Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

“王の御前か”

聴き比べ企画その2。
同じく『ドン・カルロ』より大審問官とフィリッポの2重唱。

前回に較べるとほんのちょっとしかありません(^^;
そして今回は情報少なめ…書くのが大変なだけじゃなくて、ほんとに情報がない人もいるんで(汗)

こちらは音源が残ってるのか謎なギャウロフ×クリストフなんて聴いてみたいww
っていうかクリストフの大審問官はないものか。。。

妻屋×シヴェクを追加!51音源に!
(2014.12.7現在)

大審問官×フィリッポ(言語/聴いた録音の数)

1.アスカル・アブドラザコフ×クリストフォロス・スタンボリス(伊/1)
一発目からなんかいまひとつ緊迫感に乏しい…(苦笑)最初の組は評が辛くなるにしてもどうなんでしょうか。なんとなくふたりとも声が似てる気がして、この2役のコントラストがいまいち。兄ドラザコフの方が格が明らかに歌手としてのかなり上っぽいのは、いいやら悪いやら。そりゃ最後に圧倒するのは大審問官ですが、一応フィリッポさん、国王なんすよ(苦笑)

2.アナトーリ・コチェルガ×フェルッチョ・フルラネット(伊/1)
1つめが不安で先行きが若干心配になりましたが、これは佳演だと思う。
コチェルガの世評は高くないけど、言うほど悪いものには思えない。確かにちょっと軽めの声質なので、所謂大審問官のイメージとはちょっと違うが、声量もあるし、腹黒そうな雰囲気で補ってる。もっとガッカリな大審問官は、名盤と言われるやつにもたくさんいる。そしてフルラネットの力演も目を見張るものがあり、全体として緊張感溢れるものになっている。

3.アレクサンデル・アニシモフ×サミュエル・レイミー(伊/1)
名盤の謂れ高いが、割とガッカリだと思ってるのがこれ。
まずは個人的ガッカリ大審問官の代表アニシモフ…ヴィブラートのきつい意地悪声で凄むんだが、どうにも全然凄みがない。この役は、もっと圧倒的な力を見せないと。どう考えてもレイミーのがうんと強そう。
レイミーのヴェルディは個人的には苦手。悪魔役やロッシーニは古今無双だと思うけれど、どうも声が無機質で、血沸き肉躍る感じのヴェルディではない。アッティラと大審問官ぐらいでしか納得いってないな(っていうかなんだこの組合せ)。

4.イーヴォ・ヴィンコ×ボリス・クリストフ(伊/1)
ヴィンコって結構重要な脇役を手堅くかっちりとやってるイメージなんだけれども、それだけヴェルディをよくわかっていて、或る種中庸の美だと思う。
彼の硬質な声と、やり過ぎない歌唱がここではかなり生きていて、大審問官の冷酷さが際立つ名演。よく考えてみるとこれと言った激しい表現をしている訳ではないのだけれども、しっかり味がある。フィリッポが何を言おうと、梃子でも動かない雰囲気が出ている。これに対して、いつもどおりクリストフが逆に濃い目に味つける歌唱だから、いろんな意味で絶妙なコントラストがついているように思う。

5.イェヴゲニー・ネステレンコ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
これだけしっかりしたバッソ・プロフォンド同士だと聴き栄えがとてもよい。若いころのネステレンコなので、声の輝きもあるし、高い音もすっきり出る。一番良いのが、低音域での凄味で、貫禄で勝るギャウロフに対して、歌唱面でも演技面でもまったく力負けしておらず、ともすれば出番が少なく存在感が薄くなりがちなこの役を聴く側にしっかり印象付けてくれる。ギャウロフもこれにドラマティックに応戦しているので、張りつめたような緊張感が生まれている。個人的にはかなり気に入っている部類の演奏。

6.ヴィタリ・コヴァリョフ×オルリン・アナスタソフ(伊/1)
2人ともかなり若いころの演奏だと思うのだけれども、迫力ある声を持っている東欧コンビがよく頑張っていて、緊張感のある力演になっている。ただ、欲を言うとふたりとも役が求めてる声よりちょっと若々し過ぎるきらいがある。コヴァリョフに贅沢な注文を敢えて付けるとするならば、艶のあるその美声が、必ずしもこの役にあってるとは言えないのではないか、というか設定上九十翁の大審問官にしては元気かつ健康的すぎる、というところだろうか。アナスタソフはヴェルディの音楽をよくつかんでいる感じでよい。

