良くて、非常に気に入りました!粗削りな感じはあるんだけれども、それがキャラづくりにプラスに働いてるのが素敵です♪

全体には、フィガロにだけ目を瞑ればこのヴァルヴィーゾ盤が個人的にはベストではないかと。
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