Don Basilio, o il finto Signor

ドン・バジリオ、または偽りの殿様

イーハトーヴ交響曲

Eテレで放送され話題となっていたのですが、当日は旅行中で観られなかったので今日音源を聴いてみました。ネット評を見る限り音源でというよりは映像で楽しむべきものであるようなので、飽くまで音を聴いた感想と思っていただければ。また、初音ミクという媒体をこうしたライヴの演奏に組み込むことと言うのは非常に高度な技術が必要なことということで、それ自体は想像に難くないことですが、私自身はそこについては具体的な知識が皆無なので、そこの部分はここでは触れません。ほとんどまっさらの状態で聴いてみた感想だと考えていただければ。

全体を通して何度か聴いてみて、正直申し上げて感動には程遠かったです。
賢治の世界を表現すべく、優秀な人材と最新鋭の技術を投じた壮大なプロジェクトを挙行したけれども、看板倒れになってしまったな、というのが率直な感想です。

賢治の話となると一にも二にもまずは壮大な幻想世界のイメージがあるようで、音楽に限らずさまざまな表現媒体で彼を本歌どるとそうした作品を志向する傾向があります。個人的にはそのことの是非は何処かで問わねばならないような気がしています。確かに幻想の中で遊ぶ部分というのは賢治の中で非常に大きいですが、作品の背景にあるのは当時としてかなり高度な科学の知識であったり、或いは非常に強烈な宗教思想だったりという部分があります。どうもこうした部分には拘らず非常に安直に幻想的雰囲気を醸すことに終始する作品が多いように思うのです。話が逸れましたが何が言いたいかと言えば、音楽で以て賢治を題材に幻想的な雰囲気を醸し出す作品は既にたくさん存在するし、この作品もその域を出ない印象だったということです。手法としては、話題となっている初音ミクなどびっくりするようなものも用いているけれども、できた結果としてはなんだか普通の作品。特に「雨にもまけず」などは賢治をベースとした作品として新規性がないと思う以上に、あまりにもありきたりな現代音楽の合唱で、合唱コンクールに行けば似たような曲はいくらでも聴けるでしょう。

聴きとれる範囲での各作品やことばの扱いもどうなんだろうという感じ。飽くまで私個人の読み方に合わないと言うことなのだと思うのですが…。
例えば『風の又三郎』など比較的明るい作品だと思うのですが、不安感を煽るような音楽になっています。逆にもっと凄味の欲しい『注文の多い料理店』は皮肉めいた雰囲気は悪くないにしても背筋が寒くなるような恐ろしさが感じられない。全編どこかしらそういう賢治の作品からの印象との不一致があって、なんだか素直に楽しめないのです。間違いなくしっくり来るのは原体剣舞連の打楽器と星めぐりの歌ですが、剣舞連は詩の扱いがなんだかなぁと思うし星めぐりの歌はそもそも賢治が作曲してますからね(^^;
ことばの扱いというところでいくと、元来の賢治の作品から感じられるリズム感が活きていないと思います。“どっどどどどうど”にしても“dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah”にしてもなんだか間延びしてしまっていて痒くなります。また、子供たちが「カンパネルラー!」「ジョバンニー!」と叫ぶところもなんだか全く切迫感がなくて、正直ずっこけました。「さわやか3組」みたいなノリで明るく楽しくわらわらと言われても(苦笑)これはアニメ映画での田中真弓の「カンパネルラぁぁッ!!!」が脳裏に焼き付く凄演だけに余計に稚拙に響きました。

それから取り沙汰される初音ミクですが、試みとしては面白いしインタビューなんか見ると作曲者の意図もわからなくはないですが、ちょっと自己主張し過ぎで賢治の世界から浮いてしまっている感じ。「イーハトーヴ交響曲」と銘打ってるのにいきなり「わたしは初音ミク~♪」はないんじゃないの^^;作曲者が“彼女”を起用したのはvocaloidという存在の面白さやら特性やらからだというのは納得するけど、これじゃただキャラソン作っただけですよ。「注文の多い料理店」の読み替えというのも理窟を聞けばふーんと思うけど、初音ミクは賢治の創作物ではないですし、前知識なくあの歌詞がいきなり出てきたら意味不明ですよ。

と言う訳で私自身にとってはアニメ映画「グスコーブドリの伝記」、NHK「80年目の賢治」に続きガッカリでした。媒体が異なる訳ですから、全てを賢治の原作どおりにする必要はなく、意味のある改変はあってしかるべきだとは思うのですが、なかなか難しいですね。他に音楽で言えば久石の作品もありましたがあれもいまいちでしたし。じゃあ自分に何が作れるかって言ったら手が止まってるんですけどね(苦笑)
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