7.エリック・ハーフヴァーソン×ヨセ・ファン=ダム(仏/1)
ハーフヴァーソンは、声自体にも表現にもこれといった凄味はないものの、幽霊のようなそら恐ろしさを感じさせる大審問官で、これはこれでありか。大審問官は棺桶に片足突っ込んでいるような役だし、こういうかたちでこの世ならぬ印象を与えるということで、ひとつの興味深い事例だろう。問題はファン=ダムで、大熱演は買えるし、このCDに収められた公演をよい方に引っ張り上げてくれてる感じがするんですが、いくら仏語版でもヴェルディでそこまで語りにしてしまって良いかは一考の余地あり。いやなひとは結構居そう。

8.サミュエル・レイミー×ジェームズ・モリス(伊/1)
レイミーの玲瓏な声は、やはりこちらの方が似合う。恐ろしく冷酷で、厳しい大審問官。自分の主張が絶対的に正しいという、或る意味悟ったような強烈な歌い口が役に合っているのかな。欲を言えばそのハリのある声は、ちと設定より若く聴こえるか。モリスはヴァーグナー歌手のイメージが強くて縁がなかったが、最近意外とヴェルディをはじめとするイタオペにも適性があったのではないかと思う。ちょっと彼がフィリッポの全曲が聴いてみたい。

9.サミュエル・レイミー×フェルッチョ・フルラネット(伊/1)
名前だけ聴くとなんかすごい現代の名演を期待してしまうのだけど、なんか全体に不完全燃焼名観が否めない。レイミーはこの前のモリスとの共演の方が乗っていた感じ。こちらの方がなんとなく淡々とやっているような印象で、まあこの役だからそういう解釈もありっちゃありなんだけど…。加えてこのころのフルラネットのヴェルディは、どうももう一声欲しい感が否めず、喰い足りない印象。

10.ジェロム・ハインズ×クレイグ・ハート(伊/1)
なんと言っても御歳八十歳のハインズが凄まじい!多分一番実年齢に近い大審問官だろうwwwちなみに、これが引退コンサートだったらしい。流石にリズム感は悪くなってしまっているようで、ところどころ乗り切れていないが、そんなことはどうでもいいと感じさせてしまう圧倒的迫力たるや!とてもではないが、八十翁のなせる業ではないといった感じ。何度聴いても恐れ入る。並の歌手では足許にも及ばない。つまりハートの印象は皆無wwwこのハートって人は名前聞かないけどハインズの弟子だったんだろうか。

11.ジェロム・ハインズ×ポール・プリシュカ(伊/1)
メトのスター・バス同士の競演。ハインズは録音史上指折りの大審問官だと言って良いだろう。フィリッポを歌うときは、大迫力ながらも若干大芝居になりすぎな感があり、好き嫌いの分かれそうな印象だったが、大審問官ではむしろ行きすぎない演唱をしていて好ましい。そしてハインズと対決するならやはりプリシュカぐらいの人が出てきた方がうんと愉しい。演技に力が入ると、ちょっとがなりに傾くのが残念ではあるが、この場面はそもそもドラマティックだし、非難されるものではないだろう。

12.サイモン・ヤン×アラスタイアー・マイルズ(仏/1)
演出のこともあるのだろうが、ヤンはよく考えて歌っている印象(ヴィーンで、ペーター・コンヴィチュニーが演出したあれ)。ただ、その反面覇気というか熱気がもう少し欲しい感がなくもない。後半で気持ちの悪い笑いが入るんだけど、これは蛇足(演出家の指示かもしれないが)。この場面は、そういう意味での余分なことはしない方が説得力がある。マイルズは、普段のレパートリーと違うところだというのを意識し過ぎたのか(それとも演出家の指示か)ちょっとがなりすぎ。私は彼のスタイリッシュなベル・カントものが好きなのでちょっと残念。もっと普通にグラントペラ的なアプローチの方がこの人の良さが出たのでは。

13.ジャック・マルス×グザヴィエ・ドゥプラ(仏/1)
グラントペラとしてこの演目をやりました、という感じで、仏流の洗練を感じる一方、ヴェルディをやってますって言う迫力には乏しい。二人とももう一つ声に重みがあると良いのだが。マルスは大審問官の嫌らしさは立っているがもう少し迫力が欲しい。むしろフィリッポでやってたぐらいヴェルディしても良かったか。ドゥプラももう少し踏み込んでいい気がする。王族としての気品みたいなものは感じられるんだけど、如何せんちと弱そうww

14.ジュリオ・ネーリ×チェーザレ・シエピ(伊/1)
いよいよ真打登場。やはりネーリは大審問官役の金字塔。もうその圧倒的な声の威力には言葉もない。深みとか重みとか暗さとかそういうのとはまた全然違う、凄い声。シエピも彼の普段のスタイリッシュな歌唱からかなり逸脱して、ドラマティックに応酬する(このひとが楽譜から逸脱するときは、もう物凄いのだけれども)が、それすら圧殺する存在感。もうこういう大審問官は聴けないんだろうか。演奏と直接関係ないが最後のブラヴォは早すぎ。シエピまだ延ばしてるし。音楽楽しめ。

15.ジュリオ・ネーリ×ニコラ・ロッシ=レメーニ(伊/1)
ネーリと名バス三番勝負の二番目。知的な歌で知られたロッシ=レメーニも、その名声のとおりよく練られた歌い回しでフィリッポを好演しているが、やはりここでも強烈なのはネーリ。そんなに器用な歌を歌う方ではないんだけれども、逆にそこから鷹揚な印象を作り出していて、カルロばかりかフィリッポの企てすら児戯に等しいと言わんばかり。この役に不可欠な抗いがたい不気味な迫力を、ここまで引き出している歌手は、私の知る限り他にはいないと思う。

16.ジュリオ・ネーリ×ボリス・クリストフ(伊/1)
クリストフは魅力的ではあるけれどかなり強力なフィリッポなので、彼に拮抗し、彼が膝を屈する大審問官を選ぶのはかなり大変だったろうと思う。この厄介な問いに対して、前述のヴィンコや後で出てくるアリエは冷徹さで対峙するという解を出した訳だが、恐らく力でクリストフを組伏せたのはネーリだけだろう。当時、彼がいなくなったら大審問官をできるバスが居なくなるとまで言われたそうだけれども、このクリストフとの対決を聴いてると、そう思った当時の人たちの言に納得してしまう。そんな訳で名バス3人を以てしても怪バス、ジュリオ・ネーリに軍配。

17.ジョヴァンニ・フォイアーニ×ルッジェーロ・ライモンディ(伊/1)
フォイアーニはヴィンコとかと同じぐらいに脇役で活躍したバスなんだけれども、どういう訳か英語でも日本でも殆ど情報が見当たらないものの、結構重要な役を手堅くきっちりやって呉れるんで安心して聴ける。ここでもドラマティックの迫力や卓越した美声という訳ではないけれども、なかなか腹の黒そうな大審問官をやっていて、結構満足いく出来。若き日のライモンディはアリアはいま一つだったけれども、こちらではなかなかの好演。

18.ディミタル・ペトコフ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
ペトコフ、この役をやるのにはやや声の響きが明るいような気もしなくはないが、デカ声でこれだけギャウロフと張り合って呉れるとやはり聴き応えがある。大審問官は意外と低音だけではなく、かなり高い音も出てくるので、全音域でこれだけ鳴るというのは、それだけで価値があるし、この人の場合、ただ声がデカいだけ、という印象でなく、ちゃんとニュアンスも伝わってくる。この役に限らず、もっと録音の欲しかったバスだ。これに対しギャウロフも、この演奏では割と演劇的。こうなってくると聴いてるだけで手に汗を握るような心持になる。

19.ニコラ・モスコーナ×ジェロム・ハインズ(伊/1)
モスコーナって確かトスカニーニに気に入られてた歌手のはずで、かの名指揮者の録音をはじめいろいろ出てるんだけど、あんまいいと思わない。というか印象に残ったためしがない(^^;どうもいまひとつ脇役感が強いんだよな。。。しかもここでは役に比して声軽いから、いまいちインパクトが。荒ぶるハインズと逆のがよかったような気もするし、彼の気の抜けたフィリッポなんぞ聴きたくないというような気もする。

20.ニコライ・ギャウロフ×ルッジェーロ・ライモンディ(仏/1)
フィリッポでの録音が多いギャウロフの数少ない大審問官というだけで、思わず期待してしまう。実際の演奏もその獅子のような歌声はまさに猊下、という感じでもっと歌って欲しくすらなる。けどもっと歌うなら役としてはフィリッポになっちゃうのか(苦笑)仏語の大審問官では恐らく最強でしょう。圧倒されます。ライモンディの知的な歌い回しもここでは活きていて、ともすれば知的に走り過ぎて小さくなる彼の歌をよりダイナミックに引き出しているように思う。最大の問題は何故仏語かということ。これが伊語だったらたいそうな名盤になったのにと思うと、ちょっと悔やんでも悔やみきれない。ギャウロフの大審問官も、より強烈なものになったに相違ない。

21.パータ・ブルチュラーゼ×ロベルト・スカンディウッツィ(伊/1)
ブルチュラーゼはまずデカい声だが、それ以上に抹香臭い音色の声なので、旧教の権化大審問官では非常にしっくり来る。デカ声が持ち味だからそれだけの人に見られがちだが、スパラフチレなんかでも聴かせていたけれども、意外とppで囁くような表現のも得意だし、現役では一番理想的な大審問官か。何故か日本では評価する人があまりいないスカンディウッツィはフルラネットと並ぶ当代きってのヴェルディ歌いで、ここでもその面目躍如たるところ。どうしてシエピが好きな人がたくさんいるのに、このひとは評価されないんだか理解に苦しむ。ともあれ、現代の名演でしょう。

22.ハンス・ホッター×ジェロム・ハインズ(伊/1)
意外にもこういうぶちギレ大審問官てあまりいない気がする。序盤はふたりともおとなしい感じだから、割とソフトな感じで進むのかと思いきや、大審問官が進言するあたりから、だんだんと怒りのボルテージがあがって、終いにはぶちキレるさまは、いとをかし。ホッターもヴァーグナーのイメージが強くてあまり聴かないんだけれども、こういうテンションの高い歌唱を聴くと、いろいろ集めたくなる。当然ながらハインズもぶちキレる(笑)ので、エラい騒ぎになってるwwまあ爆演というべきものでしょうか。

23.フォードル・ヤーノシュ×セーケイ・ミーハイ(洪/1)
まず洪語っていうのが(笑)ま、この時代はその国の言語に訳しているのが普通だから、意外と洪語のイタオペ録音とかってあるんだがwそして歌手が、ではなく全体に音程が謎…なんだこの音は( ̄▽ ̄;)録音のせいかフォードルはだいぶ軽く聴こえるが、本来の声はもっと太そう。もっとまともな録音だったら、うんと評価が上がっていそうな気もするのでちょっと残念。何故か唐突にぶっ飛ぶ高音出してるwwこの時期のヴェルディの作品でそれはないでしょうwwwなんとなく通して聴いて、セーケイの声の方が全体に貫禄がある印象。セーケイも、もっと録音を残して欲しかったバスだなぁ…。

24.ヘルマン・ウーデ×ジョルジョ・トッツィ(伊/1)
ウーデは声はともかく音程は悪いし最低音は出してないし、そのくせヴェルディの旋律を盛大に恣意的に崩してるし最悪。ここまでで最悪だったアニシモフにすらかなり水をあけられている勢いで、もはや歌えてないレヴェル。ヴァーグナーで評価高いっていう話を聞くんだけど、ほんまかいなと耳を疑ってしまう。トッツィは演劇面で優れたフィリッポを作り出していて、良いだけに非常に残念。

25.マッティ・サルミネン×ヤアッコ・リュハネン(伊/1)
サルミネンはやはりフィリッポよりもうんと大審問官向き。この役はアクの強いデカ声で歌って、フィリッポを圧倒して欲しいのでぴったりである。ただ、コンサートということもあってか、割とおとなしい感じがしていて、もう少し踏み込むことができればもっと良かったか。尤も、リュハネンもかなりぶっとくてデカくてアクのある声なので、フィリッポというよりは大審問官がふたりいるみたいwww或る意味でかなりの贅沢www

26.マルコ・ステファノ―ニ×チェーザレ・シエピ(伊/1)
一応ちゃんと歌ってはいるが…ステファノーニ、それじゃシエピには勝てない(苦笑)なんとなくおじいさんぽい声はわざと出してるの?それはそれである意味でリアリティだけど…この役に必要な絶対的な迫力に欠ける。となると、この場面で絶対に必要な圧倒的な緊張感は生まれんのです。。。なんでまたシエピの相手に彼が起用されたよ。折角だからそれこそクリストフとか起用したら、希代の名演になったかもしれないのに!(まあ、クリストフが了承するまいか(^^;)

27.マルッティ・タルヴェラ×ニコライ・ギャウロフ(伊/3)
なんとこれに限っては3組持ってます!と言うか、このコンビでの録音多いんですよ(笑)タルヴェラは、ホッターほどではないにしても、意外とぶちギレ系。いずれの録音でも底の見えない太い声でキレまくるので、迫力には事欠かない。見た目も熊みたいだから、実際の舞台だったらさぞかし悍ましい大審問官だったんだろうという感じ。ホッターと違って、解釈としては、最初から苛立ちを隠せない様子を見せている。これに対してギャウロフは、当然ながらかなりドラマティックに応戦する。このひと、歌自体、表現自体は結構端正だと思うんだけど、声そのものの響きが豪快な感じがするんだよね。そんな2人の対決の、その緊張感たるや。もうね、なんか熊vs獅子のようなというか怪獣映画みたいな感じすらするwww←褒めてます

28.ヨーゼフ・ヘルマン×ヨーゼフ・グラインドル(独/1)
ヘルマンの声はどう聴いてもバリトンで、普通に考えるとその時点でアウト、大審問官が合う筈がない、と斬ってしてまうが、これがなかなか聴かせる。歌が良いのか解釈が良いのかはたまた独語だから良いのかなかなか意地の悪い大審問官を作ってて見事。尤も、フリックとかに歌って欲しかった気もするんだけど(^^;グラインドルも不足なし。あんまりたくさん聞いている訳ではないが、この人の重厚な低音も、私は好きだ。前半のやり取りpでやってるんだけど、独語の語感と相俟って、全く違う音楽のように聴こえる。

29.ラッファエーレ・アリエ×ボリス・クリストフ(伊/1)
端正なアリエの大審問官とアクの強いクリストフのフィリッポ。キャラ的には逆のが良いような気もするが、そうは行かないのがオペラの面白いところで、これはなかなかの名演。アリエの端正な声と歌振りが、大審問官の正当性を強調しているような感じがする。心情の問題を切り捨てて、理窟で勝負すると絶対に勝てないであろうという、ある面優等生的冷酷さが感じられる。それに対して、クリストフがアクの強い声で盛大に唸ると、それがまたアリエの大審問官と好対照をなして、非常に人間くさく聴こえるのがまたとても良い。もちろんパートが逆でも聴いてみたい気はするが、これはこれで聴く価値のある録音だと思う。

30.リチャード・ヴァン=アラン×ジョゼフ・ルロー(仏/1)
ヴァン=アランはかなり声をあらげていて、ちょっと意外なぐらい。けれどもそれがマイナスには決して働いていない。声も必ずしも全盛という訳でもないように思うんだが、それが却って大審問官の老醜ぶりをよく示していて見事。ヴルムみたいな重要な脇役に回ることの多いヴァン=アランらしい、手堅い仕事だと思う。ルローは悪役声で、役を選びそうなところがありそうだが、ここでのフィリッポでは自分の思いどおりいかない感じが出ていて良い。

31.ルイージ・ローニ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
安定の名脇役ローニの登場。ここでは迫力という点では物足りないところもあるけど、深い美声だし、歌も芝居も手堅くて安心して聴ける。大スターではないにしても、こういうひとがきちっと脇を締めることで、出来上がってきてる名盤はたくさんあると思う(ローニで言うならムーティ盤『アイーダ』のエジプト王はとても素敵だ)。ここでのギャウロフは、他の録音に較べるとやや表現はおとなしめか。それでも十分すぎるぐらいなんだけど笑。

32.ルッジェーロ・ライモンディ×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
ライモンディの大審問官は、昔は求められている声よりも音色がうんと高くて軽くていただけないと思っていたが、いま聴くと声の分の弱点を練り込んだ歌唱で補っていて、これはこれで見事。この人はやっぱり頭のいい歌い手だし、この頃の声の張りは捨てがたい。ギャウロフは、ここでは既に年齢的にはピークは過ぎてるようにも思うんだけど、役をしっかり薬籠中に収めてる感じがある。貫録十分な国王。ギャウロフが出てる他の音源に較べると、或る意味一番芝居くさくない、シンフォニックな感じの演奏(まあフォン=カラヤンだし)。

33.妻屋秀和×ヴィタリ・コヴァリョフ(伊/1)
妻屋がデカ声でしかもねちねちとした味付けで熱演していて、結構おっかないwwこの役に必要な圧倒的な迫力は持っている上に、かなり陰湿な大審問官の個性を打ち出しているあたり、日本人にもこういう歌手居るんだなあと唸らされる。けど、フィリッポはあんまり似合わないんだろうなぁ(笑)コヴァリョフは大審問官やった時と同様、ちと若々しい気がしないでもないけど、これはこれで悪くない。もうちょっとキャリアを積んで、どういう味を出していくのかが、とても楽しみ。

34.ロバート・ロイド×ロベルト・スカンディウッツィ(伊/1)
ロイドは重心の低い、深い声でどっしりとした風格のある大審問官像を構築しているように思う。荒っぽい歌い崩しや派手な芝居をしないでその路線に照準を合わせており、しっかりとヴェルディの旋律を打ち出しているように思う。この人出来不出来は結構あるんだけれども、この演奏は良い。スカンディウッツィはここでも伝統あるイタリアン・バッソという感じで、品格は崩さないながらも情熱の籠った歌唱である。全体に非常に上品に仕上がってはいるんだけど、決して単にそれだけではない、味のある録音だ。

35.ジェロム・ハインズ×チェーザレ・シエピ(伊/1)
声が若々しい…と思ったら2人とも30代手前?!という衝撃。ハインズ29歳、シエピ27歳だってwwwなんでその歳でこの成熟…信じられないwwハインズは後年と類似した解釈が垣間見え、どっしりとした重厚な声もこのときからしっかり形作られている。ついでにテンポをミスってるのも晩年の演奏と一緒w意外とテンポ感がこの人のアキレス腱だったんだろうか…。シエピのダンディズムもこの時点で完成されている。ただ、やっぱり若いのは若いので、どっちかっていうとドン=ジョヴァンニのにおいがする。

36.フェルッチョ・フルラネット×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
フルラネットは若い時だから、正直あんまり期待してなかったんだけど、思ったよりずっと良かった♪響きとしてはギャウロフよりも高めな気はするんだけど、致命的ではないし、丁寧に歌ってる。低音でもう少し凄めると大審問官としては迫力が出るんだけど、このひとは結局フィリッポ歌いになったからね。ここまで聴いてギャウロフは、もちろん年齢やそれによる解釈の違いも出てきてるんだろうけど、相手にかなり合わせてそれによって表現を大きく変えているような印象を受ける。共演回数もあるのかもしれないが、タルヴェラと一緒の時が一番演劇的で、荒々しい。

37.マイケル・ラングドン×ボリス・クリストフ(伊/1)
ラングドンは表現自体は結構端正で、丁寧に歌っているんだけど、声自体にちょっとアクがあるので、一種独特の存在感がある。このため、クリストフがここでは他の録音と比べても演劇的な表現が多く、結構声を荒げたりしてるのだけれども、意外とラングドンが喰われすぎてない。むしろ結構2人のバランスがよく取れていて、これはこれでなかなかの佳演だと思う。ただ、圧倒的なド迫力対決、とまでは行っていないので、そういう意味ではちょっと物足りないと思う人もいるかもしれない。

38.ジョルジェ・クラスナル×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
これは申し訳ないけどクラスナルは分が悪いなぁ…持ってる楽器のレヴェルが全然違う。クラスナルの声は単に高めなだけじゃなくて、かなり響きが薄いから音域的に声は出るんだけれども、ギャウロフには全く勝てない(^^;相手がまだギャウロフじゃなければどうにかなったような気もするんだが、さりとて誰になら勝てるかというと(苦笑)

39.パーヴェル・マノロフ×ニコライ・ギャウロフ(勃・伊/1)
珍盤さん来ちゃったよ…ギャウロフは伊語だけどマノロフはたぶん勃語wwwかつての欧州では自国語上演当たり前だからね…可能性としてはなくもないし、そういう全曲盤ナブッコも見たことありますが(^^;しかしマノロフ、歌自体は至ってまとも。ちゃんと声も持ってるし、表現だって悪くない。ギャウロフも、相手が違う言語で来てもきっちりやってて素敵。尤も、フル回転ではなさそうですが(^^;

40.ヤアッコ・リュハネン×ロバート・ロイド(伊/1)
リュハネンは往年のタルヴェラを思い出すものすごく深くてぶっとい声なんだけれども、こうして聴くと意外と声自体は若々しい気もする。そして味付けは割と普通で、先輩タルヴェラのように盛大にぶちギレたりはしていない。ロイド、ここでの表現も手堅いは手堅いが、可もなく不可もなくといったところか。アリアがよかったのでちょっと期待し過ぎたかも。総じて悪くはないものの、近年ありがちな、演奏としては素晴らしいもののなんとなく冷たいものの流れているヴェルディといったところ。この作品の場合は、それもありだとは思うんだけどね。

41.ゲルハルト・フレイ×テーオ・アダム(独/1)
この宗教裁判長、ダークホースでした(笑)フランツ・クラスを悪役っぽくしたような深くてぶっとい声で、タルヴェラみたいな感じのブチギレ系の演唱を展開していくんですが、まあこれが凄い迫力。ちょっとあくどすぎる気もしなくもないですが、ゾクゾクするような出来。対するアダムは性格的な役であたりを取ったのが良くわかる、人間的な表現のフィリッポ。その前のアリアのリート的な雰囲気すら漂う端正さとは対照的に、宗教裁判長への怒りを荒々しく表現していて、大変魅力的。ちょっと期待以上の満足感を得られる演唱でした。

42.ヴァレリー・ヤロスラフツェフ×イヴァン・ペトロフ(露/1)
2人ともいかにも露国らし力強いバスで、音域の広い役をこなしています。ヤロスラフツェフは、この役には少し声が輝かしすぎるぐらいですが、ペトロフを譲歩させるにはこれぐらいのパワーがないとままならない気もします。ペトロフはアリアもそうでしたが鍛え抜かれた逞しい声で、頑固で傲慢そうな国王。これもまた手に汗握る演奏です。惜しむらくは、声質が結構似ていてコントラストがあまりついていないところでしょうか。ヴェデルニコフやエイゼンの宗教裁判長でも面白かったかも。

43.クルト・モル×イェヴゲニー・ネステレンコ(伊/1)
こりゃあ凄い対決!モルはいつもの独国の黒い森を思わせるダークな低音を地響きのように鳴らして圧倒的!この人はそもそもの声質が重厚だから最低音の力強さたるや凄まじいものがある。彼なら絶対に超強力な宗教裁判長をやって呉れると思っていたので聴けて本当に嬉しいし、しかも予想を超える大迫力で感激雨霰ですよ(笑)対するネステレンコも互角に応酬、ピークにあると思われる充実した声が千両役者と言って差支えない演技力が乗っかって、強烈なことと言ったら!歌唱的にも文句なし!最後の低いDの長い長い伸ばしは圧巻!

44.ニコラ・ザッカリア×ヴァルター・クレッペル(伊/1)
ザッカリアは手堅い印象だけどもうちょっと頑張って呉れるかなとも思ってたりはした。それでも自らの言い分を頑に主張する感じはこの役らしくていい。クレッペルはこれの前のアリアが良かったからちょっと期待したけどまあまあかな~とは言ってもアリアも全体おしなべると平均的な印象だった気もするし、こんなもんかも。あ、でも決して悪い演奏じゃありませんよ!(←フォローになってない)

45.ジョヴァンニ・フォイアーニ×イーヴォ・ヴィンコ(伊/1)
なんだこの謎の脇役バス対決はw世の中探してみるとこういう不思議なカードの録音が残ってたりするから音源漁りはやめられない!で、まあ中堅バス同士の対決だからまあこんなもんかなと思って聴き始めたらとんでもない大空中戦をやってのけててビツクリ!www何が凄いってのっけからふたりとも喧嘩腰という新しい展開wwwあんたたち最初から口論になるの見越してあってたでしょ?っていう勢いで、結局あまり和解した感じもないwお話し的にはどうなのかなとも思わなくはないけど、これはこれで面白かったです。

46.ジェームズ・モリス×ニコライ・ギャウロフ(伊/1)
第一印象同様ヴォータン対フィリッポ(笑)や、いい演奏だと思います。モリスも何処か抹香臭さのある声だからこの役は似合いますなwwそういえば『ラオールの王』での坊さんなんかも良かったのを思い出したり^^最低音出ないのは残念ですが、彼の音域だとしょうがないかな。ギャウロフの声は音色に衰えは感じるものの相変わらず威力は絶大。何より名手ふたりのやり取りが如何にも丁々発止で緊張感があります。

47.パータ・ブルチュラーゼ×ドミトリ・ベロセルスキ(伊/1)
大型歌手同士の対決で期待したんだけど、まあまあかな。意外と序盤穏やかで驚いたが、先に進むに従ってアクセルがかかっていく。ブルチュラーゼの声には強い芯を感じ、較べるとベロセルスキはちょっとぼけちゃってるかな。ベロセルスキについては最近の方がいいかもしれない。ブルチュラーゼは最近あまり聞かないけどまだ活躍してるんだよね?ちょっと聴いてみたいんだが。

48、マルッティ・タルヴェラ×ヨーゼフ・グラインドル(独/1)
タルヴェラの声がかなり若々しく笑えますwっていうか独語のせいかもしれませんが普段そんなこと思わないんですけどがちょっと軽めに聴こえる。但し声そのものは圧倒的なもの。対するグラインドルは流石に全盛期は過ぎている感じですが藝で聴かせる出来。この曲を独語でもこれだけ自然に聴かせられる人はあまりいないのでは(事実タルヴェラには若干違和感がw)。全面対決の部分は思った以上に盛り上がって結構楽しめる音源だと思います。

49.マッティ・サルミネン×ルッジェーロ・ライモンディ(伊/1)
いやちょっとこのサルミネンはすごい。録音で聴いても圧倒的な声の巨大さと邪悪さで耳がぴりぴりする心地。当たり役にしただけあってことばの捌きもお見事。コンサートでの歌唱とは較べものにならない強烈な大審問官。これに対してライモンディがまた全盛期でうまみのあるたっぷりとした美声に加えて役者っぷりを聴かせています。彼のフィリッポのベストだと言っていい歌唱。重量級同士の丁々発止の対決で、おもわず聴き入ってしまいます。

50.リチャード・ヴァン=アラン×ジョン・トムリンソン(英/1)
英語版ですよwwヴァン=アラン、録音の関係かこんな声だったかな?というぐらい声が軽い気がする。低音までしっかり出してはいるんだけど、もう少し凄味があったような…トムリンソンはかなり声を荒げていて迫真。ただ、ここまでやるとどうかな、という話はある。そしてヴァン=アランの声やトムリンソンの表現で英語で歌ってしまうとなんだかとってもミュージカルっぽいw折角二人とも実力者だし、普通に伊語で聴きたかったような気も^^;

51.妻屋秀和×ラファウ・シヴェク(伊/1)
妻屋、やや声量が落ちた気もしなくもないが重厚な声と存在感は素晴らしい。力業ではなく不気味な雰囲気でフィリッポを黙らせる迫力が見事。シヴェクがノーブルな空気を持っているところともよくバランスが取れている。最後の低音のロングトーンはお見事!ふたりとも声量もありいい勝負!
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